「細胞外プロテアーゼ」の版間の差分

 
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<font size="+1">鈴木 春満</font><br>
''奈良先端大学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月30日 原稿完成日:2012年8月11日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br>
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英:extracellular protease, extracellular proteinase  
英:extracellular protease, extracellular proteinase  


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 [[wikipedia:ja:タンパク質|タンパク質]]、[[wikipedia:ja:ペプチド|ペプチド]]を形成する[[wikipedia:ja:ペプチド結合|ペプチド結合]]を切断する酵素をプロテアーゼ(protease)と総称する。プロテアーゼには細胞外作用型と細胞内作用型の2種類があり作用機序そのものは変わらないが、[[wikipedia:ja:シグナル配列|シグナル配列]]を持ち細胞外へ分泌されるかどうかによって機能は大きく異なる。ここでは細胞外作用型つまり細胞外プロテアーゼについて概説する。  
 [[wikipedia:ja:タンパク質|タンパク質]]、[[wikipedia:ja:ペプチド|ペプチド]]を形成する[[wikipedia:ja:ペプチド結合|ペプチド結合]]を切断する酵素をプロテアーゼ(protease)と総称する。プロテアーゼには細胞外作用型と細胞内作用型の2種類があり作用機序そのものは変わらないが、[[wikipedia:ja:シグナル配列|シグナル配列]]を持ち細胞外へ分泌されるかどうかによって機能は大きく異なる。ここでは細胞外作用型つまり細胞外プロテアーゼについて概説する。  
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== 細胞外プロテアーゼとは  ==
== 細胞外プロテアーゼとは  ==
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 プロテアーゼは触媒部位を形成する[[wikipedia:ja:アミノ酸|アミノ酸]]によっていくつかのタイプに分類される。アミノ酸の[[wikipedia:ja:セリン|セリン]]を活性部位にもつものは[[細胞外プロテアーゼ#.E3.82.BB.E3.83.AA.E3.83.B3.E3.83.97.E3.83.AD.E3.83.86.E3.82.A2.E3.83.BC.E3.82.BC|セリンプロテアーゼ]]と呼び、同様に、[[細胞外プロテアーゼ#.E3.82.A2.E3.82.B9.E3.83.91.E3.83.A9.E3.82.AE.E3.83.B3.E9.85.B8.E3.83.97.E3.83.AD.E3.83.86.E3.82.A2.E3.83.BC.E3.82.BC|アスパラギン酸プロテアーゼ]]および[[細胞外プロテアーゼ#.E3.83.A1.E3.82.BF.E3.83.AD.E3.83.97.E3.83.AD.E3.83.86.E3.82.A2.E3.83.BC.E3.82.BC|メタロ(金属)プロテアーゼ]]などと呼ぶ。更に、詳細な分類はプロテアーゼの結合サイトやハサミの部分を活性部位、及び、ターゲットとなるタンパク質の基質特異性によって行う(以下参照)。  
 プロテアーゼは触媒部位を形成する[[wikipedia:ja:アミノ酸|アミノ酸]]によっていくつかのタイプに分類される。アミノ酸の[[wikipedia:ja:セリン|セリン]]を活性部位にもつものは[[細胞外プロテアーゼ#.E3.82.BB.E3.83.AA.E3.83.B3.E3.83.97.E3.83.AD.E3.83.86.E3.82.A2.E3.83.BC.E3.82.BC|セリンプロテアーゼ]]と呼び、同様に、[[細胞外プロテアーゼ#.E3.82.A2.E3.82.B9.E3.83.91.E3.83.A9.E3.82.AE.E3.83.B3.E9.85.B8.E3.83.97.E3.83.AD.E3.83.86.E3.82.A2.E3.83.BC.E3.82.BC|アスパラギン酸プロテアーゼ]]および[[細胞外プロテアーゼ#.E3.83.A1.E3.82.BF.E3.83.AD.E3.83.97.E3.83.AD.E3.83.86.E3.82.A2.E3.83.BC.E3.82.BC|メタロ(金属)プロテアーゼ]]などと呼ぶ。更に、詳細な分類はプロテアーゼの結合サイトやハサミの部分を活性部位、及び、ターゲットとなるタンパク質の基質特異性によって行う(以下参照)。  
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{| border="1" cellspacing="1" cellpadding="1"
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|+ 細胞外プロテアーゼの基質と機能発現をまとめた表
|+'''表 細胞外プロテアーゼの基質と機能発現'''
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| style="text-align: center" | プロテアーゼ  
| style="text-align: center" | プロテアーゼ  
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| [[Thrombin]]  
| [[Thrombin]]  
| PAR  
| PAR  
| 発達(development)、虚血、損傷、[[アルツハイマー病]]  
| 発達、虚血、損傷、[[アルツハイマー病]]  
| 回復(低濃度)、神経変性、細胞死(高濃度)
| 回復(低濃度)、神経変性、細胞死(高濃度)
|-
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|-
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| [[Neuropsin]]  
| [[Neuropsin]]  
| L1, EphB2, [[Neuregulin1]]  
| L1, EphB2, [[ニューレグリン]]1
| 神経活動、電気生理刺激、豊かな環境(enviromental enrichment)、ストレス  
| 神経活動、電気生理刺激、豊かな環境(enviromental enrichment)、ストレス  
| E-LTP、[[ワーキングメモリー]]、情動記憶
| E-LTP、[[ワーキングメモリー]]、情動記憶
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| アミロイドβ前駆体蛋白質 (APP)  
| アミロイドβ前駆体蛋白質 (APP)  
| アルツハイマー病  
| アルツハイマー病  
| [[老人班]]
| [[老人斑]]
|}
|}
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== セリンプロテアーゼ  ==
== セリンプロテアーゼ  ==
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=== プラスミン  ===
=== プラスミン  ===


  プラスミノーゲンはtPAによって切断されて幅広い特異性をもつプラスミン(plasmin)になる。このtPA-プラスミンカスケードは神経可塑性に関わっている。プラスミン活性はLTPのいくつかの形に重要であることが示されてきている。例えば、プラスミンの投与時に[[テタナス刺激]]を同時に行うとLTPが増強された。プラスミンによる[[ProBDNF]]から成熟[[BDNF]]への活性化はL-LTPの発現に重要であることが明らかとなっている。動物個体による行動研究から、[[側坐核]]へのプラスミンの微量注入の結果、[[モルヒネ]]依存性の[[ドーパミン]]放出が増強され、マウスの過剰運動など薬物依存の症状が見られた。ここでは、プラスミンによるprotease-activated receptor1(PAR1)の活性化を介することが示されている<ref name="ref1" /> 。  
 プラスミノーゲンはtPAによって切断されて幅広い特異性をもつプラスミン(plasmin)になる。このtPA-プラスミンカスケードは神経可塑性に関わっている。プラスミン活性はLTPのいくつかの形に重要であることが示されてきている。例えば、プラスミンの投与時に[[テタナス刺激]]を同時に行うとLTPが増強された。プラスミンによる[[ProBDNF]]から成熟[[BDNF]]への活性化はL-LTPの発現に重要であることが明らかとなっている。動物個体による行動研究から、[[側坐核]]へのプラスミンの微量注入の結果、[[モルヒネ]]依存性の[[ドーパミン]]放出が増強され、マウスの過剰運動など薬物依存の症状が見られた。ここでは、プラスミンによるprotease-activated receptor1(PAR1)の活性化を介することが示されている<ref name="ref1" /> 。


=== ニューロトリプシン  ===
=== ニューロトリプシン  ===
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=== BACE1  ===
=== BACE1  ===


 アルツハイマー病の主原因である([[アミロイドベータ]])Aβ生産に関わるβ[[セクレターゼ]]として単離されてきた。Aβは膜貫通タンパク質であるamyloid precursor protein(APP)をβ-セクレターゼが細胞外の切断に関わり、γ‐セクレターゼが膜貫通領域の細胞質側で切断することから産生される。その結果、患者の[[老人班]]が形成されることになる。  
 アルツハイマー病の主原因である([[アミロイドベータ]])Aβ生産に関わる[[β-セクレターゼ]]として単離されてきた。Aβは膜貫通タンパク質であるamyloid precursor protein(APP)をβ-セクレターゼが細胞外の切断に関わり、[[γ‐セクレターゼ]]が膜貫通領域の細胞質側で切断することから産生される。その結果、患者の[[老人斑]]が形成されることになる。


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==
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<references />
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<br>(執筆者:鈴木春満 担当編集委員:河西春郎)