「バレル皮質」の版間の差分

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==発生、可塑性==
==発生、可塑性==
 胎児期または生後直後、バレル皮質は形成されておらずマウスで生後2日から5日の間に形成される。視床軸索がそれぞれのhollow内に収束する形でターミナルを形成し、その周りに大脳皮質の細胞が集まってバレル構造ができる。
 胎児期または生後直後、バレル皮質は形成されておらずマウスで生後2日から5日の間に形成される。視床軸索がそれぞれのホロー内に収束する形でターミナルを形成し、その周りに大脳皮質の細胞が集まってバレル構造ができる。


 このバレル形成には、ヒゲの刺激による神経活動が必要であり、生後ヒゲを抜いたり、毛根を焼き切るなどしてヒゲからの入力を遮断するとバレル構造が形成されない<ref><pubmed>758965</pubmed></ref> <ref><pubmed>7217362</pubmed></ref>。バレル構造の形成には[[臨界期]]があり、生後7日目以降はヒゲからの入力が遮断されても一度形成されたバレル構造は維持されたままとなる。
 このバレル形成には、ヒゲの刺激による神経活動が必要であり、生後ヒゲを抜いたり、毛根を焼き切るなどしてヒゲからの入力を遮断するとバレル構造が形成されない<ref><pubmed>758965</pubmed></ref> <ref><pubmed>7217362</pubmed></ref>。バレル構造の形成には[[臨界期]]があり、生後7日目以降はヒゲからの入力が遮断されても一度形成されたバレル構造は維持されたままとなる。


 バレルの形成には神経活動が必要であることは大脳皮質の[[興奮性]]ニューロンに限定して[[NMDA型グルタミン酸受容体]]のNR1サブユニットを欠損する[[ノックアウトマウス]]や <ref><pubmed>9427244</pubmed></ref>、[[代謝型グルタミン酸受容体]][[mGluR5]]のノックアウトマウスにおいてもバレルの形成が不全になる<ref><pubmed> 21159961</pubmed></ref> 。さらにグルタミン酸受容体の下流に位置するタンパク質として[[NeuroD2]]がバレル形成に必要であること <ref><pubmed>16504944</pubmed></ref>、およびmGluR5の下流に位置する因子として[[ホスホリパーゼCβ1]]のノックアウトマウスはバレルの形成不全を起こすことが報告されている <ref><pubmed>11224545</pubmed></ref>。
 バレルの形成には神経活動が必要であることは大脳皮質の[[興奮性]]ニューロンに限定して[[NMDA型グルタミン酸受容体]]の[[NR1]]サブユニットを欠損する[[ノックアウトマウス]]や <ref><pubmed>9427244</pubmed></ref>、[[代謝型グルタミン酸受容体]][[mGluR5]]のノックアウトマウスにおいてもバレルの形成が不全になる<ref><pubmed> 21159961</pubmed></ref> 。さらにグルタミン酸受容体の下流に位置するタンパク質として[[NeuroD2]]がバレル形成に必要であること <ref><pubmed>16504944</pubmed></ref>、およびmGluR5の下流に位置する因子として[[ホスホリパーゼCβ1]]のノックアウトマウスはバレルの形成不全を起こすことが報告されている <ref><pubmed>11224545</pubmed></ref>。


 視床軸索側からバレルを形成する要素として、視軸軸索のAC1 ([[CA2|Ca2]]+/calmodulin-activated type-I adenylyl cyclase)が[[AMPA型グルタミン酸受容体]]のトラフィッキングをコントロールすることによって、視床—大脳皮質細胞のシナプス結合の強化に必要であることが報告されている<ref><pubmed> 12897788</pubmed></ref> <ref><pubmed>25644422</pubmed></ref>。
 視床軸索側からバレルを形成する要素として、視軸軸索の[[CA2+|CA<sup>2+</sup>]]/calmodulin-activated type-I adenylyl cyclase(AC1 )が[[AMPA型グルタミン酸受容体]]のトラフィッキングをコントロールすることによって、視床—大脳皮質細胞のシナプス結合の強化に必要であることが報告されている<ref><pubmed> 12897788</pubmed></ref> <ref><pubmed>25644422</pubmed></ref>。


 バレルの形成に関わっている他の因子としては神経伝達物質である[[セロトニン]]も重要であることが報告されている。まずセロトニン分解酵素である[[モノアミン酸化酵素]]Aのノックアウトマウスでバレルの形成不全になる <ref><pubmed>8789945</pubmed></ref>。さらに、セロトニンを細胞に取り込むセロトニン輸送体のノックアウトマウスにおいてもバレルの形成が阻害されていたことから、大脳皮質でセロトニンの濃度が上昇するとバレルの形成が阻害されることが推測された <ref><pubmed> 9712661</pubmed></ref>。
 バレルの形成に関わっている他の因子としては神経伝達物質である[[セロトニン]]も重要であることが報告されている。まずセロトニン分解酵素である[[モノアミン酸化酵素A]]のノックアウトマウスでバレルの形成不全になる <ref><pubmed>8789945</pubmed></ref>。さらに、セロトニンを細胞に取り込むセロトニン輸送体のノックアウトマウスにおいてもバレルの形成が阻害されていたことから、大脳皮質でセロトニンの濃度が上昇するとバレルの形成が阻害されることが推測された <ref><pubmed> 9712661</pubmed></ref>。


 このことを裏付けるように、[[モノアミン]]酸化酵素Aのノックアウトマウスとセロトニン1B受容体のノックアウトマウスとを掛け合わせることにより,バレルの形成の異常は軽減されることも報告されている <ref><pubmed>12351728</pubmed></ref>。以上のように、Nisslなどの染色で可視化できる細胞密度の違いによる“バレル構造“は視床軸索からの入力と大脳皮質細胞の神経活動の[[バランス]]、さらには細胞外セロトニン濃度の調節が必要である<ref><pubmed>11576673</pubmed></ref>。
 このことを裏付けるように、[[モノアミン]]酸化酵素Aのノックアウトマウスと[[セロトニン1B受容体]]のノックアウトマウスとを掛け合わせることにより,バレルの形成の異常は軽減されることも報告されている <ref><pubmed>12351728</pubmed></ref>。以上のように、Nisslなどの染色で可視化できる細胞密度の違いによる“バレル構造“は視床軸索からの入力と大脳皮質細胞の神経活動の[[バランス]]、さらには細胞外セロトニン濃度の調節が必要である<ref><pubmed>11576673</pubmed></ref>。


 バレル構造の形成には細胞が有棘星状細胞hollowを取り囲むように集まることとともに、有棘星状細胞の樹状突起がhollowに向けて伸長する必要がある。この樹状突起の形態変化に特異的に関わる因子が有棘星状細胞に発現しておりBtbd3、Sema7Aなどが報告されている<ref><pubmed>25201975</pubmed></ref> <ref><pubmed>24179155</pubmed></ref>。
 バレル構造の形成には細胞が有棘星状細胞ホローを取り囲むように集まることとともに、有棘星状細胞の樹状突起がホローに向けて伸長する必要がある。この樹状突起の形態変化に特異的に関わる因子が有棘星状細胞に発現しており[[Btbd3]]、[[Sema7A]]などが報告されている<ref><pubmed>25201975</pubmed></ref> <ref><pubmed>24179155</pubmed></ref>。


==参考文献==
==参考文献==
<references />
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