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英語略称:TARP | 英語略称:TARP | ||
類義語:スターゲージン(Stargazin) | |||
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==イントロダクション== | ==イントロダクション== | ||
自然発生変異[[マウス]] | 自然発生変異[[マウス]]であるスターゲイザーは[[運動失調]]や[[欠伸発作]]を示す<ref name=ref5><pubmed>2289471</pubmed></ref>。その原因遺伝子 は[[カルシウムチャネル]]γサブユニットと38%の相同性を示すことから Calcium channel γ subunit 2 (CACNG2)/Stargazinと名付けられ<ref name=ref6><pubmed>9697694</pubmed></ref>、その後8つのCACNG類似遺伝子群が報告された<ref name=ref7><pubmed>11738816</pubmed></ref>。しかしながら、電気生理学的解析により、スターゲイザーマウスの[[小脳]][[苔状線維]]-小脳[[顆粒細胞]]シナプスにおける[[AMPA型グルタミン酸受容体]]活性が特異的に消失していること<ref name=ref8><pubmed>10407040</pubmed></ref>、カルシムチャネル活性に変化がないことが示された<ref name=ref9><pubmed>11140673</pubmed></ref>。さらなる解析により、8つのCACNGファミリーのうちCACNG2/3/4/5/7/8の6つがAMPA 受容体に特異的に結合すること示され、これらはTransmembrane AMPA receptor Regulatory Protein (TARP) γ-2/3/4/5/7/8と名付けられた<ref name=ref10><pubmed>12771129</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>18817736</pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed>17475805</pubmed></ref>。 | ||
==ファミリー== | ==ファミリー== | ||
[[image:膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質1.png|thumb|350px|'''図1.''']] | [[image:膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質1.png|thumb|350px|'''図1.''']] | ||
6つのアイソフォームが同定されており、後述のようにAMPA 受容体修飾機能の違いにより、さらにサブクラスに分類されている(図1)。また、[[線虫]] | 6つのアイソフォームが同定されており、後述のようにAMPA 受容体修飾機能の違いにより、さらにサブクラスに分類されている(図1)。また、[[線虫]]において、その機能的相同体[[STG-1]]/[[STG-2|2]]が示されている<ref name=ref13><pubmed>16818877</pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed>18817737</pubmed></ref>。 | ||
==構造== | ==構造== | ||
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===TARP type I (TARPγ-2/3/4/8)=== | ===TARP type I (TARPγ-2/3/4/8)=== | ||
C末端には[[PDZドメイン]]結合配列を有し、[[PSD-95]] | C末端には[[PDZドメイン]]結合配列を有し、[[PSD-95]]様[[MAGUKs]]や他のPDZドメイン含有タンパク質に結合し、シナプス局在を調節することが示されている<ref name=ref9 /> <ref name=ref18><pubmed> 12359873</pubmed></ref> <ref name=ref19><pubmed>14529722</pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed>17329211</pubmed></ref>。 | ||
C末端細胞内ドメインには、[[アルギニン]] | C末端細胞内ドメインには、[[アルギニン]]残基クラスターリング部位があり、陽性に荷電している。この領域には、少なくとも9つの[[リン酸化]][[セリン]]残基(P-Ser)がこれまでに同定されており、[[タンパク質]]-[[脂質]]結合、タンパク質-タンパク質結合を調整していると考えられている<ref name=ref21><pubmed>15664178</pubmed></ref> <ref name=ref22><pubmed>20547132</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>18341993</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>24418105</pubmed></ref>。 | ||
===TARP type II (TARPγ-5/7)=== | ===TARP type II (TARPγ-5/7)=== | ||
Type | Type Iと異なり、典型的なPDZドメイン結合配列およびアルギニン残基クラスターリング部位を有さない<ref name=ref2 />。 | ||
==分布== | ==分布== | ||
組織レベルでは、脳に強い発現を示し、それぞれのアイソフォームは脳内で特徴的な発現パターンを示す<ref name=ref10 /> <ref name=ref25><pubmed>16171881</pubmed></ref>。例えば、γ-2は小脳顆粒細胞、γ-8は[[海馬]]、γ-3は[[大脳皮質]]、γ-4は発生過程において強く発現している。 | 組織レベルでは、脳に強い発現を示し、それぞれのアイソフォームは脳内で特徴的な発現パターンを示す<ref name=ref10 /> <ref name=ref25><pubmed>16171881</pubmed></ref>。例えば、γ-2は小脳顆粒細胞、γ-8は[[海馬]]、γ-3は[[大脳皮質]]、γ-4は発生過程において強く発現している。 | ||
膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質は、[[免疫染色]] | 膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質は、[[免疫染色]]、生化学分画によりAMPA型グルタミン酸受容体同様に、シナプス及び膜表面に強く検出される。また、膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質はAMPA型グルタミン酸受容体と安定的複合体を形成することも、AMPA型グルタミン酸受容体との共局在を支持する<ref name=ref10 /> <ref name=ref26><pubmed>15001777</pubmed></ref> <ref name=ref27><pubmed>15630087</pubmed></ref> <ref name=ref28><pubmed>16222232</pubmed></ref> <ref name=ref29><pubmed>17074043</pubmed></ref>。 | ||
==機能== | ==機能== | ||
膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質はAMPA型グルタミン酸受容体に結合し、AMPA型グルタミン酸受容体のタンパク質発現量、チャネル活性、および細胞表面とシナプス局在を調節する。 | |||
===チャネル活性=== | ===チャネル活性=== | ||
膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質はAMPA 受容体のチャネル活性を制御する<ref name=ref15 /> <ref name=ref17 /> <ref name=ref30><pubmed>15758178</pubmed></ref>。膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質の細胞外ドメインを介して、AMPA | 膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質はAMPA 受容体のチャネル活性を制御する<ref name=ref15 /> <ref name=ref17 /> <ref name=ref30><pubmed>15758178</pubmed></ref>。膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質の細胞外ドメインを介して、AMPA 受容体のチャネルの[[開口速度]]を速くすることにより、[[脱感作]]、[[脱活性]]の速度を遅くする<ref name=ref15 />。さらに、脳において、AMPA 受容体由来のシナプス伝達の減衰速度を調節しており<ref name=ref15 />、クラス1b型TARPは、クラス1a型TARPに比べて、定量的により効果的に減衰速度を遅延する<ref name=ref31><pubmed>17880893</pubmed></ref> <ref name=ref32><pubmed>17880894</pubmed></ref>。このとき、膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質はAMPA 受容体の[[開口確率]]を変えずに、[[サブコンダクタンス]]の支配率を変える<ref name=ref15 />。 | ||
===シナプス局在=== | ===シナプス局在=== | ||
膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質はAMPA 受容体のシナプス局在を制御する<ref name=ref9 />。小脳顆粒細胞および海馬において、膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質とそのPDZドメイン結合配列はAMPA 受容体のシナプス局在に必須である<ref name=ref9 /> <ref name=ref33><pubmed>22002768</pubmed></ref> | 膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質はAMPA 受容体のシナプス局在を制御する<ref name=ref9 />。小脳顆粒細胞および海馬において、膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質とそのPDZドメイン結合配列はAMPA 受容体のシナプス局在に必須である<ref name=ref9 /> <ref name=ref33><pubmed>22002768</pubmed></ref>。PDZドメイン結合配列は、PSD-95を始めとするMAGUKsに結合する<ref name=ref9 /> <ref name=ref18 /> <ref name=ref19 /> <ref name=ref20 />。また、TARP細胞質ドメインのリン酸化依存的に脂質結合が変化し、シナプス局在が調節されることが知られている<ref name=ref21 /> <ref name=ref22 /> <ref name=ref34><pubmed>25843401</pubmed></ref>。 | ||
=== | ===AMPA型グルタミン酸受容体のタンパク質発現量=== | ||
膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質はAMPA型グルタミン酸受容体の発現を安定化する。海馬に多く発現するγ-8遺伝子欠損マウスにおいて、海馬におけるAMPA型グルタミン酸受容体の発現量が10%になる<ref name=ref28 /> <ref name=ref29 />。このとき、[[N結合型糖鎖]]が成熟したAMPA型グルタミン酸受容体のみが減少し、小胞体に多く局在するN結合型糖鎖の未成熟なAMPA型グルタミン酸受容体に影響を及ぼさないことから、膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質は成熟したAMPA型グルタミン酸受容体を安定化していると考えられている<ref name=ref33 />。また、小脳顆粒細胞に発現するγ-2の変異マウス、スターゲイザーにおいて、15%程度のAMPA型グルタミン酸受容体の発現量減少が小脳(全体)で観測される<ref name=ref10 />。 | |||
===細胞表面の発現=== | ===細胞表面の発現=== | ||
膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質はAMPA 受容体の細胞表面への発現を調節する。この機能に、PDZ結合配列は関与していない<ref name=ref9 /> <ref name=ref33 />。また、TARP細胞質ドメインのリン酸化にともなって、[[AP4]]を介してエンドサイトーシスが調節される<ref name=ref23 />。 | |||
===個体レベルでの機能=== | ===個体レベルでの機能=== | ||
TARP γ-2遺伝子欠損マウスでは、運動失調や欠伸発作が観測される<ref name=ref5 />。<br> | TARP γ-2遺伝子欠損マウスでは、運動失調や欠伸発作が観測される<ref name=ref5 />。<br> | ||
TARP γ-2を含むトリプルTARP | TARP γ-2を含むトリプルTARP type I遺伝子欠損マウスは致死となる<ref name=ref35><pubmed>18634809</pubmed></ref>。<br> | ||
TARP γ- | TARP γ-4遺伝子欠損マウスでは、[[けいれん]]が観測される<ref name=ref36><pubmed>15677329</pubmed></ref>。<br> | ||
TARP γ-2/7の両TARP遺伝子欠損マウスにおいて、小脳[[プルキンエ細胞]]中のシナプスAMPA 受容体活性が消失する<ref name=ref37><pubmed>20529126</pubmed></ref>。<br> | TARP γ-2/7の両TARP遺伝子欠損マウスにおいて、小脳[[プルキンエ細胞]]中のシナプスAMPA 受容体活性が消失する<ref name=ref37><pubmed>20529126</pubmed></ref>。<br> | ||