「セルフコントロール」の版間の差分

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== セルフコントロールと関連する脳内領域  ==
== セルフコントロールと関連する脳内領域  ==


<br> セルフコントロールには,主に2つの脳内ネットワークの関与が示唆されている.短期的な利益と関わる行動の選択については腹側線条体や内側前頭皮質などの報酬処理と関連する行動との関連が示されており,長期的な利益と関わる行動を選択する際には外側前頭皮質や頭頂葉の一部などの認知的制御や行動抑制と関わる領域が賦活することが示されている.例えば,金銭を報酬としたfMRI研究において,成人の参加者は,二択の選択肢を与えられる.1つは,短期的に得られるが低い報酬であり,もう1つはすぐには得られないが高い報酬である.その際の脳活動をスキャンしたところ,前者の選択をした際には腹側線条体や内側前頭皮質,眼窩前頭皮質の有意な活動が認められる.また,後者の選択と外側前頭皮質や頭頂間溝の活動に関連が見られ,特に選択が難しいときにこれらの領域の活動が強い<ref><pubmed>    15486304 </pubmed></ref>. <br> もっとも,これらのネットワークがそれぞれの選択に別個に関わっているわけではない.短期的な選択であれ,長期的な選択であれ,報酬の価値の表現には腹側線条体を中心とする辺縁系のネットワークが関与している.例えば,報酬の客観的価値よりも主観的価値を重視し,主観的価値と関連する脳領域をfMRIで検討した研究がある<ref><pubmed>    17982449 </pubmed></ref>.ここでの主観的価値とは,様々な側面を考慮して作り上げる個々人に固有な価値の単一指標のことで,この価値は報酬の価値の高さや遅延時間の短さによって表現され,時間割引関数に該当する.この研究の結果,腹側線条体・内側前頭皮質・後帯状皮質の活動の強さと,報酬の主観的価値との間に関連があることが示され,これらの脳領域の活動が短期的であれ,長期的であれ,報酬の価値を表していることを示唆している.<br> 2つの脳内ネットワークは別々に機能しているというよりは,両者には機能的連結があるようである.好ましいが不健康な食べ物を避ける際に(長期的な利益の選択),左の外側前頭皮質と腹内側前頭皮質には負の相関があることが示されている.つまり,外側前頭皮質の活動が高まると,腹内側前頭皮質の活動が低下しており,両者が協調して活動している可能性を示唆する<ref><pubmed>        19407204 </pubmed></ref>.<br> また,セルフコントロールには文化差がある可能性も示されている.例えば,アメリカ人の成人と韓国人の成人を比較した研究において,時間割引率に文化差があり,アメリカ人の時間割引率が高いことが示されている.また,課題中の脳活動をfMRIで計測したところ,両国の参加者は外側前頭皮質や頭頂葉の活動において違いはなかったものの,アメリカ人の参加者は,韓国人の参加者よりも,腹側線条体をより強く活動させることが示されている<ref><pubmed>      22271781 </pubmed></ref>.  
<br> セルフコントロールには,主に2つの脳内ネットワークの関与が示唆されている.短期的な利益と関わる行動の選択については腹側線条体や内側前頭皮質などの報酬処理と関連する行動との関連が示されており,長期的な利益と関わる行動を選択する際には外側前頭皮質や頭頂葉の一部などの認知的制御や行動抑制と関わる領域が賦活することが示されている.McClureらは,成人の参加者が,二択の選択肢を与えられた際の脳活動をfMRIを用いて計測した.1つは,短期的に得られるが低い報酬であり,もう1つはすぐには得られないが高い報酬である.その結果,前者の選択をした際には腹側線条体や内側前頭皮質,眼窩前頭皮質の有意な活動が認められた.また,後者の選択と外側前頭皮質や頭頂間溝の活動に関連が見られ,特に選択が難しいときにこれらの領域の活動が強かった<ref><pubmed>    15486304 </pubmed></ref>. <br> もっとも,これらのネットワークがそれぞれの選択に別個に関わっているわけではない.短期的な選択であれ,長期的な選択であれ,報酬の価値の表現には腹側線条体を中心とする辺縁系のネットワークが関与している.例えば,報酬の客観的価値よりも主観的価値を重視し,主観的価値と関連する脳領域をfMRIで検討した研究がある<ref><pubmed>    17982449 </pubmed></ref>.ここでの主観的価値とは,様々な側面を考慮して作り上げる個々人に固有な価値の単一指標のことで,この価値は報酬の価値の高さや遅延時間の短さによって表現され,時間割引関数に該当する.この研究の結果,腹側線条体・内側前頭皮質・後帯状皮質の活動の強さと,報酬の主観的価値との間に関連があることが示され,これらの脳領域の活動が短期的であれ,長期的であれ,報酬の価値を表していることを示唆している.<br> 2つの脳内ネットワークは別々に機能しているというよりは,両者には機能的連結があるようである.好ましいが不健康な食べ物を避ける際に(長期的な利益の選択),左の外側前頭皮質と腹内側前頭皮質には負の相関があることが示されている.つまり,外側前頭皮質の活動が高まると,腹内側前頭皮質の活動が低下しており,両者が協調して活動している可能性を示唆する<ref><pubmed>        19407204 </pubmed></ref>.<br> また,セルフコントロールには文化差がある可能性も示されている.アメリカ人の成人と韓国人の成人を比較した研究において,時間割引率に文化差があり,アメリカ人の時間割引率が高いことが示されている.また,課題中の脳活動をfMRIで計測したところ,両国の参加者は外側前頭皮質や頭頂葉の活動において違いはなかったものの,アメリカ人の参加者は,韓国人の参加者よりも,腹側線条体をより強く活動させることが示されている<ref><pubmed>      22271781 </pubmed></ref>.  


== セルフコントロールの発達  ==
== セルフコントロールの発達  ==
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== ヒト以外の動物のセルフコントロール  ==
== ヒト以外の動物のセルフコントロール  ==


<br> ヒト以外の動物では,セルフコントロールは容易ではないことが示されている.初期の研究はハトなどを対象に行われたが,ヒトの近縁種であるチンパンジーですらセルフコントールは難しいことが示されている<ref><pubmed>  7844508</pubmed></ref>.ある研究では,2頭のチンパンジーを対面させ,そのうち一頭に1個と4個の報酬を選択させた.この課題では,一方の個体が選択した報酬はもう一方の個体に与えられることになっていた.つまり,4個の報酬を得たいのであれば,1個の報酬を選択しなければならない.この実験で,チンパンジーは目の前にある4個の報酬の選択を選んでしまい,その傾向を制御できなかった.400試行費やしても,70%程度の確率で4個の報酬を選び,学習は見られなかった.但し,アラビア数字を学習しているチンパンジーに,実際の報酬の代わりにアラビア数字を用いて同様の実験を行った場合には,少ない方の報酬を選ぶことができたという. <br>  
<br> ヒト以外の動物では,セルフコントロールは容易ではないことが示されている.初期の研究はハトなどを対象に行われたが,ヒトの近縁種であるチンパンジーですらセルフコントールは難しいことが示されている<ref><pubmed>  7844508</pubmed></ref>.Boysenらは,2頭のチンパンジーを対面させ,そのうち一頭に1個と4個の報酬を選択させた.この課題では,一方の個体が選択した報酬はもう一方の個体に与えられることになっていた.つまり,4個の報酬を得たいのであれば,1個の報酬を選択しなければならない.この実験で,チンパンジーは目の前にある4個の報酬の選択を選んでしまい,その傾向を制御できなかった.400試行費やしても,70%程度の確率で4個の報酬を選び,学習は見られなかった.但し,アラビア数字を学習しているチンパンジーに,実際の報酬の代わりにアラビア数字を用いて同様の実験を行った場合には,少ない方の報酬を選ぶことができたという. <br>  


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