「後悔回避」の版間の差分
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<font size="+1">[http://researchmap.jp/akomiya 小宮 あすか]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/akomiya 小宮 あすか]</font><br> | ||
''高知工科大学総合研究所制度設計工学研究センター''<br> | ''高知工科大学総合研究所制度設計工学研究センター''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年9月9日 原稿完成日:2015年月日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0048432 定藤 規弘](自然科学研究機構生理学研究所大脳皮質機能研究系)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0048432 定藤 規弘](自然科学研究機構生理学研究所大脳皮質機能研究系)<br> | ||
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一方、[[予期的後悔]](anticipated regret)とは、意思決定場面において、未来の結果についてのメンタルシミュレーションを行い、選択肢間の比較をすることによって生じる。たとえば、これからある選択をおこなったとして、将来失敗したときに、その選択をどの程度後悔するか(たとえば、行動して失敗したときに、「行動しなければ良かった」とどの程度ネガティブに感じるかどうか)を予測し、比較判断する。こうした仮想的比較によって、後悔を回避するように意思決定を行うことが、後悔回避である<ref name=ref1><pubmed>7740094</pubmed></ref>。 | 一方、[[予期的後悔]](anticipated regret)とは、意思決定場面において、未来の結果についてのメンタルシミュレーションを行い、選択肢間の比較をすることによって生じる。たとえば、これからある選択をおこなったとして、将来失敗したときに、その選択をどの程度後悔するか(たとえば、行動して失敗したときに、「行動しなければ良かった」とどの程度ネガティブに感じるかどうか)を予測し、比較判断する。こうした仮想的比較によって、後悔を回避するように意思決定を行うことが、後悔回避である<ref name=ref1><pubmed>7740094</pubmed></ref>。 | ||
後悔は、[[自責感]](self-blame)と、「もう一度決定をやり直したい」という欲求に特徴づけられる。一方、[[失望]](disappointment)や[[悲しみ]]、[[フラストレーション]]は、後悔と同様に悪い結果に伴って生じるネガティブな感情ではあるが、[[期待]]や[[要求水準]](aspiration level)との対比にとどまり、欲求を引き起こさない点が後悔とは異なる(例: | 後悔は、[[自責感]](self-blame)と、「もう一度決定をやり直したい」という欲求に特徴づけられる。一方、[[失望]](disappointment)や[[悲しみ]]、[[フラストレーション]]は、後悔と同様に悪い結果に伴って生じるネガティブな感情ではあるが、[[期待]]や[[要求水準]](aspiration level)との対比にとどまり、欲求を引き起こさない点が後悔とは異なる(例:がっかりした、期待はずれだった<ref name=ref2><pubmed>9719654</pubmed></ref>。 | ||
==心理学研究、行動経済学研究== | ==心理学研究、行動経済学研究== | ||
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==神経基盤== | ==神経基盤== | ||
脳神経科学的研究の中では、[[内側前頭眼窩皮質]] | 脳神経科学的研究の中では、[[内側前頭眼窩皮質]]の脳損傷患者および健常者を対象に心理実験課題([[ルーレット課題]])を行ったCoricelliらのグループの研究が有名である<ref name=ref3><pubmed>16116457</pubmed></ref><ref name=ref5><pubmed>15155951</pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed>17475537</pubmed></ref>。この研究では、経験後悔・予期後悔の強さおよび後悔回避的な選択と、内側前頭眼窩皮質(medial orbitofrontal cortex)の活動との間に相関が見いだされている。その他の研究でも、後悔に[[前頭眼窩皮質]]が関わることが追試されている<ref name=ref8><pubmed>19760243</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>15795133</pubmed></ref>。 | ||
Camilleら<ref name=ref5 />の研究では、実験参加者は、提示された2つのルーレットからどちらかひとつのルーレット(賭)を選ぶことを求められた。そして、選んだ賭で得られたポイントによって実験参加者の報酬が決まるという課題になっていた。実験では、賭選択後に選択した賭の結果だけをフィードバックする条件(部分フィードバック条件;期待との比較による失望を仮定)と選択した賭と選択しなかった賭のどちらも結果をフィードバックする条件(完全フィードバック条件;選ばなかった賭との比較による後悔を仮定)を比較した。その結果、健常者は、選んだ賭によって損失を被った場合(かつ、選ばなかった賭、あるいは期待がそれよりも良い結果だった場合)、完全フィードバック条件では不完全フィードバック条件よりも、自己報告によるネガティブ感情の評価と[[皮膚電位反応]]の双方において強い感情反応が見られた。一方、内側前頭眼窩皮質損傷患者は両条件に差がなかった<ref name=ref5 />。 | Camilleら<ref name=ref5 />の研究では、実験参加者は、提示された2つのルーレットからどちらかひとつのルーレット(賭)を選ぶことを求められた。そして、選んだ賭で得られたポイントによって実験参加者の報酬が決まるという課題になっていた。実験では、賭選択後に選択した賭の結果だけをフィードバックする条件(部分フィードバック条件;期待との比較による失望を仮定)と選択した賭と選択しなかった賭のどちらも結果をフィードバックする条件(完全フィードバック条件;選ばなかった賭との比較による後悔を仮定)を比較した。その結果、健常者は、選んだ賭によって損失を被った場合(かつ、選ばなかった賭、あるいは期待がそれよりも良い結果だった場合)、完全フィードバック条件では不完全フィードバック条件よりも、自己報告によるネガティブ感情の評価と[[皮膚電位反応]]の双方において強い感情反応が見られた。一方、内側前頭眼窩皮質損傷患者は両条件に差がなかった<ref name=ref5 />。 | ||
同様の課題を健常参加者に対して実施した[[fMRI]]研究<ref name=ref3 />は、経験後悔の大きさ(ここでは得られた結果と得られなかった結果の差分)が、[[背側前帯状皮質]](Dorsal anterior cingulate | 同様の課題を健常参加者に対して実施した[[fMRI]]研究<ref name=ref3 />は、経験後悔の大きさ(ここでは得られた結果と得られなかった結果の差分)が、[[背側前帯状皮質]](Dorsal anterior cingulate cortex)、内側前頭眼窩皮質、および[[海馬]]前部(anterior hippocampus)の活動と関連することを示した。また同時に、予期的後悔の神経基盤として、決定直前の内側前頭眼窩皮質と[[扁桃体]]の活動が、当該の試行までに経験された、累積された後悔の大きさと関連していることを示した。この知見は、内側前頭眼窩皮質が経験後悔・予期的後悔双方に共通する神経基盤として、後悔という高次の感情を用いた適応的な意思決定に重要な役割を果たしていることを示唆している<ref name=ref3 />。 | ||
===内側前頭眼窩野=== | |||
内側前頭眼窩野は、[[報酬]]や[[嫌悪]]刺激の評価や比較と関わり、それらの予測・期待にもかかわる。さらに、情動や[[直観的ヒューリスティック]]に依拠した意思決定を支えている。この部位は、推論や計画を支える[[前頭前野背外側部]]や、情動生起を制御する扁桃体と連絡している。 | |||
===扁桃体=== | |||
扁桃体は、入力情報における報酬や脅威、感情的刺激(喜び、恐怖などの基本情動など)や社会的刺激を、検出、評価し、顔の表情として出力する働きを担っている<ref name=ref6>'''LeDoux, J. E.'''<br>The emotional brain: the mysterious underpinnings of emotional life.<br>''New York: Simon and Schuster''.1996 </ref>。 | |||
===前帯状皮質=== | |||
背側前帯状皮質 (Dorsal anterior cingulate cortex)は、主観的な感情状態に注意の焦点を当て、認知と自動的に喚起される認知的・感情的処理を媒介している<ref name=ref3 />。 | |||
==関連項目== | ==関連項目== | ||