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'''恒常性可塑性の発見'''
'''恒常性可塑性の発見'''
神経細胞は他の神経細胞から入力を受け取り脱分極し、[[閾値]]を越えると神経発火が起こる。成熟した神経回路内では神経細胞は一定の頻度で発火しており、長期増強や[[長期抑圧]]が起こると結果として発火頻度の亢進や低下が生じる事が個体レベルの行動や学習に作用すると考えられている。このような長期増強によるシナプス強度の上昇や、発達期における神経回路内でのシナプス数の増加等によって個々の神経細胞が受け取る入力は増加する。その結果、発火頻度の上昇や、それまでに閾値を越えなかった入力に対しても神経細胞が発火してしまい、神経回路の特性が失われる可能性がある。それを回避するメカニズムの存在が予想されていたが、1998年に独立した2つの研究グループからそれぞれ異なるメカニズムの存在を示す実験結果が報告された[1][2]。Turrigiano研究室において大脳視覚野由来の培養神経細胞に[[テトロドトキシン]]を2日間慢性投与し発火を阻害し、この神経細胞の電気生理学的な解析を行なったところ、AMPA受容体由来微小[[興奮性シナプス]]後電流の振幅が大きくなり、自発的な発火の頻度が上昇した。一方[[GABA受容体]]のアンタゴニストであるビキュキュリンの投与によって神経細胞の発火を活性化させると振幅が小さくなった[1]。[[免疫]]の染色の結果からテトロドトキシン処理後の神経細胞では表面AMPA受容体量が上昇している結果が得られた[3]。これら2つの結果からポストシナプス側で[[グルタミン酸]]に対する感度の上昇が起きた事が判明した。さらに神経細胞の興奮性、intrinsic excitabilityも上昇している実験結果が得られた[4]。一方、Davis研究室においてDrosophila neuromuscular junctionで強制的にシナプス数を増減させたところ、増加したプレシナプスの[[放出確率]]が下がり、減少したプレシナプスからの放出量が増加した[2]。これらの結果から[[筋肉]]からプレシナプス側に逆行性のシグナルが放出されプレシナプスの活性を調節し、シナプス数の増減を補っている事が示唆された。これらの現象からシナプス強度の慢性的な変化に対してポストもしくはプレシナプス側のタンパク質群を調整する事で神経細胞や筋肉がある頻度で発火活動を出来る様に維持をする多様なメカニズムの存在が明らかとなり、この作用は恒常性可塑性(homeostatic plasticity)と命名された。
神経細胞は他の神経細胞から入力を受け取り脱分極し、[[閾値]]を越えると神経発火が起こる。成熟した神経回路内では神経細胞は一定の頻度で発火しており、長期増強や[[長期抑圧]]が起こると結果として発火頻度の亢進や低下が生じる事が個体レベルの行動や学習に作用すると考えられている。このような長期増強によるシナプス強度の上昇や、発達期における神経回路内でのシナプス数の増加等によって個々の神経細胞が受け取る入力は増加する。その結果、発火頻度の上昇や、それまでに閾値を越えなかった入力に対しても神経細胞が発火してしまい、神経回路の特性が失われる可能性がある。それを回避するメカニズムの存在が予想されていたが、1998年に独立した2つの研究グループからそれぞれ異なるメカニズムの存在を示す実験結果が報告された[1][2]。Turrigiano研究室において大脳視覚野由来の培養神経細胞に[[テトロドトキシン]]を2日間慢性投与し発火を阻害し、この神経細胞の電気生理学的な解析を行なったところ、AMPA受容体由来微小[[興奮性シナプス]]後電流の振幅が大きくなり、自発的な発火の頻度が上昇した。一方[[GABA受容体]]のアンタゴニストであるビキュキュリンの投与によって神経細胞の発火を活性化させると振幅が小さくなった[1]。[[免疫]]の染色の結果からテトロドトキシン処理後の神経細胞では表面AMPA受容体量が上昇している結果が得られた[3]。これら2つの結果からポストシナプス側で[[グルタミン酸]]に対する感度の上昇が起きた事が判明した。さらに神経細胞の興奮性、intrinsic excitabilityも上昇している実験結果が得られた[4]。一方、Davis研究室においてDrosophila neuromuscular junctionで強制的にシナプス数を増減させたところ、増加したプレシナプスの[[放出確率]]が下がり、減少したプレシナプスからの放出量が増加した[2]。これらの結果から[[筋肉]]からプレシナプス側に逆行性のシグナルが放出されプレシナプスの活性を調節し、シナプス数の増減を補っている事が示唆された。これらの現象からシナプス強度の慢性的な変化に対してポストもしくはプレシナプス側のタンパク質群を調整する事で神経細胞や筋肉がある頻度で発火活動を出来る様に維持をする多様なメカニズムの存在が明らかとなり、この作用は恒常性可塑性(homeostatic plasticity)と命名された。


'''分子機構'''
'''分子機構'''
上述した様に恒常性可塑性の作用として、ポストシナプスの表面[[グルタミン酸受容体]]量が増減する事、ナトリウム[[イオンチャネル]]量または性質が変化する事、プレシナプスから放出される伝達物質量が変化する事が明らかにされたが、それらがどの様な細胞内や細胞外シグナルによって引き起こされているかについては詳細には明らかとなっていない。恒常性可塑性に関わる分子として種々の分子が報告されており、神経疾患と両方に関わる分子も存在しているが因果関係は不明である[5]。
上述した様に恒常性可塑性の作用として、ポストシナプスの表面[[グルタミン酸受容体]]量が増減する事、ナトリウム[[イオンチャネル]]量または性質が変化する事、プレシナプスから放出される伝達物質量が変化する事が明らかにされたが、それらがどの様な細胞内や細胞外シグナルによって引き起こされているかについては詳細には明らかとなっていない。恒常性可塑性に関わる分子として種々の分子が報告されており、神経疾患と両方に関わる分子も存在しているが因果関係は不明である[5]。




'''生理的機能'''
'''生理的機能'''
生体内で恒常性可塑性が起きている証拠として、片眼遮蔽[[ラット]]からのin vivo記録実験において、遮蔽直後の記録では発火頻度の減少が見られるが、2日後には発火頻度が回復するという実験結果がある[6]。よって恒常性可塑性の作用は生体内でも保持されていると考えられる。しかしながら生理的機能を明らかにするには恒常性可塑性だけを阻害した個体で生理学的、行動学的実験を行う必要があるが、恒常性可塑性だけを阻害する手段がまだ明らかになっていない。
生体内で恒常性可塑性が起きている証拠として、片眼遮蔽[[ラット]]からのin vivo記録実験において、遮蔽直後の記録では発火頻度の減少が見られるが、2日後には発火頻度が回復するという実験結果がある[6]。よって恒常性可塑性の作用は生体内でも保持されていると考えられる。しかしながら生理的機能を明らかにするには恒常性可塑性だけを阻害した個体で生理学的、行動学的実験を行う必要があるが、恒常性可塑性だけを阻害する手段がまだ明らかになっていない。


参考文献
参考文献
1. Turrigiano GG, Leslie KR, Desai NS, Rutherford LC, Nelson SB
1. Turrigiano GG, Leslie KR, Desai NS, Rutherford LC, Nelson SB
Activity-dependent scaling of quantal amplitude in neocortical neurons.
Activity-dependent scaling of quantal amplitude in neocortical neurons.
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