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Takeshiimai (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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<font size="+1">[http://researchmap.jp/ryoiwata/ 岩田 遼]、[http://researchmap.jp/takeshi.imai 今井 猛]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/ryoiwata/ 岩田 遼]、[http://researchmap.jp/takeshi.imai 今井 猛]</font><br> | ||
''独立行政法人理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 感覚神経回路形成研究チーム''<br> | ''独立行政法人理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 感覚神経回路形成研究チーム''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2017年5月13日 原稿完成日:2017年6月12日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br> | ||
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==双方向性シナプスとは == | ==双方向性シナプスとは == | ||
[[Image:Reciden.gif|thumb|right|340px|<b>図1. 双方向シナプス</b><br />猫の[[外側膝状体]]における双方向性シナプス。D1、D2は2本の[[樹状突起]]、Aは軸索を示し、2本の矢印は各シナプスの方向を示している。[http://synapseweb.clm.utexas.edu/dendro-dendritic-synapses-cat-thalamus Synapseweb]より。<br>Kristen Harris博士の許可を得て転載。]] | |||
[[シナプス]]は、神経情報を出力する側と入力される側の2つの神経細胞の間に形成されるが、この2つの神経細胞が同時に逆方向のシナプスを持つ場合、これを双方向性シナプスまたは相反性シナプスという('''図1''')。2本の樹状突起の間、または樹状突起と[[軸索]]の間に形成されるものが知られている。1960年代に[[嗅球]]と[[網膜]]で独立に発見された<ref><pubmed> 19686140 </pubmed></ref>。 | [[シナプス]]は、神経情報を出力する側と入力される側の2つの神経細胞の間に形成されるが、この2つの神経細胞が同時に逆方向のシナプスを持つ場合、これを双方向性シナプスまたは相反性シナプスという('''図1''')。2本の樹状突起の間、または樹状突起と[[軸索]]の間に形成されるものが知られている。1960年代に[[嗅球]]と[[網膜]]で独立に発見された<ref><pubmed> 19686140 </pubmed></ref>。 | ||
== 嗅球 == | == 嗅球 == | ||
=== 構造 === | === 構造 === | ||
[[Image:Takeshiimai_Fig_2.jpg|thumb|right|340px|<b>図2. 嗅球の双方向性シナプス</b><br />[[嗅球]]では、僧帽細胞・房飾細胞の側方樹状突起と顆粒細胞の間で樹状突起間双方向性シナプスが形成される。また、僧帽細胞・房飾細胞の主樹状突起と傍糸球体細胞の間にも樹状突起間双方向性シナプスが形成される。赤色の矢印は[[興奮性シナプス]]、青色の矢印は[[抑制性シナプス]]を示す。]] | |||
[[嗅球]]の[[僧帽細胞]](mitral cell)・[[房飾細胞]](tufted cell)は、単一の[[主樹状突起]](primary dendrite)により[[糸球体]]から興奮性入力を受け入れる([[嗅球]]を参照)。 | [[嗅球]]の[[僧帽細胞]](mitral cell)・[[房飾細胞]](tufted cell)は、単一の[[主樹状突起]](primary dendrite)により[[糸球体]]から興奮性入力を受け入れる([[嗅球]]を参照)。 | ||
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[[嗅球]]では、[[傍糸球体細胞]](periglomerular cell)も、僧帽細胞・房飾細胞の主樹状突起との間に樹状突起間双方向性シナプスをつくる('''図2''')。 | [[嗅球]]では、[[傍糸球体細胞]](periglomerular cell)も、僧帽細胞・房飾細胞の主樹状突起との間に樹状突起間双方向性シナプスをつくる('''図2''')。 | ||
傍糸球体細胞は[[嗅神経細胞]](olfactory sensory neuron)から興奮性入力を受け入れるとともに、嗅神経細胞に対してシナプス前抑制を行う<ref><pubmed> 23761680 </pubmed></ref>。しかし、電子顕微鏡観察では傍糸球体細胞樹状突起から嗅神経細胞[[シナプス前終末]]へと入力するシナプス構造が認められないため<ref><b>Gordon M Shepherd, Wei R Chen, Charles A Greer</b><br />Chapter 5: Olfactory Bulb.<br />In: The synaptic organization of the brain 5th ed.(Shepherd GM ed). <i>Oxford University Press</i>, 2004</ref>、volume transmissionなどシナプス伝達以外の可能性も含めて、シナプス前抑制の伝達機構は不明である。そのため、他の例の様に単一シナプスレベルで双方向性シナプスが形成されているわけではない。 | 傍糸球体細胞は[[嗅神経細胞]](olfactory sensory neuron)から興奮性入力を受け入れるとともに、嗅神経細胞に対してシナプス前抑制を行う<ref><pubmed> 23761680 </pubmed></ref>。しかし、電子顕微鏡観察では傍糸球体細胞樹状突起から嗅神経細胞[[シナプス前終末]]へと入力するシナプス構造が認められないため<ref><b>Gordon M Shepherd, Wei R Chen, Charles A Greer</b><br />Chapter 5: Olfactory Bulb.<br />In: The synaptic organization of the brain 5th ed. (Shepherd GM ed). <i>Oxford University Press</i>, 2004</ref>、volume transmissionなどシナプス伝達以外の可能性も含めて、シナプス前抑制の伝達機構は不明である。そのため、他の例の様に単一シナプスレベルで双方向性シナプスが形成されているわけではない。 | ||
=== 匂い情報処理における機能 === | === 匂い情報処理における機能 === | ||
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なお、[[嗅球]]における側方抑制では、糸球体層の[[短軸索細胞]](short axon cell)が異なる糸球体同士を接続する<ref><pubmed> 20089927 </pubmed></ref>。この側方抑制は近傍の糸球体のうち一部の糸球体に対してのみ選択的に出力すると推定されるが<ref><pubmed> 27346531 </pubmed></ref>、その機能については未だ不明な点が多く、今後の解明が待たれる。 | なお、[[嗅球]]における側方抑制では、糸球体層の[[短軸索細胞]](short axon cell)が異なる糸球体同士を接続する<ref><pubmed> 20089927 </pubmed></ref>。この側方抑制は近傍の糸球体のうち一部の糸球体に対してのみ選択的に出力すると推定されるが<ref><pubmed> 27346531 </pubmed></ref>、その機能については未だ不明な点が多く、今後の解明が待たれる。 | ||
== 網膜== | == 網膜== | ||
[[Image:Takeshiimai_Fig_3.jpg|thumb|right|250px| | [[Image:Takeshiimai_Fig_3.jpg|thumb|right|250px|<b>図3. 網膜の双方向性シナプス</b><br />網膜では、視細胞と水平細胞の間、また双極細胞とアマクリン細胞の間に双方向性シナプスが形成される。赤色の矢印は[[興奮性シナプス]]、青色の矢印は[[抑制性シナプス]]を示す。視細胞から双極細胞へのシナプス(黒色の矢印)ではグルタミン酸が放出されるが、ON型およびOFF型の双極細胞においてはそれぞれ抑制性または興奮性の反応を示す。文献<ref name=ref6 />より改変。]] | ||
<b>図3. 網膜の双方向性シナプス</b><br />網膜では、視細胞と水平細胞の間、また双極細胞とアマクリン細胞の間に双方向性シナプスが形成される。赤色の矢印は[[興奮性シナプス]]、青色の矢印は[[抑制性シナプス]]を示す。視細胞から双極細胞へのシナプス(黒色の矢印)ではグルタミン酸が放出されるが、ON型およびOFF型の双極細胞においてはそれぞれ抑制性または興奮性の反応を示す。文献<ref name=ref6 />より改変。]] | 網膜では、[[外網状層]]において[[視細胞]](photoreceptor cell)と[[水平細胞]](horizontal cell)の間で双方向性シナプスが形成される('''図3''')。また、[[内網状層]]においても[[双極細胞]](bipolar cell)と[[アマクリン細胞]](amacrine cell)の間で双方向性シナプスが形成される。 | ||
網膜では、[[外網状層]]において[[視細胞]](photoreceptor cell)と[[水平細胞]](horizontal cell)の間で双方向性シナプスが形成される(''' | |||
網膜における双方向性シナプスは、[[受容野#中心周辺拮抗型受容野|中心周辺拮抗型受容野]]の形成に寄与する<ref><b>Peter Sterling, Jonathan B Demb</b><br />Chapter 6: Retina.<br />In: The synaptic organization of the brain 5th ed. (Shepherd GM ed). <i>Oxford University Press</i>, 2004</ref>。たとえば水平細胞は、樹状突起を側方に伸ばして多くの視細胞と接続し、双方向性シナプスをつくる('''図3''')。視細胞は水平細胞に興奮性の出力を行い、逆に水平細胞は視細胞のシナプス前終末に対して抑制性の出力を行う。抑制を受けたシナプス前終末では、視細胞から双極細胞へのグルタミン酸の放出が減少する。水平細胞を介した側方抑制によって、強い光を受容した視細胞と、その周りで弱い光を受容した視細胞の間のコントラストが強化される。こうした中心周辺拮抗型の側方抑制は、網膜において物体の輪郭を検出しやすくしていると考えられる。アマクリン細胞の双方向性シナプスもこうした機能に寄与すると考えられる。 | |||
== その他の脳領域== | == その他の脳領域== | ||
[[視床]]の[[外側膝状体]]<ref><pubmed> 4101880 </pubmed></ref>('''図1''')、[[脊髄後角]]の[[膠様質]]<ref><pubmed> 6259218 </pubmed></ref>、また[[視交叉上核]]<ref><pubmed> 1260842 </pubmed></ref>で樹状突起間双方向性シナプスが見つかっているが、その機能はほとんど知られていない。 | [[視床]]の[[外側膝状体]]<ref><pubmed> 4101880 </pubmed></ref>('''図1''')、[[脊髄後角]]の[[膠様質]]<ref><pubmed> 6259218 </pubmed></ref>、また[[視交叉上核]]<ref><pubmed> 1260842 </pubmed></ref>で樹状突起間双方向性シナプスが見つかっているが、その機能はほとんど知られていない。 | ||