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==視覚前野とは== | ==視覚前野とは== | ||
哺乳類の大脳新皮質の視覚野の一部で、後頭葉の視覚連合野(後頭連合野)、あるいは後頭葉から一次視覚野(V1)を除いた部分。細胞構築学的にはブロードマンの脳地図の18野、19野に相当する。18野を[[前有線皮質]]([[傍有線野]]、prestriate cortex)、19野を[[周有線皮質]]([[周線条野]]、[[後頭眼野]]、parastriate cortex)、視覚前全体野を[[外線条皮質]]([[有線外皮質]]、extrastriate cortex、circumstriate cortex)と呼ぶ。当初、一次視覚野(V1)に隣接する領域を広く視覚前野ないし視覚連合野と称した。1960年代以降、ニューロンの発火活動や神経投射の研究により、ニューロンの応答特性、受容野の大きさや位置、ニューロン間の結合関係に着目した機能的な領野の区分が[[wikipedia:ja:ネコ|ネコ]]や[[wikipedia:ja:ネコ|サル]]で盛んになった。また[[免疫組織化学]]的な[[染色法]] | 哺乳類の大脳新皮質の視覚野の一部で、後頭葉の視覚連合野(後頭連合野)、あるいは後頭葉から一次視覚野(V1)を除いた部分。細胞構築学的にはブロードマンの脳地図の18野、19野に相当する。18野を[[前有線皮質]]([[傍有線野]]、prestriate cortex)、19野を[[周有線皮質]]([[周線条野]]、[[後頭眼野]]、parastriate cortex)、視覚前全体野を[[外線条皮質]]([[有線外皮質]]、extrastriate cortex、circumstriate cortex)と呼ぶ。当初、一次視覚野(V1)に隣接する領域を広く視覚前野ないし視覚連合野と称した。1960年代以降、ニューロンの発火活動や神経投射の研究により、ニューロンの応答特性、受容野の大きさや位置、ニューロン間の結合関係に着目した機能的な領野の区分が[[wikipedia:ja:ネコ|ネコ]]や[[wikipedia:ja:ネコ|サル]]で盛んになった。また[[免疫組織化学]]的な[[染色法]]の進歩による細胞構築学的な研究も進んだ。1980年代以降、[[fMRI]]や[[光計測]]等の発達により視野地図の広がりの可視化(イメージング)する研究が進んだ。現在ではV2、V3、V4、V5/MT、V6等の機能的な領野が同定され、個別の領野として扱われることが多い。機能的な領野区分はマカカ属サル([[wikipedia:ja:アカゲザル|アカゲザル]]、[[wikipedia:ja:ニホンザル|ニホンザル]]など)で最も進んでいるが、細部や高次領域(V3、V4、V6)については研究者間で見解の相違がある。動物種によっても区分法や名称が異なる。 | ||
==機能的な領野の区分== | ==機能的な領野の区分== | ||
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[[Image:視覚前野図4-2.jpg|400px|thumb|350px|'''図2.マカカ属サルの大脳皮質の展開図(右半球)'''<br>大脳皮質の表面をのばして表示したもので、内側で切って上下に開いたように表示してある。右側が前頭葉(前側)、左側が後頭葉(後側)。橙色の部分が視覚前野、肌色がその他の視覚野を示す。(Felleman and Van Essen (1991)<ref name=ref4><pubmed>1822724</pubmed></ref> Fig.2を改変)]] | [[Image:視覚前野図4-2.jpg|400px|thumb|350px|'''図2.マカカ属サルの大脳皮質の展開図(右半球)'''<br>大脳皮質の表面をのばして表示したもので、内側で切って上下に開いたように表示してある。右側が前頭葉(前側)、左側が後頭葉(後側)。橙色の部分が視覚前野、肌色がその他の視覚野を示す。(Felleman and Van Essen (1991)<ref name=ref4><pubmed>1822724</pubmed></ref> Fig.2を改変)]] | ||
V1と同様に、視覚前野のニューロンは(古典的)受容野より視覚入力を受け、レチノトピー(網膜部位の再現)の性質を示す(詳細は受容野を参照)。片半球の1つの機能的な領野は反対側の視野を映す一枚のトポグラフィックな[[視野地図]]を持つ。受容野の位置が[[中心視野]](fovea)から周辺視野に移るにつれて、受容野の大きさは一定の割合で大きくなる。マカカ属サルのV2、V3、V4はV1の前方に帯状に広がり、大脳皮質の腹側の領域が反対側の視野の上半分(上視野)を表し、背側の領域が視野の下半分(下視野)を表し、その間の領域が[[中心視野]](fovea)を表す。V1、V2、V3、V4の[[中心視野]](fovea)を表す領域は[[月状溝]](lunate sulcus)の終端部付近に収束している。この付近では受容野が小さくその差違が明瞭でないので、これらの領域の境界を詳細に定めることが難しい。V2、V3の大部分が月状溝内部にある。V3は腹側と背側の2つの領域に分かれるとする説もある(後述。V3の項を参照)。領野の境界は視野の垂直子午線(vertical meridian)ないし水平子午線(horizontal meridian)を表す。垂直子午線付近のニューロンは[[脳梁]]を介する反対側の半球から入力を受け、両側の視野にまたがる受容野を持つ。V5/MTは上側頭溝(superior temporal sulcus、STS)内部に、V6は頭頂後頭溝内部にあり、上視野と下視野が連続した一枚の視野地図を持つ。非侵襲的な計測法(fMRI)の発展により、視野地図のイメージングによるヒトの領野区分が進んだ。V1、V2、V5/MTのようなマカカ属サルと相同な領野(ホモログ)が同定されているが、V3、V4、V6等の高次領域については諸説ある(後述。V3、V4、V6の項を参照)。ネコや[[wikipedia:ja:フェレット|フェレット]]ではV1、V2、V3をそのまま17野、18野、19野と呼ぶことが一般的である<ref><pubmed>8439738</pubmed></ref><ref><pubmed>11884357</pubmed></ref>。ネコやフェレットの高次領域の区分は確立されていない。サルの視覚前野がV1から主な入力を受けるのに対して、ネコやフェレットでは、[[外側膝状体]]から17野、18野、19野に並行な投射が存在する<ref><pubmed>231475</pubmed></ref>。マウスやラットの大脳皮質にもV1より高次の視覚領域が複数存在することが知られているが、個別の領野として確立されるに至っていない<ref><pubmed>1184785</pubmed></ref><ref><pubmed>661689</pubmed></ref><ref><pubmed>6776164</pubmed></ref><ref><pubmed>2358036</pubmed></ref><ref><pubmed>7690066</pubmed></ref><ref><pubmed>8335065</pubmed></ref><ref><pubmed>17366604</pubmed></ref>。 | |||
==階層的なネットワークと視覚情報の中間処理== | ==階層的なネットワークと視覚情報の中間処理== | ||
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==重層的なネットワークと視覚情報の修飾== | ==重層的なネットワークと視覚情報の修飾== | ||
前項ではV1から高次視覚野へと向かうフィードフォワード投射の寄与を強調したが、視覚前野ではそれ以外の領野内の水平結合や視覚路内におけるフィードバック投射の寄与も大きく、また背側と腹側の視覚路間にも結合が存在する。そのため視覚前野の階層ネットワーク内の視覚情報は収束と拡散を繰り返し、ニューロンは受容野内に呈示された刺激特徴に反応するだけではなく、受容野周囲の視覚情報や視覚以外の情報による修飾作用を強く受けている。外側膝状体やV1と異なり、ある領野に局所的な損傷を与えても、視野に欠損(暗点)が生じない。 | |||
===非古典的受容野からの修飾=== | ===非古典的受容野からの修飾=== | ||
視覚前野のニューロンは受容野外に呈示されて視覚刺激に反応することはない。しかし、V1と同様に受容野の周囲に広がる非古典的受容野より刺激特徴に選択的な修飾作用を受けるものがある。V2のニューロンには最適刺激を受容野にまで拡大すると、むしろ反応が抑制されるものがある(周辺抑制)。一方、受容野内の刺激と受容野外の刺激を組みあわせにより、むしろ反応が増強(促通)するものもある。V2では受容野外に並ぶ線分の直列性に依存して、受容野に呈示した線分への反応が増強される(文脈依存性修飾作用、contextual modulation)<ref><pubmed>11050142</pubmed></ref>。また周辺抑制の分布が不均一なために、受容野を横切る輪郭線の形状、縞模様の変化、境界線を挟んだ図と地の向き対して選択的な反応を示すことが示されている<ref name=refb><pubmed>11967544</pubmed></ref><ref><pubmed>16768360</pubmed></ref><ref name=refc><pubmed>21091803</pubmed></ref>。V4やV5/MTにも最適な刺激を受容野外にまで拡大すると反応が抑制されるニューロンがあり、受容野内外の奥行きや運動の対比が強調しているとされる<ref name=ref6><pubmed>2213146</pubmed></ref><ref><pubmed>7479984</pubmed></ref><ref><pubmed>11068007</pubmed></ref>([[受容野]]を参照)。 | |||
===大局的な情報=== | ===大局的な情報=== | ||
視覚前野の様々な階層で、ニューロンは刺激全体が表す大局的な性質に対して選択性を示す。その反応は、受容野内に呈示されている視覚刺激の物理特性よりも、むしろ[[知覚]]される刺激の“見え”に近い。 | |||
====主観的輪郭==== | ====主観的輪郭==== | ||
subjective contour | subjective contour | ||
:[[wikipedia:ja:カニッツァの三角形|カニッツァの三角形]] | :[[wikipedia:ja:カニッツァの三角形|カニッツァの三角形]]や縞模様の端部では、刺激や端点の配列から存在しない面や輪郭線を知覚できる。この主観的輪郭線の傾きに選択的に反応するニューロンがV2で見つかっている<ref><pubmed>6539501</pubmed></ref><ref><pubmed>2723747</pubmed></ref><ref><pubmed>2723748</pubmed></ref>。 | ||
====境界線の帰属==== | ====境界線の帰属==== | ||
border ownership | border ownership | ||
: | :図と背景(地)の境界線は常に“図”の輪郭線として知覚される。受容野を横切る輪郭線のコントラスとの向きよりも、刺激全体が表す図と地の向きに選択的に反応するニューロンがV2で見つかっている<ref><pubmed>10964965</pubmed></ref><ref><pubmed>15996555</pubmed></ref>。 | ||
==== | ====逆相関ステレオグラム==== | ||
anti-correlated stereogram | anti-correlated stereogram | ||
: | :ドットパターンによりある奥行きを持つ面を表す。点刺激の輝度コントラストを左右の目で逆にすると、点刺激は見えても対応付けられず、奥行きをもった面を知覚できなくなる(両眼視差の対応問題、corresponding problem)。V2ドットパターンによりある奥行きを持つ面を表すV2、V4のニューロンで反応が減弱することが、これと合致する<ref><pubmed>12597865</pubmed></ref><ref><pubmed>15371518</pubmed></ref><ref><pubmed>17959744</pubmed></ref>。 | ||
====色の恒常性、明るさの恒常性==== | ====色の恒常性、明るさの恒常性==== |
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