「熱ショックタンパク質」の版間の差分
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<font size="+1">石井 | <font size="+1">石井 宏史、[http://researchmap.jp/ToshihideYamashita 山下 俊英]</font><br> | ||
''大阪大学 大学院医学系研究科分子神経科学 分子神経科学''<br> | ''大阪大学 大学院医学系研究科分子神経科学 分子神経科学''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年1月25日 原稿完成日:2012年2月2日 修正日:2014年6月15日<br> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年1月25日 原稿完成日:2012年2月2日 修正日:2014年6月15日<br> | ||
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==熱ショックタンパク質とは== | ==熱ショックタンパク質とは== | ||
熱ショックタンパク質とは細胞が熱、[[wj:化学物質|化学物質]]、[[虚血]]などの[[wj:ストレス|ストレス]]にさらされた際に発現が上昇して細胞を保護する[[wj:タンパク質|タンパク質]]の一群である。1962年にイタリアの遺伝学者Ferruccio Ritossaが、熱と代謝脱共役材の[[wj:2,4-ジニトロフェノール|2,4-ジニトロフェノール]]により[[ショウジョウバエ]]の[[wj:染色体|染色体]]の特徴的なパッフィング([[mRNA]]転写により生ずる膨らみ)が誘導されることを報告した<ref><pubmed>PMC248460</pubmed></ref><ref><pubmed> 4219221 </pubmed></ref>。 | 熱ショックタンパク質とは細胞が熱、[[wj:化学物質|化学物質]]、[[虚血]]などの[[wj:ストレス|ストレス]]にさらされた際に発現が上昇して細胞を保護する[[wj:タンパク質|タンパク質]]の一群である。1962年にイタリアの遺伝学者Ferruccio Ritossaが、熱と代謝脱共役材の[[wj:2,4 -ジニトロフェノール|2,4-ジニトロフェノール]]により[[ショウジョウバエ]]の[[wj:染色体|染色体]]の特徴的なパッフィング([[mRNA]]転写により生ずる膨らみ)が誘導されることを報告した<ref><pubmed>PMC248460</pubmed></ref><ref><pubmed> 4219221 </pubmed></ref>。 | ||
この発見により後の熱ショックタンパク質(HSP)あるいはパフに象徴されるストレスタンパク質が認識されることになった。そして熱ショックなどのストレスに続いて合成が増加するショウジョウバエの細胞の特定のタンパク質が初めて1974年に報告された<ref><pubmed>2197269</pubmed></ref>。 | この発見により後の熱ショックタンパク質(HSP)あるいはパフに象徴されるストレスタンパク質が認識されることになった。そして熱ショックなどのストレスに続いて合成が増加するショウジョウバエの細胞の特定のタンパク質が初めて1974年に報告された<ref><pubmed>2197269</pubmed></ref>。 | ||
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!分子量!![[真正細菌]]!![[wj:古細菌|古細菌]]!![[真核生物]]!!機能 | !分子量!![[真正細菌]]!![[wj:古細菌|古細菌]]!![[真核生物]]!!機能 | ||
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|10kDa|| | |10kDa||GroES||Hsp10||[[Hsp10]]||[[Hsp60]](GroEL)の機能を補助する[[コシャペロン]]として働く。 | ||
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|style="white-space:nowrap"|20-30kDa|| | |style="white-space:nowrap"|20-30kDa||GrpE||無し||[[HspB]]ファミリー(例:[[Hsp27]]([[HspB1]]))|| | ||
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|40kDa|| | |40kDa||DnaJ||Hsp40([[wj:ユリアーキオータ門|ユリアーキオータ]]のみ)||[[Hsp40]]|| | ||
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|60kDa||GroEL||Hsp60||[[Hsp60]], [[TRiC]]||タンパク質のフォールディング | |60kDa||GroEL||Hsp60||[[Hsp60]], [[TRiC]]||タンパク質のフォールディング | ||
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|70kDa|| | |70kDa||DnaK||Hsp70(ユリアーキオータのみ)||[[HspA]]ファミリー(例:[[Hsp70]]、[[Hsc70]]、[[Hsp72]]、[[Grp78]]([[BiP]])、[[Hsx70]]、[[mtHsp70]])||タンパク質のフォールディングに関与し、熱に対する耐性を形成させる。タンパク質の[[ミトコンドリア]]や[[葉緑体]]などへの翻訳後輸送に関与。 | ||
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|90kDa||HtpG、C62.5||無し||[[HspC]]ファミリー(例:[[Hsp90]]、[[Grp94]])||ミスフォールディングされたタンパク質を安定化させる。シグナルタンパク質や[[ステロイド受容体]]や[[転写因子]]、[[チロシンリン酸化|チロシンキナーゼ]]などの機能維持に必要。 | |90kDa||HtpG、C62.5||無し||[[HspC]]ファミリー(例:[[Hsp90]]、[[Grp94]])||ミスフォールディングされたタンパク質を安定化させる。シグナルタンパク質や[[ステロイド受容体]]や[[転写因子]]、[[チロシンリン酸化|チロシンキナーゼ]]などの機能維持に必要。 | ||
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|100kDa||style="white-space:nowrap"| | |100kDa||style="white-space:nowrap"|ClpB、ClpA、ClpX||無し||[[Hsp104]]、[[Hsp110]]||タンパク質凝集や高温に対する耐性形成に関与。 | ||
|} | |} | ||
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#基質結合ドメイン substrate binding domain (SBD) | #基質結合ドメイン substrate binding domain (SBD) | ||
から構成される。44kDaのN末端ヌクレオチド結合ドメインは[[ATPアーゼ]]活性を持ち、Hsp70シャペロンの[[DnaJ]]と会合する。27kDaのC末端は基質結合ドメインと蓋となる領域でできており、両者ははリンカーによって繋がっている<ref name=" | から構成される。44kDaのN末端ヌクレオチド結合ドメインは[[ATPアーゼ]]活性を持ち、Hsp70シャペロンの[[DnaJ]]と会合する。27kDaのC末端は基質結合ドメインと蓋となる領域でできており、両者ははリンカーによって繋がっている<ref name="Turturici"><pubmed> 17675458 </pubmed></ref>。 | ||
==発現== | ==発現== | ||
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==機能== | ==機能== | ||
===分子機能=== | ===分子機能=== | ||
[[Image:PDB 3hsc EBI.jpg|thumb|right|500px|'''図. Hsp70の分子構造と基質結合'''<br>基質結合部位と基質がATP加水分解により捕獲される。<ref name=" | [[Image:PDB 3hsc EBI.jpg|thumb|right|500px|'''図. Hsp70の分子構造と基質結合'''<br>基質結合部位と基質がATP加水分解により捕獲される。<ref name="Turturici"><pubmed> 21403864 </pubmed></ref>]] | ||
合成されたタンパク質に結合することによりタンパク質の[[wj:フォールディング|フォールディング]](折り畳み)を制御する分子シャペロンとしての機能を持ち、また分子シャペロンの多くはHSPである<ref><pubmed> 4219221 </pubmed></ref>。高温条件化において変性したタンパク質や、あるいはフォールディングの段階に問題があり機能できない新生タンパク質には熱ショックタンパク質が結合することが知られている。熱ショックタンパク質はこのような高次構造が破壊されたタンパク質修復機能やタンパク質[[wj:変性|変性]]抑制機能を有する。修復が不可能なタンパク質は[[ユビキチン]]化を受け、[[プロテアソーム]]と呼ばれる[[wj:酵素|酵素]]複合体へ運搬されて分解される。 | 合成されたタンパク質に結合することによりタンパク質の[[wj:フォールディング|フォールディング]](折り畳み)を制御する分子シャペロンとしての機能を持ち、また分子シャペロンの多くはHSPである<ref><pubmed> 4219221 </pubmed></ref>。高温条件化において変性したタンパク質や、あるいはフォールディングの段階に問題があり機能できない新生タンパク質には熱ショックタンパク質が結合することが知られている。熱ショックタンパク質はこのような高次構造が破壊されたタンパク質修復機能やタンパク質[[wj:変性|変性]]抑制機能を有する。修復が不可能なタンパク質は[[ユビキチン]]化を受け、[[プロテアソーム]]と呼ばれる[[wj:酵素|酵素]]複合体へ運搬されて分解される。 | ||
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====自己免疫疾患とHsp70==== | ====自己免疫疾患とHsp70==== | ||
: Hsp70は[[wj:抗原|抗原]]に結合して、[[wj:主要組織適合遺伝子複合体|MHCIおよびMHCII]]依存的に[[wj:抗原|抗原]]性を高める<ref name=" | : Hsp70は[[wj:抗原|抗原]]に結合して、[[wj:主要組織適合遺伝子複合体|MHCIおよびMHCII]]依存的に[[wj:抗原|抗原]]性を高める<ref name="Turturici"><pubmed> 21403864 </pubmed></ref>。また[[多発性硬化症]](multiple sclerosis)の[[動物モデル]]である実験的[[自己免疫性脳脊髄炎]](experimental autoimmune encephalomyelitis)の発症および増悪にHsp70が関わる<ref name="Turturici"><pubmed> 21403864 </pubmed></ref>。多発性硬化症患者の[[脳脊髄液]]には、Hsp70に対する自己抗体が、運動神経疾患の患者と比較して高い頻度で観察される。そして多発性硬化症患者において、自己抗原である[[ミエリン塩基性タンパク質]](myelin basic protein; MBP)や[[Myelin proteolipid protein]](PLP)とHsp70との会合も観察されている。しかし一方でHsp70が[[wj:ナチュラルキラー細胞|ナチュラルキラー細胞]]に働きかけて自己免疫性脳脊髄炎の増悪を抑制するとの報告もあるため[[中枢神経系]]の[[wj:自己免疫疾患|自己免疫疾患]]における役割が議論されている<ref name="Turturici"><pubmed> 21403864 </pubmed></ref>。 | ||
==== 熱ショックタンパク質作動薬==== | ==== 熱ショックタンパク質作動薬==== | ||