「IPS細胞」の版間の差分

292 バイト追加 、 2012年3月12日 (月)
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
3行目: 3行目:
<br>
<br>


 iPS細胞(人工多能性幹細胞)とは、本来、分化多能性を喪失している体細胞に特定の遺伝子を導入することによって、人為的に誘導される多能性幹細胞株の総称である。胚盤胞と呼ばれる初期胚の内部細胞塊から樹立されたES細胞(胚性幹細胞)と類似の特徴を示し、分化多能性の定義である三胚葉(外胚葉、中胚葉、内胚葉)や生殖細胞への分化能を保持したまま、培養下で半永久的に増殖する。2006年に京都大学の高橋和利博士と山中伸弥博士によって最初の報告がなされて以降、様々な動物種、細胞種を起源とするiPS細胞が樹立されている。ヒトにおいては個々人の生検試料からiPS細胞を作成することが可能であることから、疾患特異的iPS細胞を利用した病態解明や薬剤スクリーニングのほか、免疫拒絶を回避した再生医療への応用が期待されている。
 iPS細胞(人工多能性幹細胞)とは、本来、分化多能性を喪失している体細胞に特定の遺伝子を導入することによって、人為的に誘導される多能性幹細胞株の総称である。胚盤胞と呼ばれる初期胚の内部細胞塊から樹立されたES細胞(胚性幹細胞)と類似の特徴を示し、分化多能性(pluripotency)の定義である三胚葉(外胚葉、中胚葉、内胚葉)や生殖細胞への分化能を保持したまま、培養下で半永久的に増殖する。2006年に京都大学の高橋和利博士と山中伸弥博士によって最初の報告がなされて以降、様々な動物種、細胞種を起源とするiPS細胞が樹立されている。ヒトにおいては個々人の生検試料からiPS細胞を作成することが可能であることから、疾患特異的iPS細胞を利用した病態解明や薬剤スクリーニングのほか、免疫拒絶を回避した再生医療への応用が期待されている。


<br>
<br>
11行目: 11行目:
== 体細胞を初期化する因子の存在  ==
== 体細胞を初期化する因子の存在  ==


 iPS細胞樹立の以前から、卵子やES細胞には体細胞を初期化(リプログラミング)する因子が含まれていることが知られていた。まず、体細胞核移植(somatic cell nuclear transfer, SCNT)の研究において、卵子の細胞質に体細胞またはその核を移植することでクローン動物やクローンES細胞の作成が可能であることが示された。有名な例としては、Ian Wilmut博士らによるクローン羊のドリーや若山照彦博士(当時、ハワイ大学)らによるクローンマウスのキュムリーナが挙げられる。一方、京都大学の多田高博士らは、ES細胞と体細胞を電気刺激により細胞融合させる一連の研究により、融合細胞はES細胞と同様の細胞特性を示すこと、体細胞側のゲノムDNAがES細胞様のエピジェネティック状態に転換されることが明らかとなった。とりわけ、ES細胞は培養下で容易かつ半永久的に増幅可能であることから、これらの発見はその後の初期化因子の探索において非常に大きな僥倖となった。  
 iPS細胞樹立の以前から、卵子やES細胞には体細胞を初期化(リプログラミング)する因子が含まれていることが知られていた。まず、体細胞核移植(somatic cell nuclear transfer, SCNT)の研究において、卵子の細胞質内部に体細胞を移植することによってクローン動物やクローンES細胞の作成が可能であることが示された。有名な例としては、Ian Wilmut博士らによるクローン羊のドリーや若山照彦博士(当時、ハワイ大学)らによるクローンマウスのキュムリーナが挙げられる。一方、京都大学の多田高博士らは、ES細胞と体細胞を電気刺激により細胞融合させる一連の研究により、融合細胞はES細胞と同様の細胞特性を示すこと、体細胞側のゲノムDNAがES細胞様のエピジェネティック状態に転換されることが明らかとなった。とりわけ、ES細胞は培養下で容易かつ半永久的に増幅可能であることから、これらの発見はその後の初期化因子の探索において非常に大きな僥倖となった。  


<br>
<br>
23行目: 23行目:
== iPS細胞樹立の成功  ==
== iPS細胞樹立の成功  ==


 続いて、山中博士らは「ES細胞において機能的に重要な遺伝子≒体細胞の初期化を誘導する遺伝子」という仮説に基づき、ECATおよびES細胞を支持する既知遺伝子(STAT3やβ-catenin等)を繊維芽細胞に導入する実験を試みた。 各遺伝子を1種類ずつ導入した場合にはES様の細胞は得られなかった。一方、24種類全てを混合して導入した場合、頻度は低いながらもES細胞様のコロニーが得られた。その後、24遺伝子から1遺伝子ずつ差し引いた23遺伝子を導入する実験により、最終的に4種類の遺伝子(Oct4、Sox2、Klf4、c-Myc)の組み合わせで十分であることが判明した。この細胞をiPS細胞と名付けられた。その後、
 続いて、山中博士らは「ES細胞において機能的に重要な遺伝子≒体細胞の初期化を誘導する遺伝子」という仮説に基づき、ECATおよびES細胞の自己複製を支持する既知遺伝子(STAT3やβ-catenin等)を体細胞であるマウス胎仔繊維芽細胞(MEF)に導入する実験を試みた。計24の遺伝子が初期化因子候補として絞り込まれ、各遺伝子を1種類ずつ導入した場合にはES様の細胞は得られなかった。一方、24種類全てを混合して導入した場合、ES細胞に類似のコロニーが得られた。その後、24遺伝子から1遺伝子ずつ差し引いた23遺伝子を導入する実験により、最終的に4種類の遺伝子(Oct4、Sox2、Klf4、c-Myc)の組み合わせで十分であることが判明した。得られた細胞はiPS細胞と名付けられた。また、iPS細胞を誘導する遺伝子セットは通称「山中4因子」とも呼ばれる。その後、


<br>
<br>


= iPS細胞の樹立  =
= iPS細胞の樹立方法 =


== &nbsp;動物種  ==
== &nbsp;動物種  ==
43行目: 43行目:
== 遺伝子導入方法  ==
== 遺伝子導入方法  ==


 iPS細胞が樹立された当初は、遺伝子導入の手段としてレトロウイルスやレンチウイルスがベクターとして利用された。しかし、どちらのウイルスもゲノムDNAに組み込まれることから、挿入変異や近傍の遺伝子に与える影響、導入遺伝子の活性化による腫瘍形成等の予期しない異常が生じる危険性を包含している。そこで、こうしたリスクを避けるとして、新たな遺伝子導入方法が考案されてきた。その一つとして、遺伝子導入箇所の特定と除去を可能とする、トランスポゾンを利用したピギーバックが開発された。一方、ゲノムに組み込まれないエピソーマルベクターとして、センダイウイルスやプラスミドDNAを用いる手法が挙げられる。さらに、ベクターという形式を用いず、合成RNAを直接導入する方法についても報告されている。<br>
 iPS細胞が樹立された当初は、遺伝子導入の手段としてレトロウイルスやレンチウイルスがベクターとして利用された。しかし、どちらのウイルスもゲノムDNAに組み込まれることから、挿入変異や近傍の遺伝子に及ぼす影響、導入遺伝子の活性化による腫瘍形成等の予期しない異常が生じる危険性を包含している。そこで、こうしたリスクを避けるとして、新たな遺伝子導入方法が考案されてきた。その一つとして、遺伝子導入箇所の特定と除去を可能とする、トランスポゾンを利用したピギーバックが開発された。一方、ゲノムに組み込まれないエピソーマルベクターとして、センダイウイルスやプラスミドDNAを用いる手法が挙げられる。さらに、ベクターを介することなく合成RNAを直接導入する方法についても報告されている。<br>
 
<br>


== iPS細胞を誘導する遺伝子  ==
== iPS細胞を誘導する遺伝子  ==


 前述の通り、最初のiPS細胞はOct4、Sox2、Klf4、c-Mycの4種類の遺伝子を導入することで作成された。それから間もなく、誘導効率は低下するもののc-Mycを除いた3因子でもiPS細胞は樹立可能であることが示された。ヒトの場合においても同じ遺伝子セットで誘導可能であるが、山中博士らとほぼ同時にヒトiPS細胞の作成を報告したJames Thomson博士らは、OCT4、SOX2、NANOG、LIN28。Glis1。また、様々な低分子化合物を併用した誘導方法についても多数の報告がある。 <br>
 前述の通り、最初のiPS細胞はOct4、Sox2、Klf4、c-Mycの4種類の遺伝子(山中4因子)を導入することによって作成された。間もなく、誘導効率は低下するもののc-Mycを除いたOct4、Sox2、Klf4のみ(山中3因子)によってもiPS細胞は樹立可能であることが示された。ヒトの場合においても同じ遺伝子セットで誘導可能であるが、山中博士らとほぼ同時にヒトiPS細胞の作成を報告したJames Thomson博士らは、OCT4、SOX2、NANOG、LIN28。Glis1。また、様々な低分子化合物を併用した誘導方法についても多数の報告がある。 <br>
 
<br>


= iPS細胞を用いた分化誘導  =
= iPS細胞から特定の細胞系譜への分化誘導 =


 中島君よろしく!  
 中島君よろしく!  
67

回編集