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2015年8月17日 (月) 11:16時点における版
市川 眞澄
公益財団法人東京都医学総合研究所
DOI:10.14931/bsd.5978 原稿受付日:2015年6月11日 原稿完成日:2015年8月17日
英語名:pheromone 独:Pheromon 仏:phéromone
フェロモンは、(1)同種の他の個体から分泌される、(2)特定の受容器で受容される、(3)その情報は脳神経系で処理される、(4)神経系あるいは内分泌系を介して行動や生理機能に特有の反応を引き起こす、化学物質のことである。フェロモンはその作用から、リリーサー(releaser)フェロモンとプライマー(primer)フェロモンに分類される。
フェロモンの研究は昆虫を代表とする無脊椎動物の分野で大変に進んでおり、すばらしい成果をあげている。集合フェロモン、女王フェロモン、警報フェロモン、道しるべフェロモン等多くが同定されている。一方、脊椎動物では研究が遅れている。その中で、プライマーフェロモン効果について、ブルース効果や雄効果のメカニズムが明らかになりつつある。ヒトのフェロモンについては特にわからないことが多いが、寄宿舎効果と呼ばれる、月経周期が同調するプライマーフェロモン効果の研究が進んでいる。
フェロモンとは
フェロモンを化学物質として最初に同定したのは、ドイツの化学者ブーテナントである。1957年に、カイコガの雌が雄を引きつける物質のボンビコール(bombykol)である。カイコの学名のBombyx moriにちなんで名付けられた(図1)。
その後、いくつかの昆虫(チャバネゴキブリ、イエバエ、マダラチョウなど)の性誘因物質が発見された。1963年に、このような性質を持つ物質を、ギリシャ語のpherein(運ぶ)とhormon(興奮させる)からpheromone(フェロモン)と命名され、フェロモンは、「動物個体から放出され、同種他個体に『特有な反応』を引き起こす化学物質」と定義された[1]。
“特有な反応を引き起こす”という定義の内容から、フェロモンは二つのタイプに分けられる。
- リリーサー(releaser)フェロモン:同種の他個体に直接的な行動を引き起こすフェロモンと定義され、フェロモンの効果は短時間に起こり、すぐ行動を引き起こすものである。
- プライマー (primer)フェロモン:同種他個体の生理過程に影響し、間接的に個体の発達や生殖機能などに効果を与えるフェロモンと定義されている。その効果は比較的長時間持続し、影響はホルモンなどの変化により二次的なものである。
昆虫のフェロモン
ボンビコールのような「性誘因フェロモン」以外で、代表的な昆虫フェロモンを以下に述べる。
集合フェロモン
キクイムシにより樹木が枯れることが知られている。一匹のキクイムシが飛来しそこが満足の行く場所だと続々と仲間が飛来する。この招集にフェロモンが使われている。このような、仲間を招集する役割を有するものを集合フェロモンと呼ぶ。カリフォルニアのキクイムシの集合フェロモンはイプセノール、イプスジエノール、ベルベノールの3種が主成分である。
女王フェロモン
ミツバチのコロニーでは、女王がフェロモンを放出しワーカー(働き蜂)がこれを巣全体に行き渡らせる働きをしている。女王フェロモンはワーカーに作用し、巣作り、養育、採餌、食物貯蔵、さらには女王の養育の効果を及ぼす。また、女王フェロモンは新しい女王の出現を抑制している。女王フェロモンの主成分はオキソデセン酸である。
警報フェロモン
見張り役のミツバチが危険を感じると針の収まっている袋を開き、針を突出させて警報フェロモンを出し、巣の中の仲間に助けを求める。フェロモンを受容した他のハチは一斉に攻撃態勢に入る。このように、仲間に危険を知らせるフェロモンを警報フェロモンと呼ぶ。ミツバチの警報フェロモンの主成分は酢酸イソペンチルである。
道しるべフェロモン
多数のアリが行列をなして餌を採集に行く、この行動は1匹のアリが餌を見つけた際に地面に匂いを残して、他のアリに後を追わせることで進行する。この匂い物質が道しるべフェロモンである。約20種のフェロモンが知られている。
哺乳類のフェロモン候補物質
地球上には様々な哺乳類が生活しているが、その大半はネズミやタヌキのような夜行性であり、そのため視覚よりは嗅覚が重要な役割を果たすものが多い。図2に、代表的な哺乳類のフェロモンとして報告されている物質のいくつかを示す。
- ドデシニルアセテートはゾウの雌から放出され雄のゾウにフレーメンを誘起する[2]。フレーメンとはウマやヒツジの雄が雌の尿や外陰部の匂いをかいだあと頭を上げ上唇をめくりあげ、目をむいてしばらく陶酔に浸るようにじっとその姿勢を保ち続ける行動が有名である。ゾウでは長い鼻を高々と上げるポーズをとる。ドデシニルアセテートはウマ、ヒツジには効果がない。
- エチルオクタナールはシバヤギの雄効果(詳細は後述)を引き起こす。東京大学農学部の森らにより報告された[3]。脳内の視床下部に作用し、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin releasing hormone, GnRH)の分泌さらには下垂体からの黄体ホルモンの分泌を制御し、排卵を誘起する。
- アンドロステノンはブタのフェロモンである。雄ブタの顎下腺から、発情期の雌が交尾姿勢をとるように誘引する効果を指標に見つけられた[4]。このフェロモンは合成され「ボアメイト」という名前のスプレーとして市販されており、ブタの人工授精の際に利用されて繁殖率の向上に役立っている。実用化されたことから有名になった。
- プレグナ-4,20-ジエン-3,6-ジオン (PDD)はヒトのフェロモンとして報告されたである[5]。人の皮膚から抽出され、自律機能や脳波に影響を与えると述べられている。ステロイドホルモンの生合成経路にあるプレグネノロンに大変よく似ている。ヒトのフェロモン候補物質で再度解説する。
- ブチルジヒドロチアゾール、デヒドロブレビコミンは、マウスのフェロモンである[6]。攻撃フェロモンとして知られている。詳細は攻撃フェロモンで述べる。
他に、雄マウスの涙腺から雌を誘因するフェロモンが、東京大学農学部の東原らにより報告された[7]。ESP1と命名されたタンパク質である。ESP1に特異的フェロモン受容体がクローニングされ、分子構造が明らかになっている。
哺乳類のフェロモン行動
リリーサーフェロモン
リリーサーフェロモンによる効果については、哺乳類ではあまり研究は進んでいない。しかし、フレーメンやなわばり行動と関連したマーキング(イヌなどが電柱や垣根等に尿を振りかける行動)など、フェロモンに関わる行動は専門家のみならず一般の人たちにもなじみ深いものが多い。
なわばり行動
動物において自己のなわばりを保持することは、餌・食物を確保するだけでなく生殖にとっても重要な意味を持ち、系統の維持に大切な役割を有する。イギリスの野生下に生息するハツカネズミのなわばりは20-30平方メートル程度と言われている。ドブネズミでは200平方メートルに及ぶようである。
野生環境では,隣り合ったなわばりをもつ動物が隣のなわばりに入ると,その居住者から激しい攻撃を受け,侵入者はあわてて自分のなわばりに戻る。いったん自分のなわばり内に戻ると自信を取り戻し,追いかけてきた隣のなわばりの居住者に対して今度は攻撃をしかける。これら行動の発現は明らかになわばり依存性である。なわばりを維持するために必要とされる個体標識に関する成分としては尿や糞に含まれる匂い物質と言われている。マウスはなわばりの境界を示すため尿を利用してマーキング行動をおこなう。また、尿には主要尿タンパク質(Major Urinary Protein, MUP)の存在が報告されており,野生環境のマウスでは,このタンパク質の構成成分の違いを根拠になわばりを主張しているといわれている。MUPはタンパク質の複合体で,個体毎に複合体の発現量やそのバランスは違っている。おそらく、個体識別にはこれらたんぱく質複合体の量の相違を指標にしていると思われる。
攻撃フェロモン
ネズミなどで、社会的に優位な雄は劣位な雄に対して攻撃をすることが起きる。雄マウスは別の雄に出会うと匂いをかぎ、素早く攻撃的になって相手にかみつき追いかけ回す。ところが、去勢した雄に出会った場合は攻撃を示さない。この攻撃を誘引する成分、すなわちフェロモンは、尿中に含まれている。しかし、去勢雄の尿中にはこのフェロモンが含まれていない。したがって、このフェロモンの合成には精巣からのホルモンが必要とされると考えられる。
ノボトミーたちは、この攻撃を誘引するフェロモンを、去勢雄に認められなくて正常雄に存在し、去勢雄に塗りつけると攻撃を誘発する物質として解析した結果、2-sec-ブチルジヒドロチアゾール、デヒドロ-exo-ブレビコミンである事を明らかにした[6]。この二つの物質は、一方の物質だけを去勢雄の尿に加えただけでは効果が無く、また、尿の代わりに水に溶かしただけでは効果がない。したがって、この二つの物質に加えて、去勢雄の尿に含まれる何らかの物質も必要とされる。つまり、雄マウスの攻撃には、2-sec-ブチルジヒドロチアゾール、デヒドロ-exo-ブレビコミンは必要であるけれども、これだけでは活性を持たないということになる。フェロモン効果は複数のフェロモン物質がともにあることで発揮されることを想像させる一例である。
昆虫のフェロモンは、たとえばボンビコールが雄を引きつけるように、一つの化合物が劇的な行動を引き起こすことから、哺乳類でも同様の機能が期待されているが、少なくとも、マウスの攻撃行動にかかわるフェロモンは複合体として作用するようである。最近のいくつかの報告によれば、リリーサー効果は、フェロモンが複合体として作用していると考えた方が説明しやすいものが多い。昆虫と哺乳類では、フェロモンの効果をおこす機構が異なっていると思われる。
警報フェロモン
動物は危険が迫るとその情報を仲間に知らせるために様々な手法を取る。この代表としては警戒音が有名であるが、匂いも使われる。
ラットは危険な状況下に置かれると特有の匂い物質を放出し、この匂いに対して他の個体が忌避的な行動をとる。動物はストレスを与えられると一過性の体温上昇を示す。床に電気で刺激を与える装置を組み込んだ飼育ケージにラットを入れ、電撃フットショックを与えた後、このケージからラットを取り出し、新しい動物を入れると緊張性の行動とともに体温上昇が増強される。同時に、副嗅球ニューロンの活動が高まっている。この結果は、フットショックを受けた動物から何らかの匂い物質(フェロモン)が放出され、行動および自律神経系の緊張を高めたと考えられる。
このフェロモンは肛門周囲部より放出され水に補足される物質あることが明らかになった[8]が、物質の同定には至っていない。一般に、群れを形成する動物は、天敵により群れの中の一部の個体が犠牲になることでその他の個体の安全は確保されることになる。群れ動物は、自己を犠牲にしてでも、フェロモンを介して他の個体に危険情報を伝えることで、種として環境に適応する能力の一手段としていると推察される。
母性フェロモンと安寧フェロモン
哺乳類にとって哺乳は特徴的な行動であり、出生直後の子供にとっても、授乳は重要な行動である。生まれてすぐ母親の乳首を探し当てることが出来る。この行動を可能にしているのが授乳期に母親の乳頭輪の周囲から放出されるフェロモンで、母性フェロモンと呼ばれる。
母性フェロモンは、授乳効果に役立つのみでなく、こどもに安心感を与える効果も持つ。母ブタの乳房周辺から授乳期のみに分泌されて子豚の不安を軽減し、不安にともなって起こる攻撃行動を沈める効果を持つ物質が調べられている。複数の脂肪の混合物で、安寧フェロモンと呼ばれている。
プライマーフェロモン
哺乳類におけるプライマーフェロモンの効果の研究はマウスなどで進んでいる。哺乳類のプライマーフェロモン効果の代表的なものは次のようなものがある。ほとんどが発見者の名前にちなんで呼ばれている。
- リー・ブート効果:雌のマウスを雄から完全に離しておくと排卵サイクルが次第に長くなり、最終的には非発情状態になる。
- ホイッテン効果:リー・ブート効果を補完する効果。雄マウス尿中のフェロモンは、雌マウスだけの群居生活で非発情状態にある成熟雌に発情を誘起する。
- ヴァンデンバーグ効果:雄マウスの尿中のフェロモンは、幼弱雌マウスの性成熟を早める。
- ブルース効果:雌マウスは、交尾後着床までの間に、交尾相手と異なる雄の匂い(フェロモン)を嗅ぐと着床が阻害され妊娠続行が不可能になる。
- 雄効果:ヤギのように季節繁殖する動物で、雄のフェロモンが非繁殖期にある雌を発情するように誘導する。
- 寄宿舎(寮)効果:雌のマウスやラットを集団飼育すると性周期が同期する。この効果はヒトでも存在が認められている。
ブルース効果
雌のマウスは交尾後、当然のことであるが、交尾相手の雄のフェロモンに曝されても正常に妊娠が維持され出産する。しかしながら交尾相手と異なる雄のフェロモンを曝露されると、妊娠の成立が阻止される事が、1959年ブルースによって見いだされた[9]。雌マウスは、交尾後着床までの間(およそ4-5日)に、交尾相手と異なる雄のフェロモンに曝露されると、脳内の内分泌系の中枢である視床下部の正中隆起からドーパミンが正中隆起と下垂体を連絡する血管の門脈に放出される。さらに、ドーパミンは下垂体に作用して、それが下垂体からの分泌されるホルモンであるプロラクチンの分泌を抑制する。この結果、本来プロゲステロンの卵巣からの分泌を促進するプロラクチンが作用しないため、卵巣からのプロゲステロンの分泌も抑制され、着床が阻害され妊娠が不成立に終わってしまうのである。このメカニズムはフェロモンが内分泌系に影響を与えるプライマー効果の典型である。
ところが、交尾相手の雄のフェロモンではこの現象は起きることなく妊娠が維持される。これは、「雌マウスは、交尾時に嗅いだ交尾相手の雄のフェロモンを記憶する」、この結果、「交尾時に記憶したものと同じフェロモンに曝露されても妊娠阻止はおきない。つまり妊娠が維持される」と考えられている。また、この記憶の部位が副嗅球にあることも知られている。
雄効果
ヒツジやヤギは季節繁殖をするため、交尾期と呼ばれる特定の時期にだけ生殖腺が活動状態になり、他の時期は雌の生殖腺は休止状態になる、この非繁殖期の雌の群れに、成熟した元気の良い雄を導入すると,卵巣の活動が活発になり、発情周期が回帰する。この現象はいわゆる「雄効果」として古くから知られていた。その後,雌の嗅覚を遮断すると雄の影響は消失し,また,雄から刈り取った被毛だけでも十分な効果があることなどが明らかにされ,雄が放つ匂いシグナル,すなわちフェロモンによりこの作用が仲介されていると考えられるようになった。先に述べたが、このフェロモンは4−エチルオクタナールである[3]。哺乳類のプライマー効果を引き起こすフェロモンとしてはじめて同定された。
雄効果をひきおこすフェロモンの脳内のターゲットは自律系内分泌系の中枢である視床下部内部のGnRHパルスジェネレーターと呼ばれる部位である。この部位では、フェロモン受容のシグナルが伝達されると,ニューロン活動が上昇する。この影響で視床下部からのGnRHおよび下垂体からの黄体ホルモンのパルス状分泌の亢進が起き,最終的には卵巣からの排卵が誘起される。
ヒトとフェロモン
1990年代にフェロモンという言葉がマスコミで話題にされた(今でもたまに目にすることがある)。その多くの場合はフェロモンという言葉が誤解され、「性的魅力」や「異性に気を引く色気」というようなことを意味する表現で用いられていた。これは、一般の人達がヒトのフェロモンに大変興味を持っていることの現れかもしれない。しかし残念ながら、いまでもヒトのフェロモンは不確かな点がたくさんある。一言で言うと、ヒトにフェロモンが存在すると思われるが、その物質、あるいはフェロモン情報がどのように受容され、脳に作用して機能発現しているか明らかになっていない。ヒトのフェロモンについて、これまで知られている事柄を簡単に説明する。
ヒトのフェロモン効果
ヒトにおいてフェロモンの存在はマクリントックにより報告された。彼女は、寮で生活している女子学生のアンケート結果から共同生活が始まると月経周期が同調すること、いわゆる寄宿舎効果を明らかにし、さらに、女性の腋からの分泌物を別の女性にかがせると月経周期に影響を及ぼすことを明らかにした[10]。卵胞期の分泌物は女性の排卵を促進することにより月経周期の短縮を誘導し、排卵期の分泌物は排卵の遅延をおこし月経周期の延長をもたらす(図3)。このため月経周期が同調すると述べている。腋のアポクリン腺から分泌される物質の中にフェロモンが含まれていると思われるが、いかなる物質が効果を引き起こすのかは明らかになっていない。見つかると臨床的に重要な物質となる。
ヒトフェロモン候補物質
ヒトのフェロモンとして同定された物質の一つは、PDDである[5]。バーリナーらがヒトの皮膚から抽出、同定した。
匂い物質を嗅覚器に吹き付けると緩やかな電位変化が現れる。これは嗅電図とよばれ嗅覚検査に用いられている。バーリナーらは、この皮膚からのフェロモン候補物質を成人の鋤鼻器に吹き付けて生ずる嗅電図と類似の電位変化(鋤鼻電図)を指標に検定し、PDDを同定した。効果は内分泌系のみならず自律神経系にもおよぶことが示された。しかし、この結果に関しては、刺激方法や電位記録の方法また自律神経活動の記録法など技術的な問題点が指摘されており、さらに、他の研究グループによる追試験などが行われていないことなど、ヒトのフェロモンとして「認定」するのは問題が多い。
ヒトのフェロモン候補にあげられているもう一つの物質がアンドロステノンである。アンドロステノンを散布した椅子に好んで座る頻度を計測した結果、女性では有意の増加を示し、男性では逆に減少したという。この実験は、カーク・スミスとブースにより報告された[11]。この実験はいくつかの点において問題が指摘されている。座った回数は述べられているが、被検者の人数が不明なので、観察期間中に同じ被検者が繰り返し座っているかどうか不明である。また、散布した椅子以外で実験が行われていない。他の椅子でも同様の実験を繰り返す必要がある。さらに、アンドロステノンをふりかけるのは診察時間前である。観察は1日行うため、時間の経過とともに濃度に変化が生ずるし、診察室内の環境も変化するなどである。たしかに、診察室が混んでいる時は、混雑度がデータに影響することを、著者自身が指摘している。実験方法を工夫して同様の実験が出来ると、興味ある結果が得られると思うが実際に行うのは難しい。
鼻腔にアンドロステノンを散布すると鼻腔の粘膜から吸収されて、内分泌バランスなどに影響を与えるという報告もある。アンドロステノンはステロイドホルモンである。従って、感覚系を経由しないで、皮膚などから直接体内の血液循環に乗って、様々な生理機能に影響を及ぼす可能性がある。この点については慎重に扱う必要がある。ステロイド物質は、その作用がホルモン作用なのかフェロモン作用なのか見極めが難しい例が多々ある。先に述べた、PDDも同様である。この物質を鋤鼻器に吹き付けたと述べているが、鼻腔内の粘膜から直接取り込まれる可能性はおおいにある。
さらに、怪しげな物質がコプリンとよばれているものである。1970年代の初め、女性の膣の分泌物に存在する低分子の脂肪酸(C2からC6)の合成混合物が男性の性的効果を高めるとされて話題になった。フランスで香水の成分としても用いられた。しかし、その後の研究で、効果については疑問視されている。
他にも、特許とか企業秘密の問題で、公表されていない物質もあると思われる。いずれにしても、動物のフェロモンに比べて、生物検定法に難点をかかえており、「ヒトのフェロモン物質で確定されたものはまだない」といった方が良い状況である。
フェロモンについては、謎が多く研究も盛んに行われている。ここでその詳細は述べられないので、他の参考図書を参照してほしい[12] [13] [14] [15] [16] [17] [18] [19] [20]。
関連項目
参考文献
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Effect of androstenon on choice of location in others presence.
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フェロモンの謎
(訳 木村武二)東京化学同人 (1995) - ↑ 市川眞澄
フェロモンセンサー 鋤鼻器
フレグランスジャーナル社(2008) - ↑ 市川眞澄・守屋敬子
匂いコミュニケーション
共立出版(2015) - ↑ 長田俊哉・市川眞澄・猪飼篤編
フェロモン受容にかかわる神経系
森北出版(2007) - ↑ 柏柳誠
人にフェロモンはあるのだろうか?
フレグランスジャーナル社 (2011) - ↑ 近藤保彦、小川園子、菊水健史、山田一夫、福原和也・編
脳とホルモンの行動学
西村書店(2010) - ↑ 澁谷達明、市川眞澄・編
匂いと香りの科学
朝倉書店(2007) - ↑ Doty RL
The great pheromone myth.
The John Hopkins University Press (2010) - ↑ Watt TD
Pheromones and Animal Behaviour.
Cambridge.(2003)