「神経管」の版間の差分

227 バイト除去 、 2020年7月27日 (月)
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
 
(2人の利用者による、間の7版が非表示)
2行目: 2行目:
<font size="+1">[http://researchmap.jp/mtaka 高橋 将文]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/mtaka 高橋 将文]</font><br>
''自治医科大学 分子病態治療研究センター 細胞生物研究部''<br>
''自治医科大学 分子病態治療研究センター 細胞生物研究部''<br>
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年1月21日 原稿完成日:2013年2月4日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年1月21日 原稿完成日:2013年2月4日 更新日:2013年9月18日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
</div>
</div>
12行目: 12行目:
}}
}}
   
   
[[Image:神経管図1.jpg|thumb|300px|'''図1.神経管の形成'''<br>初期神経管を構成する神経上皮細胞の一部を標識したもの(ラット胚)]]  
[[Image:神経管図1.jpg|thumb|300px|'''図1.神経管の形成''']]  


==形成  ==
==形成  ==
19行目: 19行目:
 一方、[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]や[[wikipedia:ja:鳥類|鳥類]]胚の尾部においては、[[wikipedia:ja:中胚葉|中胚葉]]性[[wikipedia:ja:間葉細胞|間葉細胞]]の上皮化による神経管の形成が見られ、この様式は二次神経形成 (secondary neurulation) と呼ばれている。
 一方、[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]や[[wikipedia:ja:鳥類|鳥類]]胚の尾部においては、[[wikipedia:ja:中胚葉|中胚葉]]性[[wikipedia:ja:間葉細胞|間葉細胞]]の上皮化による神経管の形成が見られ、この様式は二次神経形成 (secondary neurulation) と呼ばれている。


 [[wikipedia:ja:魚類|魚類]]においては[[wikipedia:ja:羊膜類|羊膜類]]胚(鳥類や哺乳類胚)とは神経板の構造がもともと異なっている。例えば、[[ゼブラフィッシュ]]胚の神経管形成は、神経板細胞の湾曲ではなく、神経板の左右の細胞が混じりあいながら腹側へ落ち込むことで開始される。[[Neural keel]]と呼ばれる構造が形成された後、その正中に接着結合が形成に伴い腔が形成され、神経管が形成される<ref name="ref1" />。
 [[wikipedia:ja:魚類|魚類]]においては[[wikipedia:ja:羊膜類|羊膜類]]胚(鳥類や哺乳類胚)とは神経板の構造がもともと異なっている。例えば、[[ゼブラフィッシュ]]胚の神経管形成は、神経板細胞の湾曲ではなく、神経板の左右の細胞が混じりあいながら腹側へ落ち込むことで開始される。[[Neural keel]]と呼ばれる構造が形成された後、その正中に[[接着結合]]の形成に伴い腔が形成され、神経管が形成される<ref name="ref1" />。


==外観  ==
==外観  ==
28行目: 28行目:


== 内部構造と細胞分化  ==
== 内部構造と細胞分化  ==
[[Image:神経管図3.jpg|thumb|300px|'''図3.脊髄神経管の内部構造と細胞分化'''<br>(A)ラット初期神経管における運動ニューロンの分化(Islet1/2抗体による免疫染色)、(B)マウス後期胚における脊髄原基の構造(ヘマトキシリン染色)]]  
[[Image:神経管図3.jpg|thumb|300px|'''図3.脊髄神経管の内部構造と細胞分化'''<br>(A) マウス脊髄神経管における脳室帯と外套層(Pax6抗体(緑)およびニューロン特異的ベータチューブリン抗体(マゼンタ)による免疫染色)<br>(B) マウス後期胚における脊髄原基の構造(ヘマトキシリン染色)<br>スケールバー: 100 マイクロメートル]]  


 発生初期の神経管は、細長い形態を持つ神経上皮細胞から構成される[[偽重層上皮]]である(図1)。神経上皮細胞は、[[脳室帯]](ventricular zone)を形成し、[[ interkinetic nuclear movement]]または[[エレベーター運動]]と呼ばれる細胞周期に依存した核の移動運動を行っている<ref name="ref9"><pubmed>18070110</pubmed></ref>。細胞分裂は主に脳室面で起こり、神経上皮細胞は非対称分裂によってニューロンを生み出す。ニューロンが神経管の基底膜側に移動することで、細胞が密集した[[外套層]](mantle layer)が形成される。神経上皮細胞の基底膜側突起は外套層が形成された後も外套層を横断し、神経管を包む[[基底膜]]に接している。脊髄原基においては、増殖や運動性に乏しい神経管の最腹側領域の[[底板]](floor plate) や最背側領域の蓋板(roof plate) からはニューロンは生み出されないが、これらの領域は、神経管の背腹軸領域化(パターン化)に関与する分泌性因子([[Shh]], [[BMP]], [[Wnt]]等)を産生するシグナリングセンターとして機能している<ref name="ref10"><pubmed>22821665</pubmed></ref>。領域化された神経管の脳室帯腹側領域は[[基板]] (basal plate)、背側領域は[[翼板]](alar plate)と呼ばれている (図3)。基板からは、[[運動ニューロン]]や[[介在ニューロン]]が派生し、翼板からは介在ニューロンが派生する。
 発生初期の神経管は、細長い形態を持つ神経上皮細胞から構成される[[偽重層上皮]]である(図1)。神経上皮細胞は、[[脳室帯]](ventricular zone)を形成し、[[ interkinetic nuclear movement]]または[[エレベーター運動]]と呼ばれる細胞周期に依存した核の移動運動を行っている<ref name="ref9"><pubmed>18070110</pubmed></ref>。細胞分裂は主に脳室面で起こり、神経上皮細胞は非対称分裂によってニューロンを生み出す。ニューロンが神経管の基底膜側に移動することで、細胞が密集した[[外套層]](mantle layer)が形成される。神経上皮細胞の基底膜側突起は外套層が形成された後も外套層を横断し、神経管を包む[[基底膜]]に接している。脊髄原基においては、増殖や運動性に乏しい神経管の最腹側領域の[[底板]](floor plate) や最背側領域の蓋板(roof plate) からはニューロンは生み出されないが、これらの領域は、神経管の背腹軸領域化(パターン化)に関与する分泌性因子([[Shh]][[BMP]][[Wnt]]等)を産生するシグナリングセンターとして機能している<ref name="ref10"><pubmed>22821665</pubmed></ref>


 発生後期になると、脳室帯の脳室面側には[[境界溝]](sulcus limitance)が形成され、形態的にも神経管の背腹境界が明確となる。外套層の拡大にともない、神経上皮細胞の基底膜側突起の丈はより長くなり、神経上皮細胞は放射状グリア細胞(radial glial cell)と呼ばれるようになる。外套層の腹側領域は基板 (basal plate)、背側領域は翼板(alar plate)と呼ばれており (図3)、基板には、脳室帯腹側領域から派生した運動ニューロンや介在ニューロンが配置し、翼板には脳室帯背側領域から派生した介在ニューロンが配置する。非対称分裂した神経上皮細胞の娘細胞の片方は、幹細胞として維持されておりグリア細胞([[オリゴデンドロサイト]]や[[アストロサイト]])を順次生み出す<ref name="ref11"><pubmed>21068830</pubmed></ref>。脊髄神経管の内側にはニューロンの細胞体が集まった灰白質が形成され、外側には脊髄を上下に走行する神経[[軸索]]や一部のグリア細胞が存在する[[辺縁層]](marginal layer)が形成される(図3)。外套層が厚くなり、脳室帯が薄くなっていく過程において、神経管腹側の正中には[[前正中裂]] (anterior median fissure)、背側の正中には[[後正中溝]] (posterior median sulcus) が形成され、脳室は徐々に神経管の中心に位置するようになる。最終的に、脳室帯の細胞は上衣細胞へと変化し、中心管を構成する細胞として機能する (図3)<ref name="ref12"><pubmed>19747531</pubmed></ref>。
 発生後期になると、脳室帯の脳室面側には[[境界溝]](sulcus limitance)が形成され、形態的にも神経管の背腹境界が明確となる。外套層の拡大にともない、神経上皮細胞の基底膜側突起の丈はより長くなり、神経上皮細胞は放射状グリア細胞(radial glial cell)と呼ばれるようになる。外套層の腹側領域は基板 (basal plate)、背側領域は翼板(alar plate)と呼ばれており (図3)、基板には、脳室帯腹側領域から派生した運動ニューロンや介在ニューロンが配置し、翼板には脳室帯背側領域から派生した介在ニューロンが配置する。非対称分裂した神経上皮細胞の娘細胞の片方は、幹細胞として維持されておりグリア細胞([[オリゴデンドロサイト]]や[[アストロサイト]])を順次生み出す<ref name="ref11"><pubmed>21068830</pubmed></ref>。脊髄神経管の内側にはニューロンの細胞体が集まった灰白質が形成され、外側には脊髄を上下に走行する神経[[軸索]]や一部のグリア細胞が存在する[[辺縁層]](marginal layer)が形成される(図3)。外套層が厚くなり、脳室帯が薄くなっていく過程において、神経管腹側の正中には[[前正中裂]] (anterior median fissure)、背側の正中には[[後正中溝]] (posterior median sulcus) が形成され、脳室は徐々に神経管の中心に位置するようになる。最終的に、脳室帯の細胞は上衣細胞へと変化し、中心管を構成する細胞として機能する (図3)<ref name="ref12"><pubmed>19747531</pubmed></ref>。