「ナノボディ」の版間の差分

 
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<font size="+1">山形方人</font><br>
<font size="+1">山形方人</font><br>
''Harvard University''<br>
''Harvard University''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2018年8月13日 原稿完成日:2018年8月x日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2018年8月13日 原稿完成日:2018年8月26日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/]( xx大学)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](京都大学大学院医学研究科)<br>
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英:nanobody 独:Nanobody, Nanoantikörper 仏:nanobody 中:纳米抗体 西:nanoanticuerpo
英:nanobody 独:Nanobody, Nanoantikörper 仏:nanobody 中:纳米抗体 西:nanoanticuerpo
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 最も一般的な免疫グロブリンIgGは重鎖と軽鎖からなっているが、ラクダ科や軟骨魚は重鎖のみでできた免疫グロブリンも持っている。この重鎖抗体は可変領域のみで抗原と結合でき、この小さな単一ドメインはナノボディ(またはVHH)と呼ばれる。ナノボディは、それぞれアミノ酸配列が厳密に定義され、通常の抗体と同じように、免疫沈降法などの生化学的解析や免疫組織化学などに利用できる。また、細胞内でも抗原と結合できる細胞内抗体などとして機能的に発現させることで、神経細胞を含めたさまざまな細胞生物学的分析に利用可能である。診断や抗体医薬への応用も期待される。}}
 最も一般的な免疫グロブリンIgGは重鎖と軽鎖からなっているが、ラクダ科や軟骨魚は重鎖のみでできた免疫グロブリンも持っている。この重鎖抗体は可変領域のみで抗原と結合でき、この小さな単一ドメインはナノボディ(またはVHH)と呼ばれる。ナノボディは、それぞれアミノ酸配列が厳密に定義され、通常の抗体と同じように、免疫沈降法などの生化学的解析や免疫組織化学などに利用できる。また、細胞内でも抗原と結合できる細胞内抗体などとして機能的に発現させることで、神経細胞を含めたさまざまな細胞生物学的分析に利用可能である。診断や抗体医薬への応用も期待される。}}


==単鎖抗体、重鎖抗体 、ナノボディ==
==単鎖抗体、重鎖抗体 、ナノボディ==
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==ナノボディー以外の組み換え結合体==
==ナノボディー以外の組み換え結合体==
 免疫グロブリンに由来するナノボディ以外に、免疫グロブリン以外に見られるタンパク質のドメインを用いて、新たな'''組み換え結合体'''(Recombinant binder, Programmable protein)を作製する方法もあり、原理的にはこのような組み換え結合体はナノボディと同じ利用法が可能である<ref name=Helma2015><pubmed>26056137</pubmed></ref><ref><pubmed>28249355</pubmed></ref> 。
 免疫グロブリンに由来するナノボディ以外に、免疫グロブリン以外に見られるタンパク質のドメインを用いて、新たな'''組み換え結合体'''(recombinant binder)を作製する方法もあり、原理的にはこのような組み換え結合体はナノボディと同じ利用法が可能である<ref name=Helma2015><pubmed>26056137</pubmed></ref><ref><pubmed>28249355</pubmed></ref> 。


 細胞接着分子[[wj:フィブロネクチン|フィブロネクチン]]中の代表的なモチーフであるtype IIIリピートは、免疫グロブリンドメインと構造が類似しており、これを他の分子に結合する免疫グロブリンのように改変することが可能である。この方法は、'''モノボディ'''(monobody)と名付けられている<ref><pubmed>22198408</pubmed></ref>。この方法は、ナノボディと違って、ジスルフィド結合によって構造が左右されないので、細胞内での還元状態の環境でも利用できる可能性が広がる。例えば、Arnoldのグループによって開発された'''FingR'''は、[[PSD-95]]や[[ゲフィリン]]といったシナプスタンパク質を認識することができる<ref><pubmed>23791193</pubmed></ref> 。
 細胞接着分子[[wj:フィブロネクチン|フィブロネクチン]]中の代表的なモチーフであるtype IIIリピートは、免疫グロブリンドメインと構造が類似しており、これを他の分子に結合する免疫グロブリンのように改変することが可能である。この方法は、'''モノボディ'''(monobody)と名付けられている<ref><pubmed>22198408</pubmed></ref>。この方法は、ナノボディと違って、ジスルフィド結合によって構造が左右されないので、細胞内での還元状態の環境でも利用できる可能性が広がる。例えば、Arnoldのグループによって開発された'''FingR'''は、[[PSD-95]]や[[ゲフィリン]]といったシナプスタンパク質を認識することができる<ref><pubmed>23791193</pubmed></ref> 。
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 近年、生命科学系の研究では、論文発表された実験結果の一部が容易に再現できないとされる問題がしばしば指摘されている。抗体の利用は、この再現性問題の重要な要因の1つであるとされる<ref><pubmed>25993940</pubmed></ref><ref><pubmed>29688318</pubmed></ref>。
 近年、生命科学系の研究では、論文発表された実験結果の一部が容易に再現できないとされる問題がしばしば指摘されている。抗体の利用は、この再現性問題の重要な要因の1つであるとされる<ref><pubmed>25993940</pubmed></ref><ref><pubmed>29688318</pubmed></ref>。


 例えば、ウサギなどからのポリクローナル抗体は、多数の異なる抗体分子を含んでいるため、免疫した動物などバッチごとの差が大きい。また、[[wj:モノクローン抗体]]は、ハイブリドーマ細胞を増殖させることで、永遠に同じものを得ることができるはずであるが、市販抗体は予期せず販売中止になったり、ハイブリドーマ細胞は極低温で凍結維持しなくてはならず、災害や個々の研究者の都合により失われてしまうこともある。
 例えば、ウサギなどからのポリクローナル抗体は、多数の異なる抗体分子を含んでいるため、免疫した動物などバッチごとの差が大きい。また、[[wj:モノクローナル抗体|モノクローナル抗体]]は、ハイブリドーマ細胞を増殖させることで、永遠に同じものを得ることができるはずであるが、市販抗体は予期せず販売中止になったり、ハイブリドーマ細胞は極低温で凍結維持しなくてはならず、災害や個々の研究者の都合により失われてしまうこともある。


 ナノボディは、アミノ酸配列レベルで定義されるので質は同じであり、DNAという形で安価で長期保存が可能である。万一DNAが失われても、登録されたアミノ酸配列をもとにして容易に再生できるので、抗体の利用研究の再現性問題の解決法として注目されている。
 ナノボディは、アミノ酸配列レベルで定義されるので質は同じであり、DNAという形で安価で長期保存が可能である。万一DNAが失われても、登録されたアミノ酸配列をもとにして容易に再生できるので、抗体の利用研究の再現性問題の解決法として注目されている。