「くも膜下出血」の版間の差分

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 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の病態を特徴づけるprimary brain damageは,本疾患が頭蓋内という閉鎖空間で、その内圧の調整機能を担っている脳脊髄液内に、動脈血(圧)の出血が生じることで、ほぼ瞬時に頭蓋内圧が収縮期血圧まで上昇するため,重症例では脳灌流圧が著しく低下する高度の脳虚血が全脳的に発生する状態と言い換えることができる。これを後述する脳血管攣縮後の遅発性虚血性神経障害 (delayed ischemic neurological deficits : DIND)と対比させて急性虚血性神経障害(acute ischemic neurological deficits : AIND)と呼称する場合がある。特徴的症状である「突発する激しい頭痛と嘔吐, 意識障害」はこのAINDと出血自身による髄膜刺激症候からなる。
 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の病態を特徴づけるprimary brain damageは,本疾患が頭蓋内という閉鎖空間で、その内圧の調整機能を担っている脳脊髄液内に、動脈血(圧)の出血が生じることで、ほぼ瞬時に頭蓋内圧が収縮期血圧まで上昇するため,重症例では脳灌流圧が著しく低下する高度の脳虚血が全脳的に発生する状態と言い換えることができる。これを後述する脳血管攣縮後の遅発性虚血性神経障害 (delayed ischemic neurological deficits : DIND)と対比させて急性虚血性神経障害(acute ischemic neurological deficits : AIND)と呼称する場合がある。特徴的症状である「突発する激しい頭痛と嘔吐, 意識障害」はこのAINDと出血自身による髄膜刺激症候からなる。


 くも膜下出血の予後を最も決定する因子はprimary brain damageであり,発症時から高度の意識障害を示す重症例の予後は非常に悪いことから,来院時や治療前の意識障害に基づく重症度分類が広く用いられている。Hunt & Hess分類<ref name=Hunt1968><pubmed>5635959</pubmed></ref>5)('''表1'''), Hunt & Kosnik分類<ref name=Hunt1974><pubmed>4608645</pubmed></ref>6) ('''表2''') と,これらに Glasgow Coma Scale(GCS)での意識障害の点数を加味した国際脳神経外科連合(World Federation of Neuro-logical Societies:WFNS)によるWFNS分類を示す<ref name=WFNS1988><pubmed>3131498</pubmed></ref>7)('''表3'''))。WFNS分類ではGrade2とGrade3では片麻痺・失語症といった脳局所症状の有無で重症度を分類しているが、予後との相関に乏しく、GCSのみによるmodified WFNS分類('''表4''')の有用性も報告されている<ref name=Sano2015><pubmed>25535068</pubmed></ref>8)。
 くも膜下出血の予後を最も決定する因子はprimary brain damageであり,発症時から高度の意識障害を示す重症例の予後は非常に悪いことから,来院時や治療前の意識障害に基づく重症度分類が広く用いられている。Hunt & Hess分類<ref name=Hunt1968><pubmed>5635959</pubmed></ref>5)('''表1'''), Hunt & Kosnik分類<ref name=Hunt1974><pubmed>4608645</pubmed></ref>6) ('''表2''') と,これらに グラスゴー・コーマ・スケール (Glasgow Coma Scale, GCS)での意識障害の点数を加味した国際脳神経外科連合(World Federation of Neuro-logical Societies:WFNS)によるWFNS分類を示す<ref name=WFNS1988><pubmed>3131498</pubmed></ref>7)('''表3'''))。WFNS分類ではGrade2とGrade3では片麻痺・失語症といった脳局所症状の有無で重症度を分類しているが、予後との相関に乏しく、GCSのみによるmodified WFNS分類('''表4''')の有用性も報告されている<ref name=Sano2015><pubmed>25535068</pubmed></ref>8)。
 
{| class="wikitable"
|+表1. Hunt & Hess分類<ref name=Hunt1968></ref>
| Grade 1 || 無症状か、最小限の頭痛および軽度の項部硬直をみる
|-
| Grade 2 || 中等度から強度の頭痛、項部硬直をみるが、脳神経麻痺以外の神経学的失調はみられない
|-
| Grade 3 || 傾眠状態、錯乱状態、または軽度の巣症状を示す
|-
| Grade 4 || 昏迷状態で、中等度から重篤な片麻痺があり、早期除脳硬直および自律神経障害を伴うこともある
|-
| Grade 5 || 深昏睡状態で除脳硬直を示し、瀕死の様相を示す
|}
{| class="wikitable"
|+表2. Hunt & Kosnik分類<ref name=Hunt1974></ref>
| Grade 0 || 未破裂動脈瘤
|-
| Grade 1 || 意識清明で神経症状のないもの、またはあってもごく軽度の頭痛、項部硬直のあるもの
|-
| Grade 1a || 急性の髄膜または脳症状はないが、固定した神経脱落症状があるもの
|-
| Grade 2 || 意識清明で中等度から高度の頭痛、項部硬直はあるが、神経症状(脳神経麻痺を除く)を欠くもの
|-
| Grade 3 || 傾眠状態、錯乱状態、または軽度の局所症状をもつもの
|-
| Grade 4 || 昏迷状態、中等度から重度の片麻痺、ときに早期除脳硬直、自律神経障害を示すもの
|-
| Grade 5 || 深昏睡、除脳硬直、瀕死の状態のもの
|}
{| class="wikitable"
|+表3. WFNS分類<ref name= WFNS1988 ></ref>
| Grade 1 || GCS 15
|-
| Grade 2 || GCS 14~13 神経症状(片麻痺あるいは失語症)なし
|-
| Grade 3 || GCS 14~13 神経症状あり
|-
| Grade 4 || GCS 12~7
|-
| Grade 5 || GCS 6~3
|}
GCS: [[意識障害#グラスゴー・コーマ・スケール|グラスゴー・コーマ・スケール]]
 
{| class="wikitable"
|+表4. Modified WFNS分類<ref name= Sano2015 ></ref>
| Grade 1 || GCS 15
|-
| Grade 2 || GCS 14
|-
| Grade 3 || GCS 13
|-
| Grade 4 || GCS 12~7
|-
| Grade 5 || GCS 6~3
|}


==症状と診断==
==症状と診断==