「神経ペプチド」の版間の差分

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 [[wikipedia:ja:ロジェ・ギルマン|ロジェ・ギルマン]](R. Guillemin)と[[wikipedia:ja:アンドルー・ウィクター・シャリー|アンドルー・ウィクター・シャリー]](A. V. Schally)が、「脳のペプチドホルモン産生に関する発見」で、1977年に[[wikipedia:ja:ノーベル賞|ノーベル賞]]を受けている。彼らは何万もの[[wikipedia:ja:豚|豚]]の[[脳]]から生理活性を指標にペプチドを単離した。その研究においてA. Arimura, H. Matsuoらが重要な役割を演じている。また、「ペプチドホルモンの[[wikipedia:ja:放射免疫測定|放射性同位元素標識免疫検定法]](radioimmunoassay, RIA)の開発」で[[wikipedia:ja:ロサリン・ヤロー|ロサリン・ヤロー]](R. S. Yalow)が同時受賞している。これらの発見と技術開発はペプチドの研究、特に[[wikipedia:ja:内分泌学|内分泌学]]に革命的な変化をもたらした。その後、脳や[[wikipedia:ja:腸|腸]]管から多くのペプチドが単離され、C末端の[[wikipedia:ja:アミド|アミド]]化された構造が多くのペプチドに共通することが明らかになった。V. MuttとK. Tatemotoはその構造に着目し単離する化学的方法を開発した <ref><pubmed>6896083</pubmed></ref>。この方法により[[ニューロペプチドY]](neuropeptide Y; NPY)や[[ガラニン]](galanin)などの多くのペプチドが発見された。名称も生理活性ではなく構造から付けられた。例えば、NPYはチロシン(Y)残基を多く含むことによる。また、galaninはグリシン(G)で始まり、アラニンで終わる構造である。近年に至ってK. Kangawaらが[[グレリン]](ghrelin)を発見している<ref><pubmed>10604470</pubmed></ref>。このような歴史を経て現在までに、90の遺伝子が明らかになり、約100の神経ペプチドが知られるようになった<ref>http://www.neuropeptides.nl/</ref>。
 [[wikipedia:ja:ロジェ・ギルマン|ロジェ・ギルマン]](R. Guillemin)と[[wikipedia:ja:アンドルー・ウィクター・シャリー|アンドルー・ウィクター・シャリー]](A. V. Schally)が、「脳のペプチドホルモン産生に関する発見」で、1977年に[[wikipedia:ja:ノーベル賞|ノーベル賞]]を受けている。彼らは何万もの[[wikipedia:ja:豚|豚]]の[[脳]]から生理活性を指標にペプチドを単離した。その研究においてA. Arimura, H. Matsuoらが重要な役割を演じている。また、「ペプチドホルモンの[[wikipedia:ja:放射免疫測定|放射性同位元素標識免疫検定法]](radioimmunoassay, RIA)の開発」で[[wikipedia:ja:ロサリン・ヤロー|ロサリン・ヤロー]](R. S. Yalow)が同時受賞している。これらの発見と技術開発はペプチドの研究、特に[[wikipedia:ja:内分泌学|内分泌学]]に革命的な変化をもたらした。その後、脳や[[wikipedia:ja:腸|腸]]管から多くのペプチドが単離され、C末端の[[wikipedia:ja:アミド|アミド]]化された構造が多くのペプチドに共通することが明らかになった。V. MuttとK. Tatemotoはその構造に着目し単離する化学的方法を開発した <ref><pubmed>6896083</pubmed></ref>。この方法により[[ニューロペプチドY]](neuropeptide Y; NPY)や[[ガラニン]](galanin)などの多くのペプチドが発見された。名称も生理活性ではなく構造から付けられた。例えば、NPYはチロシン(Y)残基を多く含むことによる。また、galaninはグリシン(G)で始まり、アラニンで終わる構造である。近年に至ってK. Kangawaらが[[グレリン]](ghrelin)を発見している<ref><pubmed>10604470</pubmed></ref>。このような歴史を経て現在までに、90の遺伝子が明らかになり、約100の神経ペプチドが知られるようになった<ref>http://www.neuropeptides.nl/</ref>。


== 神経ペプチドと生理作用 ==
== 生理作用 ==


 神経ペプチドは[[中枢神経系|中枢]]のみならず[[末梢神経系]]にも存在し、細胞間の[[信号伝達分子]]として働いている。[[内分泌]]機能、[[生殖]]や[[摂食]]の調節、[[学習]]や[[記憶]]、[[痛覚]]に関与する。たとえば、[[視床下部]][[ニューロン]]の多くは神経ペプチドを含有する。[[オキシトシン]](oxytocin, OT)ニューロンと[[バゾプレシン]](vasopressin, VP)ニューロンは視床下部[[室傍核]]と[[視索上核]]に[[細胞体]]をもち、[[下垂体]][[後葉]]に投射して後葉ホルモン(OT, VP)を分泌する。VPは[[抗利尿ホルモン]](antidiuretic hormone, ADH)とも呼ばれる。また下垂体[[前葉]]を支配するのは[[正中隆起]]に[[軸索]]を投射する[[向下垂体ニューロン]]である。[[ドーパミン]]ニューロン以外はペプチド含有ニューロンである。それらは、[[副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン]](CRH)、[[甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン]](TRH)、[[成長ホルモン放出ホルモン]](GHRH)、[[性腺刺激ホルモン放出ホルモン]](GnRH、LHRH)、[[ソマトスタチン]](somatostatin)を分泌する。生殖には、GnRH、[[キスペプチン]](kisspeptin)、[[エンケファリン]](enkephalin)などが関与する。摂食の調節には[[オレキシン]](orexin), [[agouti-related peptide]] (AgRP), NPY, [[プロオピオメラノコルチン]] (proopiomelanocortin, POMC), [[コカイン・アンフェタミン調節転写産物]] (cocaine and amphetamine regulated transcript, CART), グレリン(ghrelin), [[メラニン濃縮ホルモン]] (melanin concentrating hormone, MCH)などのペプチドが関与する。また、学習・記憶に関わる神経ペプチドには、ソマトスタチン、[[バゾプレシン]]、ACTH、CRH、[[α-メラノサイト刺激ホルモン]] (α-melanocyte stimulating hormone, α-MSH)などが知られている。痛覚に関与するのは、[[サブスタンスP]] (substance P)、[[ニューロキニンA]] (neurokinin A)、[[カルシトニン遺伝子関連ペプチド]] (CGRP) および[[β-エンドルフィン]](β-endorphin)などである。
 神経ペプチドは[[中枢神経系|中枢]]のみならず[[末梢神経系]]にも存在し、細胞間の[[信号伝達分子]]として働いている。[[内分泌]]機能、[[生殖]]や[[摂食]]の調節、[[学習]]や[[記憶]]、[[痛覚]]に関与する。たとえば、[[視床下部]][[ニューロン]]の多くは神経ペプチドを含有する。[[オキシトシン]](oxytocin, OT)ニューロンと[[バゾプレシン]](vasopressin, VP)ニューロンは視床下部[[室傍核]]と[[視索上核]]に[[細胞体]]をもち、[[下垂体]][[後葉]]に投射して後葉ホルモン(OT, VP)を分泌する。VPは[[抗利尿ホルモン]](antidiuretic hormone, ADH)とも呼ばれる。また下垂体[[前葉]]を支配するのは[[正中隆起]]に[[軸索]]を投射する[[向下垂体ニューロン]]である。[[ドーパミン]]ニューロン以外はペプチド含有ニューロンである。それらは、[[副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン]](CRH)、[[甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン]](TRH)、[[成長ホルモン放出ホルモン]](GHRH)、[[性腺刺激ホルモン放出ホルモン]](GnRH、LHRH)、[[ソマトスタチン]](somatostatin)を分泌する。生殖には、GnRH、[[キスペプチン]](kisspeptin)、[[エンケファリン]](enkephalin)などが関与する。摂食の調節には[[オレキシン]](orexin), [[agouti-related peptide]] (AgRP), NPY, [[プロオピオメラノコルチン]] (proopiomelanocortin, POMC), [[コカイン・アンフェタミン調節転写産物]] (cocaine and amphetamine regulated transcript, CART), グレリン(ghrelin), [[メラニン濃縮ホルモン]] (melanin concentrating hormone, MCH)などのペプチドが関与する。また、学習・記憶に関わる神経ペプチドには、ソマトスタチン、[[バゾプレシン]]、ACTH、CRH、[[α-メラノサイト刺激ホルモン]] (α-melanocyte stimulating hormone, α-MSH)などが知られている。痛覚に関与するのは、[[サブスタンスP]] (substance P)、[[ニューロキニンA]] (neurokinin A)、[[カルシトニン遺伝子関連ペプチド]] (CGRP) および[[β-エンドルフィン]](β-endorphin)などである。