「膜融合」の版間の差分

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 膜融合は二つの分かれた[[wikipedia:JA:脂質二重膜|脂質二重膜]]からなる小胞が融合し、一つの小胞になる過程である。[[ゴルジ体]]や[[小胞体]]膜を構成する小胞のように数百nm程度の比較的小さい小胞同士が融合する場合が最も良く研究されている。また、ゴルジ体等から[[細胞膜]]に輸送される小胞が最終的には細胞膜と融合する場合もある。この現象は[[神経伝達物質]]等の[[細胞外分泌]](Exocytosis)に必要不可欠な過程である。また、より大きな細胞とウイルスの融合、あるいは細胞同士の融合も膜融合の過程ととらえることができる。膜融合は主にタンパク質によって進められ、SNAREが最も代表的なタンパク質群である。
 膜融合は二つの分かれた[[wj:脂質二重膜|脂質二重膜]]からなる小胞が融合し、一つの小胞になる過程である。[[ゴルジ体]]や[[小胞体]]膜を構成する小胞のように数百nm程度の比較的小さい小胞同士が融合する場合が最も良く研究されている。また、ゴルジ体等から[[細胞膜]]に輸送される小胞が最終的には細胞膜と融合する場合もある。この現象は[[神経伝達物質]]等の[[細胞外分泌]](Exocytosis)に必要不可欠な過程である。また、より大きな細胞とウイルスの融合、あるいは細胞同士の融合も膜融合の過程ととらえることができる。膜融合は主にタンパク質によって進められ、SNAREが最も代表的なタンパク質群である。
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 小胞が膜と結合する最初の段階の繋留には、多種が存在する[[Rab]] GTPaseに結合するRab 結合タンパク質が関与している場合が多いと考えられる。Rab結合タンパク質には、様々なものがあるが、いずれも[[SNAREタンパク質]]と機能的に、または、直接に結合することで、膜の融合を行う。
 小胞が膜と結合する最初の段階の繋留には、多種が存在する[[Rab]] GTPaseに結合するRab 結合タンパク質が関与している場合が多いと考えられる。Rab結合タンパク質には、様々なものがあるが、いずれも[[SNAREタンパク質]]と機能的に、または、直接に結合することで、膜の融合を行う。


 Rab結合タンパク質(Rabエフェクター)は[[wikipedia:JA:グアノシン三リン酸|GTP]]結合型の活性化Rabに結合する。これらには[[wikipedia:USO1|p115]](あるいはUso1)や[[wikipedia:GOLGA2|GM130]]、[[wikipedia:EEA1|EEA1]]、[[wikipedia:Exocyst|Exocyst complex]]などがあり、いずれもGolgi体や小胞体あるいはエクソサイトーシスにおける膜の融合に関与している。Rabのアミノ酸配列は保存性が高いが、Rab結合タンパク質のドメイン構造は様々である<ref><pubmed> 21248164 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 19473826 </pubmed></ref>。
 Rab結合タンパク質(Rabエフェクター)は[[wj:グアノシン三リン酸|GTP]]結合型の活性化Rabに結合する。これらには[[w:USO1|p115]](あるいはUso1)や[[w:GOLGA2|GM130]]、[[w:EEA1|EEA1]]、[[w:Exocyst|Exocyst complex]]などがあり、いずれもGolgi体や小胞体あるいはエクソサイトーシスにおける膜の融合に関与している。Rabのアミノ酸配列は保存性が高いが、Rab結合タンパク質のドメイン構造は様々である<ref><pubmed> 21248164 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 19473826 </pubmed></ref>。


===SNARE===
===SNARE===


 膜の融合装置の本体と考えられるものは、SNARE(Soluble N-ethylmaleimide sensitive fusion protein attachment protein receptor)タンパク質(SNARE)複合体である。SNAREタンパク質には、多くの場合、標的側と考えられる大きい方の構造体の脂質膜に存在する[[t-SNARE]]/Q-SNARE(Qa-SNARE:シンタキシン(Syntaxin)1A/1Bなど、QbあるいはQcあるいはQbc-SNARE:[[SNAP25]](synaptosomal-associated protein 25)など)と小胞側の[[v-SNARE]]/R-SNARE([[シナプトブレビン]]/[[VAMP]](vesicle-associated membrane protein)など)が存在している。動物細胞では少なくとも35種、[[wikipedia:JA:酵母|酵母]]で24種の異なるSNAREが存在しており、それぞれがオルガネラ特有のエクソサイトーシスや[[エンドサイトーシス]]に関連している。SNAREには様々な大きさと構造があるが、60-70アミノ酸からなる[[wikipedia:JA:コイルドコイル|コイルドコイル]]を含む共通のSNAREモチーフを持っている。SNAREsが小胞を正しいターゲット膜に融合させるというSNARE仮説が提唱されている。このSNARE複合体の形成には次に述べるSMタンパク質も重要であると考えられる。
 膜の融合装置の本体と考えられるものは、SNARE(Soluble N-ethylmaleimide sensitive fusion protein attachment protein receptor)タンパク質(SNARE)複合体である。SNAREタンパク質には、多くの場合、標的側と考えられる大きい方の構造体の脂質膜に存在する[[t-SNARE]]/Q-SNARE(Qa-SNARE:シンタキシン(Syntaxin)1A/1Bなど、QbあるいはQcあるいはQbc-SNARE:[[SNAP25]](synaptosomal-associated protein 25)など)と小胞側の[[v-SNARE]]/R-SNARE([[シナプトブレビン]]/[[VAMP]](vesicle-associated membrane protein)など)が存在している。動物細胞では少なくとも35種、[[wj:酵母|酵母]]で24種の異なるSNAREが存在しており、それぞれがオルガネラ特有のエクソサイトーシスや[[エンドサイトーシス]]に関連している。SNAREには様々な大きさと構造があるが、60-70アミノ酸からなる[[wj:コイルドコイル|コイルドコイル]]を含む共通のSNAREモチーフを持っている。SNAREsが小胞を正しいターゲット膜に融合させるというSNARE仮説が提唱されている。このSNARE複合体の形成には次に述べるSMタンパク質も重要であると考えられる。


 膜の融合過程においては、繋留の後、小胞側のv-SNARE/R-SNAREと標的側のt-SNARE(Qa-SNARE + Qbc-SNAREまたはQa-SNARE + Qc-SNARE + Qc-SAARE)の組み合わせで4つのヘリックス束を形成し、二つの膜をつなぎとめる。この状態をtrans-complexと呼ぶ。この状態で小胞と標的側の膜が近接した状態となり、脂質二重膜の[[wikipedia:JA:半融合|半融合]]を経て、膜が融合すると考えられている。膜融合の後のv-SNAREとt-SNAREの膜貫通ドメインが同じ膜上にある状態をcis-complexと呼ぶ。この過程(つまり膜融合)は、SNAREタンパク質のtransからcisへのフォールディングの変換に伴うエネルギーの放出を利用する熱力学的な過程と考えられていて、とくにATP等を必要とする訳ではない。しかし、cis-complexのSNAREsに[[N-ethylmaleimide-sensitive factor]] (NSF)が結合してATP依存的にSNARE複合体を解離させ、次の融合に備える<ref><pubmed> 16912714 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 18496517 </pubmed></ref>。この解離とアンフォールディングの過程でATPが消費される。
 膜の融合過程においては、繋留の後、小胞側のv-SNARE/R-SNAREと標的側のt-SNARE(Qa-SNARE + Qbc-SNAREまたはQa-SNARE + Qc-SNARE + Qc-SAARE)の組み合わせで4つのヘリックス束を形成し、二つの膜をつなぎとめる。この状態をtrans-complexと呼ぶ。この状態で小胞と標的側の膜が近接した状態となり、脂質二重膜の[[wj:半融合|半融合]]を経て、膜が融合すると考えられている。膜融合の後のv-SNAREとt-SNAREの膜貫通ドメインが同じ膜上にある状態をcis-complexと呼ぶ。この過程(つまり膜融合)は、SNAREタンパク質のtransからcisへのフォールディングの変換に伴うエネルギーの放出を利用する熱力学的な過程と考えられていて、とくにATP等を必要とする訳ではない。しかし、cis-complexのSNAREsに[[N-ethylmaleimide-sensitive factor]] (NSF)が結合してATP依存的にSNARE複合体を解離させ、次の融合に備える<ref><pubmed> 16912714 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 18496517 </pubmed></ref>。この解離とアンフォールディングの過程でATPが消費される。


===SMタンパク質===
===SMタンパク質===
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==ウイルスと宿主細胞の膜融合==
==ウイルスと宿主細胞の膜融合==


 [[wikipedia:JA:エンベロープ (ウイルス)|エンベロープウイルス]]は脂質二重層からなる膜を持つ。ウイルスは細胞の表面タンパク質に結合し、多くの場合エンドサイトーシスを経て、侵入する。エンベローブウイルス表面にあるタンパク質はエンベローブタンパク質と呼ばれ、そのうちのウイルスと宿主細胞の膜融合に関わる膜融合タンパク質は立体構造上の特徴によって2つに分類できる。クラスI融合タンパク質は、[[wikipedia:JA:インフルエンザウイルス|インフルエンザウイルス]]の[[wikipedia:JA:ヘマグルチニン|ヘマグルチニン]](HA2)や[[wikipedia:JA:エボラウイルス|エボラウイルス]]のGP2タンパク質、[[wikipedia:JA:HIV|HIV]]の[[wikipedia:gp41|gp41]]などに見られる。クラスII融合タンパク質は、[[wikipedia:Semliki Forest virus|セムリキ森林熱ウイルス]](SFV)のE1タンパク質や[[wikipedia:JA:デングウイルス|デングウイルス]]および[[wikipedia:JA:フラビウイルス|フラビウイルス]]のEタンパク質等に見られる。ウイルス表面に不活性な膜貫通型ウイルスタンパク質として存在する。
 [[wj:エンベロープ (ウイルス)|エンベロープウイルス]]は脂質二重層からなる膜を持つ。ウイルスは細胞の表面タンパク質に結合し、多くの場合エンドサイトーシスを経て、侵入する。エンベローブウイルス表面にあるタンパク質はエンベローブタンパク質と呼ばれ、そのうちのウイルスと宿主細胞の膜融合に関わる膜融合タンパク質は立体構造上の特徴によって2つに分類できる。クラスI融合タンパク質は、[[wj:インフルエンザウイルス|インフルエンザウイルス]]の[[wj:ヘマグルチニン|ヘマグルチニン]](HA2)や[[wj:エボラウイルス|エボラウイルス]]のGP2タンパク質、[[wj:HIV|HIV]]の[[w:gp41|gp41]]などに見られる。クラスII融合タンパク質は、[[w:Semliki Forest virus|セムリキ森林熱ウイルス]](SFV)のE1タンパク質や[[wj:デングウイルス|デングウイルス]]および[[wj:フラビウイルス|フラビウイルス]]のEタンパク質等に見られる。ウイルス表面に不活性な膜貫通型ウイルスタンパク質として存在する。


 これらの融合タンパク質は、ウイルスと細胞表面の[[受容体]]との結合や、エンドサイトーシス後の[[エンドソーム]]への移行に伴う[[wikipedia:JA:pH|pH]]変化をきっかけに、融合タンパク質に著しい構造変化がおき、[[wikipedia:JA:疎水性|疎水性]][[wikipedia:JA:アミノ酸|アミノ酸]]等の露出を伴って[[wikipedia:JA:宿主|宿主]]細胞の膜に結合することが可能になる。この際、ウイルス膜と細胞膜が近接し、膜融合が起こると考えられている<ref><pubmed> 16357862 </pubmed></ref>。
 これらの融合タンパク質は、ウイルスと細胞表面の[[受容体]]との結合や、エンドサイトーシス後の[[エンドソーム]]への移行に伴う[[wj:pH|pH]]変化をきっかけに、融合タンパク質に著しい構造変化がおき、[[wj:疎水性|疎水性]][[wj:アミノ酸|アミノ酸]]等の露出を伴って[[wj:宿主|宿主]]細胞の膜に結合することが可能になる。この際、ウイルス膜と細胞膜が近接し、膜融合が起こると考えられている<ref><pubmed> 16357862 </pubmed></ref>。


==ミトコンドリアの融合==
==ミトコンドリアの融合==


 [[wikipedia:JA:ミトコンドリア|ミトコンドリア]]は膜融合と分裂を繰り返し、膜タンパク質や内容物を混合する。融合と分裂は通常のミトコンドリアの機能に不可欠である。ミトコンドリアの融合には[[wikipedia:JA:ミトコンドリア#.E5.A4.96.E8.86.9C|外膜]]と[[wikipedia:JA:ミトコンドリア#.E5.86.85.E8.86.9C|内膜]]の融合が含まれる。
 [[wj:ミトコンドリア|ミトコンドリア]]は膜融合と分裂を繰り返し、膜タンパク質や内容物を混合する。融合と分裂は通常のミトコンドリアの機能に不可欠である。ミトコンドリアの融合には[[wj:ミトコンドリア#.E5.A4.96.E8.86.9C|外膜]]と[[wj:ミトコンドリア#.E5.86.85.E8.86.9C|内膜]]の融合が含まれる。


 融合にはダイナミン様GTPase群の[[wikipedia:Optic atrophy 1|Opa1]]や[[wikipedia:JA:MFN1|mitofusin]]が関与している。融合はミトコンドリアの外膜に存在する膜貫通型タンパク質のmitofusin(Mfn1, Mfn2)によって、ミトコンドリア同士が結合することから始まる<ref><pubmed> 12778126 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 15040446 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 20079867 </pubmed></ref>。
 融合にはダイナミン様GTPase群の[[w:Optic atrophy 1|Opa1]]や[[wj:MFN1|mitofusin]]が関与している。融合はミトコンドリアの外膜に存在する膜貫通型タンパク質のmitofusin(Mfn1, Mfn2)によって、ミトコンドリア同士が結合することから始まる<ref><pubmed> 12778126 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 15040446 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 20079867 </pubmed></ref>。


==細胞間の細胞融合==
==細胞間の細胞融合==


 細胞間の細胞融合には、[[wikipedia:JA:受精|受精]]時に生じるもの、[[wikipedia:JA:筋肉細胞|筋肉細胞]]の[[wikipedia:JA:多核化|多核化]]過程で生じるものが著名であるが、これらの膜融合過程におけるSNAREに相当する分子実体は不明である。分子実体の明らかになっている内在性の機構によって生じる細胞融合には、次のようなものがある。[[線虫]](Caenorhabditis elegans)の[[wikipedia:JA:anchor cell fusion failure|anchor cellfusion failure]]-1 (AFF‑1) と [[wikipedia:JA:epithelial fusion failure|epithelial fusion failure]]-1(EFF‑1)は、細胞をつなぎとめ、神経細胞の回路の形成に関与する細胞融合を媒介すると考えられている<ref><pubmed> 21436398 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 20448153 </pubmed></ref>。[[wikipedia:ERVWE1|Syncytin]]は胎盤に発現しており、胎盤の外側を取り巻く[[wikipedia:JA:合胞体性栄養膜|合胞体性栄養膜]]を形成する際の栄養膜細胞同士の融合を担う。Syncytinはヒト内在性のレトロウイルスの産生タンパク質である<ref><pubmed> 15644441 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 22109522 </pubmed></ref>。
 細胞間の細胞融合には、[[wj:受精|受精]]時に生じるもの、[[wj:筋肉細胞|筋肉細胞]]の[[wj:多核化|多核化]]過程で生じるものが著名であるが、これらの膜融合過程におけるSNAREに相当する分子実体は不明である。分子実体の明らかになっている内在性の機構によって生じる細胞融合には、次のようなものがある。[[線虫]](Caenorhabditis elegans)の[[wj:anchor cell fusion failure|anchor cellfusion failure]]-1 (AFF‑1) と [[wj:epithelial fusion failure|epithelial fusion failure]]-1(EFF‑1)は、細胞をつなぎとめ、神経細胞の回路の形成に関与する細胞融合を媒介すると考えられている<ref><pubmed> 21436398 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 20448153 </pubmed></ref>。[[w:ERVWE1|Syncytin]]は胎盤に発現しており、胎盤の外側を取り巻く[[wj:合胞体性栄養膜|合胞体性栄養膜]]を形成する際の栄養膜細胞同士の融合を担う。Syncytinはヒト内在性のレトロウイルスの産生タンパク質である<ref><pubmed> 15644441 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 22109522 </pubmed></ref>。


==関連項目==
==関連項目==