「オリゴデンドロサイト前駆細胞」の版間の差分

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=== O-2A前駆細胞の単離方法 ===  
=== O-2A前駆細胞の単離方法 ===  


 O-2A前駆細胞は、新生児ラットの視神経や[[大脳皮質]]をフラスコで2週間程度培養し、その後フラスコを激しく水平方面に激しく1晩振盪(200rpm以上)することにより浮遊してくる。Type 1アストロサイトやニューロンは、この条件では浮遊しない。この浮遊細胞を集め、ミクログリアを何もコートしていないプラスチックペトリ皿に付着させることで除いて[[継代培養]]すると、O-2A細胞が80~90%程度含まれるenriched cultureとなる。A2B5抗体を培養基質に塗布して、これに接着する細胞を集めることにより95%以上の純度でO-2A細胞を集めることができる<ref name=ref3>'''Bottenstein JE and Hunter SF''' <br>''Culture method for oligodendrocyte cell line and oligodendrocyte-type2 astrocyte lineage cells.''<br>In Cell culture, Conn PM ed, pp. 56-75, Methods in Neurosciences Vol. 2, Academic Press Inc., San Diego.(1990)</ref><ref name=ref4><pubmed>12379434</pubmed></ref>。培養条件により、アストログリア、またはオリゴデンドロサイトに分化させるようコントロールできることから、細胞分化調節機構解析のモデル細胞として扱われてきた。しかし、[[wj:マウス|マウス]]胎仔および新生仔の脳の培養細胞では、同じような手順で行ってもO-2A細胞のenriched cultureは難しい。 
 O-2A前駆細胞は、新生児ラットの視神経や[[大脳皮質]]をフラスコで2週間程度培養し、その後フラスコを激しく水平方面に激しく1晩振盪(200rpm以上)することにより浮遊してくる。Type 1アストロサイトやニューロンは、この条件では浮遊しない。この浮遊細胞を集め、ミクログリアを何もコートしていないプラスチックペトリ皿に付着させることで除いて[[継代培養]]すると、O-2A細胞が80~90%程度含まれるenriched cultureとなる。A2B5抗体を培養基質に塗布して、これに接着する細胞を集めることにより95%以上の純度でO-2A細胞を集めることができる<ref name=ref3>'''Bottenstein JE and Hunter SF''' <br>''Culture method for oligodendrocyte cell line and oligodendrocyte-type2 astrocyte lineage cells.''<br>In Cell culture, Conn PM ed, pp. 56-75, Methods in Neurosciences Vol. 2, Academic Press Inc., San Diego.(1990)</ref><ref name=ref4><pubmed>12379434</pubmed></ref>。培養条件により、アストログリア、またはオリゴデンドロサイトに分化させるようコントロールできることから、細胞分化調節機構解析のモデル細胞として扱われてきた。しかし、[[マウス]]胎仔および新生仔の脳の培養細胞では、同じような手順で行ってもO-2A細胞のenriched cultureは難しい。 


=== オリゴデンドロサイト前駆細胞としてのO-2A前駆細胞 ===  
=== オリゴデンドロサイト前駆細胞としてのO-2A前駆細胞 ===  
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==== 転写因子 ====  
==== 転写因子 ====  


 [[転写因子]]の[[Olig2]]は、[[Olig1]]とともに、[[ソニックヘッジホッグ]](Shh)に誘導されるオリゴデンドロサイト系譜に特異的な転写因子として報告された<ref name=ref13><pubmed>10719888</pubmed></ref><ref name=ref14><pubmed>11091082</pubmed></ref><ref name=ref15><pubmed>10719889</pubmed></ref>。Olig2とOlig1はともにPDGFRαと同様に、[[脊髄]]腹側部から出現し次第に脊髄背側部に広がるが、発現そのものはオリゴデンドロサイト前駆細胞の出現以前からみられる。
 [[転写因子]]の[[Olig2]]は、[[Olig1]]とともに、[[ソニックヘッジホッグ]]([[Shh]])に誘導されるオリゴデンドロサイト系譜に特異的な転写因子として報告された<ref name=ref13><pubmed>10719888</pubmed></ref><ref name=ref14><pubmed>11091082</pubmed></ref><ref name=ref15><pubmed>10719889</pubmed></ref>。Olig2とOlig1はともにPDGFRαと同様に、[[脊髄]]腹側部から出現し次第に脊髄背側部に広がるが、発現そのものはオリゴデンドロサイト前駆細胞の出現以前からみられる。


 [[Nkx2.2]]は、マウスではOlig2より腹側部で発現し、ニワトリ胚ではOlig2と一部重なり、O4陽性細胞で発現がみられる<ref name=ref16><pubmed>11526078</pubmed></ref>。またマウスでも発生の後期になるとOlig2とNkx2.2は同一の細胞で発現するようになる。Nkx2.2はミエリン[[プロテオリピドタンパク質]](PLP)の[[プロモーター]]に結合してその発現を調節する。
 [[Nkx2.2]]は、マウスではOlig2より腹側部で発現し、ニワトリ胚ではOlig2と一部重なり、O4陽性細胞で発現がみられる<ref name=ref16><pubmed>11526078</pubmed></ref>。またマウスでも発生の後期になるとOlig2とNkx2.2は同一の細胞で発現するようになる。Nkx2.2はミエリン[[プロテオリピドタンパク質]](PLP)の[[プロモーター]]に結合してその発現を調節する。
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==== 細胞表面分子 ====  
==== 細胞表面分子 ====  


 PDGFRαは上述の通り、最初にオリゴデンドロサイト前駆細胞の系譜マーカーとして見出されたものである。NG2は、[[コンドロイチン硫酸プロテオグリカン]](cspg4)を抗原とする抗体を用いて標識される細胞である。NG2抗体は、培養系ではO-2A前駆細胞を標識し、生体内でもPDGFRα陽性細胞を標識することから、オリゴデンドロサイト前駆細胞で発現していることが明らかにされた<ref name=ref18><pubmed>8714519</pubmed></ref><ref name=ref19><pubmed>3305800</pubmed></ref>。NG2は、オリゴデンドロサイト前駆細胞のみならず周皮細胞でも発現している。オリゴデンドロサイト前駆細胞でのNG2の発言を調節するエンハンサーがイントロン内に含まれることが明らかにされ、周皮細胞とは異なった発現調節を受けていることが示された<ref name=Gotoh2018><pubmed> 30306660 </pubmed></ref>。
 PDGFRαは上述の通り、最初にオリゴデンドロサイト前駆細胞の系譜マーカーとして見出されたものである。NG2は、[[コンドロイチン硫酸プロテオグリカン]](cspg4)を抗原とする抗体を用いて標識される細胞である。NG2抗体は、培養系ではO-2A前駆細胞を標識し、生体内でもPDGFRα陽性細胞を標識することから、オリゴデンドロサイト前駆細胞で発現していることが明らかにされた<ref name=ref18><pubmed>8714519</pubmed></ref><ref name=ref19><pubmed>3305800</pubmed></ref>。NG2は、オリゴデンドロサイト前駆細胞のみならず周皮細胞でも発現している。オリゴデンドロサイト前駆細胞でのNG2の発現を調節するエンハンサーがイントロン内に含まれることが明らかにされ、周皮細胞とは異なった発現調節を受けていることが示された<ref name=Gotoh2018><pubmed> 30306660 </pubmed></ref>。


==== 糖脂質 ====  
==== 糖脂質 ====  
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=== 視神経 ===  
=== 視神経 ===  


 O-2A前駆細胞は、新生児ラットの培養視神経細胞から見出されたものである。上述の通り、視神経のO-2A細胞もしくはオリゴデンドロサイト前駆細胞は当初から前脳からの移民細胞であると予想されており、ニワトリではその起源や移動様式が明らかにされている。[[齧歯類]]の視神経におけるPDGFRαをマーカーとした解析では、これを発現する細胞が出生直後に(P0からP2にかけて)視神経の[[視交叉]]側から[[網膜]]側に向かって急速に分布が拡がる。これは、オリゴデンドロサイト前駆細胞の移動を反映しているものと考えられている<ref name=ref49><pubmed>1425339</pubmed></ref>。しかし、マウスやラットの視神経でgenetic fate mappingなどを用いたオリゴデンドロサイト前駆細胞の移動や系譜解析は、前脳や脊髄に比較して少なく、直接的に示した報告はほとんどないのが現状である。Olig2-CreERマウスを用いたgenetic fate mappingから、E12.5のOlig2陽性細胞をGFPで標識すると、前脳基底部では視索前野とその周辺領域から出現し、E13.5、E14.5ではすべてPDGFRα陽性となる。GFP陽性細胞は、出世前後から視神経に入り、成体ではすべてOLとなる。PDGFRαに対する抗体を用いて胎仔期の前脳をwhole-mountで免疫染色すると、視索前野から陽性細胞が出現して後方に広がることから、この領域が視神経OLの起源領域であるとみなされた<ref name=Ono2017><pubmed> 28293728 </pubmed></ref>。
 O-2A前駆細胞は、新生児ラットの培養視神経細胞から見出されたものである。上述の通り、視神経のO-2A細胞もしくはオリゴデンドロサイト前駆細胞は当初から前脳からの移民細胞であると予想されており、ニワトリではその起源や移動様式が明らかにされている。[[齧歯類]]の視神経におけるPDGFRαをマーカーとした解析では、これを発現する細胞が出生直後に(P0からP2にかけて)視神経の[[視交叉]]側から[[網膜]]側に向かって急速に分布が拡がる。これは、オリゴデンドロサイト前駆細胞の移動を反映しているものと考えられている<ref name=ref49><pubmed>1425339</pubmed></ref>。しかし、マウスやラットの視神経でgenetic fate mappingなどを用いたオリゴデンドロサイト前駆細胞の移動や系譜解析は、前脳や脊髄に比較して少なく、直接的に示した報告はほとんどないのが現状である。Olig2-CreERマウスを用いたgenetic fate mappingから、E12.5のOlig2陽性細胞をGFPで標識すると、[[前脳基底部]]では[[視索前野]]とその周辺領域から出現し、E13.5、E14.5ではすべてPDGFRα陽性となる。GFP陽性細胞は、出生前後から視神経に入り、成体ではすべてオリゴデンドロサイトとなる。PDGFRαに対する抗体を用いて胎仔期の前脳をwhole-mountで免疫染色すると、視索前野から陽性細胞が出現して後方に広がることから、この領域が視神経オリゴデンドロサイトの起源領域であるとみなされた<ref name=Ono2017><pubmed> 28293728 </pubmed></ref>。


=== 終脳 ===  
=== 終脳 ===