「瞬目反射条件づけ」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0109518 岸本 泰司]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0109518 岸本 泰司]</font><br>
''徳島文理大学香川薬学部''<br>
''徳島文理大学香川薬学部''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年8月14日 原稿完成日:2015年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年8月14日 原稿完成日:2016年5月5日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tsuyoshimiyakawa 宮川 剛](藤田保健衛生大学)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tsuyoshimiyakawa 宮川 剛](藤田保健衛生大学)<br>
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 CSとUSの情報は、小脳において2つの部位、小脳皮質と小脳核で連合される('''図4''')。小脳核の中でも、瞬目反射条件づけに殊に重要とされる領域は[[中位核]](interpositus nucleus)である。橋核と下オリーブ核からそれぞれ運ばれてきたCSとUS情報の統合に加え、中位核のニューロンは小脳皮質のプルキンエ細胞から強力なGAB<sub>A</sub>作動性の抑制性入力を受けている。中位核から出力された情報は、[[赤核]]を経て、瞬目の運動出力を担う[[顔面神経核]]や[[外転神経核]]へと投射される。すなわち、小脳核は、CSとUSの収斂の場であるだけでなく、小脳からの情報出力を担う構造でもある。
 CSとUSの情報は、小脳において2つの部位、小脳皮質と小脳核で連合される('''図4''')。小脳核の中でも、瞬目反射条件づけに殊に重要とされる領域は[[中位核]](interpositus nucleus)である。橋核と下オリーブ核からそれぞれ運ばれてきたCSとUS情報の統合に加え、中位核のニューロンは小脳皮質のプルキンエ細胞から強力なGAB<sub>A</sub>作動性の抑制性入力を受けている。中位核から出力された情報は、[[赤核]]を経て、瞬目の運動出力を担う[[顔面神経核]]や[[外転神経核]]へと投射される。すなわち、小脳核は、CSとUSの収斂の場であるだけでなく、小脳からの情報出力を担う構造でもある。


 なお、平行線維とプルキンエ細胞間にはシナプス伝達効率の[[長期抑圧]](LTD)が生じることが知られている('''図4''')。プルキンエ細胞の抑制性の出力が解除されることで、[[驚愕反射]]としても知られる「音を聴いて瞬きが起こる経路」が顕れるという説明がこのモデルの眼目である<ref>'''M Ito'''<br>The cerebellum and neural control<br>''Raven Press(New York)'':1984</ref> 。前述したように、これまでにLTDに欠損があるマウス系統の多くで瞬目反射条件づけ(遅延課題)の記憶形成に重篤な障害が起きていることが示されてきた。これは、小脳LTDと瞬目反射条件づけが少なくとも同じ分子基盤を共有していることを強く示す証左であった。ところが、2000年代に入ると、小脳LTDは、運動記憶の形成そのものよりも、学習の表出のタイミングなど修飾的な役割を担うとする研究が報告され<ref><pubmed> 14500987 </pubmed></ref>、さらには小脳LTDが障害されているミュータントマウスでも、前庭動眼反射とともに瞬目反射条件づけ(遅延課題)の学習能力は正常であったと主張する報告が提出され大きなインパクトを与えた<ref><pubmed> 21482355 </pubmed></ref>。しかしながら、こうした研究も遺伝子改変マウスにおける行動とシナプス機能の相関関係を論じたものであり、因果関係を必ずしも明確にしたものではない。実際、依然としてLTDの障害と瞬目反射条件づけの障害の相関関係を示した論文は、現在も報告され続けている<ref><pubmed> 24523559  </pubmed></ref><ref><pubmed> 25418414 </pubmed></ref>。
 なお、平行線維とプルキンエ細胞間にはシナプス伝達効率の[[長期抑圧]](LTD)が生じることが知られている('''図4''')。プルキンエ細胞の抑制性の出力が解除されることで、[[驚愕反射]]としても知られる「音を聴いて瞬きが起こる経路」が顕れるという説明がこのモデルの眼目である<ref>'''M Ito'''<br>The cerebellum and neural control<br>''Raven Press(New York)'':1984</ref> 。前述したように、これまでにLTDに欠損があるマウス系統の多くで瞬目反射条件づけ(遅延課題)の記憶形成に重篤な障害が起きていることが示されてきた。これは、小脳LTDと瞬目反射条件づけが少なくとも同じ分子基盤を共有していることを強く示す証左であった。ところが、2000年代に入ると、小脳LTDは、運動記憶の形成そのものよりも、学習の表出のタイミングなど修飾的な役割を担うとする研究が報告され<ref><pubmed> 14500987 </pubmed></ref>、さらには小脳LTDが障害されているミュータントマウスでも、前庭動眼反射とともに瞬目反射条件づけ(遅延課題)の学習能力は全く正常であると主張する報告が提出され、小脳学習の研究分野に大きなインパクトを与えた<ref><pubmed> 21482355 </pubmed></ref>。しかしながら、こうした研究も遺伝子改変マウスにおける行動とシナプス機能の相関関係を論じたものであり、因果関係を必ずしも明確にしたものではない。実際、依然としてLTDの障害と瞬目反射条件づけの障害の相関関係を示した論文は、現在も報告され続けている<ref><pubmed> 24523559  </pubmed></ref><ref><pubmed> 25418414 </pubmed></ref>。


=== 小脳皮質vs.小脳核の論争 ===
=== 小脳皮質vs.小脳核の論争 ===