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| | retrieval |
| <font size="+1">橋本 照男</font><br>
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| ''独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br>
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| DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年12月5日 原稿完成日:2013年2月1日<br>
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| 担当編集委員:[http://researchmap.jp/atsushiiriki 入來 篤史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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| 英語名:retrieval 独:Abruf
| | 記憶(符号化、encoding)された情報を探して取り出すこと。その結果が想起であるが、検索と想起を区別しない場合もある。 |
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| {{box|text=
| | 目次 |
| [[記憶]]([[符号化]]、encoding)された情報の中から目的とする情報を探して取り出すこと。その結果が[[想起]]であるが、検索と想起を区別しない場合もある。
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| }}
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| == 概要 ==
| | 1 概要 |
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| 知っている人の名前を思い出せないことがあるように、[[学習]]と保持は出来ていても、検索が成功する場合と失敗する場合がある。記憶が失われたのではなく利用可能であるが、アクセスできない状態<ref>''' Tulving E, & Pearlstone Z.'''<br>Availability versus accesibility of information in memory for words.'':1966</ref>があることは、検索の重要性を示している。学習は想起に最も大きな影響を持つが、記憶は学習した内容がそのまま再生されるのではなく、学習した情報を元に想起時に作り出されるもので、検索そして想起により再構築されるものであり、構成的である<ref>'''Bartlett, F.C.'''<br>Remembering. A study in experimental and social psychology.<br>''Cambridge: Cambridge University Press.'':1932</ref>。よって、検索はtop-downの制御を受け、誘導されやすい性質を持つ<ref>''' Collins, A. M., & Loftus, E. F.'''<br>A spreading activation theory of semantic processing.<br>''Psychol Rev'', 82, 407-428.:1975</ref>。
| | 2 検索手がかり |
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| == 活性化モデル ==
| | 3 神経基盤 |
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| activation model
| | == 概要 == |
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| 検索により記憶が活性化状態となり、それが伝播・拡散していくことが仮定されている<ref><pubmed> 8346330 </pubmed></ref>。 また、短期記憶の中の項目数が増えるに従って検索時間が増加する<ref><pubmed> 5939936 </pubmed></ref>ことは、項目の増加により各項目の活性化が減少することによると仮定されている<ref>'''Monsell, S'''<br>Recency, immediate recognition memory, and reaction time.<br>''Cogn Psychol,'' 10, 465–501.:1979</ref>。
| | 記憶が失われたのではなく利用可能であるが、アクセスできない状態がある[1]ことは、検索の重要性を示している。学習、符号化は出来ていても、検索が成功する場合と失敗する場合がありえる。 検索、そして想起は構成的である [2]。記憶は再生されるのではなく、学習した情報を元に作り出される。よって、検索はtop-downの制御を受け、誘導されやすい性質を持つ[3]。また、検索により記憶が活性化状態となり、それが伝播・拡散していくことが仮定されている[4]。 前に学習した記憶の検索が、後に学習した記憶の検索に対して妨害的に働く干渉と、後の学習がそれ以前の学習に対して妨害的に働く干渉とがある。複数の学習に共通または対立する情報が含まれる場合、それらの検索に干渉が起きると考えられる[5]。また、干渉は遅延によっても影響を受ける。 検索、想起を繰り返すことは学習を繰り返すことよりも記憶保持に効果的である[6]。ただし検索の干渉があり、例えばA-B、A-Cの連合を学習した後、A-Bのみ検索、想起を繰り返すと、A-Cの想起が困難になる現象を検索誘導性忘却という [7]。 |
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| == 検索の制御 ==
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| control processes in retrieval
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| 意図的・方略的な想起と自動的・無意識な想起の乖離があると考えられている<ref>'''Jacoby, L. L'''<br>A process dissociation framework: Separating automatic from intention uses of memory.<br>''J Mem Lang,'' 30, 513–541.:1991</ref>が、検索は意図的、能動的、合目的であると言える。また、検索努力retrieval effortと検索成功retrieval successの乖離も示唆されている<ref><pubmed> 9597657 </pubmed></ref>。
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| == モニタリング ==
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| monitoring
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| 検索した記憶の情報源sourceや新近性recencyなどの詳細、さらに記憶の確からしさconfidence等を評価することを検索(後)モニタリングと呼ぶ。想起内容についての評価、判断でありメタ認知でもある。学習が不十分な場合や、混同しやすい情報がある場合等の検索にはモニタリングを伴うため、検索処理と併せて扱われることが多い。
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| == 検索手がかり == | | == 検索手がかり == |
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| retrieval cue | | retrieval cue 膨大な記憶情報のなかから目標とする情報を探し出すためには,目標とする情報と関連する情報を手がかりとして有効に利用することが重要である。適切な手がかりを用いることにより,記憶検索は促進される。符号化特定性原理[8]では、記銘時の符号化の文脈的状況と一致する手がかりほど有効とされる。記銘時の脳活動と検索時の脳活動が近いほど検索が成功しやすいという報告もある[9]。 |
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| 膨大な記憶情報のなかから目標とする情報を探し出すためには,目標とする情報と関連する情報を手がかりとして有効に利用することが重要である。適切な手がかりを用いることにより,記憶検索は促進される。[[符号化特定性原理]]<ref>'''Tulving, E., & Thomson, D. M.'''<br>Encoding specificity and retrieval processes in episodic memory.<br>''Psychol Rev,'' 80, 352–373.:1973</ref>では、記銘時の符号化の文脈的状況と一致する手がかりほど有効とされる。記銘時の脳活動と検索時の脳活動パターンが近いほど検索が成功しやすいという報告もある<ref><pubmed> 16373577 </pubmed></ref>。
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| == 干渉 ==
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| interference
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| 前に学習した記憶の検索が、後に学習した記憶の検索に対して妨害的に働く干渉と、後の学習がそれ以前の学習に対して妨害的に働く干渉とがある。複数の学習に共通または対立する情報が含まれる場合、それらの検索に干渉が起きると考えられる<ref>'''Roediger, H. L., III, & McDermott, K. B.'''<br>Creating false memories: Remembering words not presented in lists. <br>''J Exp Psychol Learn Mem Cogn'', 21, 803–814.:1995</ref>。また、干渉は遅延によっても影響を受ける。検索、想起を繰り返すことは学習を繰り返すことよりも記憶[[保持]]に効果的である<ref><pubmed> 18276894 </pubmed></ref>。ただし検索の干渉があり、例えばA-B、A-Cの連合を学習した後、A-Bのみ検索、想起を繰り返すと、A-Cの想起が困難になる現象を[[検索誘導性忘却]]という<ref><pubmed> 7931095 </pubmed></ref>。
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| == 忘却 ==
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| forgetting
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| 保持されている記憶が想起できないのは検索失敗であるが、保持・固定が不十分であると、記憶が減衰し忘却される。発症以前の出来事が想起できない逆向健忘症において、発症に時間的に近い記憶は忘却され回復しないが、発症から離れた古い記憶は想起できる場合が多い<ref><pubmed> 12244076 </pubmed></ref>。
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| == 神経基盤 == | | == 神経基盤 == |
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| 脳画像研究において、検索に関わる部位は[[前頭]]と[[頭頂]]の外側部である<ref><pubmed> 12217177 </pubmed></ref>。側頭内側部は記銘と検索・想起の両方、さらに検索が成功でも失敗でも関わっていること等が考えられるため、その活動が検出されにくいのかもしれない。検索及び検索後モニタリングには、前頭葉背外側部と頭頂葉後部が関わっており、注意のメカニズムと関連が示唆されており<ref><pubmed> 18641668 </pubmed></ref>。検索成功に関わる脳部位としては、前頭葉内側部、頭頂葉後部、頭頂葉内側部が示唆されている<ref><pubmed> 19835893 </pubmed></ref>。
| | 脳画像研究において、検索に関わる部位は前頭と頭頂の外側部である[10]。側頭内側部は記銘と検索・想起の両方、さらに検索が成功でも失敗でも関わっていること等が考えれるため、その活動が検出されにくいのかもしれない。検索及び検索後モニタリングには、前頭葉背外側部と頭頂葉後部が関わっており、注意のメカニズムと関連が示唆されている[11]。 |
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| ==関連項目==
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| *[[記憶]]
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| *[[記憶の分類]]
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| *[[想起]]
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| == 参考文献 ==
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| <references/>
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retrieval
記憶(符号化、encoding)された情報を探して取り出すこと。その結果が想起であるが、検索と想起を区別しない場合もある。
目次
1 概要
2 検索手がかり
3 神経基盤
概要
記憶が失われたのではなく利用可能であるが、アクセスできない状態がある[1]ことは、検索の重要性を示している。学習、符号化は出来ていても、検索が成功する場合と失敗する場合がありえる。 検索、そして想起は構成的である [2]。記憶は再生されるのではなく、学習した情報を元に作り出される。よって、検索はtop-downの制御を受け、誘導されやすい性質を持つ[3]。また、検索により記憶が活性化状態となり、それが伝播・拡散していくことが仮定されている[4]。 前に学習した記憶の検索が、後に学習した記憶の検索に対して妨害的に働く干渉と、後の学習がそれ以前の学習に対して妨害的に働く干渉とがある。複数の学習に共通または対立する情報が含まれる場合、それらの検索に干渉が起きると考えられる[5]。また、干渉は遅延によっても影響を受ける。 検索、想起を繰り返すことは学習を繰り返すことよりも記憶保持に効果的である[6]。ただし検索の干渉があり、例えばA-B、A-Cの連合を学習した後、A-Bのみ検索、想起を繰り返すと、A-Cの想起が困難になる現象を検索誘導性忘却という [7]。
検索手がかり
retrieval cue 膨大な記憶情報のなかから目標とする情報を探し出すためには,目標とする情報と関連する情報を手がかりとして有効に利用することが重要である。適切な手がかりを用いることにより,記憶検索は促進される。符号化特定性原理[8]では、記銘時の符号化の文脈的状況と一致する手がかりほど有効とされる。記銘時の脳活動と検索時の脳活動が近いほど検索が成功しやすいという報告もある[9]。
神経基盤
脳画像研究において、検索に関わる部位は前頭と頭頂の外側部である[10]。側頭内側部は記銘と検索・想起の両方、さらに検索が成功でも失敗でも関わっていること等が考えれるため、その活動が検出されにくいのかもしれない。検索及び検索後モニタリングには、前頭葉背外側部と頭頂葉後部が関わっており、注意のメカニズムと関連が示唆されている[11]。