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====副交感神経の節前線維—節後神経細胞シナプス====
====副交感神経の節前線維—節後神経細胞シナプス====
 自律神経系の一部を構成する副交感神経において、生まれたばかりの動物では多くの節前線維が神経節細胞(節後神経細胞)にシナプスを形成しているが、その後シナプス刈り込みが起こり、1本の節前線維が1つの神経節細胞にシナプス入力をするようになる13)。
 自律神経系の一部を構成する副交感神経において、生まれたばかりの動物では多くの節前線維が神経節細胞(節後神経細胞)にシナプスを形成しているが、その後シナプス刈り込みが起こり、1本の節前線維が1つの神経節細胞にシナプス入力をするようになる13)。


===抑制性シナプスの刈り込み===
===抑制性シナプスの刈り込み===
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 また、プルキンエ細胞と[[興奮性]]のシナプス結合をする平行線維シナプスや抑制性のGABA作動性シナプスがシナプス刈り込みに重要であることが明らかになっている19, 20)。また、アストロサイトである[[バーグマングリア]]が関係するという報告もある21, 22)。
 また、プルキンエ細胞と[[興奮性]]のシナプス結合をする平行線維シナプスや抑制性のGABA作動性シナプスがシナプス刈り込みに重要であることが明らかになっている19, 20)。また、アストロサイトである[[バーグマングリア]]が関係するという報告もある21, 22)。


====網膜—外側膝状体シナプス==== 
====網膜—外側膝状体シナプス====
 開眼時期の数日間、網膜神経節細胞の自発的な神経活動が一部のシナプスの強化とそれ以外のシナプスの除去を行うために必要であり、開眼後約1週を経過した生後20日目からの視覚入力がシナプスの維持に必要であることが報告されている23)。また、網膜—外側膝状体シナプスが刈り込まれている時期に、ミクログリアはこのシナプスを神経活動依存的に取り囲んでいる24)。ミクログリアにより取り囲まれたシナプスは、その後[[リソソーム]]などにより分解、除去されると考えられている。また、アストロサイトもこのシナプスを取り囲み、シナプス刈り込みを制御することが報告されている25)。
 開眼時期の数日間、網膜神経節細胞の自発的な神経活動が一部のシナプスの強化とそれ以外のシナプスの除去を行うために必要であり、開眼後約1週を経過した生後20日目からの視覚入力がシナプスの維持に必要であることが報告されている23)。また、網膜—外側膝状体シナプスが刈り込まれている時期に、ミクログリアはこのシナプスを神経活動依存的に取り囲んでいる24)。ミクログリアにより取り囲まれたシナプスは、その後[[リソソーム]]などにより分解、除去されると考えられている。また、アストロサイトもこのシナプスを取り囲み、シナプス刈り込みを制御することが報告されている25)。


====神経筋接合部シナプスの刈り込み====
====神経筋接合部シナプスの刈り込み====
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===シナプス刈り込みに関与する分子===
===シナプス刈り込みに関与する分子===
====登上線維—プルキンエ細胞シナプス====
====登上線維—プルキンエ細胞シナプス====
=====代謝型グルタミン酸受容体1型を介するシグナリング=====
'''代謝型グルタミン酸受容体1型を介するシグナリング'''<br>
 [[グルタミン酸受容体]]である代謝型グルタミン酸受容体1型 31)は、生後12日頃から17日頃に、弱いシナプスをプルキンエ細胞の細胞体から除去する因子として機能する32)。さらにmGluR1の下流の細胞内シグナル分子として、guanine nucleotide binding protein, alpha q polypeptide 33) 33), phospholipase Cβ4 (PLCβ4) 34), protein kinase Cγ(PKCγ) 35)が関与する。mGluR1は、平行線維のシナプス入力により、平行線維-プルキンエ細胞シナプス後部で活性化され、そこからプルキンエ細胞内でGαq, PLCβ4, PKCγの順でシグナルが伝わり、弱いシナプスが刈り込まれると考えられている。
 [[グルタミン酸受容体]]である代謝型グルタミン酸受容体1型 31)は、生後12日頃から17日頃に、弱いシナプスをプルキンエ細胞の細胞体から除去する因子として機能する32)。さらにmGluR1の下流の細胞内シグナル分子として、guanine nucleotide binding protein, alpha q polypeptide 33) 33), phospholipase Cβ4 (PLCβ4) 34), protein kinase Cγ(PKCγ) 35)が関与する。mGluR1は、平行線維のシナプス入力により、平行線維-プルキンエ細胞シナプス後部で活性化され、そこからプルキンエ細胞内でGαq, PLCβ4, PKCγの順でシグナルが伝わり、弱いシナプスが刈り込まれると考えられている。


=====P/Q型カルシウムチャネル=====
'''P/Q型カルシウムチャネル'''<br>
 [[P/Q型カルシウムチャネル]]は、プルキンエ細胞の主要な[[電位依存性カルシウムチャネル]]である。P/Q型[[カルシウムチャネル]]は、登上線維間のシナプス入力量に差を生じさせ、1本の登上線維の支配を強化し、その「勝者」のみが樹状突起へ進展してシナプスを形成できるようにし、生後7日頃から11日頃に弱い登上線維シナプスを除去する役割を担っている16, 36)。さらに、P/Q VDCCは後期過程においてもシナプス刈り込みに関与しており、その活性化により[[最初期遺伝子]]activity regulated cytoskeleton associated protein(Arc/Arg3.1)の発現を増加させ、シナプス刈り込みを促進している37)。
 [[P/Q型カルシウムチャネル]]は、プルキンエ細胞の主要な[[電位依存性カルシウムチャネル]]である。P/Q型[[カルシウムチャネル]]は、登上線維間のシナプス入力量に差を生じさせ、1本の登上線維の支配を強化し、その「勝者」のみが樹状突起へ進展してシナプスを形成できるようにし、生後7日頃から11日頃に弱い登上線維シナプスを除去する役割を担っている16, 36)。さらに、P/Q VDCCは後期過程においてもシナプス刈り込みに関与しており、その活性化により[[最初期遺伝子]]activity regulated cytoskeleton associated protein(Arc/Arg3.1)の発現を増加させ、シナプス刈り込みを促進している37)。


=====GluRδ2, Cbln1=====
'''GluRδ2, Cbln1'''<br>
 [[イオンチャネル]]型グルタミン酸受容体の構造を持つGlutamate receptor delta 2 31)とC1qファミリー分子であるCerebellin-1 38)は、平行線維-プルキンエ細胞シナプスの形成と維持に必須の分子であることが明らかにされた38, 39)。また、GluD2とCbln1はneurexinsを介したその相互作用により平行線維-プルキンエ細胞シナプスの形成と維持に必須の分子であることが明らかにされた39-42)。平行線維シナプスは、プルキンエ細胞上の支配領域をめぐって登上線維シナプスと競合していると考えられており、GluRδ2とCbln1は平行線維シナプスを強化することで、登上線維シナプスが遠位樹状突起へ進展することを制限していると考えられている41)。
 [[イオンチャネル]]型グルタミン酸受容体の構造を持つGlutamate receptor delta 2 31)とC1qファミリー分子であるCerebellin-1 38)は、平行線維-プルキンエ細胞シナプスの形成と維持に必須の分子であることが明らかにされた38, 39)。また、GluD2とCbln1はneurexinsを介したその相互作用により平行線維-プルキンエ細胞シナプスの形成と維持に必須の分子であることが明らかにされた39-42)。平行線維シナプスは、プルキンエ細胞上の支配領域をめぐって登上線維シナプスと競合していると考えられており、GluRδ2とCbln1は平行線維シナプスを強化することで、登上線維シナプスが遠位樹状突起へ進展することを制限していると考えられている41)。


=====Semaphorin7A, Semaphorin3A=====
'''Semaphorin7A, Semaphorin3A'''<br>
 シナプス刈り込みにはシナプス後部の神経細胞の活動やシグナル伝達分子が重要であることがわかっていたことから、シナプス後部神経細胞からシナプス前部へと伝えられる逆行性シグナル分子が想定されてきた。最近の研究により、Semaphorin7AとSemaphorin3Aがこの役割を担うことが示された43)。Semaphorin7Aは生後15日以降におこる後期シナプス除去過程においてmGluR1の下流で働き、弱い登上線維シナプスを除去する。一方、Semaphorin3Aは生後8日目以降に登上線維シナプスを強化および維持する。
 シナプス刈り込みにはシナプス後部の神経細胞の活動やシグナル伝達分子が重要であることがわかっていたことから、シナプス後部神経細胞からシナプス前部へと伝えられる逆行性シグナル分子が想定されてきた。最近の研究により、Semaphorin7AとSemaphorin3Aがこの役割を担うことが示された43)。Semaphorin7Aは生後15日以降におこる後期シナプス除去過程においてmGluR1の下流で働き、弱い登上線維シナプスを除去する。一方、Semaphorin3Aは生後8日目以降に登上線維シナプスを強化および維持する。


=====C1ql1=====
'''C1ql1'''<br>
 Cbln1の関連分子であるC1q-like protein 1は下オリーブ核細胞に選択的に発現し、登上線維—プルキンエ細胞シナプスで機能することで登上線維シナプスの選択的強化や除去に関わることが報告されている44)。さらに、プルキンエ細胞で発現するbrain-specific angiogenesis inhibitor 3 (BAI3)が下オリーブ核からのC1ql1を受け取り、登上線維シナプスの強化や除去を制御することも明らかとなっている。
 Cbln1の関連分子であるC1q-like protein 1は下オリーブ核細胞に選択的に発現し、登上線維—プルキンエ細胞シナプスで機能することで登上線維シナプスの選択的強化や除去に関わることが報告されている44)。さらに、プルキンエ細胞で発現するbrain-specific angiogenesis inhibitor 3 (BAI3)が下オリーブ核からのC1ql1を受け取り、登上線維シナプスの強化や除去を制御することも明らかとなっている。


=====NMDA型グルタミン酸受容体=====
'''NMDA型グルタミン酸受容体'''<br>
 NMDA型グルタミン酸受容体は、シナプス刈り込みが起こる時期にプルキンエ細胞には存在しないが、苔状線維-顆粒細胞シナプスに豊富に存在している。苔状線維からの興奮性入力を顆粒細胞の軸索である平行線維を通じて、プルキンエ細胞に伝え、mGluR1-Gαq-PLCβ4-PKCγのカスケードを駆動することにより、弱いプルキンエ細胞のシナプス除去を促進すると考えられている45, 46)。
 NMDA型グルタミン酸受容体は、シナプス刈り込みが起こる時期にプルキンエ細胞には存在しないが、苔状線維-顆粒細胞シナプスに豊富に存在している。苔状線維からの興奮性入力を顆粒細胞の軸索である平行線維を通じて、プルキンエ細胞に伝え、mGluR1-Gαq-PLCβ4-PKCγのカスケードを駆動することにより、弱いプルキンエ細胞のシナプス除去を促進すると考えられている45, 46)。


=====その他=====
'''その他'''<br>
 その他、インシュリン様成長因子1(IGF1) 47),脳由来神経栄養因子受容体 (TrkB) 48, 49), 細胞内の輸送タンパクのミオシンVa50), アストロサイト特異的なグルタミン酸トランスポーターのGLAST22), 脳で特異的に発現する受容体様膜蛋自質BSRP(Sez6) 51)の関与が報告されているが、機能する場所やそのシグナリングの実体はよく分かっていない。
 その他、インシュリン様成長因子1(IGF1) 47),脳由来神経栄養因子受容体 (TrkB) 48, 49), 細胞内の輸送タンパクのミオシンVa50), アストロサイト特異的なグルタミン酸トランスポーターのGLAST22), 脳で特異的に発現する受容体様膜蛋自質BSRP(Sez6) 51)の関与が報告されているが、機能する場所やそのシグナリングの実体はよく分かっていない。


====神経筋接合部のシナプス====
====神経筋接合部のシナプス====
ペプチド結合加水分解酵素プロテアーゼ52)、グリア由来神経栄養因子GDNF53)、細胞外シグナル分子の[[リーリン]]54)の関与が報告されている。プロテアーゼや[[GDNF]]は、シナプス後部細胞である筋細胞からシナプス前部細胞である[[運動ニューロン]]の神経線維シナプスに働きかける逆行性シグナル分子として機能すると考えられている。
 ペプチド結合加水分解酵素プロテアーゼ52)、グリア由来神経栄養因子GDNF53)、細胞外シグナル分子の[[リーリン]]54)の関与が報告されている。プロテアーゼや[[GDNF]]は、シナプス後部細胞である筋細胞からシナプス前部細胞である[[運動ニューロン]]の神経線維シナプスに働きかける逆行性シグナル分子として機能すると考えられている。


2.2.3. 網膜—外側膝状体シナプス
====網膜—外側膝状体シナプス====
補体のC1qと C3の関与が報告されている55)。これらの分子は、おそらくミクログリアを介して機能し、弱いシナプスを除去すると考えられている。また、トランスフォーミング増殖因子βによるシグナルが、網膜神経節細胞やその軸索でのC1qの発現を増加させ、シナプス刈り込みを促進する可能性が示されている56)。さらに、アストロサイトに存在し、食作用に関係した受容体分子MEGF10とMERTKが、シナプス刈り込みに必要であることが報告された25)。 また、[[レット症候群]]の原因遺伝子であるMECP2の[[ノックアウトマウス]]では、視覚経験依存的なシナプス刈り込みが選択的に阻害されていることが報告されている57)。
 補体のC1qと C3の関与が報告されている55)。これらの分子は、おそらくミクログリアを介して機能し、弱いシナプスを除去すると考えられている。また、トランスフォーミング増殖因子βによるシグナルが、網膜神経節細胞やその軸索でのC1qの発現を増加させ、シナプス刈り込みを促進する可能性が示されている56)。さらに、アストロサイトに存在し、食作用に関係した受容体分子MEGF10とMERTKが、シナプス刈り込みに必要であることが報告された25)。 また、[[レット症候群]]の原因遺伝子であるMECP2の[[ノックアウトマウス]]では、視覚経験依存的なシナプス刈り込みが選択的に阻害されていることが報告されている57)。


2.2.4. 台形体内側核-外側上オリーブ核シナプス
====台形体内側核-外側上オリーブ核シナプス====
グルタミン酸トランスポーターであるvGluT3が関与することが報告されている58)。台形体内側核由来のシナプスであるGABA/glycinergicシナプスが特定の時期にグルタミン酸も放出することがこのシナプス刈り込みに重要であると考えられている。
 グルタミン酸トランスポーターであるvGluT3が関与することが報告されている58)。台形体内側核由来のシナプスであるGABA/glycinergicシナプスが特定の時期にグルタミン酸も放出することがこのシナプス刈り込みに重要であると考えられている。


2.2.5. 大脳皮質内抑制性シナプス
====大脳皮質内抑制性シナプス====
大脳皮質の抑制性シナプスでは、抑制性伝達自体がシナプス刈り込みに重要であると報告されている15)。
 大脳皮質の抑制性シナプスでは、抑制性伝達自体がシナプス刈り込みに重要であると報告されている15)。
 
関連項目


シナプス、シナプス可塑性、シナプス前終末
==関連項目==
*[[シナプス]]
*[[シナプス可塑性]]
*[[シナプス前終末]]


参考文献
==参考文献==
<references />