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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0118148 笹井紀明]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/read0118148 笹井紀明]</font><br> | ||
''奈良先端科学技術大学院大学''<br> | ''奈良先端科学技術大学院大学''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2017年1月17日 原稿完成日:2017年5月8日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br> | ||
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細胞膜で受容されたシグナルを核に伝達するのは、[[Gli]](ショウジョウバエでは[[Cubitus interruptus]]; Ci)と呼ばれる[[Znフィンガー型転写因子]]であり、脊椎動物に存在する3種類のGli([[Gli1]]-[[Gli3|3]])<ref name=ref31><pubmed>21801010</pubmed></ref> のうちソニック・ヘッジホッグのシグナルを1次的に伝達するのは[[Gli2]],3である('''図3''')。Gli2,3は繊毛内でSmoと何らかの相互作用をすることにより、シグナルを繊毛から核へと伝達する<ref name=ref32><pubmed>16254602</pubmed></ref>。 | 細胞膜で受容されたシグナルを核に伝達するのは、[[Gli]](ショウジョウバエでは[[Cubitus interruptus]]; Ci)と呼ばれる[[Znフィンガー型転写因子]]であり、脊椎動物に存在する3種類のGli([[Gli1]]-[[Gli3|3]])<ref name=ref31><pubmed>21801010</pubmed></ref> のうちソニック・ヘッジホッグのシグナルを1次的に伝達するのは[[Gli2]],3である('''図3''')。Gli2,3は繊毛内でSmoと何らかの相互作用をすることにより、シグナルを繊毛から核へと伝達する<ref name=ref32><pubmed>16254602</pubmed></ref>。 | ||
Gli2/3は転写活性領域と抑制領域を併せ持つ転写因子で、ソニック・ヘッジホッグシグナルが存在しないときには翻訳されたポリペプチドが恒常的に分解([[ユビキチン化]])されてアミノ末端側だけの断片として存在し、転写抑制因子として働く。Gli2/3のユビキチン化は、まず[[PKA]]([[プロテインキナーゼA]])と[[Glycogen synthase kinase 3|Glycogen Synthase Kinase 3]]β([[GSK3β]])によって[[セリン]]残基が[[リン酸化]]され、それを、 [[β | Gli2/3は転写活性領域と抑制領域を併せ持つ転写因子で、ソニック・ヘッジホッグシグナルが存在しないときには翻訳されたポリペプチドが恒常的に分解([[ユビキチン化]])されてアミノ末端側だけの断片として存在し、転写抑制因子として働く。Gli2/3のユビキチン化は、まず[[PKA]]([[プロテインキナーゼA]])と[[Glycogen synthase kinase 3|Glycogen Synthase Kinase 3]]β([[GSK3β]])によって[[セリン]]残基が[[リン酸化]]され、それを、 [[β-TrCP]]([[E3ユビキチンリガーゼ]])と[[足場タンパク質]][[Cullin3]]を含むSCF β-TrCP複合体がターゲットすることによって進む<ref><pubmed>16705181</pubmed></ref><ref name=ref34><pubmed>16611981</pubmed></ref><ref><pubmed>16651270</pubmed></ref>。 | ||
いったんソニック・ヘッジホッグシグナルが細胞に導入されるとPKAが不活化され<ref name=ref36><pubmed>24336288</pubmed></ref><ref name=ref37><pubmed>27799542</pubmed></ref>、Gli2/3のユビキチン分解が抑制されて全長型Gli2/3は繊毛内に移動する<ref name=ref32><pubmed>16254602</pubmed></ref><ref><pubmed>20154143</pubmed></ref>。その後、核に移動して遺伝子発現を誘導する<ref name=ref39><pubmed>23799571</pubmed></ref>。この際にはGli2/3に対してSPOPと呼ばれるユビキチンリガーゼによるユビキチン化が起こってタンパク質自体の安定性が変化する<ref name=ref40><pubmed>20360384</pubmed></ref><ref><pubmed>20463034</pubmed></ref>ほか、さまざまな修飾(リン酸化、[[アセチル化]]、[[SUMO化]])も関与してその転写活性を制御する<ref name=ref40><pubmed>20360384</pubmed></ref><ref><pubmed>20711444</pubmed></ref><ref><pubmed>23762415</pubmed></ref><ref><pubmed>24373970</pubmed></ref>。 | いったんソニック・ヘッジホッグシグナルが細胞に導入されるとPKAが不活化され<ref name=ref36><pubmed>24336288</pubmed></ref><ref name=ref37><pubmed>27799542</pubmed></ref>、Gli2/3のユビキチン分解が抑制されて全長型Gli2/3は繊毛内に移動する<ref name=ref32><pubmed>16254602</pubmed></ref><ref><pubmed>20154143</pubmed></ref>。その後、核に移動して遺伝子発現を誘導する<ref name=ref39><pubmed>23799571</pubmed></ref>。この際にはGli2/3に対してSPOPと呼ばれるユビキチンリガーゼによるユビキチン化が起こってタンパク質自体の安定性が変化する<ref name=ref40><pubmed>20360384</pubmed></ref><ref><pubmed>20463034</pubmed></ref>ほか、さまざまな修飾(リン酸化、[[アセチル化]]、[[SUMO化]])も関与してその転写活性を制御する<ref name=ref40><pubmed>20360384</pubmed></ref><ref><pubmed>20711444</pubmed></ref><ref><pubmed>23762415</pubmed></ref><ref><pubmed>24373970</pubmed></ref>。 | ||
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Gli1-3は多くの臓器に発現しているためにそれらの遺伝子変異マウスの表現型も多様であり<ref><pubmed>9731531</pubmed></ref>、神経系で強い表現型が現れるものもある。Gli2変異マウスでは、Shhシグナルの影響を受ける底板とV3[[介在神経]]領域の[[分化]]が抑制され、パターン形成に異常が生じて出生直後に死亡する<ref><pubmed>9636069</pubmed></ref>。一方、Gli3変異マウスでは、主に脳領域でソニック・ヘッジホッグシグナルがむしろ亢進した表現型になるため<ref><pubmed>8387379</pubmed></ref><ref><pubmed>11017169</pubmed></ref>、Gli3が主に転写抑制型として働くことが示唆される。Gli1単独の変異マウスでは神経系では大きな表現型が見つかっていないが、Gli2変異による表現型をGli1のノックインによって相補することができるため、Gli2の転写活性型と同様の働きをしていると考えられる<ref><pubmed>10725236</pubmed></ref><ref><pubmed>11748151</pubmed></ref>。 | Gli1-3は多くの臓器に発現しているためにそれらの遺伝子変異マウスの表現型も多様であり<ref><pubmed>9731531</pubmed></ref>、神経系で強い表現型が現れるものもある。Gli2変異マウスでは、Shhシグナルの影響を受ける底板とV3[[介在神経]]領域の[[分化]]が抑制され、パターン形成に異常が生じて出生直後に死亡する<ref><pubmed>9636069</pubmed></ref>。一方、Gli3変異マウスでは、主に脳領域でソニック・ヘッジホッグシグナルがむしろ亢進した表現型になるため<ref><pubmed>8387379</pubmed></ref><ref><pubmed>11017169</pubmed></ref>、Gli3が主に転写抑制型として働くことが示唆される。Gli1単独の変異マウスでは神経系では大きな表現型が見つかっていないが、Gli2変異による表現型をGli1のノックインによって相補することができるため、Gli2の転写活性型と同様の働きをしていると考えられる<ref><pubmed>10725236</pubmed></ref><ref><pubmed>11748151</pubmed></ref>。 | ||
[[image:Shh3.png|thumb|300px|'''図3.Gliタンパク質の構造'''<br>アミノ酸番号は、マウスのものである。* | [[image:Shh3.png|thumb|300px|'''図3.Gliタンパク質の構造'''<br>アミノ酸番号は、マウスのものである。*はPKAによるリン酸化サイト、ZnF:Znフィンガー、矢頭は分解されて転写抑制型を生じる部位<ref name=ref34 />。<br><ref name=ref31 /><ref name=ref34 />から改変。]] | ||
ソニック・ヘッジホッグシグナルのターゲット遺伝子として代表的なものは、[[神経前駆細胞]]における[[Olig2]]や[[Nkx2.2]], [[FoxA2]]のように細胞の個性付けに関与する転写因子、またソニック・ヘッジホッグシグナルに直接関与するもの(Ptc, Gli1)などである<ref name=ref1></ref><ref name=ref3></ref>。 | ソニック・ヘッジホッグシグナルのターゲット遺伝子として代表的なものは、[[神経前駆細胞]]における[[Olig2]]や[[Nkx2.2]], [[FoxA2]]のように細胞の個性付けに関与する転写因子、またソニック・ヘッジホッグシグナルに直接関与するもの(Ptc, Gli1)などである<ref name=ref1></ref><ref name=ref3></ref>。 | ||
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細胞内コレステロール輸送に関与する遺伝子NPC1/2に変異が生じると[[リソソーム]]にコレステロールが蓄積するためにShhNに十分なコレステロールが供給されずに修飾不全となり、効率的な分泌が不可能になってしまう。[[C型ニーマン・ピック病]](C型Niemann-Pick syndrome)はこのNPC1/2遺伝子の変異に起因する遺伝性疾患であり、[[小脳]]の不完全形成や肝不全、[[発達障害]]や運動障害、新生児黄疸などの重篤な小児障害を引き起こす<ref><pubmed>9211850</pubmed></ref><ref name=ref24><pubmed>22902404</pubmed></ref>。 | 細胞内コレステロール輸送に関与する遺伝子NPC1/2に変異が生じると[[リソソーム]]にコレステロールが蓄積するためにShhNに十分なコレステロールが供給されずに修飾不全となり、効率的な分泌が不可能になってしまう。[[C型ニーマン・ピック病]](C型Niemann-Pick syndrome)はこのNPC1/2遺伝子の変異に起因する遺伝性疾患であり、[[小脳]]の不完全形成や肝不全、[[発達障害]]や運動障害、新生児黄疸などの重篤な小児障害を引き起こす<ref><pubmed>9211850</pubmed></ref><ref name=ref24><pubmed>22902404</pubmed></ref>。 | ||
逆にヘッジホッグシグナルが亢進しすぎると[[ | 逆にヘッジホッグシグナルが亢進しすぎると[[髄芽腫]]([[medulloblastoma]])という[[wj:小児がん|小児がん]]を引き起こすことが知られている<ref name=ref78><pubmed>25150496</pubmed></ref>。この疾患は元来放射線治療や外科的手術による腫瘍の除去しか治療法がなかったが、最近、[[三量体Gタンパク質|Gタンパク質]]の一種[[Gαs]]を活性化させることによりソニック・ヘッジホッグシグナルをブロックする方法が検討されつつある<ref name=ref78><pubmed>25150496</pubmed></ref>。 | ||
==参考文献== | ==参考文献== | ||
<references/> | <references/> |