「神経前駆細胞」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0193133 水谷健一]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0193133 水谷健一]</font><br>
''神戸学院大学大学院 薬学研究科 再生医学研究プロジェクト 幹細胞生物学研究室''<br>
''神戸学院大学大学院 薬学研究科 幹細胞生物学研究室''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2017年4月6日 原稿完成日:2017年4月17日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2017年4月6日 原稿完成日:2017年4月17日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
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 未分化型前駆細胞の維持・増殖には[[Notch]]シグナルが重要な役割を果たすことが知られている<ref name=ref15><pubmed> 11937492</pubmed></ref>。未分化型前駆細胞において、このNotchシグナルを[[Hes1]]の強制発現によって活性化すると、中間型前駆細胞の分子マーカー(Tbr2など)の発現を抑制すること<ref name=ref16><pubmed> 18400163</pubmed></ref>、未分化型前駆細胞が強いNotchシグナルを利用するのに対して、中間型前駆細胞は減弱したNotchシグナルを利用すること<ref name=ref17><pubmed> 17721509</pubmed></ref>から、Notchシグナルの変化が未分化型前駆細胞から中間型前駆細胞への推移に寄与している可能性がある。<br />
 未分化型前駆細胞の維持・増殖には[[Notch]]シグナルが重要な役割を果たすことが知られている<ref name=ref15><pubmed> 11937492</pubmed></ref>。未分化型前駆細胞において、このNotchシグナルを[[Hes1]]の強制発現によって活性化すると、中間型前駆細胞の分子マーカー(Tbr2など)の発現を抑制すること<ref name=ref16><pubmed> 18400163</pubmed></ref>、未分化型前駆細胞が強いNotchシグナルを利用するのに対して、中間型前駆細胞は減弱したNotchシグナルを利用すること<ref name=ref17><pubmed> 17721509</pubmed></ref>から、Notchシグナルの変化が未分化型前駆細胞から中間型前駆細胞への推移に寄与している可能性がある。<br />
 また、未分化型前駆細胞が2つの娘細胞に分裂する際に、片方の娘細胞だけに[[細胞周期]]調節因子である[[サイクリンD2]]が受け継がれ、その細胞運命を未分化な状態に維持することが明らかになっている<ref name=ref18><pubmed> 22395070 </pubmed></ref>ことから、様々な分子機構によって未分化型と中間型の前駆細胞の運命が制御されていると考えられる。


== 多極性細胞 ==
== 多極性細胞 ==
 最近の研究で、未分化型前駆細胞から生み出された未成熟な細胞(脳室帯を離れて皮質板へと移動を開始した直後の細胞)は、分化過程において脳室下帯や中間帯で多極性形態(多数の突起を持つ)細胞へとその形態を大きく変化させることが見出されており<ref name=ref6><pubmed> 18084280</pubmed></ref><ref name=ref19><pubmed> 14602813</pubmed></ref>、中間型前駆細胞の中には多極性形態を示す細胞が観察される。
 最近の研究で、未分化型前駆細胞から生み出された未成熟な細胞(脳室帯を離れて皮質板へと移動を開始した直後の細胞)は、分化過程において脳室下帯や中間帯で多極性形態(多数の突起を持つ)細胞へとその形態を大きく変化させることが見出されており<ref name=ref18><pubmed> 14602813</pubmed></ref>、中間型前駆細胞の中には多極性形態を示す細胞が観察される。


 この多極性細胞は、多数の突起を様々な方向に伸ばし、その突起を活発に伸縮させながら移動と滞留を繰り返し、全体としてはゆっくりと[[皮質板]]へと向かうが、このときの細胞移動は放射状突起を使わないとされている<ref name=ref6><pubmed> 18084280</pubmed></ref><ref name=ref19><pubmed> 27993981</pubmed></ref>。
 この多極性細胞は、多数の突起を様々な方向に伸ばし、その突起を活発に伸縮させながら移動と滞留を繰り返し、全体としてはゆっくりと[[皮質板]]へと向かうが、このときの細胞移動は放射状突起を使わないとされている。


 最近の研究では、未分化型前駆細胞が生み出した未成熟な細胞は、Tbr2陽性の中間型前駆細胞を経て[[NeuroD1]]を発現する多極性形態へと変化する[[細胞系譜]]と、Tbr2陽性細胞にならずに直接、NeuroD1陽性の多極性細胞へと変化する細胞系譜が観察されている<ref name=ref20><pubmed> 19150920</pubmed></ref>。
 最近の研究では、未分化型前駆細胞が生み出した未成熟な細胞は、Tbr2陽性の中間型前駆細胞を経て[[NeuroD1]]を発現する多極性形態へと変化する[[細胞系譜]]と、Tbr2陽性細胞にならずに直接、NeuroD1陽性の多極性細胞へと変化する細胞系譜が観察されている<ref name=ref19><pubmed> 19150920</pubmed></ref>。


 つまり、多極性細胞へ変化するタイミングの異なる2つの細胞系譜が存在することを意味しており、この違いが皮質板へと進入するタイミングの多様性を生むことで、異なる層を構成する神経細胞へと分化する可能性が示唆される<ref name=ref20><pubmed> 27993981</pubmed></ref>。
 つまり、多極性細胞へ変化するタイミングの異なる2つの細胞系譜が存在することを意味しており、この違いが皮質板へと進入するタイミングの多様性を生むことで、異なる層を構成する神経細胞へと分化する可能性が示唆される。


 さらには、未分化型前駆細胞が生み出した細胞が多極性細胞へと変化する際には、[[ミトコンドリア]]局在型の[[活性酸素]]種の量が大きく減少することが見出されており<ref name=ref21><pubmed> 27993981</pubmed></ref>、実際、多極性細胞のマーカーであるNeuroD1の転写活性は活性酸素種の量に依存して変化することが確認されていることから<ref name=ref21><pubmed> 27993981</pubmed></ref>、細胞内の代謝状態の変化が前駆細胞の推移に関与する可能性がある。さらには、未成熟な細胞と考えられている多極性細胞は、未だ細胞運命が決定されていない細胞が含まれている可能性が指摘されている<ref name=ref22><pubmed> 22726835</pubmed></ref>。
 さらには、未分化型前駆細胞が生み出した細胞が多極性細胞へと変化する際には、[[ミトコンドリア]]局在型の[[活性酸素]]種の量が大きく減少することが見出されており、実際、多極性細胞のマーカーであるNeuroD1の転写活性は活性酸素種の量に依存して変化することが確認されていることから<ref name=ref20><pubmed> 27993981</pubmed></ref>、細胞内の代謝状態の変化が前駆細胞の推移に関与する可能性がある。さらには、未成熟な細胞と考えられている多極性細胞は、未だ細胞運命が決定されていない細胞が含まれている可能性が指摘されている<ref name=ref21><pubmed> 22726835</pubmed></ref>。


 実際、こうした未分化型前駆細胞から中間型前駆細胞および多極性細胞への推移が上手く進行しないと、神経分化に決定的な異常を生じ、大脳皮質における層形成の異常を示すことが報告されている<ref name=ref21><pubmed> 27993981</pubmed></ref><ref name=ref22><pubmed> 22726835</pubmed></ref><ref name=ref23><pubmed> 23395638</pubmed></ref>]
 実際、こうした未分化型前駆細胞から中間型前駆細胞および多極性細胞への推移が上手く進行しないと、神経分化に決定的な異常を生じ、大脳皮質における層形成の異常を示すことが報告されている<ref name=ref21><pubmed> 22726835</pubmed></ref><ref name=ref22><pubmed> 23395638</pubmed></ref>]。また。最近の研究では、多極性細胞として移動してきた細胞はサブプレート層で移動を停止し、この際にサブプレートニューロンから伝達されるシグナルによって細胞の性質が変化することが、正常な分化に決定的な役割を果たすことが報告されている<ref name=ref23><pubmed> 29674592</pubmed></ref>。


== oRG前駆細胞 ==
== oRG前駆細胞 ==
 さらに最近の研究から、[[ヒト]]などの高等哺乳類の胎生期大脳皮質の外側脳室下帯には、神経細胞を生み出す「新たな前駆細胞」が存在することが明らかになっている<ref name=ref1><pubmed> 21036598</pubmed></ref><ref name=ref24><pubmed> 20154730</pubmed></ref><ref name=ref25><pubmed> 20436478</pubmed></ref>。この前駆細胞はoRG前駆細胞とよばれ、非脳室面で非対称分裂を行い、[[霊長類]]ばかりでなく[[齧歯類]]においても少なからず存在していることが確認されている<ref name=ref26><pubmed> 21389223 </pubmed></ref>。
 さらに最近の研究から、[[ヒト]]などの高等哺乳類の胎生期大脳皮質の外側脳室下帯には、神経細胞を生み出す「新たな前駆細胞」が存在することが明らかになっている<ref name=ref24><pubmed> 20154730</pubmed></ref><ref name=ref25><pubmed> 20436478</pubmed></ref>。この前駆細胞はoRG前駆細胞とよばれ、非脳室面で非対称分裂を行い、[[霊長類]]ばかりでなく[[齧歯類]]においても少なからず存在していることが確認されている<ref name=ref26><pubmed> 21389223 </pubmed></ref>。


 今後、これらの個々の前駆細胞が果たす役割が明らかになることで、大脳皮質の発生を制御する分子機構が明確化されることが期待される。
 今後、これらの個々の前駆細胞が果たす役割が明らかになることで、大脳皮質の発生を制御する分子機構が明確化されることが期待される。
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