139
回編集
Yoshiyamatsuzaka (トーク | 投稿記録) 細 (→霊長類(ヒト、サル)) |
Yoshiyamatsuzaka (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
||
8行目: | 8行目: | ||
英語名: higher-order motor related areas | 英語名: higher-order motor related areas | ||
{{box|text= | {{box|text= 高次運動野とは大脳皮質運動野のうち、[[一次運動野]]以外の皮質運動野の総称であり、非一次運動野non-primary motor areaと呼ばれることもある。高次運動野は一次運動野と同様に脳幹・脊髄に投射し、また電気刺激によって運動を惹起する。高次運動野の損傷は一次運動野とは異なり明確な麻痺を生じない一方、状況に応じた適切な運動を遂行できない[[wikipedia:Ideomotor_apraxia|観念運動失行]] ideomotor apraxiaと呼ばれる症状を引き起こす。更に脳機能研究の結果、高次運動野は運動の実行自体よりも、運動の随意的な選択・準備・切り替え、複数の運動の組み合わせなどに関与していることが判明した。これらの所見から、高次運動野の主な役割は運動を目的を持って状況適応的に発現させる、つまり運動に必要な筋活動自体の制御よりも高次なレベルでの運動制御であると考えられている。}} | ||
== 歴史的背景-複数の皮質運動野の発見 == | == 歴史的背景-複数の皮質運動野の発見 == | ||
[[大脳皮質]] | [[大脳皮質]][[前頭葉]]と運動の関係が注目されたのは1870年に遡る。この年、ドイツの解剖学者HitzigとFritschによって、[[イヌ]]の大脳の一部に微弱な電気刺激によって運動を誘発できる領野(motor strip)がある事が発見された<ref name="Hitzig1870">'''Eduard Hitzig & Gustav Fritsch'''<br>Uber die elektrische Erregbarkeit des Grosshirns<br>Archiv für Anatomie, Physiologie und Wissenschaftliche Medicin, Leipzig, 37:300-32, 1870</ref>。後にDavid Ferrierによってこの領野は[[霊長類]]([[マカクザル]])では中心前回([[Brodmann]]分類の4野)に該当することが判明し、この領野は中心前回運動野precentral motor cortex、後に一次運動野primary motor cortexと命名された。<br> | ||
ところが、その後の研究によって一次運動野よりも前方の大脳皮質においても、①.電気刺激によって運動を誘発できる、②.一次運動野に比べれば不明瞭であるものの誘発運動の[[体部位再現]]がみられる、③.脊髄に投射するニューロンの集団が存在する、等が判明した。こうした発見によって、一次運動野は唯一の皮質運動野ではなく、皮質運動野は一次運動野以外にも多数存在することが明らかになった。更に一次運動野と非一次運動野の破壊症状は重要な点で異なる事が判明した。まず、片側大脳半球の一次運動野を傷害すると、反対側の体に著明な麻痺を生じる。ところが、非一次運動野の破壊によっては軽度の麻痺を生じるのみで速やかに回復する。即ち、運動自体を遂行する能力には重大な障害を引き起こさない。その一方で、非一次運動野の破壊の結果、自発的な運動や発語が極度に減少する、又は逆に意図しない運動の発現を引き起こす、複数の運動を正しい順序で遂行できなくなる、様々な感覚入力に応じて適切な運動を使い分けることが出来なくなる、等の失行と呼ばれる症状が出現する。こうした観察結果から、非一次運動野は筋活動自体の制御よりも、状況に応じた適切な運動の発現というより高次なレベルでの制御に関わっている事が伺われ、高次運動野と呼ばれるに至った。 | ところが、その後の研究によって一次運動野よりも前方の大脳皮質においても、①.電気刺激によって運動を誘発できる、②.一次運動野に比べれば不明瞭であるものの誘発運動の[[体部位再現]]がみられる、③.脊髄に投射するニューロンの集団が存在する、等が判明した。こうした発見によって、一次運動野は唯一の皮質運動野ではなく、皮質運動野は一次運動野以外にも多数存在することが明らかになった。更に一次運動野と非一次運動野の破壊症状は重要な点で異なる事が判明した。まず、片側大脳半球の一次運動野を傷害すると、反対側の体に著明な麻痺を生じる。ところが、非一次運動野の破壊によっては軽度の麻痺を生じるのみで速やかに回復する。即ち、運動自体を遂行する能力には重大な障害を引き起こさない。その一方で、非一次運動野の破壊の結果、自発的な運動や発語が極度に減少する、又は逆に意図しない運動の発現を引き起こす、複数の運動を正しい順序で遂行できなくなる、様々な感覚入力に応じて適切な運動を使い分けることが出来なくなる、等の失行と呼ばれる症状が出現する。こうした観察結果から、非一次運動野は筋活動自体の制御よりも、状況に応じた適切な運動の発現というより高次なレベルでの制御に関わっている事が伺われ、高次運動野と呼ばれるに至った。 | ||
29行目: | 29行目: | ||
=== 霊長類(ヒト、サル) === | === 霊長類(ヒト、サル) === | ||
現時点( | 現時点(2015年12月)では、以下の領野が知られている。なお、各領野の詳細についてはそれぞれの項目を参照すること。<br> | ||
[[運動前野]]<br> | [[運動前野]]<br> | ||
Brodmannの[[6野]]外側部を占める皮質運動野であり、Fultonによってはじめてその概念が確立された。感覚情報に基づく運動の選択・実行に中心的な役割を果たしており、この領域の傷害の結果、与えられた手がかり刺激による適切な運動の選択(感覚運動連関)に著しい困難をきたす<ref name="Petrides1982"><pubmed>7126320</pubmed></ref><ref name="Halsband1985"><pubmed>7104700</pubmed></ref>。<br> | Brodmannの[[6野]]外側部を占める皮質運動野であり、Fultonによってはじめてその概念が確立された。感覚情報に基づく運動の選択・実行に中心的な役割を果たしており、この領域の傷害の結果、与えられた手がかり刺激による適切な運動の選択(感覚運動連関)に著しい困難をきたす<ref name="Petrides1982"><pubmed>7126320</pubmed></ref><ref name="Halsband1985"><pubmed>7104700</pubmed></ref>。<br> | ||
45行目: | 45行目: | ||
=== 霊長類以外 === | === 霊長類以外 === | ||
霊長類以外の[[哺乳類]]のうち、[[ラット]]や[[マウス]]、[[ネコ]] | 霊長類以外の[[哺乳類]]のうち、[[ラット]]や[[マウス]]、[[ネコ]]については複数の皮質運動野が存在することが知られている。しかし、現時点では、それらの領域が運動の発現において筋活動の制御以外の役割を果たしているかどうかはデータが不十分である。従って、これらの領域が霊長類の高次運動野に相当するかどうかは今後の研究課題である。<br> | ||
ラット・マウス<br> | |||
ラットの大脳皮質で初めて運動野の存在が報告されたのは1982年に遡る。この年にDonoghue & Wiseによって、ラット前頭葉外側部の無顆粒皮質(lateral agranular cortex)への微小電流刺激によって運動を誘発できることが報告され、この領域が一次運動野に相当すると考えられた<ref name="Wise982"><pubmed>6294151</pubmed></ref>。ところが同じ年にNeafsey & Stevertによって、ラット大脳皮質には電気刺激によって前肢の運動を誘発できる領域が前後に各々1つずつ存在することが判明し、それぞれ吻側前肢領域rostral forelimb area (RFA)、尾側前肢領域caudal forelimb areas (CFA)と命名された<ref name="Neafsey1982"><pubmed>7055691</pubmed></ref>。その後、マウスでもラットCFA, RFAに対応する領域の存在が判明している<ref name="Tennant2011"><pubmed>20739477</pubmed></ref>。<br> | |||
ネコ[この項執筆中]<br> | ネコ[この項執筆中]<br> | ||
Marchesi et al 1972<br> | Marchesi et al 1972<br> |
回編集