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英語名:anorexia nervosa 独:Anorexia nervosa, Magersucht 仏:anorexie mentale | 英語名:anorexia nervosa 独:Anorexia nervosa, Magersucht 仏:anorexie mentale | ||
同義語:神経性食欲不振症、神経性無食欲症、神経性食思不振症、拒食症 | |||
{{box|text= 神経性やせ症は摂食障害の一型であり、身体像の障害、強い[[やせ願望]]や[[肥満恐怖]]などのため[[不食]]や[[摂食]]制限、あるいは[[過食]]しては[[wj:嘔吐|嘔吐]]するため著しいやせと種々の身体・精神症状を生じる一つの症候群である。[[wj:思春期|思春期]]から[[wj:青年期|青年期]]の女性を中心に急増している。しかし最近の際立った特徴として、患者が前思春期の低年齢層から既婚の高年齢層まで拡がりをみせていることや、臨床像が多様化して非定型例が増加していることである。}} | {{box|text= 神経性やせ症は摂食障害の一型であり、身体像の障害、強い[[やせ願望]]や[[肥満恐怖]]などのため[[不食]]や[[摂食]]制限、あるいは[[過食]]しては[[wj:嘔吐|嘔吐]]するため著しいやせと種々の身体・精神症状を生じる一つの症候群である。[[wj:思春期|思春期]]から[[wj:青年期|青年期]]の女性を中心に急増している。しかし最近の際立った特徴として、患者が前思春期の低年齢層から既婚の高年齢層まで拡がりをみせていることや、臨床像が多様化して非定型例が増加していることである。}} | ||
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DEXA: 二重エネルギーX線吸収法(dual energy X-ray absorptiometry) | DEXA: 二重エネルギーX線吸収法(dual energy X-ray absorptiometry) | ||
*'''精神障害のcomorbidity''':[[Comorbidity]] | *'''精神障害のcomorbidity''':[[Comorbidity]]とはある疾患をもつ患者が、その疾患の経過中またはその前後に罹患した別の疾患または病態を指し、必ずしも合併症(原疾患より二次的に生じた病態)を意味しない。摂食障害患者においてうつ病、強迫症、[[社交不安症]]、[[パニック症]]などの[[不安症]]、[[境界性パーソナリティ障害|境界性]]、[[演技性パーソナリティ障害|演技性]]、[[強迫性パーソナリティ障害|強迫性]]、[[回避性パーソナリティ障害|回避性]]、[[依存性パーソナリティ障害|依存性]]などの[[パーソナリティ障害]]、さらに[[アルコ-ル]]や薬物などの[[物質関連障害]]などのcomorbidityを高率に認める。 | ||
== 成因・発症機序 == | == 成因・発症機序 == | ||
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== 診断 == | == 診断 == | ||
神経性やせ症の診断について、'''表5'''に[[DSM-5]]<ref>'''American Psychiatric Association (2013).'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed (DSM-5). ''American Psychiatric Publishing'', Arlington</ref>と[[ICD-11]]<ref><pubmed>31084617</pubmed></ref>の診断基準を示した。 | |||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
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== 治療 == | == 治療 == | ||
摂食障害の治療において、急性期であれ慢性期であれ外来通院が可能な限り、本来の環境の中で治療することを原則として外来治療を行う。すなわち日常生活における困難に直面させ続けながら、たえず治療への動機づけを強化していくことが必要である。安易に入院を繰り返す事は、現実から退き、病者への退行を容易にしてしまう。そして入院治療はあくまでも治療上の一つのステップで、真の回復は退院後の外来通院における患者の歩みから始まる。したがって摂食障害の治療において外来通院が治療上大きなウエイトを占める<ref name=切池信夫2015>'''切池信夫 (2015).'''<br>クリニックで診る摂食障害''医学書院''、東京</ref> 。 | 摂食障害の治療において、急性期であれ慢性期であれ外来通院が可能な限り、本来の環境の中で治療することを原則として外来治療を行う。すなわち日常生活における困難に直面させ続けながら、たえず治療への動機づけを強化していくことが必要である。安易に入院を繰り返す事は、現実から退き、病者への退行を容易にしてしまう。そして入院治療はあくまでも治療上の一つのステップで、真の回復は退院後の外来通院における患者の歩みから始まる。したがって摂食障害の治療において外来通院が治療上大きなウエイトを占める<ref name=切池信夫2015>'''切池信夫 (2015).'''<br>クリニックで診る摂食障害 ''医学書院''、東京</ref> 。 | ||
=== 治療目標と治療への導入 === | === 治療目標と治療への導入 === | ||
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'''精神療法''':認知療法的アプロ-チにより、体重や食物に関連した不合理な認知や思い込みに気づくよう働きかける。すなわち、患者が自分の体重や食事以外の面での考えや感情を正しく認知する能力には自信を失わせず、摂食障害の症状の一部として、体型や体重についての歪んだ認知があることを自覚するよう援助する。 | '''精神療法''':認知療法的アプロ-チにより、体重や食物に関連した不合理な認知や思い込みに気づくよう働きかける。すなわち、患者が自分の体重や食事以外の面での考えや感情を正しく認知する能力には自信を失わせず、摂食障害の症状の一部として、体型や体重についての歪んだ認知があることを自覚するよう援助する。 | ||
このような精神療法的努力と身体的療法による体重の回復とを統合させ、徐々に不合理な認知と身体像の障害を修正していく。体重が改善すると患者の気分の改善、[[認知機能]]の強化、思考の清明化がもたらされる。そしてさらに根底にある実存的問題に目が向けられ自己同一性の確立、すなわち自己の確立と個性化の達成を促す。これらを長期の外来通院による[[支持的精神療法]]で行う。 薬物療法:不眠、不安、抑うつ気分、胃重感、消化・吸収機能の低下などの随伴症状に対する対症療法や、治療関係を促進して精神療法や行動療法への導入を容易にするために行われる。 | |||
=== 家族への対応の仕方 === | === 家族への対応の仕方 === |