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DOI | DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2012年3月16日 原稿完成日:2013年月日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br> | ||
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{{box|text= 神経ペプチドは神経系に発現し[[生理活性]]をしめす[[wikipedia:ja:ペプチド|ペプチド]]の総称である。}} | {{box|text= | ||
神経ペプチドは神経系に発現し[[生理活性]]をしめす[[wikipedia:ja:ペプチド|ペプチド]]の総称である。 | |||
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== 発見の歴史と日本人の貢献 == | == 発見の歴史と日本人の貢献 == | ||
[[wikipedia:ja:ロジェ・ギルマン|ロジェ・ギルマン]](R. Guillemin)と[[wikipedia:ja:アンドルー・ウィクター・シャリー|アンドルー・ウィクター・シャリー]](A. V. Schally)が、「脳のペプチドホルモン産生に関する発見」で、1977年に[[wikipedia:ja:ノーベル賞|ノーベル賞]]を受けている。彼らは何万もの[[wikipedia:ja:豚|豚]]の[[脳]]から生理活性を指標にペプチドを単離した。その研究において有村章(A. Arimura)、松尾壽之(H. Matsuo)らが重要な役割を演じている。また、「ペプチドホルモンの[[wikipedia:ja:放射免疫測定|放射性同位元素標識免疫検定法]](radioimmunoassay, RIA)の開発」で[[wikipedia:ja:ロサリン・ヤロー|ロサリン・ヤロー]](R. S. Yalow)が同時受賞している。これらの発見と技術開発はペプチドの研究、特に[[wikipedia:ja:内分泌学|内分泌学]]に革命的な変化をもたらした。その後、脳や[[wikipedia:ja:腸|腸]]管から多くのペプチドが単離され、C末端の[[wikipedia:ja:アミド|アミド]]化された構造が多くのペプチドに共通することが明らかになった。V. Muttと立元一彦(K. Tatemoto)はその構造に着目し単離する化学的方法を開発した <ref><pubmed>6896083</pubmed></ref>。この方法により[[ニューロペプチドY]](neuropeptide Y; NPY)や[[ガラニン]](galanin)などの多くのペプチドが発見された。名称も生理活性ではなく構造から付けられた。例えば、NPYはチロシン(Y)残基を多く含むことによる。また、galaninはグリシン(G)で始まり、アラニンで終わる構造である。近年に至って寒川賢治(K. Kangawa)らが[[グレリン]](ghrelin)を発見している<ref><pubmed>10604470</pubmed></ref>。このような歴史を経て現在までに、90の遺伝子が明らかになり、約100の神経ペプチドが知られるようになった<ref name=ref3>[http://www.neuropeptides.nl/ Neuropeptide Database]</ref><ref name=ref5><pubmed>19837055</pubmed></ref> | [[wikipedia:ja:ロジェ・ギルマン|ロジェ・ギルマン]](R. Guillemin)と[[wikipedia:ja:アンドルー・ウィクター・シャリー|アンドルー・ウィクター・シャリー]](A. V. Schally)が、「脳のペプチドホルモン産生に関する発見」で、1977年に[[wikipedia:ja:ノーベル賞|ノーベル賞]]を受けている。彼らは何万もの[[wikipedia:ja:豚|豚]]の[[脳]]から生理活性を指標にペプチドを単離した。その研究において有村章(A. Arimura)、松尾壽之(H. Matsuo)らが重要な役割を演じている。また、「ペプチドホルモンの[[wikipedia:ja:放射免疫測定|放射性同位元素標識免疫検定法]](radioimmunoassay, RIA)の開発」で[[wikipedia:ja:ロサリン・ヤロー|ロサリン・ヤロー]](R. S. Yalow)が同時受賞している。これらの発見と技術開発はペプチドの研究、特に[[wikipedia:ja:内分泌学|内分泌学]]に革命的な変化をもたらした。その後、脳や[[wikipedia:ja:腸|腸]]管から多くのペプチドが単離され、C末端の[[wikipedia:ja:アミド|アミド]]化された構造が多くのペプチドに共通することが明らかになった。V. Muttと立元一彦(K. Tatemoto)はその構造に着目し単離する化学的方法を開発した <ref><pubmed>6896083</pubmed></ref>。この方法により[[ニューロペプチドY]](neuropeptide Y; NPY)や[[ガラニン]](galanin)などの多くのペプチドが発見された。名称も生理活性ではなく構造から付けられた。例えば、NPYはチロシン(Y)残基を多く含むことによる。また、galaninはグリシン(G)で始まり、アラニンで終わる構造である。近年に至って寒川賢治(K. Kangawa)らが[[グレリン]](ghrelin)を発見している<ref><pubmed>10604470</pubmed></ref>。このような歴史を経て現在までに、90の遺伝子が明らかになり、約100の神経ペプチドが知られるようになった<ref name=ref3>[http://www.neuropeptides.nl/ Neuropeptide Database]</ref><ref name=ref5><pubmed>19837055</pubmed></ref>。 | ||
== 生理作用 == | == 生理作用 == | ||
神経ペプチドは[[中枢神経系|中枢]]のみならず[[末梢神経系]]にも存在し、細胞間の[[信号伝達分子]]として働いている。[[内分泌]]機能、[[生殖]]や[[摂食]]の調節、[[学習]]や[[記憶]]、[[痛覚]]に関与する。たとえば、[[視床下部]][[ニューロン]]の多くは神経ペプチドを含有する。[[オキシトシン]](oxytocin, OT)ニューロンと[[バゾプレシン]](vasopressin, VP) | |||
神経ペプチドは[[中枢神経系|中枢]]のみならず[[末梢神経系]]にも存在し、細胞間の[[信号伝達分子]]として働いている。[[内分泌]]機能、[[生殖]]や[[摂食]]の調節、[[学習]]や[[記憶]]、[[痛覚]]に関与する。たとえば、[[視床下部]][[ニューロン]]の多くは神経ペプチドを含有する。[[オキシトシン]](oxytocin, OT)ニューロンと[[バゾプレシン]](vasopressin, VP)ニューロンは視床下部[[室傍核]]と[[視索上核]]に[[細胞体]]をもち、[[下垂体]][[後葉]]に投射して後葉ホルモン(OT, VP)を分泌する。VPは[[抗利尿ホルモン]](antidiuretic hormone, ADH)とも呼ばれる。また下垂体[[前葉]]を支配するのは[[正中隆起]]に[[軸索]]を投射する[[向下垂体ニューロン]]である。[[ドーパミン]]ニューロン以外はペプチド含有ニューロンである。それらは、[[副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン]](CRH)、[[甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン]](TRH)、[[成長ホルモン放出ホルモン]](GHRH)、[[性腺刺激ホルモン放出ホルモン]](GnRH、LHRH)、[[ソマトスタチン]](somatostatin)を分泌する。生殖には、GnRH、[[キスペプチン]](kisspeptin)、[[エンケファリン]](enkephalin)などが関与する。摂食の調節には[[オレキシン]](orexin), [[agouti-related peptide]] (AgRP), NPY, [[プロオピオメラノコルチン]] (proopiomelanocortin, POMC), [[コカイン・アンフェタミン調節転写産物]] (cocaine and amphetamine regulated transcript, CART), グレリン(ghrelin), [[メラニン濃縮ホルモン]] (melanin concentrating hormone, MCH)などのペプチドが関与する。また、学習・記憶に関わる神経ペプチドには、ソマトスタチン、[[バゾプレシン]]、ACTH、CRH、[[α-メラノサイト刺激ホルモン]] (α-melanocyte stimulating hormone, α-MSH)などが知られている。痛覚に関与するのは、[[サブスタンスP]] (substance P)、[[ニューロキニンA]] (neurokinin A)、[[カルシトニン遺伝子関連ペプチド]] (CGRP) および[[β-エンドルフィン]](β-endorphin)などである。 | |||
==生合成と作用機構 == | ==生合成と作用機構 == | ||
神経ペプチドは遺伝子にコードされており、[[wikipedia:ja:転写|転写]]・[[wikipedia:ja:翻訳|翻訳]]およびプロセッシングによって合成される。合成された神経ペプチドは、[[シナプス小胞]](synaptic vesicle、直径, 50-100 nm)ではなく、[[分泌小胞]](secretory vesicle、直径, 100 nm以上)に貯蔵され[[開口放出]]される。放出は軸索末端からだけではなく、[[細胞体]]と[[樹状突起]]でもおこるが、シナプス部位で放出されるものは少ない。放出されたペプチドは比較的高濃度で[[細胞間隙]]に存在する。例えば、視床下部視索上核(supraoptic nucleus, SON)におけるオキシトシンの細胞外濃度は5-20 nMである。しかも半減期が約20分と長い。これは、[[グルタミン酸]]における取り込みや[[アセチルコリン]]の分解のような不活化機構が存在しないからである。そのために分泌部位から遠く離れたところにまで作用を及ぼすことになる<ref><pubmed>16429122</pubmed></ref>。[[後葉ホルモン]]と向下垂体ホルモンは[[軸索末端]]から放出されるが、そこにはシナプス構造はなく[[wikipedia:ja:血管|血管]]周囲に直接放出され血流で標的部位まで運ばれる。このように神経細胞の性質と内分泌細胞の性質を兼ね備えていることからこれらのニューロンは[[神経内分泌細胞]](neuroendocrine cell)と呼ばれる。また、このような分泌様式を[[神経分泌]](neurosecretion)という。 | 神経ペプチドは遺伝子にコードされており、[[wikipedia:ja:転写|転写]]・[[wikipedia:ja:翻訳|翻訳]]およびプロセッシングによって合成される。合成された神経ペプチドは、[[シナプス小胞]](synaptic vesicle、直径, 50-100 nm)ではなく、[[分泌小胞]](secretory vesicle、直径, 100 nm以上)に貯蔵され[[開口放出]]される。放出は軸索末端からだけではなく、[[細胞体]]と[[樹状突起]]でもおこるが、シナプス部位で放出されるものは少ない。放出されたペプチドは比較的高濃度で[[細胞間隙]]に存在する。例えば、視床下部視索上核(supraoptic nucleus, SON)におけるオキシトシンの細胞外濃度は5-20 nMである。しかも半減期が約20分と長い。これは、[[グルタミン酸]]における取り込みや[[アセチルコリン]]の分解のような不活化機構が存在しないからである。そのために分泌部位から遠く離れたところにまで作用を及ぼすことになる<ref><pubmed>16429122</pubmed></ref>。[[後葉ホルモン]]と向下垂体ホルモンは[[軸索末端]]から放出されるが、そこにはシナプス構造はなく[[wikipedia:ja:血管|血管]]周囲に直接放出され血流で標的部位まで運ばれる。このように神経細胞の性質と内分泌細胞の性質を兼ね備えていることからこれらのニューロンは[[神経内分泌細胞]](neuroendocrine cell)と呼ばれる。また、このような分泌様式を[[神経分泌]](neurosecretion)という。 | ||
神経ペプチドの[[受容体]]はほとんどが、[[Gタンパク質共役型受容体|Gタンパク質共役型]]であり[[イオンチャネル型受容体|イオンチャネル型]]のものはない。したがって、[[細胞内シグナル伝達系]]を介して作用する。代表的なものはGsとGiを介する[[cAMP]]合成の促進と抑制、GiあるいはGoのGβγによる[[GIRKチャネル]](G-protein-coupled inwardly rectifying potassium channels, Kir3)の活性化、およびGq/11を介する[[イノシトール-3-リン酸]](IP3)と[[ジアシルグリセルール]](DAG)の産生である。なお、[[酵素共役型受容体]]([[グアニル酸シクラーゼ]]、[[チロシンリン酸化|チロシンキナーゼ]])も一部のペプチドでは知られている。 | 神経ペプチドの[[受容体]]はほとんどが、[[Gタンパク質共役型受容体|Gタンパク質共役型]]であり[[イオンチャネル型受容体|イオンチャネル型]]のものはない。したがって、[[細胞内シグナル伝達系]]を介して作用する。代表的なものはGsとGiを介する[[cAMP]]合成の促進と抑制、GiあるいはGoのGβγによる[[GIRKチャネル]](G-protein-coupled inwardly rectifying potassium channels, Kir3)の活性化、およびGq/11を介する[[イノシトール-3-リン酸]](IP3)と[[ジアシルグリセルール]](DAG)の産生である。なお、[[酵素共役型受容体]]([[グアニル酸シクラーゼ]]、[[チロシンリン酸化|チロシンキナーゼ]])も一部のペプチドでは知られている。 | ||
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2015年11月24日 (火) 16:07時点における版
英:neuropeptide
発見の歴史と日本人の貢献
ロジェ・ギルマン(R. Guillemin)とアンドルー・ウィクター・シャリー(A. V. Schally)が、「脳のペプチドホルモン産生に関する発見」で、1977年にノーベル賞を受けている。彼らは何万もの豚の脳から生理活性を指標にペプチドを単離した。その研究において有村章(A. Arimura)、松尾壽之(H. Matsuo)らが重要な役割を演じている。また、「ペプチドホルモンの放射性同位元素標識免疫検定法(radioimmunoassay, RIA)の開発」でロサリン・ヤロー(R. S. Yalow)が同時受賞している。これらの発見と技術開発はペプチドの研究、特に内分泌学に革命的な変化をもたらした。その後、脳や腸管から多くのペプチドが単離され、C末端のアミド化された構造が多くのペプチドに共通することが明らかになった。V. Muttと立元一彦(K. Tatemoto)はその構造に着目し単離する化学的方法を開発した [1]。この方法によりニューロペプチドY(neuropeptide Y; NPY)やガラニン(galanin)などの多くのペプチドが発見された。名称も生理活性ではなく構造から付けられた。例えば、NPYはチロシン(Y)残基を多く含むことによる。また、galaninはグリシン(G)で始まり、アラニンで終わる構造である。近年に至って寒川賢治(K. Kangawa)らがグレリン(ghrelin)を発見している[2]。このような歴史を経て現在までに、90の遺伝子が明らかになり、約100の神経ペプチドが知られるようになった[3][4]。
生理作用
神経ペプチドは中枢のみならず末梢神経系にも存在し、細胞間の信号伝達分子として働いている。内分泌機能、生殖や摂食の調節、学習や記憶、痛覚に関与する。たとえば、視床下部ニューロンの多くは神経ペプチドを含有する。オキシトシン(oxytocin, OT)ニューロンとバゾプレシン(vasopressin, VP)ニューロンは視床下部室傍核と視索上核に細胞体をもち、下垂体後葉に投射して後葉ホルモン(OT, VP)を分泌する。VPは抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone, ADH)とも呼ばれる。また下垂体前葉を支配するのは正中隆起に軸索を投射する向下垂体ニューロンである。ドーパミンニューロン以外はペプチド含有ニューロンである。それらは、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH、LHRH)、ソマトスタチン(somatostatin)を分泌する。生殖には、GnRH、キスペプチン(kisspeptin)、エンケファリン(enkephalin)などが関与する。摂食の調節にはオレキシン(orexin), agouti-related peptide (AgRP), NPY, プロオピオメラノコルチン (proopiomelanocortin, POMC), コカイン・アンフェタミン調節転写産物 (cocaine and amphetamine regulated transcript, CART), グレリン(ghrelin), メラニン濃縮ホルモン (melanin concentrating hormone, MCH)などのペプチドが関与する。また、学習・記憶に関わる神経ペプチドには、ソマトスタチン、バゾプレシン、ACTH、CRH、α-メラノサイト刺激ホルモン (α-melanocyte stimulating hormone, α-MSH)などが知られている。痛覚に関与するのは、サブスタンスP (substance P)、ニューロキニンA (neurokinin A)、カルシトニン遺伝子関連ペプチド (CGRP) およびβ-エンドルフィン(β-endorphin)などである。
生合成と作用機構
神経ペプチドは遺伝子にコードされており、転写・翻訳およびプロセッシングによって合成される。合成された神経ペプチドは、シナプス小胞(synaptic vesicle、直径, 50-100 nm)ではなく、分泌小胞(secretory vesicle、直径, 100 nm以上)に貯蔵され開口放出される。放出は軸索末端からだけではなく、細胞体と樹状突起でもおこるが、シナプス部位で放出されるものは少ない。放出されたペプチドは比較的高濃度で細胞間隙に存在する。例えば、視床下部視索上核(supraoptic nucleus, SON)におけるオキシトシンの細胞外濃度は5-20 nMである。しかも半減期が約20分と長い。これは、グルタミン酸における取り込みやアセチルコリンの分解のような不活化機構が存在しないからである。そのために分泌部位から遠く離れたところにまで作用を及ぼすことになる[5]。後葉ホルモンと向下垂体ホルモンは軸索末端から放出されるが、そこにはシナプス構造はなく血管周囲に直接放出され血流で標的部位まで運ばれる。このように神経細胞の性質と内分泌細胞の性質を兼ね備えていることからこれらのニューロンは神経内分泌細胞(neuroendocrine cell)と呼ばれる。また、このような分泌様式を神経分泌(neurosecretion)という。
神経ペプチドの受容体はほとんどが、Gタンパク質共役型でありイオンチャネル型のものはない。したがって、細胞内シグナル伝達系を介して作用する。代表的なものはGsとGiを介するcAMP合成の促進と抑制、GiあるいはGoのGβγによるGIRKチャネル(G-protein-coupled inwardly rectifying potassium channels, Kir3)の活性化、およびGq/11を介するイノシトール-3-リン酸(IP3)とジアシルグリセルール(DAG)の産生である。なお、酵素共役型受容体(グアニル酸シクラーゼ、チロシンキナーゼ)も一部のペプチドでは知られている。
J Peter H Burbachの了承のもとに編集部にて翻訳、改変。
外部リンク
参考文献
- ↑
Tatemoto, K., Carlquist, M., & Mutt, V. (1982).
Neuropeptide Y--a novel brain peptide with structural similarities to peptide YY and pancreatic polypeptide. Nature, 296(5858), 659-60. [PubMed:6896083] [WorldCat] [DOI] - ↑
Kojima, M., Hosoda, H., Date, Y., Nakazato, M., Matsuo, H., & Kangawa, K. (1999).
Ghrelin is a growth-hormone-releasing acylated peptide from stomach. Nature, 402(6762), 656-60. [PubMed:10604470] [WorldCat] [DOI] - ↑ 3.0 3.1 Neuropeptide Database
- ↑ 4.0 4.1
Burbach, J.P. (2010).
Neuropeptides from concept to online database www.neuropeptides.nl. European journal of pharmacology, 626(1), 27-48. [PubMed:19837055] [WorldCat] [DOI] - ↑
Ludwig, M., & Leng, G. (2006).
Dendritic peptide release and peptide-dependent behaviours. Nature reviews. Neuroscience, 7(2), 126-36. [PubMed:16429122] [WorldCat] [DOI]
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