「抗てんかん薬」の版間の差分

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''神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 脳神経内科学分野''<br>
''神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 脳神経内科学分野''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2020年4月1日 原稿完成日:20XX年XX月X日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2020年4月1日 原稿完成日:20XX年XX月X日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学 内科学講座 脳神経内科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 神経内科)<br>
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{{box|text= 抗てんかん薬は、てんかんの病態を治癒に導くものではないが、てんかん発作の消失ないし頻度減少や、発作症状の程度の軽減などといった、発作抑制効果を患者にもたらす。抗てんかん薬の効果は、作用点との関連で、①電位依存型イオンチャネル、②リガンド(配位子)依存型イオンチャネル(細胞膜に置かれた受容体の一種で、情報伝達物質がリガンドとして結合、すなわち配位することで機能するイオンチャネル)、③GABA代謝阻害、④シナプス小胞蛋白2A、の4つの大きなグループに分けられる。抗てんかん薬治療は単剤治療を原則とする。単剤治療で約半数の患者の発作が抑制される。単剤で発作の抑制が不良な場合、合理的多剤併用療法を行う。てんかん患者のうち 約30%は、既存の抗てんかん薬を組み合わせても発作抑制効果が不十分な薬剤抵抗性てんかんと言われている。薬剤抵抗性てんかんに対しては、薬物療法の再検討、およびてんかん外科(てんかん焦点切除術、脳梁離断術、迷走神経刺激療法など)などの他の治療法を検討する。自己免疫介在性の病態であれば免疫療法が奏功する。}}
{{box|text= 抗てんかん薬は、てんかんの病態を治癒に導くものではないが、てんかん発作の消失ないし頻度減少や、発作症状の程度の軽減などといった、発作抑制効果を患者にもたらす。抗てんかん薬の効果は、作用点との関連で、①電位依存型イオンチャネル、②配位依存型イオンチャネル(細胞膜に置かれた受容体の一種で、情報伝達物質が結合、すなわち配位することで機能するイオンチャネル)、③GABA代謝阻害、④シナプス小胞蛋白2A、の4つの大きなグループに分けられる。抗てんかん薬治療は単剤治療を原則とする。単剤治療で約半数の患者の発作が抑制される。単剤で発作の抑制が不良な場合、合理的多剤併用療法を行う。てんかん患者のうち 約30%は、既存の抗てんかん薬を組み合わせても発作抑制効果が不十分な薬剤抵抗性てんかんと言われている。薬剤抵抗性てんかんに対しては、薬物療法の再検討、およびてんかん外科(てんかん焦点切除術、脳梁離断術、迷走神経刺激療法など)などの他の治療法を検討する。自己免疫介在性の病態であれば免疫療法が奏功する。}}


==抗てんかん薬とは==
==抗てんかん薬とは==
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(文献<ref name=ref2 />より引用)]]
(文献<ref name=ref2 />より引用)]]
== 作用機序 ==
== 作用機序 ==
 抗てんかん薬は、イオンチャネルに対して影響を与え、神経細胞の過剰興奮を抑制することでその発作抑制効果を発揮していると考えられている。その作用点は大きく7つが現在挙げられている。'''図1.'''に、抗てんかん薬の主な作用機序を示す<ref name=ref2>'''吉村元、松本理器'''<br>てんかんの新規治療薬<br>Annual Review神経2018 中外医学社、2018</ref>。'''表1.'''に主要な薬剤とイオンチャネルの関係で、比較的よくわかっているものを、'''表2.'''に抗てんかん薬の作用点による効果の特徴をまとめた<ref name=ref3>'''兼本浩祐'''<br>てんかん学ハンドブック 第3版<br>医学書院, 2012</ref>。
 抗てんかん薬は、イオンチャネルに対して影響を与え、神経細胞の過剰興奮を抑制することでその発作抑制効果を発揮していると考えられている。その作用点は大きく7つが現在挙げられている。'''図1.'''に、抗てんかん薬の主な作用機序を示す<ref name=ref2>'''吉村元、松本理器'''<br>てんかんの新規治療薬<br>Annual Review神経2018 中外医学社、2018</ref>。'''表1.'''に主要な薬剤とイオンチャネルの関係で、比較的よくわかっているものをまとめた<ref name=ref3>'''兼本浩祐'''<br>てんかん学ハンドブック 第3版<br>医学書院, 2012</ref>。


 抗てんかん薬の効果は、'''表1.'''に整理したように、作用点との関連で、①電位依存型イオンチャネル、②リガンド(配位子)依存型イオンチャネル、③GABA代謝阻害、④シナプス小胞タンパク質2A、の4つの大きなグループに分けて考えると理解しやすい。なお、リガンド依存型イオンチャネルとは、細胞膜に置かれた受容体の一種で、情報伝達物質が結合する(配位される)ことで機能するイオンチャネルのことである。
 抗てんかん薬の効果は、'''表1.'''に整理したように、作用点との関連で、①電位依存型イオンチャネル、②配位依存型イオンチャネル、③GABA代謝阻害、④シナプス小胞タンパク質2A、の4つの大きなグループに分けて考えると理解しやすい。なお、配位依存型イオンチャネルとは、細胞膜に置かれた受容体の一種で、情報伝達物質が結合することで(配位されることで)機能するイオンチャネルのことである。


 選択的ナトリウム(Na<sup>+</sup>)チャネル阻害薬、選択的高電位活性型(非T型)カルシウム(Ca<sup>2+</sup>)チャネル阻害薬、選択的GABA代謝阻害薬は、いずれも焦点性てんかんに選択的に有効であるが、一方で特発性全般てんかん群を悪化させる場合がある。対照的に、選択的な低電位活性型(T型)カルシウムチャネル阻害薬は、欠神発作あるいは欠神脱力発作といった特発性の全般発作に選択的に有効性を示す。抗グルタミン酸受容体作用をもつ薬剤(トピラマート、ラモトリギン、バルプロ酸ナトリウム、ペランパネル)、シナプス小胞タンパク質に作用するとされるレベチラセタ、やNa<sup>+</sup>チャネル阻害作用と抗低電位活性型(T型)カルシウムチャネル阻害作用を有するゾニサミドは、抗焦点起始発作(部分発作)と抗全般起始発作(全般発作)作用を併せもち、広域スペクトラムの抗てんかん薬と位置づけられる。
 選択的ナトリウム(Na<sup>+</sup>)チャネル阻害薬、選択的高電位活性型(非T型)カルシウム(Ca<sup>2+</sup>)チャネル阻害薬、選択的GABA代謝阻害薬は、いずれも焦点性てんかんに選択的に有効であるが、一方で特発性全般てんかん群を悪化させる場合がある。対照的に、選択的な低電位活性型(T型)カルシウムチャネル阻害薬は、欠神発作あるいは欠神脱力発作といった特発性の全般発作に選択的に有効性を示す。抗グルタミン酸受容体作用をもつ薬剤(トピラマート、ラモトリギン、バルプロ酸ナトリウム、ペランパネル)、シナプス小胞タンパク質に作用するとされるレベチラセタ、やNa<sup>+</sup>チャネル阻害作用と抗低電位活性型(T型)カルシウムチャネル阻害作用を有するゾニサミドは、抗焦点起始発作(部分発作)と抗全般起始発作(全般発作)作用を併せもち、広域スペクトラムの抗てんかん薬と位置づけられる。
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文献<ref name=ref3 />から改変して引用
文献<ref name=ref3 /><ref name=ref4 />を元に作成


== 我が国での臨床における抗てんかん薬の現状 ==
== 我が国での臨床における抗てんかん薬の現状 ==