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DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年8月12日 原稿完成日:2015年月日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br> | ||
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英語名:noise | 英語名:noise analysis | ||
==概要== | |||
膜電位固定下に電圧ステップを加えた時には[[細胞膜]]全体に分布する多数の[[イオンチャネル]]が活性化し時間とともに不活性化する。この時[[イオン]]電流は特定の時間経過を持つ滑らかな電流波形となる。個々のチャネルの開閉はステップ状の電流現象を発生するが細胞膜全体を流れる電流を記録する状況では、個別の電流変化は検出できない。しかし多数のチャネルの開閉は電流に微小な揺らぎを発生し電流ノイズとして観察できる。膜電位を一定に保ちチャネルの開閉が一定の割合で定常的に生じている場合と、膜電位ステップを繰り返す時の様にある一定の開閉現象を繰り返し観察する場合とで電流ノイズの解析の手法は異なる。しかし、N個のチャネルの開閉で生ずる揺らぎ成分(電流の分散値)と平均電流値の関係からチャネルを流れる単位電流および関与するイオンチャネルの数を統計的に推定するノイズ解析の基本原理は共通である。 | |||
== | ==ノイズ解析の論理== | ||
単位電流iを流すN個のチャネルが開状態と閉状態をそれぞれ確率pおよび1−pで取る2項分布を想定した時、分散はσ2=i2Np(1−p)であり、平均値はμ=Npiとなる。従って σ2/μ=i(1-p)となる。pが推定できるとき、あるいはpが1に比べて充分小さい事が予想される時 電流の分散値と平均値の比から単位電流iが求まる。 | |||
イオン電流が定常的に流れる場合は、より精密には電流雑音スペクトル解析をすることで、速度常数を含むより精密なチャネル開閉の情報をうることが出来る。この詳細は幾つかの原著あるいは解説書に記載されている<ref name=ref5><pubmed>5044577</pubmed></ref> <ref name=ref1><pubmed>4543940</pubmed></ref> <ref name=ref6>'''大森治紀'''<br>チャネルノイズ解析法 最新パッチクランプ実験技術法<br>第6章74-85ページ岡田泰伸編<br>吉岡書店 2011</ref>。 | イオン電流が定常的に流れる場合は、より精密には電流雑音スペクトル解析をすることで、速度常数を含むより精密なチャネル開閉の情報をうることが出来る。この詳細は幾つかの原著あるいは解説書に記載されている<ref name=ref5><pubmed>5044577</pubmed></ref> <ref name=ref1><pubmed>4543940</pubmed></ref> <ref name=ref6>'''大森治紀'''<br>チャネルノイズ解析法 最新パッチクランプ実験技術法<br>第6章74-85ページ岡田泰伸編<br>吉岡書店 2011</ref>。 | ||
さらに、膜電位固定下にパルス電圧に対応して流れるイオン電流は、開確率pが経時的に変化する。一定のパルス電圧を繰り返し与えた場合に、繰り返して一定の時間経過でpは変化し、対応したイオン電流が流れる。この様な状況ではイオン電流の流れは非定常的であるが、繰り返しの中では統計的に安定している。つまり、Nあるいはiは一定であり、pが時間の関数として毎回同一の軌跡をたどって変化する。従って、電流の軌跡の1刻1刻で分散値と平均値を評価することが出来る。こうした評価によっても単位チャネル電流iおよびチャネル数Nを推定できる<ref name=ref3><pubmed>593345</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>6259340</pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed> | さらに、膜電位固定下にパルス電圧に対応して流れるイオン電流は、開確率pが経時的に変化する。一定のパルス電圧を繰り返し与えた場合に、繰り返して一定の時間経過でpは変化し、対応したイオン電流が流れる。この様な状況ではイオン電流の流れは非定常的であるが、繰り返しの中では統計的に安定している。つまり、Nあるいはiは一定であり、pが時間の関数として毎回同一の軌跡をたどって変化する。従って、電流の軌跡の1刻1刻で分散値と平均値を評価することが出来る。こうした評価によっても単位チャネル電流iおよびチャネル数Nを推定できる<ref name=ref3><pubmed>593345</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>6259340</pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>1706951</pubmed></ref> <ref name=ref6 />。σ2=i2Np(1−p)であり、μ=Npiであることからσ2=μ(i-μ/N)。このことから、電流の分散を電流値に対してプロットすると上に凸の2次曲線となり、μ=0に外挿するスロープから単位チャネル電流iが推定できる。より直接的にはσ2/μ=i-μ/Nの関係から、μに対してσ2/μをプロットする事で、y[[切片]]がi、スロープが1/Nを与える。 | ||
しかし、電流の揺らぎにはチャネルの開閉成分以外に様々な要因があり、それらの揺らぎ成分は電流ノイズに混在する。例えば、細胞膜自体の抵抗成分から発生する熱雑音、イオンが膜を横切ることに対応するshotノイズあるいは1/fノイズなどである。Shotノイズは相当に高い周波数帯域の現象であり、速くともmsecオーダーのチャネル開閉ノイズには影響しない。1/fノイズは周波数帯も重なり時に深刻な背景雑音源となる。基本的にノイズ解析のためには低域通過フィルターを用いることによって、不必要に高い周波数成分は除去する。電流のサンプル周波数との関係でナイキスト周波数が(fnyquist = 1/(2h); hはサンプル時間間隔)定義できるが、少なくともナイキスト周波数以上の高周波数成分は除去する。さらに対象となるイオン電流の開閉の時定数から予測される特徴周波数(f=1/(2τ); τ は対象とするイオンチャネル[[ゲート]]の時定数)より高い周波数成分はナイキスト周波数より低くとも低域通過型フィルターを用いて除去することなど、極力高いS/N比で電流記録を行う必用がある。特に、定常状態で記録する場合一定の実験状況を比較的長いデータサンプル時間の間維持する必用がある。また、非定常状態のイオン電流の場合は繰り返し電流を発生させる間に平均電流値が変化することがしばしば生ずる。対象とするイオン電流の波形の変化などから一連の電流が果たして同一の統計的性質を維持し続けているかは常に注意すべきである。 | |||
==関連項目== | ==関連項目== | ||
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==参考文献== | ==参考文献== | ||
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2015年8月12日 (水) 11:44時点における版
英語名:noise analysis
概要
膜電位固定下に電圧ステップを加えた時には細胞膜全体に分布する多数のイオンチャネルが活性化し時間とともに不活性化する。この時イオン電流は特定の時間経過を持つ滑らかな電流波形となる。個々のチャネルの開閉はステップ状の電流現象を発生するが細胞膜全体を流れる電流を記録する状況では、個別の電流変化は検出できない。しかし多数のチャネルの開閉は電流に微小な揺らぎを発生し電流ノイズとして観察できる。膜電位を一定に保ちチャネルの開閉が一定の割合で定常的に生じている場合と、膜電位ステップを繰り返す時の様にある一定の開閉現象を繰り返し観察する場合とで電流ノイズの解析の手法は異なる。しかし、N個のチャネルの開閉で生ずる揺らぎ成分(電流の分散値)と平均電流値の関係からチャネルを流れる単位電流および関与するイオンチャネルの数を統計的に推定するノイズ解析の基本原理は共通である。
ノイズ解析の論理
単位電流iを流すN個のチャネルが開状態と閉状態をそれぞれ確率pおよび1−pで取る2項分布を想定した時、分散はσ2=i2Np(1−p)であり、平均値はμ=Npiとなる。従って σ2/μ=i(1-p)となる。pが推定できるとき、あるいはpが1に比べて充分小さい事が予想される時 電流の分散値と平均値の比から単位電流iが求まる。
イオン電流が定常的に流れる場合は、より精密には電流雑音スペクトル解析をすることで、速度常数を含むより精密なチャネル開閉の情報をうることが出来る。この詳細は幾つかの原著あるいは解説書に記載されている[1] [2] [3]。
さらに、膜電位固定下にパルス電圧に対応して流れるイオン電流は、開確率pが経時的に変化する。一定のパルス電圧を繰り返し与えた場合に、繰り返して一定の時間経過でpは変化し、対応したイオン電流が流れる。この様な状況ではイオン電流の流れは非定常的であるが、繰り返しの中では統計的に安定している。つまり、Nあるいはiは一定であり、pが時間の関数として毎回同一の軌跡をたどって変化する。従って、電流の軌跡の1刻1刻で分散値と平均値を評価することが出来る。こうした評価によっても単位チャネル電流iおよびチャネル数Nを推定できる[4] [5] [6] [7] [3]。σ2=i2Np(1−p)であり、μ=Npiであることからσ2=μ(i-μ/N)。このことから、電流の分散を電流値に対してプロットすると上に凸の2次曲線となり、μ=0に外挿するスロープから単位チャネル電流iが推定できる。より直接的にはσ2/μ=i-μ/Nの関係から、μに対してσ2/μをプロットする事で、y切片がi、スロープが1/Nを与える。
しかし、電流の揺らぎにはチャネルの開閉成分以外に様々な要因があり、それらの揺らぎ成分は電流ノイズに混在する。例えば、細胞膜自体の抵抗成分から発生する熱雑音、イオンが膜を横切ることに対応するshotノイズあるいは1/fノイズなどである。Shotノイズは相当に高い周波数帯域の現象であり、速くともmsecオーダーのチャネル開閉ノイズには影響しない。1/fノイズは周波数帯も重なり時に深刻な背景雑音源となる。基本的にノイズ解析のためには低域通過フィルターを用いることによって、不必要に高い周波数成分は除去する。電流のサンプル周波数との関係でナイキスト周波数が(fnyquist = 1/(2h); hはサンプル時間間隔)定義できるが、少なくともナイキスト周波数以上の高周波数成分は除去する。さらに対象となるイオン電流の開閉の時定数から予測される特徴周波数(f=1/(2τ); τ は対象とするイオンチャネルゲートの時定数)より高い周波数成分はナイキスト周波数より低くとも低域通過型フィルターを用いて除去することなど、極力高いS/N比で電流記録を行う必用がある。特に、定常状態で記録する場合一定の実験状況を比較的長いデータサンプル時間の間維持する必用がある。また、非定常状態のイオン電流の場合は繰り返し電流を発生させる間に平均電流値が変化することがしばしば生ずる。対象とするイオン電流の波形の変化などから一連の電流が果たして同一の統計的性質を維持し続けているかは常に注意すべきである。
関連項目
参考文献
- ↑
Stevens, C.F. (1972).
Inferences about membrane properties from electrical noise measurements. Biophysical journal, 12(8), 1028-47. [PubMed:5044577] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑
Anderson, C.R., & Stevens, C.F. (1973).
Voltage clamp analysis of acetylcholine produced end-plate current fluctuations at frog neuromuscular junction. The Journal of physiology, 235(3), 655-91. [PubMed:4543940] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑ 3.0 3.1 大森治紀
チャネルノイズ解析法 最新パッチクランプ実験技術法
第6章74-85ページ岡田泰伸編
吉岡書店 2011 - ↑
Sigworth, F.J. (1977).
Sodium channels in nerve apparently have two conductance states. Nature, 270(5634), 265-7. [PubMed:593345] [WorldCat] [DOI] - ↑
Sigworth, F.J. (1980).
The variance of sodium current fluctuations at the node of Ranvier. The Journal of physiology, 307, 97-129. [PubMed:6259340] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑ Resource not found in PubMed.
- ↑
Robinson, H.P., Sahara, Y., & Kawai, N. (1991).
Nonstationary fluctuation analysis and direct resolution of single channel currents at postsynaptic sites. Biophysical journal, 59(2), 295-304. [PubMed:1706951] [PMC] [WorldCat] [DOI]