「ドリフト拡散モデル」の版間の差分

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 ドリフト拡散モデルは,逐次サンプリングモデル (sequential sampling model) の一種である。逐次サンプリングモデルでは,刺激が呈示されると生体は時間経過とともに感覚入力やこれまでの経験の記憶など,判断に必要な情報 (エビデンス) を蓄積していき,その蓄積が境界 (閾値) を越えた時に反応が出力されると仮定する。蓄積されるエビデンスはノイジーであり,確率的な揺らぎを伴うと仮定される (刺激自体がノイズを含む場合もあるが,その入力情報を伝える神経細胞の活動にもノイズが含まれると考えられる)。行動課題を実施した際に反応までにかかる時間は,図1に示すように,(1)刺激の読み込み,(2)エビデンスの蓄積,(3)反応 (ボタン押しなどの運動) に分解することができる。(1)刺激の読み込みと(3)反応は,判断に関わる過程ではないので,それにかかる時間は非決定時間 (non decision time) と呼ばれる。(2)エビデンスの蓄積にかかる時間は,決定時間 (decision time) と呼ばれる。ドリフト拡散モデルをはじめとする逐次サンプリングモデルを用いることで,非決定時間の推定と決定時間の生成に関わるパラメータの推定を行うことができる。
 ドリフト拡散モデルは,逐次サンプリングモデル (sequential sampling model) の一種である。逐次サンプリングモデルでは,刺激が呈示されると生体は時間経過とともに感覚入力やこれまでの経験の記憶など,判断に必要な情報 (エビデンス) を蓄積していき,その蓄積が境界 (閾値) を越えた時に反応が出力されると仮定する。蓄積されるエビデンスはノイジーであり,確率的な揺らぎを伴うと仮定される (刺激自体がノイズを含む場合もあるが,その入力情報を伝える神経細胞の活動にもノイズが含まれると考えられる)。行動課題を実施した際に反応までにかかる時間は,図1に示すように,(1)刺激の読み込み,(2)エビデンスの蓄積,(3)反応 (ボタン押しなどの運動) に分解することができる。(1)刺激の読み込みと(3)反応は,判断に関わる過程ではないので,それにかかる時間は非決定時間 (non decision time) と呼ばれる。(2)エビデンスの蓄積にかかる時間は,決定時間 (decision time) と呼ばれる。ドリフト拡散モデルをはじめとする逐次サンプリングモデルを用いることで,非決定時間の推定と決定時間の生成に関わるパラメータの推定を行うことができる。


 ドリフト拡散モデルにおけるエビデンスの蓄積過程は,開始点<math>z</math>から始まり,一定のドリフト率に従ってエビデンスが蓄積される (図1)。そして,上下いずれかの境界までエビデンスが蓄積されると反応が出力される。図1の場合,上側の境界<math>a</math>に到達すると反応Aが出力され,下側の境界0に到達すると反応Bが出力される。開始点から境界<math>a</math>または0までの距離が長いほど,エビデンスの蓄積にかかる時間が長くなる。また,開始点から境界までの蓄積過程における速度は,ドリフト率に依存する。反応Aが正解である場合は,ドリフト率は正の値をとると仮定される。ドリフト率が大きいほど,境界まで到達する時間は短くなる。開始点,ドリフト率,境界,そして非決定時間がドリフト拡散モデルの振る舞いを決定する主なパラメータである。
 ドリフト拡散モデルにおけるエビデンスの蓄積過程は,開始点 <math>z</math> から始まり,一定のドリフト率に従ってエビデンスが蓄積される (図1)。そして,上下いずれかの境界までエビデンスが蓄積されると反応が出力される。図1の場合,上側の境界<math>a</math>に到達すると反応Aが出力され,下側の境界0に到達すると反応Bが出力される。開始点から境界<math>a</math>または0までの距離が長いほど,エビデンスの蓄積にかかる時間が長くなる。また,開始点から境界までの蓄積過程における速度は,ドリフト率に依存する。反応Aが正解である場合は,ドリフト率は正の値をとると仮定される。ドリフト率が大きいほど,境界まで到達する時間は短くなる。開始点,ドリフト率,境界,そして非決定時間がドリフト拡散モデルの振る舞いを決定する主なパラメータである。


 これらのパラメータの値には個人差 (個体差) があると考えられ,また,個人の中でも状態や実験条件などによって変化すると仮定される。例えば,生体が注意深く反応するほど境界パラメータ<math>a</math>は大きくなり,開始点と境界の間は広がると仮定される<ref name=Ratclif2016 />。逆に,素早い反応が求められる場合は<math>a</math>は小さくなると仮定される。一般に,意思決定におけるスピードと正確性の間には,片方を重視するともう片方が損なわれるというトレードオフがある。境界パラメータ<math>a</math>の変化を通して,ドリフト拡散モデルはそのようなスピードと正確性のトレードオフをとらえることができる。開始点パラメータ<math>z</math>は刺激に関する事前の期待に対応する。例えば,反応Aを起こすべき刺激の出現が期待される場合は,開始点パラメータは大きい (<math>a</math>に近い) 値をとると仮定される。
 これらのパラメータの値には個人差 (個体差) があると考えられ,また,個人の中でも状態や実験条件などによって変化すると仮定される。例えば,生体が注意深く反応するほど境界パラメータ<math>a</math>は大きくなり,開始点と境界の間は広がると仮定される<ref name=Ratclif2016 />。逆に,素早い反応が求められる場合は<math>a</math>は小さくなると仮定される。一般に,意思決定におけるスピードと正確性の間には,片方を重視するともう片方が損なわれるというトレードオフがある。境界パラメータ<math>a</math>の変化を通して,ドリフト拡散モデルはそのようなスピードと正確性のトレードオフをとらえることができる。開始点パラメータ<math>z</math>は刺激に関する事前の期待に対応する。例えば,反応Aを起こすべき刺激の出現が期待される場合は,開始点パラメータは大きい (<math>a</math>に近い) 値をとると仮定される。
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