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<font size="+1">[http://researchmap.jp/taekoba 小林 妙子]、[http://researchmap.jp/ryoichirokageyama 影山 龍一郎]</font><br> | |||
''京都大学 ウイルス研究所''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月25日 原稿完成日:2013年5月7日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br> | |||
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英語名:hairy and enhancer of split 英略語:HES | |||
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|+表.Hesファミリー | |||
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| [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/557 HES1] || [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/70303588 HES2] || [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/2288 HES3] ||HES4|| [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/81657687 HES5] || [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/1505 HES6] || [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/2290 HES7] | |||
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|遺伝子名はAllen Brain Atlasの[[in situハイブリダイゼーション|''in situ''ハイブリダイゼーション]]データーへリンクしている。 | |||
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== ドメイン構造 == | |||
[[Image:Kobayashi fig 1.jpg|thumb|350px|'''図1.HESのドメイン構造''']] | |||
bHLH、[[Orange]]、[[WRPW]]の三つのドメインが保存されている<ref name="ref3" />。bHLHドメインは[[wikipedia:ja:DNA|DNA]]結合と二量体形成に必須である。Basic領域の中央には他のbHLH因子にはない[[wikipedia:ja:プロリン|プロリン]]残基が保存されており、Hesファミリーに特異的なDNA結合配列であるClass C配列(CACG(C/A)G)、N box配列(CACNAG)に強く結合する。Orangeドメインには二つの両親媒性ヘリックスがあり、ヘテロ二量体形成時のパートナーの選択に関与する。WRPWドメインはTrp-Arg-Pro-Trpの4アミノ酸からなり、コリプレッサーである[[Transducin-like E(spl)]] ([[TLE1]]-[[TLE4|4]])/ [[Groucho-related gene]] ([[grg]])との結合に必須である。HeyファミリーではこのWRPWがYRPWに置換されており、TLEと強く結合できない<ref><pubmed>17586813</pubmed></ref>。 | |||
== 機能 == | |||
<references/> | |||
=== リプレッサー機能 === | |||
[[Image:Kobayashi fig 2.jpg|thumb|350px|'''図2.Hes1のリプレッサー機能''']] | |||
Hesは次の二つの異なるメカニズムで転写を抑制することができる。 | |||
====Active repression==== | |||
ホモ二量体、あるいは、他の抑制型bHLH転写因子とヘテロ二量体を形成し、ターゲットDNA配列に結合する。WRPWドメインでコリプレッサーであるTLEと結合し、TLEに結合している[[アセチル化#ヒストン脱アセチル化酵素|ヒストン脱アセチル化酵素]]をリクルートすることによって[[クロマチン]]構造変化を引き起こし、ターゲット遺伝子の転写を抑制する。 | |||
一方、TLE非依存型の転写抑制活性も報告されており、Hes1に関しては、bHLHドメインで[[アセチル化#ヒストン脱アセチル化酵素|Silent information regulator 2]] ([[アセチル化#ヒストン脱アセチル化酵素|Sir2]])ホモログである[[アセチル化#ヒストン脱アセチル化酵素|Sirt1]]をリクルートする<ref><pubmed>12535671</pubmed></ref> 。(ショウジョウバエホモログであるhairyやE(spl)では、WRPWモチーフ近傍で[[C-terminal binding protein]] ([[CtBP]])と結合してヒストン脱アセチル化酵素をリクルートすると報告されている。<ref><pubmed>9524128</pubmed></ref>) | |||
====Passive repression==== | |||
活性化型のbHLH型転写因子と結合して認識DNA配列への結合を阻害することにより、間接的にターゲット遺伝子の転写を抑制する。例えば、構成的に発現しているbHLH転写因子である[[wikipedia:ja:Eタンパク質|Eタンパク質]]と結合し、認識配列である[[wikipedia:E-box|E-box]]への結合を阻害する<ref><pubmed>1400497</pubmed></ref>。ショウジョウバエにおいて[[神経分化]]を促進する[[achate-scute遺伝子]]のマウスホモログ[[Mash1]]は、Eタンパク質とヘテロダイマーを形成して機能する活性化型の転写因子だが、HesはEタンパク質との結合によるpassive repressionと、Mash1のプロモーターのclass C siteに直接結合するactive repressionの二つのメカニズムで、二重にMash1の活性を制御している<ref name="ref3" />。 | |||
=== 発現のオシレーション === | |||
[[Image:Kobayashi fig 3.jpg|thumb|350px|'''図3.Hes1の発現のオシレーション''']] | |||
Hes遺伝子の発現は、特徴的な[[wikipedia:ja:ネガティブフィードバックループ|ネガティブフィードバックループ]]を形成している。Hes1、Hes7は自身のプロモーター配列に複数の[[N-box配列]]を持っており、自身の転写発現を抑制することができる。しかし、Hes1、Hes7共にmRNA、タンパク質が不安定で速やかに分解されるため、転写抑制が解除される結果、再び発現が誘導される<ref name="ref3" />。この繰り返しによって、Hes1、Hes7の発現は、特徴的な短周期の周期的振動(オシレーション)を示すことが報告されており、[[wikipedia:ja:マウス|マウス]]では約二時間の周期性を示す。 | |||
この周期的な発現パターンは、胚発生の過程において重要な役割を担っていることが分かってきた。Hes1は[[神経分化]]における未分化細胞の維持や[[分化]]のタイミングの制御に<ref><pubmed>18400163</pubmed></ref>、Hes7については周期的な[[体節]]形成のタイミングを測る時計として機能する<ref name="ref10" />。Hes1については、[[線維芽細胞]]での発現振動や、[[ES細胞]]での発現振動が報告されており、前者では[[細胞増殖|細胞の増殖]]に、後者では分化の不均一性に寄与している<ref><pubmed>12399594</pubmed></ref><ref><pubmed>16432209</pubmed></ref><ref><pubmed>17592117</pubmed></ref><ref><pubmed>19684110</pubmed></ref>。 | |||
=== 神経発生における機能 === | |||
Hes1、Hes3、Hes5は発生期の脳に発現し、神経分化を抑制して[[神経幹細胞|神経幹]]/[[神経前駆細胞|前駆細胞]]の[[増殖]]、維持に働く。発生期の脳では、神経幹/前駆細胞として、初期では[[神経上皮細胞]]が、その後(マウスでは胎生約8.5日目から)[[放射状グリア]]細胞が現れるが、[[ノックアウトマウス]]による解析から、Hes1、Hes5は放射状グリア細胞の維持に、Hes1、Hes3、Hes5は神経上皮細胞の維持に必須であることが示されている<ref name="ref3" /><ref name="ref4" />。 | |||
Hes1, Hes3, Hes5は発生期の脳の境界構造の維持にも重要である<ref><pubmed>11500373</pubmed></ref><ref><pubmed>16728479</pubmed></ref>。[[間脳]]の[[前視床]]と[[視床]]を区切る境界構造である[[zona limitans intrathalamica]] ([[ZLI]])は、Hes1、Hes5が無いと構造自体が失われる。Hes1、Hes3、Hes5が無いと、[[中脳]]と[[後脳]]の境界構造である[[isthmus]]で、また、[[神経管]]の左右を区切る境界構造(背側側の[[蓋板]]、腹側側の[[底板]])で、遺伝子発現や構造の異常が生じる。この異常は、これらの領域でHesにより抑制されていた神経分化が昂進することによると考えられる。 | |||
==関連項目== | |||
*[[bHLH因子]] | |||
*[[転写因子]] | |||
== 参考文献 == | |||
<references /> |
2020年12月23日 (水) 09:42時点における最新版
小林 妙子、影山 龍一郎
京都大学 ウイルス研究所
DOI:10.14931/bsd.1880 原稿受付日:2013年3月25日 原稿完成日:2013年5月7日
担当編集委員:大隅 典子(東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)
basic helix-loop-helix DNA-binding domain | |||||||||
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Crystal structure of MyoD bHLH domain bound to DNA based on 1MDY | |||||||||
Identifiers | |||||||||
Symbol | bHLH | ||||||||
Pfam | PF00010 | ||||||||
InterPro | IPR001092 | ||||||||
SMART | SM00353 | ||||||||
PROSITE | PDOC00038 | ||||||||
SCOP | 1mdy | ||||||||
SUPERFAMILY | 1mdy | ||||||||
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英語名:hairy and enhancer of split 英略語:HES
ショウジョウバエにおいて神経分化を抑制するhairyおよびenhancer of split (E(spl))の哺乳類相同遺伝子群。hairy and enhancer of splitの頭文字からHESと名付けられた[1]。転写を負に制御する抑制型のbasic helix-loop-helix (bHLH)型転写因子であり、多くはNotchシグナルのエフェクターである。ホモあるいはヘテロ二量体を形成して機能する。構造や機能で類似するHey/Hesrファミリー(Hes-related with YRPW motif)も存在する[2]。Hesは主に分化促進型のbHLH因子を抑制することによって、幹細胞や未分化細胞の維持に機能していると考えられている[3]。
サブファミリー
ヒトでHes1からHes7まで同定されている。マウスではHes4は存在しない。Notchシグナルにより、Hes1, Hes5, Hes7の発現誘導が報告されている[4][5]。Notchシグナル以外にも、Hes1についてはBMP、FGF、 NF-κB、 Shh、Wntシグナルにより[6] [7]、Hes7についてもFGFシグナルによる発現誘導が報告されており[8]、それぞれ細胞・組織特異的な発現パターンを示す。Hes1は最も解析が進んでおり、神経、感覚器、膵臓、内分泌細胞、血球細胞の発生に中心的な役割を持つことが報告されている[3]。Hes3、Hes5はHes1と相補的に働く[9]。Hes7は体節形成に必須である[10]。Hes6はDNA結合能力が無く、Hes1とヘテロダイマーを形成することによってHes1機能を阻害する[11]。
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遺伝子名はAllen Brain Atlasのin situハイブリダイゼーションデーターへリンクしている。 |
ドメイン構造
bHLH、Orange、WRPWの三つのドメインが保存されている[3]。bHLHドメインはDNA結合と二量体形成に必須である。Basic領域の中央には他のbHLH因子にはないプロリン残基が保存されており、Hesファミリーに特異的なDNA結合配列であるClass C配列(CACG(C/A)G)、N box配列(CACNAG)に強く結合する。Orangeドメインには二つの両親媒性ヘリックスがあり、ヘテロ二量体形成時のパートナーの選択に関与する。WRPWドメインはTrp-Arg-Pro-Trpの4アミノ酸からなり、コリプレッサーであるTransducin-like E(spl) (TLE1-4)/ Groucho-related gene (grg)との結合に必須である。HeyファミリーではこのWRPWがYRPWに置換されており、TLEと強く結合できない[12]。
機能
リプレッサー機能
Hesは次の二つの異なるメカニズムで転写を抑制することができる。
Active repression
ホモ二量体、あるいは、他の抑制型bHLH転写因子とヘテロ二量体を形成し、ターゲットDNA配列に結合する。WRPWドメインでコリプレッサーであるTLEと結合し、TLEに結合しているヒストン脱アセチル化酵素をリクルートすることによってクロマチン構造変化を引き起こし、ターゲット遺伝子の転写を抑制する。
一方、TLE非依存型の転写抑制活性も報告されており、Hes1に関しては、bHLHドメインでSilent information regulator 2 (Sir2)ホモログであるSirt1をリクルートする[13] 。(ショウジョウバエホモログであるhairyやE(spl)では、WRPWモチーフ近傍でC-terminal binding protein (CtBP)と結合してヒストン脱アセチル化酵素をリクルートすると報告されている。[14])
Passive repression
活性化型のbHLH型転写因子と結合して認識DNA配列への結合を阻害することにより、間接的にターゲット遺伝子の転写を抑制する。例えば、構成的に発現しているbHLH転写因子であるEタンパク質と結合し、認識配列であるE-boxへの結合を阻害する[15]。ショウジョウバエにおいて神経分化を促進するachate-scute遺伝子のマウスホモログMash1は、Eタンパク質とヘテロダイマーを形成して機能する活性化型の転写因子だが、HesはEタンパク質との結合によるpassive repressionと、Mash1のプロモーターのclass C siteに直接結合するactive repressionの二つのメカニズムで、二重にMash1の活性を制御している[3]。
発現のオシレーション
Hes遺伝子の発現は、特徴的なネガティブフィードバックループを形成している。Hes1、Hes7は自身のプロモーター配列に複数のN-box配列を持っており、自身の転写発現を抑制することができる。しかし、Hes1、Hes7共にmRNA、タンパク質が不安定で速やかに分解されるため、転写抑制が解除される結果、再び発現が誘導される[3]。この繰り返しによって、Hes1、Hes7の発現は、特徴的な短周期の周期的振動(オシレーション)を示すことが報告されており、マウスでは約二時間の周期性を示す。
この周期的な発現パターンは、胚発生の過程において重要な役割を担っていることが分かってきた。Hes1は神経分化における未分化細胞の維持や分化のタイミングの制御に[16]、Hes7については周期的な体節形成のタイミングを測る時計として機能する[10]。Hes1については、線維芽細胞での発現振動や、ES細胞での発現振動が報告されており、前者では細胞の増殖に、後者では分化の不均一性に寄与している[17][18][19][20]。
神経発生における機能
Hes1、Hes3、Hes5は発生期の脳に発現し、神経分化を抑制して神経幹/前駆細胞の増殖、維持に働く。発生期の脳では、神経幹/前駆細胞として、初期では神経上皮細胞が、その後(マウスでは胎生約8.5日目から)放射状グリア細胞が現れるが、ノックアウトマウスによる解析から、Hes1、Hes5は放射状グリア細胞の維持に、Hes1、Hes3、Hes5は神経上皮細胞の維持に必須であることが示されている[3][4]。
Hes1, Hes3, Hes5は発生期の脳の境界構造の維持にも重要である[21][22]。間脳の前視床と視床を区切る境界構造であるzona limitans intrathalamica (ZLI)は、Hes1、Hes5が無いと構造自体が失われる。Hes1、Hes3、Hes5が無いと、中脳と後脳の境界構造であるisthmusで、また、神経管の左右を区切る境界構造(背側側の蓋板、腹側側の底板)で、遺伝子発現や構造の異常が生じる。この異常は、これらの領域でHesにより抑制されていた神経分化が昂進することによると考えられる。
関連項目
参考文献
- ↑
Sasai, Y., Kageyama, R., Tagawa, Y., Shigemoto, R., & Nakanishi, S. (1992).
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