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<font size="+1">[http://researchmap.jp/9190 清水 崇弘]</font><br> | |||
''University College London (Wolfson Institute for Biomedical Research)''<br> | |||
<font size="+1">[http://researchmap.jp/kazuhiroikenaka 池中 一裕]</font><br> | |||
''自然科学研究機構 生理学研究所 分子生理研究系・分子神経生理''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年8月29日 原稿完成日:2012年11月20日 原稿更新日:2013年8月21日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br> | |||
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英語名: myelinated nerve, medullated nerve 独:myelinisierte Nervenfaser 仏:fibres myélinisées | 英語名: myelinated nerve, medullated nerve 独:myelinisierte Nervenfaser 仏:fibres myélinisées | ||
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[[髄鞘]]([[ミエリン]])を有する[[軸索]]のことを有髄線維あるいは[[有髄神経]]線維という。髄鞘は[[中枢神経系]]では[[稀突起膠細胞]](あるいは[[オリゴデンドロサイト]][oligodendrocyte])、[[末梢神経系]]では[[シュワン細胞]](Schwann cell)という[[グリア細胞]]が形成する。軸索は樹状突起と比べると細く平滑な細胞突起である。[[ミエリン鞘]]は等間隔にある[[ランヴィエ絞輪]](node of Ranvier)によって区切られており、軸索中の[[電位依存性ナトリウムチャネル]]はランヴィエ絞輪に集積している。 | [[髄鞘]]([[ミエリン]])を有する[[軸索]]のことを有髄線維あるいは[[有髄神経]]線維という。髄鞘は[[中枢神経系]]では[[稀突起膠細胞]](あるいは[[オリゴデンドロサイト]][oligodendrocyte])、[[末梢神経系]]では[[シュワン細胞]](Schwann cell)という[[グリア細胞]]が形成する。軸索は樹状突起と比べると細く平滑な細胞突起である。[[ミエリン鞘]]は等間隔にある[[ランヴィエ絞輪]](node of Ranvier)によって区切られており、軸索中の[[電位依存性ナトリウムチャネル]]はランヴィエ絞輪に集積している。 | ||
髄鞘は[[リン脂質]]に富んだ[[wikipedia:ja:タンパク質|タンパク質]]で層構造を形成しているため、非常に良い[[絶縁体]]の役割を果たす。さらに、活動電位を発生させる電位依存性[[ナトリウムチャネル]]がランヴィエ絞輪に集積しているために、活動電位を軸索に沿って[[跳躍伝導]]させることができる。また、単に絶縁体としての働きだけではなく、軸索との間に物質交換を行うことによって神経軸索の栄養・保護などさまざまな神経機能を調節している。主要構成タンパク質は[[ミエリン塩基性タンパク質]]([[myelin basic protein]]; [[MBP]])、[[ミエリンプロテオリピドプロテイン]]([[myelin proteolipid protein]]; [[PLP]])であり、その他に[[ミエリン関連糖タンパク質]]([[myelin associated glycoprotein]]; [[MAG]])、[[ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質]]([[myelin oligodendrocyte glycoprotein]]; [[MOG]])、[[2',3'-環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ]]([[2',3'-cyclic-nucleotide phosphodiesterase]]; [[CNPase]])などを含む。 | 髄鞘は[[リン脂質]]に富んだ[[wikipedia:ja:タンパク質|タンパク質]]で層構造を形成しているため、非常に良い[[絶縁体]]の役割を果たす。さらに、活動電位を発生させる電位依存性[[ナトリウムチャネル]]がランヴィエ絞輪に集積しているために、活動電位を軸索に沿って[[跳躍伝導]]させることができる。また、単に絶縁体としての働きだけではなく、軸索との間に物質交換を行うことによって神経軸索の栄養・保護などさまざまな神経機能を調節している。主要構成タンパク質は[[ミエリン塩基性タンパク質]]([[myelin basic protein]]; [[MBP]])、[[ミエリンプロテオリピドプロテイン]]([[myelin proteolipid protein]]; [[PLP]])であり、その他に[[ミエリン関連糖タンパク質]]([[myelin associated glycoprotein]]; [[MAG]])、[[ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質]]([[myelin oligodendrocyte glycoprotein]]; [[MOG]])、[[2',3'-環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ]]([[2',3'-cyclic-nucleotide phosphodiesterase]]; [[CNPase]])などを含む。 | ||
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== 神経の分類と髄鞘の有無 == | == 神経の分類と髄鞘の有無 == | ||
末梢神経の神経線維は伝導速度によって大きくA,B, | 末梢神経の神経線維は伝導速度によって大きくA,B,C線維と分類される。A線維はさらに速度の速い順にalpha,beta,gamma, deltaと分類される。例えばAalphaは固有知覚を求心性に伝えるとともに体性運動を遠心性に伝える。一方、感覚神経では太さに応じてI,II,III,IV線維と分類される。筋からの求心線維には慣用的にI-IVの分類が主に用いられ、皮膚からの求心線維にはA-Cの分類が用いられる。また、この伝導速度は髄鞘の有無や神経線維の直径の大小の組み合わせで規定される。同じ直径の有髄線維と[[無髄線維]]では有髄線維が、同じ種類の線維間では神経線維の直径の大きい方が伝導速度が速い。前者は跳躍伝導により、後者の[[電気緊張電位]]の広がりを利用した伝導よりも速い伝導速度を得ている。一般に[[wikipedia:ja:骨格筋|骨格筋]]運動と付随する[[固有感覚]]、部位のはっきりした[[皮膚感覚]]は伝導速度の速い線維を、[[交感神経]]活動や[[鈍痛]]などは伝導速度の遅い線維を利用して伝えられる。 | ||
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|+'''表1.神経線維の分類'''<ref name="ref1">'''Eric R. Kandel et al.'''<br>Principles of neural science fifth edition | |+'''表1.神経線維の分類'''<ref name="ref1">'''Eric R. Kandel et al.'''<br>Principles of neural science fifth edition p475-480<br>''McGraw-Hill Professional, New York, 2012''</ref> | ||
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| style="text-align:center" | | | style="text-align:center" | 筋からの求心性感覚神経線維(太さから分類) | ||
| style="text-align:center" | 線維直径(μm) | | style="text-align:center" | 線維直径(μm) | ||
| style="text-align:center" | | | style="text-align:center" | 皮膚からの求心性感覚神経線維(速度から分類) | ||
| style="text-align:center" | 伝導速度(m/s) | | style="text-align:center" | 伝導速度(m/s) | ||
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== 脱髄性疾患== | == 脱髄性疾患== | ||
正常な発生における髄鞘形成がなされたのち、神経軸索から髄鞘が脱落することを脱髄という<ref><pubmed>18558866</pubmed></ref>。[[脱髄性疾患]](demyelinating disease)では、髄鞘の消失により神経伝導速度が遅くなり、さまざまな神経症状が引き起こされる。脱髄が起こる場所により症状はさまざまである。[[ | 正常な発生における髄鞘形成がなされたのち、神経軸索から髄鞘が脱落することを脱髄という<ref><pubmed>18558866</pubmed></ref>。[[脱髄性疾患]](demyelinating disease)では、髄鞘の消失により神経伝導速度が遅くなり、さまざまな神経症状が引き起こされる。脱髄が起こる場所により症状はさまざまである。[[wj:運動麻痺|運動麻痺]]、[[wj:感覚麻痺|感覚麻痺]]、[[wj:視力障害|視力障害]]などが起こる。 | ||
中枢性脱髄疾患の中では[[多発性硬化症]](multiple sclerosis, MS)が最も多くみられる。日本での有病率は2006年では10万人あたり8 - 9人程度と推定されている。若年成人での神経障害の主な原因である。約80-90%のMS患者が二十代後半で再発-[[寛解]]型になり、寛解期には共通して、ある一定程度神経障害が一過的に回復する。発病から数年後、多くの患者が実質上機能回復はなくなり第二ステージに移り、病状は進行型になる。そして、あとの残り10-20%の患者は初めから寛解を経験することのない進行型である<ref name=ref10><pubmed>22189514</pubmed></ref>。[[カルシウムチャネル]]ブロッカーである[[Fampridine]](Fampyra)はMS治療において初めて機能回復に成功した経口投与薬であるが、転倒する、背中が痛む、[[めまい]]がする、[[不眠]]、[[疲労感]]、[[悪心]]、[[平衡障害]]などの副作用を伴うことが知られている<ref><pubmed>7354839</pubmed></ref> <ref><pubmed>6631441</pubmed></ref> <ref><pubmed>3001584</pubmed></ref> <ref><pubmed>2435223</pubmed></ref>。[[wj:インターフェロン|インターフェロン]]β(Interferon β)と[[wj:グラチマラー酢酸塩|グラチマラー酢酸塩]](glatiramer acetate)が現在もっともよく用いられている。これらの薬剤は根本治療法であるが、おもに再発-寛解型の患者に用いられている<ref name=ref10 />。 | |||
また、末梢神経系では[[ギラン・バレー症候群]]([[Guillain-Barré syndrome]])や[[慢性炎症性脱髄性多発神経炎]]([[chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy]]; [[CIDP]])、などがある。また、最近の研究により[[統合失調症]]との関連が示唆されている<ref><pubmed>18538868</pubmed></ref> <ref><pubmed>20216548</pubmed></ref> <ref><pubmed>21196354</pubmed></ref>。髄鞘形成が不完全な[[髄鞘形成不全疾患]](dysmyelinating disease)とは区別される。 | |||
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| [[橋中心髄鞘破壊症]] | | [[橋中心髄鞘破壊症]] | ||
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| [[ | | [[wj:ビタミンB12|ビタミンB12]]欠乏症 | ||
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| 血管性 | | 血管性 | ||
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<references /> | <references /> | ||