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ROCK阻害薬Y-27632やミオシン阻害薬ブレビスタチンを用いた実験から、[[アメフラシ]]の成長円錐でのアクチン動態やアクトミオシン束の形成にROCKによる[[ミオシン]]活性化が重要であることが示されている<ref name=ref25><pubmed>14659092</pubmed></ref> <ref name=ref26><pubmed>16501565</pubmed></ref>。さらに、[[げっ歯類]]の[[初代培養神経]]細胞では、神経突起の伸展がROCK阻害薬Y-27632により促進し、ROCKの活性化変異体により抑制されることから、ROCKの活性化が神経突起の伸展を抑制することが明らかとなった<ref name=ref27><pubmed>15630019</pubmed></ref>。小脳顆粒細胞ではROCKが神経突起の伸展の開始を抑制し神経突起の数を決定すること、その過程にRho-ROCK-LIMキナーゼ経路によるアクチン脱重合抑制が重要であることが示された<ref name=ref28><pubmed>10839361</pubmed></ref>。さらにROCKは軸索ガイダンス因子であるエフリンA5による軸索退縮に重要である。エフリンA5はEphAに結合し、Rhoグアニンヌクレオチド交換因子GEFである[[エフェキシン]]を介してRhoを活性化する<ref name=ref29><pubmed>11336673</pubmed></ref>。Rhoにより活性化されたROCKは、アクトミオシン束を形成するとともに、CRMP-2による微小管重合を抑制する<ref name=ref13 />。[[CRMP-2]]は[[チュブリン]]二量体に結合して微小管形成を促進するタンパク質であり、ROCKによるリン酸化はその機能を抑制する。また、RhoAの活性化変異体やリゾホスファチジン酸(LPA)によるRhoの活性化は、樹状突起の複雑さを減少させる<ref name=ref30><pubmed>10884317</pubmed></ref>。この樹状突起の単純化は、ROCK阻害薬Y-27632で抑制され、ROCKの活性化変異体により[[模倣]]されることから、Rho-ROCK経路は樹状突起の枝分かれを抑制すると考えられている。 | ROCK阻害薬Y-27632やミオシン阻害薬ブレビスタチンを用いた実験から、[[アメフラシ]]の成長円錐でのアクチン動態やアクトミオシン束の形成にROCKによる[[ミオシン]]活性化が重要であることが示されている<ref name=ref25><pubmed>14659092</pubmed></ref> <ref name=ref26><pubmed>16501565</pubmed></ref>。さらに、[[げっ歯類]]の[[初代培養神経]]細胞では、神経突起の伸展がROCK阻害薬Y-27632により促進し、ROCKの活性化変異体により抑制されることから、ROCKの活性化が神経突起の伸展を抑制することが明らかとなった<ref name=ref27><pubmed>15630019</pubmed></ref>。小脳顆粒細胞ではROCKが神経突起の伸展の開始を抑制し神経突起の数を決定すること、その過程にRho-ROCK-LIMキナーゼ経路によるアクチン脱重合抑制が重要であることが示された<ref name=ref28><pubmed>10839361</pubmed></ref>。さらにROCKは軸索ガイダンス因子であるエフリンA5による軸索退縮に重要である。エフリンA5はEphAに結合し、Rhoグアニンヌクレオチド交換因子GEFである[[エフェキシン]]を介してRhoを活性化する<ref name=ref29><pubmed>11336673</pubmed></ref>。Rhoにより活性化されたROCKは、アクトミオシン束を形成するとともに、CRMP-2による微小管重合を抑制する<ref name=ref13 />。[[CRMP-2]]は[[チュブリン]]二量体に結合して微小管形成を促進するタンパク質であり、ROCKによるリン酸化はその機能を抑制する。また、RhoAの活性化変異体やリゾホスファチジン酸(LPA)によるRhoの活性化は、樹状突起の複雑さを減少させる<ref name=ref30><pubmed>10884317</pubmed></ref>。この樹状突起の単純化は、ROCK阻害薬Y-27632で抑制され、ROCKの活性化変異体により[[模倣]]されることから、Rho-ROCK経路は樹状突起の枝分かれを抑制すると考えられている。 | ||
[[軸索再生]]においてもROCKは抑制的に働く。[[脊髄損傷]]後の軸索再生は、[[myelin-associated glycoprotein]]([[MAG]])、[[Nogo]] | [[軸索再生]]においてもROCKは抑制的に働く。[[脊髄損傷]]後の軸索再生は、[[myelin-associated glycoprotein]]([[MAG]])、[[Nogo-A]]、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン([[CSPGs]])、[[oligodendrocyte myelin glycoprotein]]([[OMgp]])などの[[ミエリン]]および[[オリゴデンドロサイト]]由来の軸索伸展抑制因子により阻害される。これらの抑制因子の作用はROCK阻害薬Y-27632により抑制される<ref name=ref31><pubmed>25374504</pubmed></ref>。さらにROCK-II欠損マウス由来の後根神経節細胞では、Nogo-22やCSPGsによる軸索伸展抑制作用が減弱することから<ref name=ref32><pubmed>19955379</pubmed></ref>、これらの軸索伸展抑制因子の作用にはROCK-IIが必須である。興味深いことに、ROCKII欠損マウスでは、脊髄損傷後の軸索再生が促進されることも報告されており<ref name=ref32 />、脊髄損傷の治療薬としてのROCK阻害薬の可能性が検討されている<ref name=ref33><pubmed>23298675</pubmed></ref>。 | ||
====シナプス形成とシナプス可塑性==== | ====シナプス形成とシナプス可塑性==== | ||
[[樹状突起]][[スパイン]]は、神経細胞の樹状突起から突き出たアクチン細胞骨格に富む小さな突起であり、中枢神経系の主な[[興奮性シナプス]]入力部位である。スパインの形態変化はアクチン再構築に依存することから、ROCKの関与について興味が持たれてきた。[[スライス培養]]した[[海馬]][[CA1]]の錐体神経細胞では、ROCK阻害薬Y-27632によりスパインの長さが増大し、スパインの運動性が亢進する<ref name=ref34><pubmed>15234347</pubmed></ref>。海馬初代培養神経細胞では、ミオシンIIB阻害薬ブレビスタチンの処理やRNA干渉法によるミオシンIIbの発現抑制もスパインの長さの増大とスパインの運動性の亢進を引き起こす<ref name=ref35><pubmed>16423692</pubmed></ref>。これらの結果から、ROCKはミオシンIIbを活性化してスパインの安定化を促すと考えられている。 | |||
[[海馬]]スライスの[[CA1]][[錐体神経細胞]]での実験では、スパインの大きさと[[AMPA型グルタミン酸受容体]]を介した[[シナプス後電流]]が相関する<ref name=ref36><pubmed>11687814</pubmed></ref>。さらにスパインは[[長期増強]](long-term potentiation)に伴い増大し、[[長期抑圧]](long-term depression)に伴い縮小することから、[[シナプス可塑性]]におけるスパインの形態変化の意義が示唆されてきた<ref name=ref37><pubmed>15190253</pubmed></ref> <ref name=ref38><pubmed>15361876</pubmed></ref>。グルタミン酸受容体の局所的な活性化によりスパインの増大が誘導されるが、このスパイン増大の初期相がRhoの活性阻害や発現抑制、ROCK阻害薬[[Glycyl-H-1152]]により抑制されることが示された。さらに、グルタミン酸受容体活性化によるスパインでのRhoAの活性化は[[CaMKII]]阻害薬で減弱した。これらの結果から、グルタミン酸受容体はCaMKIIを介してRho-ROCK経路を活性化しスパイン増大を誘導すると考えられている<ref name=ref39><pubmed>21423166</pubmed></ref>。 | |||
このRho-ROCK経路の役割に合致し、ROCK-II欠損マウスでは海馬の[[シャッファー側枝]]とCA1[[錐体細胞]]の間の[[グルタミン酸]]作動性シナプス伝達の長期増強が減弱している<ref name=ref40><pubmed>18718479</pubmed></ref> | このRho-ROCK経路の役割に合致し、ROCK-II欠損マウスでは海馬の[[シャッファー側枝]]とCA1[[錐体細胞]]の間の[[グルタミン酸]]作動性シナプス伝達の長期増強が減弱している<ref name=ref40><pubmed>18718479</pubmed></ref>。海馬スライス培養では、シナプス活動やNMDA受容体刺激はROCK依存的にスパインにおけるミオシン軽鎖リン酸化を誘導する。さらにシャッファー側枝-CA1シナプスでのシナプス伝達の長期増強がミオシンIIbの発現抑制やミオシンII阻害薬ブレビスタチンの処理により減弱する<ref name=ref41><pubmed>20797537</pubmed></ref>。これらの結果は、グルタミン酸受容体による長期増強にRho-ROCK経路を介したアクトミオシン束形成が重要であることを示唆している。 | ||
神経活動に影響を与えるその他のROCKの働きも示唆されているが、その詳細については不明な点が多い。例えば、脳幹スライス培養を用いた実験では、ROCK阻害薬H1152により[[シナプス前終末]] | 神経活動に影響を与えるその他のROCKの働きも示唆されているが、その詳細については不明な点が多い。例えば、脳幹スライス培養を用いた実験では、ROCK阻害薬H1152により[[シナプス前終末]]の[[アクティブゾーン]]への[[シナプス小胞]]のドッキングが抑制される<ref name=ref42><pubmed>22219271</pubmed></ref>。[[LPA]]により活性化したROCKが[[T型カルシウムチャネル]]を[[リン酸化]]し、[[Cav3.1]]を抑制し、[[Cav3.2]]を促進することも報告されている<ref name=ref43><pubmed>17558400</pubmed></ref>。 | ||
[[記憶]]・[[学習]]におけるROCKの役割についても報告されている。[[恐怖条件づけ]]直前の[[外側扁桃体]]へのROCK阻害薬Y-27632の局所注入では、[[短期記憶]]は保持されるものの[[長期記憶]]の形成が阻害される<ref name=ref44><pubmed>12441060</pubmed></ref>。[[モリス水迷路試験]]を用いた研究では、学習後の海馬へのROCK阻害薬Y-27632の局所注入が空間記憶の保持を低下させることが報告されている<ref name=ref45><pubmed>15336547</pubmed></ref>。しかし、記憶・学習を担うシナプス可塑性やそれに伴うスパインの形態変化にROCKが関与するかについては今後の課題である。 | |||
==関連項目== | ==関連項目== |