「サイクリックAMP応答配列結合タンパク質」の版間の差分
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<font size="+1"> | <font size="+1">奥野浩行 </font><br> | ||
''鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科''<br> | ''鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:年月日 原稿完成日:<br> | ||
担当編集委員:[https://researchmap.jp/wadancnp 和田圭司] (国立精神・神経医療研究センター トランスレーショナル・メディカルセンター)<br> | 担当編集委員:[https://researchmap.jp/wadancnp 和田圭司] (国立精神・神経医療研究センター トランスレーショナル・メディカルセンター)<br> | ||
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なお、[[脊椎動物]]ではCBP遺伝子(CREBBP)のパラローグとして[[p300]]遺伝子(EP300)が存在する。p300はCBPと構造的に類似しており、CREBに対してCBP同様に作用すると考えらえるが、生体におけるCBP/p300パラローグの機能差の有無や生理的意義については不明な点が多い。 | なお、[[脊椎動物]]ではCBP遺伝子(CREBBP)のパラローグとして[[p300]]遺伝子(EP300)が存在する。p300はCBPと構造的に類似しており、CREBに対してCBP同様に作用すると考えらえるが、生体におけるCBP/p300パラローグの機能差の有無や生理的意義については不明な点が多い。 | ||
=== CREBコアクチベーター=== | === CREBコアクチベーター(CRTCs) === | ||
CREB-regulated transcription coactivators, | |||
CREBのbZIP領域は2量体形成およびDNA結合に関わるドメインであるが、この領域に結合する共活性化因子として[[CREBコアクチベーター]][[CRTCs]]が知られる<ref name=Conkright2003><pubmed> 14536081 </pubmed></ref>。哺乳類においてCRTCsは3種([[CRTC1]]、[[CRTC2]]および[[CRTC3]])からなる遺伝子ファミリーを形成しているが、神経系では主にCRTC1およびCRTC2が発現している。基底状態においてCRTCsはリン酸化修飾されており、[[14-3-3タンパク質]]と複合体を形成して細胞質に存在している。ここにcAMPやCa<sup>2+</sup>濃度上昇などの刺激が入ると、[[カルシニューリン]]によってCRTCsは脱リン酸化されて14-3-3から解離し、速やかに核内に移行してCREBと結合する。CRTCのbZIP領域への結合はCREBのCRE結合活性を増強し、また、CREB-CRTC複合体がTFIID複合体と効率的に相互作用することにより、CREBを介した転写活性を増強すると考えられるが<ref name=Conkright2003/>、詳細は不明である。 | |||
なお、CREB-CRTC相互作用はKID領域のSer133リン酸化とは関係なく制御されており、CBP/p300とは独立した刺激依存的なCREB転写活性機構であると考えられている<ref><pubmed>17476304</pubmed></ref><ref><pubmed>15454081</pubmed></ref>。 | なお、CREB-CRTC相互作用はKID領域のSer133リン酸化とは関係なく制御されており、CBP/p300とは独立した刺激依存的なCREB転写活性機構であると考えられている<ref><pubmed>17476304</pubmed></ref><ref><pubmed>15454081</pubmed></ref>。 | ||
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== 長期シナプス可塑性および長期記憶形成 == | == 長期シナプス可塑性および長期記憶形成 == | ||
神経系におけるCREBの生理機能は、様々な生物種において様々なCREB機能阻害実験によって解析されている<ref><pubmed>9530494</pubmed></ref>。[[アメフラシ]]において[[エラ引き込み反射]]の長期増強には長期促通(long-term facilitation)と呼ばれる長期シナプス可塑性が関与しているが、この時、神経細胞に抗CREB抗体やデコイとなるCRE配列を注入すると[[長期促通]]が阻害される<ref><pubmed>2141668</pubmed></ref><ref><pubmed>9428516</pubmed></ref>。[[ショウジョウバエ]]においては、[[ドミナントネガティブ型]]CREBを過剰発現させることによってCREBの機能阻害を引き起こすと、匂いと電気ショックの[[連合学習]]後に短期記憶は獲得できるものの、長期記憶は障害される<ref><pubmed>7923376</pubmed></ref>。同様に、CREB欠損マウスにおける[[恐怖文脈条件づけ| | 神経系におけるCREBの生理機能は、様々な生物種において様々なCREB機能阻害実験によって解析されている<ref><pubmed>9530494</pubmed></ref>。[[アメフラシ]]において[[エラ引き込み反射]]の長期増強には長期促通(long-term facilitation)と呼ばれる長期シナプス可塑性が関与しているが、この時、神経細胞に抗CREB抗体やデコイとなるCRE配列を注入すると[[長期促通]]が阻害される<ref><pubmed>2141668</pubmed></ref><ref><pubmed>9428516</pubmed></ref>。[[ショウジョウバエ]]においては、[[ドミナントネガティブ型]]CREBを過剰発現させることによってCREBの機能阻害を引き起こすと、匂いと電気ショックの[[連合学習]]後に短期記憶は獲得できるものの、長期記憶は障害される<ref><pubmed>7923376</pubmed></ref>。同様に、CREB欠損マウスにおける[[恐怖文脈条件づけ|文脈依存的な恐怖条件付け課題]]では短期記憶は形成されるが長期記憶に障害があることが報告されている<ref><pubmed>7923378</pubmed></ref>。[[ラット]]を用いた[[空間学習]]課題の実験では、CREBのアンチセンスオリゴを[[海馬]]に局所注入してCREBの発現を抑制すると、短期記憶は正常に形成されるが、長期記憶には障害が生じる<ref><pubmed>9122258</pubmed></ref>。 | ||
マウスやラットにおいて海馬神経細胞におけるシナプスの[[長期増強]](long-term potentiation, LTP)は海馬依存的な学習および記憶形成に重要な役割を果たしていると考えられている。特に、数時間以上持続する[[後期LTP]](late-phase LTP)は長期記憶形成との関連が強く示唆されている。海馬神経細胞に活性化型CREBを発現させると、通常は後期LTPが起きない刺激条件でも後期LTPが成立することから、CREBあるいはCREBによって発現制御される遺伝子産物は海馬における後期LTPの成立に重要な役割を果たしていると考えられる<ref name=Barco2002/>。 | マウスやラットにおいて海馬神経細胞におけるシナプスの[[長期増強]](long-term potentiation, LTP)は海馬依存的な学習および記憶形成に重要な役割を果たしていると考えられている。特に、数時間以上持続する[[後期LTP]](late-phase LTP)は長期記憶形成との関連が強く示唆されている。海馬神経細胞に活性化型CREBを発現させると、通常は後期LTPが起きない刺激条件でも後期LTPが成立することから、CREBあるいはCREBによって発現制御される遺伝子産物は海馬における後期LTPの成立に重要な役割を果たしていると考えられる<ref name=Barco2002/>。 | ||
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しかし逆に、動物実験において[[側坐核]]などの特定の神経核においてCREB活性を強制的に上昇させた場合に鬱様の行動が惹起されることから<ref><pubmed>11549750</pubmed></ref>、正常な脳機能を保つためには適切なレベルのCREB依存的な転写調節が必要であると考えられる。 | しかし逆に、動物実験において[[側坐核]]などの特定の神経核においてCREB活性を強制的に上昇させた場合に鬱様の行動が惹起されることから<ref><pubmed>11549750</pubmed></ref>、正常な脳機能を保つためには適切なレベルのCREB依存的な転写調節が必要であると考えられる。 | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references/> | <references/> | ||