「頭痛」の版間の差分

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 頭痛を主症状とする疾病は頭痛性疾患としてまとめられている。他に原因となる疾患が無いものを一次性頭痛、他の疾患によるものを二次性頭痛とする。一次性頭痛は、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛が代表的である。頭痛診断は、国際頭痛学会から公開されている国際頭痛分類と診断基準(第3版版、2018)に従う。一次性頭痛は通常生命を脅かすことはないが、生活に支障をきたし健康寿命を短縮させる疾病であり対策が求められている。片頭痛は閃輝暗点等の前兆の有無により、前兆のある片頭痛と前兆のない片頭痛に大別される。片頭痛発作にはセロトニン作動薬であるトリプタンが奏功する。急性期治療薬のみでは十分な治療効果が得られない場合は片頭痛予防薬を用いる。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は片頭痛の病態に深く関与しており、抗CGRP抗体、抗CGRP受容体抗体、CGRP拮抗薬が新規の片頭痛治療薬として開発されている。また、片頭痛の頻度が増加する慢性片頭痛が注目されている。緊張型頭痛は頭痛の頻度により反復性と慢性に細分類されている。群発頭痛と類縁の頭痛性疾患が三叉神経・自律神経性頭痛としてまとめられ疾患概念が整理されてきた。二次性頭痛には様々な疾患によって引き起こされる頭痛がある。片頭痛など、一次性頭痛が他の疾患により増悪したのか、他の疾患により新たな二次性頭痛が発生したのかは常に考慮が必要である。
 頭痛を主症状とする疾病は頭痛性疾患としてまとめられている。他に原因となる疾患が無いものを一次性頭痛、他の疾患によるものを二次性頭痛とする。一次性頭痛は、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛が代表的である。頭痛診断は、国際頭痛学会から公開されている国際頭痛分類と診断基準(第3版、2018)に従う。一次性頭痛は通常生命を脅かすことはないが、生活に支障をきたし健康寿命を短縮させる疾病であり対策が求められている。片頭痛は閃輝暗点等の前兆の有無により、前兆のある片頭痛と前兆のない片頭痛に大別される。片頭痛発作にはセロトニン作動薬であるトリプタンが奏功する。急性期治療薬のみでは十分な治療効果が得られない場合は片頭痛予防薬を用いる。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は片頭痛の病態に深く関与しており、抗CGRP抗体、抗CGRP受容体抗体、CGRP拮抗薬が新規の片頭痛治療薬として開発されている。また、片頭痛の頻度が増加する慢性片頭痛が注目されている。緊張型頭痛は頭痛の頻度により反復性と慢性に細分類されている。群発頭痛と類縁の頭痛性疾患が三叉神経・自律神経性頭痛としてまとめられ疾患概念が整理されてきた。二次性頭痛には様々な疾患によって引き起こされる頭痛がある。片頭痛など、一次性頭痛が他の疾患により増悪したのか、他の疾患により新たな二次性頭痛が発生したのかは常に考慮が必要である。
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==定義==
==定義==
 頭痛は頭部の一部あるいは全体の[[痛み]]の総称。後頭部と[[wikipedia:ja:頚|頚]](後頚部)の境界、眼の奥の痛みも頭痛として扱う。頭皮の[[wikipedia:ja:外傷|外傷]]や[[wikipedia:ja:化膿|化膿]]などによる頭の表面の一部の痛みは通常は頭痛には含めない。 頭痛は、[[発熱]]や[[腹痛]]と同様に症状の名称であるが、慢性的に頭痛発作を繰り返す場合は頭痛性疾患(headache disorder)として扱う。
 頭痛は頭部の一部あるいは全体の[[痛み]]の総称。後頭部と[[wj:頚|頚]](後頚部)の境界、眼の奥の痛みも頭痛として扱う。頭皮の[[wj:外傷|外傷]]や[[wj:化膿|化膿]]などによる頭の表面の一部の痛みは通常は頭痛には含めない。 頭痛は、[[発熱]]や[[腹痛]]と同様に症状の名称であるが、慢性的に頭痛発作を繰り返す場合は頭痛性疾患(headache disorder)として扱う。


==メカニズムと疼痛感受部位==
==メカニズムと疼痛感受部位==
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==頭痛の分類と診断 国際頭痛分類第3版==
==頭痛の分類と診断 国際頭痛分類第3版==
 頭痛の系統的分類は1962年に[[wj:アメリカ国立衛生研究所|米国衛生研究所]]のad-hoc委員会で作成された分類が、いわゆる"''ad hoc''分類"として広く認知されていた<ref name=ref1>''Headache AHCoCo'''<br>Classification of headache. <br>''Journal of the American Medical Association.''179:717-718, 1962.</ref>。1988年には[[wikipedia:ja:国際頭痛学会|国際頭痛学会]]が頭痛分類と診断基準の初版<ref name=ref2><pubmed>3048700</pubmed></ref>を刊行し、2004年に第2版<ref name=ref3><pubmed>14979299</pubmed></ref>、2013年に第3版beta版<ref name=ref4><pubmed>23771276</pubmed></ref>が公開されている。第2版<ref name=ref5>'''日本頭痛学会・国際頭痛分類普及委員会訳'''<br>国際頭痛分類第2版 新訂増補日本語版<br>東京: ''医学書院''; 2007.</ref>、第3版beta版の日本語版<ref name=ref6>'''日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会訳'''<br>国際頭痛分類第3版beta版<br>東京: ''医学書院''; 2014.</ref>が書籍として刊行されており、[[wikipedia:ja:日本頭痛学会|日本頭痛学会]]の[https://www.jhsnet.org/kokusai_new_2015.html Webサイト]で全文を閲覧できる。 
 頭痛の系統的分類は1962年に[[wj:アメリカ国立衛生研究所|米国衛生研究所]]のad-hoc委員会で作成された分類が、いわゆる"''ad hoc''分類"として広く認知されていた<ref name=ref1>''Headache AHCoCo'''<br>Classification of headache. <br>''Journal of the American Medical Association.''179:717-718, 1962.</ref>。1988年には[[wj:国際頭痛学会|国際頭痛学会]]が頭痛分類と診断基準の初版<ref name=ref2><pubmed>3048700</pubmed></ref>を刊行し、2004年に第2版<ref name=ref3><pubmed>14979299</pubmed></ref>、2013年に第3版beta版<ref name=ref4><pubmed>23771276</pubmed></ref>が公開されている。第2版<ref name=ref5>'''日本頭痛学会・国際頭痛分類普及委員会訳'''<br>国際頭痛分類第2版 新訂増補日本語版<br>東京: ''医学書院''; 2007.</ref>、第3版beta版の日本語版<ref name=ref6>'''日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会訳'''<br>国際頭痛分類第3版beta版<br>東京: ''医学書院''; 2014.</ref>が書籍として刊行されており、[[wj:日本頭痛学会|日本頭痛学会]]の[https://www.jhsnet.org/kokusai_new_2015.html Webサイト]で全文を閲覧できる。 


 [[wikipedia:ja:国際頭痛分類|国際頭痛分類]]は[[wikipedia:ja:国際疾病分類|国際疾病分類]]との整合性に配慮されており、分類は階層化されている。さらに、各頭痛の[[操作的診断基準]]が記載されている。第1部 [[一次性頭痛]]、第2部 [[二次性頭痛]]、第3部:[[有痛性脳神経ニューロパチー]]、他の顔面痛およびその他の頭痛に大別され、14のグループに分類されている(表1)。ICHD-3βの頭分類は階層的に作成されており、コード番号が割り振られている。各頭痛性疾患には操作的診断基準が掲載されている。
 [[wj:国際頭痛分類|国際頭痛分類]]は[[wj:国際疾病分類|国際疾病分類]]との整合性に配慮されており、分類は階層化されている。さらに、各頭痛の[[操作的診断基準]]が記載されている。第1部 [[一次性頭痛]]、第2部 [[二次性頭痛]]、第3部:[[有痛性脳神経ニューロパチー]]、他の顔面痛およびその他の頭痛に大別され、14のグループに分類されている(表1)。ICHD-3βの頭分類は階層的に作成されており、コード番号が割り振られている。各頭痛性疾患には操作的診断基準が掲載されている。


 [[一次性頭痛]]は、頭痛の原因となる他の患がなく、頭痛そのものが障害となっている神経疾患である。[[片頭痛]]、[[緊張型頭痛]]、[[三叉神経・自律神経性頭痛]]([[群発頭痛]])が代表的である。
 [[一次性頭痛]]は、頭痛の原因となる他の患がなく、頭痛そのものが障害となっている神経疾患である。[[片頭痛]]、[[緊張型頭痛]]、[[三叉神経・自律神経性頭痛]]([[群発頭痛]])が代表的である。
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| '''第1部:[[一次性頭痛]]'''<br> 1.[[片頭痛]]<br> 2.[[緊張型頭痛]]<br> 3.[[三叉神経・自律神経性頭痛]](trigeminal autonomic cephalalgias, TACs)<br> 4.その他の一次性頭痛疾患  
| '''第1部:[[一次性頭痛]]'''<br> 1.[[片頭痛]]<br> 2.[[緊張型頭痛]]<br> 3.[[三叉神経・自律神経性頭痛]](trigeminal autonomic cephalalgias, TACs)<br> 4.その他の一次性頭痛疾患  
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| '''第2部:[[二次性頭痛]]''' <br> 5.頭頸部外傷・傷害による頭痛<br> 6.頭頸部血管障害による頭痛<br> 7.非血管性頭蓋内疾患による頭痛<br> 8.物質またはその離脱による頭痛<br> 9.[[wikipedia:ja感染症|感染症]]による頭痛<br> 10.[[wikipedia:ja:ホメオスターシス|ホメオスターシス]]障害による頭痛<br> 11.[[wikipedia:ja:頭蓋骨|頭蓋骨]]、[[wikipedia:ja:頸|頸]]、[[眼]]、[[wikipedia:ja:耳|耳]]、[[wikipedia:ja:鼻|鼻]]、[[wikipedia:ja:副鼻腔|副鼻腔]]、[[wikipedia:ja:歯|歯]]、[[wikipedia:ja:口|口]]あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛<br> 12.[[精神疾患]]による頭痛
| '''第2部:[[二次性頭痛]]''' <br> 5.頭頸部外傷・傷害による頭痛<br> 6.頭頸部血管障害による頭痛<br> 7.非血管性頭蓋内疾患による頭痛<br> 8.物質またはその離脱による頭痛<br> 9.[[wj感染症|感染症]]による頭痛<br> 10.[[wj:ホメオスターシス|ホメオスターシス]]障害による頭痛<br> 11.[[wj:頭蓋骨|頭蓋骨]]、[[wj:頸|頸]]、[[眼]]、[[wj:耳|耳]]、[[wj:鼻|鼻]]、[[wj:副鼻腔|副鼻腔]]、[[wj:歯|歯]]、[[wj:口|口]]あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛<br> 12.[[精神疾患]]による頭痛
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| '''第3部:[[有痛性脳神経ニューロパチー]]、他の顔面痛およびその他の頭痛''' <br> 13.有痛性脳神経ニューロパチーおよび他の顔面痛<br> 14.その他の頭痛性疾患
| '''第3部:[[有痛性脳神経ニューロパチー]]、他の顔面痛およびその他の頭痛''' <br> 13.有痛性脳神経ニューロパチーおよび他の顔面痛<br> 14.その他の頭痛性疾患
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====病因と病態仮説====
====病因と病態仮説====
 歴史的には、血管説、神経説、[[セロトニン]]学説、[[wikipedia:ja:血小板|血小板]]説などが提唱されてきた。近年の神経科学的知見から、片頭痛の疼痛は、脳硬膜の三叉神経血管系の[[神経原性炎症]]とその後惹起される神経感作が主たる病態と理解されている(三叉神経血管説<ref name=ref10><pubmed>8217498</pubmed></ref>)。神経原性炎症には[[カルシトニン遺伝子関連ペプチド]]([[CGRP]])が重要な関与をしている。この他、発痛物質[[サブスタンスP]]、セロトニン、[[ヒスタミン]]なども神経原性炎症の進展に関与すると考えられている。
 歴史的には、血管説、神経説、[[セロトニン]]学説、[[wj:血小板|血小板]]説などが提唱されてきた。近年の神経科学的知見から、片頭痛の疼痛は、脳硬膜の三叉神経血管系の[[神経原性炎症]]とその後惹起される神経感作が主たる病態と理解されている(三叉神経血管説<ref name=ref10><pubmed>8217498</pubmed></ref>)。神経原性炎症には[[カルシトニン遺伝子関連ペプチド]]([[CGRP]])が重要な関与をしている。この他、発痛物質[[サブスタンスP]]、セロトニン、[[ヒスタミン]]なども神経原性炎症の進展に関与すると考えられている。


 前兆のある片頭痛でみられる、閃輝暗点は、大脳皮質[[後頭葉]][[視覚野]]で発生する皮質拡延性抑制がその本態であると考えられている<ref name=ref11><pubmed>11287655</pubmed></ref> <ref name=ref12>'''古和久典'''<br>片頭痛のメカニズム In: 竹島多賀夫、ed. 頭痛治療薬の考え方、使い方<br>東京: ''中外医学社''; 2015:9-16.</ref>。
 前兆のある片頭痛でみられる、閃輝暗点は、大脳皮質[[後頭葉]][[視覚野]]で発生する皮質拡延性抑制がその本態であると考えられている<ref name=ref11><pubmed>11287655</pubmed></ref> <ref name=ref12>'''古和久典'''<br>片頭痛のメカニズム In: 竹島多賀夫、ed. 頭痛治療薬の考え方、使い方<br>東京: ''中外医学社''; 2015:9-16.</ref>。
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===頭頸部外傷・傷害による頭痛 ===
===頭頸部外傷・傷害による頭痛 ===
 サブタイプには、5.1「頭部外傷による急性頭痛」、5.2「頭部外傷による持続性頭痛」、5.3「[[wikipedia:ja:むち打ち|むち打ち]]による急性頭痛」、5.4「むち打ちによる持続性頭痛」、5.5「開頭術による急性頭痛」、5.6「開頭術による持続性頭痛」が掲載されている。頭痛が3ヵ月を超えて続くものを持続性頭痛と定義している。
 サブタイプには、5.1「頭部外傷による急性頭痛」、5.2「頭部外傷による持続性頭痛」、5.3「[[wj:むち打ち|むち打ち]]による急性頭痛」、5.4「むち打ちによる持続性頭痛」、5.5「開頭術による急性頭痛」、5.6「開頭術による持続性頭痛」が掲載されている。頭痛が3ヵ月を超えて続くものを持続性頭痛と定義している。


===頭頸部血管障害による頭痛 ===
===頭頸部血管障害による頭痛 ===