「神経細胞リプログラミング」の版間の差分

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<font size="+1">山下 徹</font><br>
<font size="+1">[https://researchmap.jp/toruyamashita 山下 徹]、[https://researchmap.jp/read0168070 阿部 康二]</font><br>
<font size="+1">[https://researchmap.jp/read0168070 阿部 康二]</font><br>
''岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 脳神経内科学''<br>
''岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 脳神経内科学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2020年6月29日 原稿完成日:2020年X月XX日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2020年6月29日 原稿完成日:2020年7月1日<br>
担当編集委員:[https://researchmap.jp/hiroshikawasaki 河崎 洋志](金沢大学 医学系 脳神経医学教室)<br>
担当編集委員:[https://researchmap.jp/hiroshikawasaki 河崎 洋志](金沢大学 医学系 脳神経医学教室)<br>
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{{box|text= 神経細胞へのリプログラミング(以下神経細胞リプログラミング)とは、本来、分化多能性を喪失している体細胞から多能性幹細胞を経ずに神経系細胞を直接誘導することを意味する。また本手法で誘導された細胞をinduced neuronal (iN)細胞と呼称する。比較的短期間で誘導可能かつ腫瘍形成リスクが低いため、ヒト疾患細胞モデルを利用した病態解明や薬剤スクリーニングならびに再生医療への応用が期待されている。}}
{{box|text= 神経細胞へのリプログラミング(以下神経細胞リプログラミング)とは、本来、分化多能性を喪失している体細胞から多能性幹細胞を経ずに神経系細胞を直接誘導することを意味する。また本手法で誘導された細胞をinduced neuronal (iN)細胞と呼称する。比較的短期間で誘導可能かつ腫瘍形成リスクが低いため、ヒト疾患細胞モデルを利用した病態解明や薬剤スクリーニングならびに再生医療への応用が期待されている。}}


== 神経細胞リプログラミング発見の経緯 ==
==発見の経緯 ==
[[ファイル:Yamashita Fig1.jpg|サムネイル|200px|'''図1. マウスiN細胞'''<br>[[樹状突起]]マーカー[[MAP2]]並びに[[カテコールアミン]]神経のマーカーである[[チロシン水酸化酵素]](TH)の染色。矢印がiN細胞の[[細胞体]]。]]
[[ファイル:Yamashita Fig1.jpg|サムネイル|200px|'''図1. マウスiN細胞'''<br>[[樹状突起]]マーカー[[MAP2]]並びに[[カテコールアミン]]神経のマーカーである[[チロシン水酸化酵素]](TH)の染色。矢印がiN細胞の[[細胞体]]。]]
 2006年の[[iPS細胞]]の発見により、いくつかの[[転写因子]]を強制発現することで、[[線維芽細胞]]などの[[体細胞]]から異なる細胞種を誘導できることが示された。[[ES細胞]]に強く発現し機能的に重要な[[Oct3]]/[[Oct4|4]]、[[Sox2]]、[[Klf4]]、[[c-Myc]]の4つの転写因子群を強制発現させるとES細胞に非常に類似した性質を持つiPS細胞が誘導できた事実から、神経細胞に強く発現している転写因子群を強制発現させると、直接神経細胞を誘導できるのではないかと多くの研究者達が予想したのである。
 2006年の[[iPS細胞]]の発見により、いくつかの[[転写因子]]を強制発現することで、[[線維芽細胞]]などの[[体細胞]]から異なる細胞種を誘導できることが示された。[[ES細胞]]に強く発現し機能的に重要な[[Oct3]]/[[Oct4|4]]、[[Sox2]]、[[Klf4]]、[[c-Myc]]の4つの転写因子群を強制発現させるとES細胞に非常に類似した性質を持つiPS細胞が誘導できた事実から、神経細胞に強く発現している転写因子群を強制発現させると、直接神経細胞を誘導できるのではないかと多くの研究者達が予想したのである。
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 この発見を嚆矢として[[運動ニューロン]]<ref name=Son2011><pubmed>21852222</pubmed></ref> や[[ドパミン]]作動性ニューロン<ref name=Caiazzo2011><pubmed>21725324</pubmed></ref> 、[[ノルアドレナリン]]作動性ニューロン<ref name=Li2019><pubmed>31315047</pubmed></ref> 、[[神経幹細胞]]<ref name=Han2012><pubmed>22445517</pubmed></ref><ref name=Lujan2012><pubmed>22308465</pubmed></ref> など多様な神経系細胞が誘導できることがこれまでに報告されてきている'''(図1)'''。
 この発見を嚆矢として[[運動ニューロン]]<ref name=Son2011><pubmed>21852222</pubmed></ref> や[[ドパミン]]作動性ニューロン<ref name=Caiazzo2011><pubmed>21725324</pubmed></ref> 、[[ノルアドレナリン]]作動性ニューロン<ref name=Li2019><pubmed>31315047</pubmed></ref> 、[[神経幹細胞]]<ref name=Han2012><pubmed>22445517</pubmed></ref><ref name=Lujan2012><pubmed>22308465</pubmed></ref> など多様な神経系細胞が誘導できることがこれまでに報告されてきている'''(図1)'''。
== 特徴 ==
== 特徴 ==
 iN細胞は、iPS細胞の状態を介さずに直接目的である神経系細胞に分化誘導するため、①比較的短期間で誘導可能、②腫瘍化のリスクが低い点が利点である。一方、iN細胞を誘導した時点で原則[[細胞分裂]]が停止し増殖させることが出来ない点が欠点である。
 iN細胞は、iPS細胞の状態を介さずに直接目的である神経系細胞に分化誘導するため、①比較的短期間で誘導可能、②腫瘍化のリスクが低い点が利点である。一方、iN細胞を誘導した時点で原則[[細胞分裂]]が停止し増殖させることが出来ない点が欠点である。