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DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2020年7月18日 原稿完成日:20XX年X月X日<br> | ||
担当編集委員:[https://researchmap.jp/ | 担当編集委員:[https://researchmap.jp/ctx 花嶋 かりな](早稲田大学 教育・総合科学術院 先進理工学研究科)<br> | ||
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Regionalization of the brain) | |||
脳領域に存在する細胞の種類は極めて多岐にわたるが、その多様化・領域化は、脳発生の初期から起こり始めている。この項では、領域化に関与する転写因子と、その発現を誘導するオーガナイザーや分泌因子を中心に、脊椎動物の脳が神経外胚葉から各細胞が分化し、組織内で領域化されるまでの過程を中心に記述する。 | |||
なお、本項目の内容は、別項目の「前後軸」(高橋)とも一部重複する。 | |||
初期胚におけるおおまかな領域の決定 | |||
脊椎動物では、原腸形成期に胚の背側に神経板が出現し、原腸形成期の後半からOtx2(Orthodenticle Homeobox 2)という転写因子が、頭部神経板領域(将来前脳・中脳領域に分化する部分)に発現する <ref name=Acampora1995><pubmed>7588062</pubmed></ref> 。Otx2はほかに胚盤葉上層、眼にも発現しており、それぞれに特異的なエンハンサー領域が存在する <ref name=Kurokawa2004><pubmed>15201223</pubmed></ref> 。一方、後脳には別の転写因子Gbx2が発現し <ref name=Islam2006><pubmed>17067785</pubmed></ref> 、Otx2のエンハンサー領域の一部に結合してOtx2の発現領域を制限する <ref name=Inoue2012><pubmed>22566684</pubmed></ref> 。 | |||
2次オーガナイザー領域の形成 | |||
脳のさらなる領域化には、以下の3つのオーガナイザー領域(シグナリングセンターとして分泌因子を産生する領域)が存在し、FGFやShh、Wntなどの分泌因子を発現し、脳の領域を決定している。(なお以下のオーガナイザー領域の日本語名は、英語名を直訳した試訳である)。 | |||
2-1. Anterior Neural Ridge(ANR):前部神経端 | |||
この領域自体は非神経性細胞からなっているが、主にFGF8を発現しており、転写因子BF-1の発現を誘導する。BF-1はANRの機能を相補する(ANRがなくてもBF-1が発現したら終脳が正常に発生する)ため、BF-1はANRによって誘導される主要な因子である <ref name=Shimamura1997><pubmed>9226442</pubmed></ref> 。 | |||
2-2. Zona limitans intrathalamica(ZLI) | |||
この部分は、前脳から発生した大脳を2つの異なる性質を持つ領域に分ける領域である。大脳部分はプロソメアという区分に従って3つに分割することができるが、前部から順に、p3, p2, p1と分けられる領域のうち、p2とp3を分けるものがZLIである。ZLIが発現するのはソニック・ヘッジホッグ(Sonic Hedgehog; Shh)である<ref name=Kiecker2004><pubmed>15494730</pubmed></ref> 。ZLIの前後では、Shhに対する細胞の反応性が異なり、ZLIよりも前部ではDlx2が、後部ではIrx3、Gbx2の発現が誘導される。 | |||
== | 2-2. Isthmic Organiser(IsO):峡部オーガナイザー | ||
Midbrain-Hindbrain Boundary(MHB):中脳/後脳境界 | |||
この領域からは、FGF8やWnt1などの分泌因子が分泌され、中脳や小脳に発現する転写因子を発現誘導する。MHBにおけるFGF8やWnt1の発現には転写因子Lmx1bが必要だと言われている <ref name=Guo2007><pubmed>17166916</pubmed></ref> 。FGF8はMHBの前後である中脳と後脳に発現する遺伝子を誘導する一方、Wnt1は細胞の増殖などに関与していると考えられている <ref name=Harada2016><pubmed>27273073</pubmed></ref> 。 | |||
脳の各領域に発現する転写因子 | |||
上述の2次オーガナイザー領域から分泌されたFGFやWntなどのシグナル因子により、転写因子が脳の特定の領域に発現し、各領域を特徴付けている。これらの転写因子のノックアウトマウスは、一部は脳領域の一部を欠損することになり、脳の発達または成長に大きな影響を及ぼすために胚性致死となる。一方、これらの転写因子は、免疫細胞、内分泌系、腎臓や精巣、肺などにも発現する。したがって、各遺伝子の単純なノックアウトでは、表現型が脳以外の領域にも見られるものがある(Irx3、Nkx2.1、Sim-2、Lmx1b、BF2など)。これらの例では、脳領域における機能を明らかにするために、脳特異的なノックアウト(条件付き遺伝子ノックアウト:コンディショナルノックアウト)が作成され、解析が進んでいる。 | |||
(図1)脳の領域化と、運命決定図。胚の背側からの模式図。Developmental Biology(ギルバート・バレッシ著)第11巻をもとに作成。 | |||
(図2)前後軸、背腹軸に沿った分泌因子、転写因子の一部の発現領域。<ref name=Harada2016><pubmed>27273073</pubmed></ref> <ref name=Martínez2013><pubmed></pubmed></ref> <ref name=Vieira2010><pubmed>19876817</pubmed></ref> などを参考にして作成。 | |||
(図3)脳で領域特異的に発現する転写因子の性質・機能と、その変異がヒトにもたらす疾患。OMIM(Online Mendelian Inheritance in Man; https://www.omim.org)や NIH Genetics Home Reference(https://ghr.nlm.nih.gov)を参考に作成。 | |||
各参考論文 | |||
<ref name=Bienvenu2002><pubmed>11971879</pubmed></ref> <ref name=Kitamura2002><pubmed>12379852</pubmed></ref> <ref name=Collombat2003><pubmed>14561778</pubmed></ref> <ref name=Lim2019><pubmed>30659230</pubmed></ref> <ref name=Friocourt2008><pubmed>18509041</pubmed></ref> <ref name=Qiu1995><pubmed>7590232</pubmed></ref> <ref name=de Melo2005><pubmed>15604100</pubmed></ref> <ref name=Liu2009><pubmed>18728693</pubmed></ref> <ref name=Petryniak2007><pubmed>17678855</pubmed></ref> <ref name=Yoshida1997><pubmed>9006071</pubmed></ref> <ref name=Kim2010><pubmed>20887964</pubmed></ref> <ref name=Cecchi2000><pubmed>10906797</pubmed></ref> <ref name=Gulisano1996><pubmed>8743751</pubmed></ref> <ref name=Hamasaki2004><pubmed>15294144</pubmed></ref> <ref name=Brunelli1996><pubmed>8528262</pubmed></ref> <ref name=Wurst1994><pubmed>7925010</pubmed></ref> <ref name=Rekaik2015><pubmed>26459030</pubmed></ref> <ref name=Kouwenhoven2016><pubmed>26879466</pubmed></ref> <ref name=Cheh2006><pubmed>16935268</pubmed></ref> <ref name=Benayed2005><pubmed>16252243</pubmed></ref> <ref name=Genestine2015><pubmed>26220976</pubmed></ref> <ref name=Hirata2006><pubmed>16971467</pubmed></ref> <ref name=Wassarman1997><pubmed>9247335</pubmed></ref> <ref name=Waters2006><pubmed>16651541</pubmed></ref> <ref name=Bosse1997><pubmed>9486539</pubmed></ref> <ref name=Gaborit2012><pubmed>22992950</pubmed></ref> <ref name=Gholamalizadeh2019><pubmed>31538128</pubmed></ref> <ref name=de Araujo2020><pubmed>32035736</pubmed></ref> <ref name=Hirota2004><pubmed>15173589</pubmed></ref> <ref name=Chou2019><pubmed>29522720</pubmed></ref> <ref name=Porter1997><pubmed>9247336</pubmed></ref> <ref name=Yuan2000><pubmed>10706142</pubmed></ref> <ref name=Winslow2011><pubmed>21471965</pubmed></ref> <ref name=Sander2000><pubmed>11076772</pubmed></ref> {Winslow, 2011 #58} <ref name=Taylor2013><pubmed>24035389</pubmed></ref> <ref name=Broccoli1999><pubmed>10490025</pubmed></ref> <ref name=Vincent2014><pubmed>25293953</pubmed></ref> <ref name=Patat2013><pubmed>24167467</pubmed></ref> <ref name=Chassaing2012><pubmed>22577225</pubmed></ref> <ref name=Acampora1995><pubmed>7588062</pubmed></ref> <ref name=Torres1996><pubmed>8951055</pubmed></ref> <ref name=Patek2003><pubmed>12915483</pubmed></ref> <ref name=Tolson2014><pubmed>24773343</pubmed></ref> <ref name=Holder2000><pubmed>10587584</pubmed></ref> <ref name=Michaud2001><pubmed>11448938</pubmed></ref> <ref name=Goshu2002><pubmed>12024028</pubmed></ref> <ref name=Dahmane1995><pubmed>7568099</pubmed></ref> <ref name=Goshu2004><pubmed>14988428</pubmed></ref> <ref name=Wallis1999><pubmed>10369266</pubmed></ref> <ref name=Diacou2018><pubmed>30485816</pubmed></ref> <ref name=Lagutin2003><pubmed>12569128</pubmed></ref> <ref name=Liu2010><pubmed>20890044</pubmed></ref> <ref name=Burghardt2013><pubmed>23990680</pubmed></ref> <ref name=Asbreuk2002><pubmed>12498783</pubmed></ref> <ref name=Hatini1996><pubmed>8666231</pubmed></ref> <ref name=Xuan1995><pubmed>7605629</pubmed></ref> <ref name=Guo2007><pubmed>17166916</pubmed></ref> <ref name=Adams2000><pubmed>10751174</pubmed></ref> | |||
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2020年7月18日 (土) 23:16時点における版
笹井 紀明
奈良先端科学技術大学院大学
DOI:10.14931/bsd.9270 原稿受付日:2020年7月18日 原稿完成日:20XX年X月X日
担当編集委員:花嶋 かりな(早稲田大学 教育・総合科学術院 先進理工学研究科)
Regionalization of the brain)
脳領域に存在する細胞の種類は極めて多岐にわたるが、その多様化・領域化は、脳発生の初期から起こり始めている。この項では、領域化に関与する転写因子と、その発現を誘導するオーガナイザーや分泌因子を中心に、脊椎動物の脳が神経外胚葉から各細胞が分化し、組織内で領域化されるまでの過程を中心に記述する。 なお、本項目の内容は、別項目の「前後軸」(高橋)とも一部重複する。
初期胚におけるおおまかな領域の決定 脊椎動物では、原腸形成期に胚の背側に神経板が出現し、原腸形成期の後半からOtx2(Orthodenticle Homeobox 2)という転写因子が、頭部神経板領域(将来前脳・中脳領域に分化する部分)に発現する [1] 。Otx2はほかに胚盤葉上層、眼にも発現しており、それぞれに特異的なエンハンサー領域が存在する [2] 。一方、後脳には別の転写因子Gbx2が発現し [3] 、Otx2のエンハンサー領域の一部に結合してOtx2の発現領域を制限する [4] 。
2次オーガナイザー領域の形成 脳のさらなる領域化には、以下の3つのオーガナイザー領域(シグナリングセンターとして分泌因子を産生する領域)が存在し、FGFやShh、Wntなどの分泌因子を発現し、脳の領域を決定している。(なお以下のオーガナイザー領域の日本語名は、英語名を直訳した試訳である)。
2-1. Anterior Neural Ridge(ANR):前部神経端 この領域自体は非神経性細胞からなっているが、主にFGF8を発現しており、転写因子BF-1の発現を誘導する。BF-1はANRの機能を相補する(ANRがなくてもBF-1が発現したら終脳が正常に発生する)ため、BF-1はANRによって誘導される主要な因子である [5] 。
2-2. Zona limitans intrathalamica(ZLI) この部分は、前脳から発生した大脳を2つの異なる性質を持つ領域に分ける領域である。大脳部分はプロソメアという区分に従って3つに分割することができるが、前部から順に、p3, p2, p1と分けられる領域のうち、p2とp3を分けるものがZLIである。ZLIが発現するのはソニック・ヘッジホッグ(Sonic Hedgehog; Shh)である[6] 。ZLIの前後では、Shhに対する細胞の反応性が異なり、ZLIよりも前部ではDlx2が、後部ではIrx3、Gbx2の発現が誘導される。
2-2. Isthmic Organiser(IsO):峡部オーガナイザー Midbrain-Hindbrain Boundary(MHB):中脳/後脳境界 この領域からは、FGF8やWnt1などの分泌因子が分泌され、中脳や小脳に発現する転写因子を発現誘導する。MHBにおけるFGF8やWnt1の発現には転写因子Lmx1bが必要だと言われている [7] 。FGF8はMHBの前後である中脳と後脳に発現する遺伝子を誘導する一方、Wnt1は細胞の増殖などに関与していると考えられている [8] 。
脳の各領域に発現する転写因子
上述の2次オーガナイザー領域から分泌されたFGFやWntなどのシグナル因子により、転写因子が脳の特定の領域に発現し、各領域を特徴付けている。これらの転写因子のノックアウトマウスは、一部は脳領域の一部を欠損することになり、脳の発達または成長に大きな影響を及ぼすために胚性致死となる。一方、これらの転写因子は、免疫細胞、内分泌系、腎臓や精巣、肺などにも発現する。したがって、各遺伝子の単純なノックアウトでは、表現型が脳以外の領域にも見られるものがある(Irx3、Nkx2.1、Sim-2、Lmx1b、BF2など)。これらの例では、脳領域における機能を明らかにするために、脳特異的なノックアウト(条件付き遺伝子ノックアウト:コンディショナルノックアウト)が作成され、解析が進んでいる。
(図1)脳の領域化と、運命決定図。胚の背側からの模式図。Developmental Biology(ギルバート・バレッシ著)第11巻をもとに作成。
(図2)前後軸、背腹軸に沿った分泌因子、転写因子の一部の発現領域。[8] [9] [10] などを参考にして作成。
(図3)脳で領域特異的に発現する転写因子の性質・機能と、その変異がヒトにもたらす疾患。OMIM(Online Mendelian Inheritance in Man; https://www.omim.org)や NIH Genetics Home Reference(https://ghr.nlm.nih.gov)を参考に作成。
各参考論文
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