「ケーブル理論」の版間の差分

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== ケーブル特性と電気緊張性電位 ==
== ケーブル特性と電気緊張性電位 ==
神経突起に過分[[極性]]電流あるいは[[閾値]]未満の脱分極性電流を注入すると膜電位の変化が突起に沿って広がる。電位変化の大きさは注入場所からの距離に従って指数関数的に減衰する。このような性質をケーブル特性といい、この距離に関しての電位変化を電気緊張性電位という。生体内では、細胞体で発生した電位変化は細胞体膜表面全体に広がり、細胞体膜に連結している神経突起に伝導される。神経突起のなかでも長い樹状突起ないし無髄軸索を、均質な細胞質を一様な細胞膜が取り巻いている円柱の連結に見立てることにより(図1)、電気緊張性電位の波及についてケーブル理論が適用される。理論によると、神経突起の膜抵抗と細胞質の内部抵抗がケーブル特性に影響する。
 神経突起に過分[[極性]]電流あるいは[[閾値]]未満の脱分極性電流を注入すると膜電位の変化が突起に沿って広がる。電位変化の大きさは注入場所からの距離に従って指数関数的に減衰する。このような性質をケーブル特性といい、この距離に関しての電位変化を電気緊張性電位という。生体内では、細胞体で発生した電位変化は細胞体膜表面全体に広がり、細胞体膜に連結している神経突起に伝導される。神経突起のなかでも長い樹状突起ないし無髄軸索を、均質な細胞質を一様な細胞膜が取り巻いている円柱の連結に見立てることにより('''図1''')、電気緊張性電位の波及についてケーブル理論が適用される。理論によると、神経突起の膜抵抗と細胞質の内部抵抗がケーブル特性に影響する。
微小電極で仮想的な神経突起ケーブルのある1点(x = 0)に電流を注入しこの点を定電位V0 に保つようにすると、x = 0から長軸方向へ電流が広がる(図2)。注入された電流は、注入点から離れるに従い膜を横切って細胞外へ流れ出てしまうため、長軸方向に流れる電流は次第に減少する。突起内各点での最終的な定常状態での電位変化は、x = 0からの距離(x)を用いて表される(図2)。電流注入点からの距離xでの電位変化は、
 
 微小電極で仮想的な神経突起ケーブルのある1点(x = 0)に電流を注入しこの点を定電位V<sub>0</sub> に保つようにすると、x = 0から長軸方向へ電流が広がる('''図2''')。注入された電流は、注入点から離れるに従い膜を横切って細胞外へ流れ出てしまうため、長軸方向に流れる電流は次第に減少する。突起内各点での最終的な定常状態での電位変化は、x = 0からの距離(x)を用いて表される('''図2''')。電流注入点からの距離xでの電位変化は、


: <math> V=V_0  e^{{-x}/{\lambda}}</math>
: <math> V=V_0  e^{{-x}/{\lambda}}</math>


と表すことができ、指数関数的な減衰を示す。λ は長さ定数(length constant)といい、x = λのところでV はV0 の約37%(1/e)に減衰する。λ が大きいと、電流注入点からより遠くの計測点まで電流が減衰しない、ないし、膜電位がある一定以上に保たれることになる。長さ定数λは、図1の3つの抵抗要素によって決まるが、細胞外抵抗は細胞内抵抗に比べ非常に小さいので、単位長さあたりの細胞内抵抗値をri、単位長さあたりの膜抵抗値 をrmとすると、以下のように表すことができる。
と表すことができ、指数関数的な減衰を示す。λ は長さ定数(length constant)といい、x = λのところでV はV<sub>0</sub> の約37%(1/e)に減衰する。λ が大きいと、電流注入点からより遠くの計測点まで電流が減衰しない、ないし、膜電位がある一定以上に保たれることになる。長さ定数λは、図1の3つの抵抗要素によって決まるが、細胞外抵抗は細胞内抵抗に比べ非常に小さいので、単位長さあたりの細胞内抵抗値をr<sub>i</sub>、単位長さあたりの膜抵抗値 をr<sub>m</sub>とすると、以下のように表すことができる。


: <math> \lambda=\sqrt{\frac{r_m}{r_i}}</math>
: <math> \lambda=\sqrt{\frac{r_m}{r_i}}</math>
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: <math> \lambda=\sqrt{\frac{R_ma}{R_i2}}</math>
: <math> \lambda=\sqrt{\frac{R_ma}{R_i2}}</math>


長さ定数λ は神経突起半径の平方根、および、神経突起全周の膜抵抗値の平方根に比例し、神経突起断面の内部抵抗値に反比例する。したがって、神経突起上のある一点から波及する電気緊張性電位は、
 長さ定数λ は神経突起半径の平方根、および、神経突起全周の膜抵抗値の平方根に比例し、神経突起断面の内部抵抗値に反比例する。したがって、神経突起上のある一点から波及する電気緊張性電位は、
 
#軸索半径a が大きいほど、
#軸索半径a が大きいほど、
#内部抵抗値 Ri  が低い、すなわち神経突起内の抵抗が低いほど、
#内部抵抗値 Ri  が低い、すなわち神経突起内の抵抗が低いほど、
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 上述のような定常状態であれば容量電流は無視できるが、注入電流が一定でない場合や矩形波の刺激電流が最初に流れるときなどは、膜容量の効果もあわせて考える必要がある。定電流I が注入された場合、膜抵抗値をR とすると、ある特定の地点での膜電位の経時的変化は、
 上述のような定常状態であれば容量電流は無視できるが、注入電流が一定でない場合や矩形波の刺激電流が最初に流れるときなどは、膜容量の効果もあわせて考える必要がある。定電流I が注入された場合、膜抵抗値をR とすると、ある特定の地点での膜電位の経時的変化は、
: <math> V=IR(1-e^{t/{\tau}})</math>
: <math> V=IR(1-e^{t/{\tau}})</math>
である。ここで、τ は時定数であり、単位長さあたりの膜容量を cm,、単位長さあたりの膜抵抗を rm、とすると、τ = cm  rm である。時定数τ は膜電位が最大値の約63% に達するまでの時間となり、τ が大きいと膜電位はゆっくりと上昇する。
である。ここで、τ は時定数であり、単位長さあたりの膜容量を cm,、単位長さあたりの膜抵抗を r<sub>m</sub>、とすると、τ = c<sub>m</sub>×r<sub>m</sub> である。時定数τ は膜電位が最大値の約63% に達するまでの時間となり、τ が大きいと膜電位はゆっくりと上昇する。


定常電流の注入が終了したあとの、ある特定の地点での膜電位の経時的変化は、電流終了前の電位をV0 とすると、
定常電流の注入が終了したあとの、ある特定の地点での膜電位の経時的変化は、電流終了前の電位をV0 とすると、