16,040
回編集
細編集の要約なし |
細 (→特徴統合理論) |
||
35行目: | 35行目: | ||
特徴統合理論は、主に物体の探索行動における、注意の機能を説明するモデルとして提案された。特徴統合理論は、'''図4'''のように、特徴マップ形成段階と注意による統合段階という、視覚情報処理を継続する二段階の処理に分けた(Treisman & Gelade, 1980; Treisman & Gormican, 1988) <ref name=Treisman1980><pubmed>7351125</pubmed></ref><ref name=Treisman1988><pubmed>3353475</pubmed></ref>。第1段階の処理では、空間的に広がりを持つ特徴マップの集合がつくられ、第2段階の処理では、視覚的注意がある特定の領域に向けられ、それぞれのマップの情報を結合し、オブジェクトの照合が可能となる。視覚的注意は逐次的に次から次の項目へ向けられる。したがって、特徴統合理論は、代表的な初期選択モデルである。 | 特徴統合理論は、主に物体の探索行動における、注意の機能を説明するモデルとして提案された。特徴統合理論は、'''図4'''のように、特徴マップ形成段階と注意による統合段階という、視覚情報処理を継続する二段階の処理に分けた(Treisman & Gelade, 1980; Treisman & Gormican, 1988) <ref name=Treisman1980><pubmed>7351125</pubmed></ref><ref name=Treisman1988><pubmed>3353475</pubmed></ref>。第1段階の処理では、空間的に広がりを持つ特徴マップの集合がつくられ、第2段階の処理では、視覚的注意がある特定の領域に向けられ、それぞれのマップの情報を結合し、オブジェクトの照合が可能となる。視覚的注意は逐次的に次から次の項目へ向けられる。したがって、特徴統合理論は、代表的な初期選択モデルである。 | ||
特徴統合理論によれば、特徴探索では、特徴マップの空間的な並列処理が可能であるので、標的は妨害刺激数によらず検出可能である一方、結合探索は、視覚的注意を向けることによって標的を判断しなければならないので、妨害刺激数に大きな影響を受ける。結合探索の場合には、視覚的注意が順に移動するので、探索時間は妨害刺激の数に比例する。注意は、スポットライトに例えられるような窓であり、複数の特徴を結び付ける特徴統合の役割があると考えられている。したがって、視野内の別々の位置に存在する複数の特徴が結びついたように知覚される結合錯誤という現象は、注意が十分に向けられず、複数の特徴を結合されるのに十分な処理時間が得られなかったときに生起すると説明することができる(Treisman, 1986) <ref name=Treisman1986>Treisman, A. (1986). <br>Features and objects in visual processing. Scientific American, 254, 11, 114-125. [https://doi.org/10.1038/scientificamerican1186-114B PDF]</ref> | 特徴統合理論によれば、特徴探索では、特徴マップの空間的な並列処理が可能であるので、標的は妨害刺激数によらず検出可能である一方、結合探索は、視覚的注意を向けることによって標的を判断しなければならないので、妨害刺激数に大きな影響を受ける。結合探索の場合には、視覚的注意が順に移動するので、探索時間は妨害刺激の数に比例する。注意は、スポットライトに例えられるような窓であり、複数の特徴を結び付ける特徴統合の役割があると考えられている。したがって、視野内の別々の位置に存在する複数の特徴が結びついたように知覚される結合錯誤という現象は、注意が十分に向けられず、複数の特徴を結合されるのに十分な処理時間が得られなかったときに生起すると説明することができる(Treisman, 1986) <ref name=Treisman1986>'''Treisman, A. (1986).''' <br>Features and objects in visual processing. Scientific American, 254, 11, 114-125. [https://doi.org/10.1038/scientificamerican1186-114B PDF]</ref> | ||
。この特徴統合理論は、認知心理学的注意研究に大きな影響を与えるとともに、神経生理学的研究に与えたインパクトも大きい(Miller & Cohen, 2001) <ref name=Miller2001><pubmed>11283309</pubmed></ref>。 | 。この特徴統合理論は、認知心理学的注意研究に大きな影響を与えるとともに、神経生理学的研究に与えたインパクトも大きい(Miller & Cohen, 2001) <ref name=Miller2001><pubmed>11283309</pubmed></ref>。 | ||
Treisman (1993) <ref name=Treisman1993>Treisman, A. (1993). <br>The perception of features and objects. In A. D. Baddeley & L. Weiskrantz (Eds.), Attention: Selection, awareness, and control: A tribute to Donald Broadbent (pp. 5-35). Clarendon Press/Oxford University Press. </ref>では、特徴統合理論への様々な批判に応え、固定的な注意の窓としてではなく、様々な位置に分布する色などの特徴、形状が固定されていないオブジェクトにも注意が向けられ、さらに統合された表象の選択においても注意機能が働くことなどを加えた、新たな特徴統合理論に発展させている。 | Treisman (1993) <ref name=Treisman1993>'''Treisman, A. (1993).''' <br>The perception of features and objects. In A. D. Baddeley & L. Weiskrantz (Eds.), Attention: Selection, awareness, and control: A tribute to Donald Broadbent (pp. 5-35). Clarendon Press/Oxford University Press. </ref>では、特徴統合理論への様々な批判に応え、固定的な注意の窓としてではなく、様々な位置に分布する色などの特徴、形状が固定されていないオブジェクトにも注意が向けられ、さらに統合された表象の選択においても注意機能が働くことなどを加えた、新たな特徴統合理論に発展させている。 | ||
特徴統合理論では触れられていなかった、視覚探索における逐次処理の優先順位について、刺激駆動型のボトムアップ要因による活性値と、課題駆動型のトップダウン要因による活性値を加重和した活性化マップに基づき、最も標的らしい位置から順番に注意移動するという仮定を加えたのが、誘導探索モデルである(Wolfe, Cave, & Franzel, 1989) <ref name=Wolfe1989><pubmed>2527952</pubmed></ref>。誘導探索モデルは、特徴統合理論をベースにしながら、妨害刺激の異質性が増加するにつれて、特徴探索が効率的な出なくなるなど、様々な視覚探索特性に対応できるモデルとして提案されている。さらに、誘導探索モデルはバージョンアップを繰り返し、誘導探索モデル6.0では、ボトムアップ要因とトップダウン要因に加え、探索履歴、報酬、情景の構造や意味を考慮して、様々な情景に対応できるようなモデルとして改良が加えられている(Wolfe, 2021) <ref name=Wolfe2021><pubmed>33547630</pubmed></ref>。 | 特徴統合理論では触れられていなかった、視覚探索における逐次処理の優先順位について、刺激駆動型のボトムアップ要因による活性値と、課題駆動型のトップダウン要因による活性値を加重和した活性化マップに基づき、最も標的らしい位置から順番に注意移動するという仮定を加えたのが、誘導探索モデルである(Wolfe, Cave, & Franzel, 1989) <ref name=Wolfe1989><pubmed>2527952</pubmed></ref>。誘導探索モデルは、特徴統合理論をベースにしながら、妨害刺激の異質性が増加するにつれて、特徴探索が効率的な出なくなるなど、様々な視覚探索特性に対応できるモデルとして提案されている。さらに、誘導探索モデルはバージョンアップを繰り返し、誘導探索モデル6.0では、ボトムアップ要因とトップダウン要因に加え、探索履歴、報酬、情景の構造や意味を考慮して、様々な情景に対応できるようなモデルとして改良が加えられている(Wolfe, 2021) <ref name=Wolfe2021><pubmed>33547630</pubmed></ref>。 | ||
[[ファイル:横澤 注意のモデル Fig5.png|サムネイル|'''図5. 注意の瞬きの2段階モデル (Chun & Potter, 1995) <ref name=Chun1995 />を図式化したもの'''<br>第1段階は容量制限を持たず、標的定義特徴をもつものを標的候補として並列的に検出する。ここで選ばれたものは後に報告できるかたちにするため第2段階で作業記憶に固定化される。この固定化には時間を要するため、200-500ms以内に呈示される第2標的は第1段階で標的候補となったとしても、第1標的の固定化が完了するまでは第2段階へ送ることができず、後続の刺激に逆向マスキングを受けて失われ、見落とされる。]] | [[ファイル:横澤 注意のモデル Fig5.png|サムネイル|'''図5. 注意の瞬きの2段階モデル (Chun & Potter, 1995) <ref name=Chun1995 />を図式化したもの'''<br>第1段階は容量制限を持たず、標的定義特徴をもつものを標的候補として並列的に検出する。ここで選ばれたものは後に報告できるかたちにするため第2段階で作業記憶に固定化される。この固定化には時間を要するため、200-500ms以内に呈示される第2標的は第1段階で標的候補となったとしても、第1標的の固定化が完了するまでは第2段階へ送ることができず、後続の刺激に逆向マスキングを受けて失われ、見落とされる。]] | ||
==時間的注意のモデル== | ==時間的注意のモデル== | ||