「注意のモデル」の版間の差分

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 一貫性理論は三つのシステムからなる3極構造のモデルを仮定する。'''図6'''下部の灰色で塗られた矩形領域において、感覚器官を通じて得られた小円形がそれぞれ外界に存在する事物であり、システム1において、それらすべてを含む、プロトオブジェクトと呼ぶ脆弱な表象が形成され、左経路によって、システム3において、ジストやレイアウトといった概略情報を得ることで、過去の経験の積み重ねによって形成された外界に関する知識などと照合することができる。さらに、右経路に示すように、システム2において、ネクサスと呼ぶ、次の行動に必要な一部の情報だけが集中的注意によって選ばれ、長期記憶と照合され、さらに高次の情報処理を続けることが可能になる。このようなシステム1とシステム2の処理を仮定することは、特徴統合理論(Treisman & Gelade, 1980) <ref name=Treisman1980><pubmed>7351125</pubmed></ref>とも整合的であると共に、神経科学的現象とも整合性の高いモデルの提案にもつながっている(Walther & Koch, 2006) <ref name=Walther2006><pubmed>17098563</pubmed></ref>。
 一貫性理論は三つのシステムからなる3極構造のモデルを仮定する。'''図6'''下部の灰色で塗られた矩形領域において、感覚器官を通じて得られた小円形がそれぞれ外界に存在する事物であり、システム1において、それらすべてを含む、プロトオブジェクトと呼ぶ脆弱な表象が形成され、左経路によって、システム3において、ジストやレイアウトといった概略情報を得ることで、過去の経験の積み重ねによって形成された外界に関する知識などと照合することができる。さらに、右経路に示すように、システム2において、ネクサスと呼ぶ、次の行動に必要な一部の情報だけが集中的注意によって選ばれ、長期記憶と照合され、さらに高次の情報処理を続けることが可能になる。このようなシステム1とシステム2の処理を仮定することは、特徴統合理論(Treisman & Gelade, 1980) <ref name=Treisman1980><pubmed>7351125</pubmed></ref>とも整合的であると共に、神経科学的現象とも整合性の高いモデルの提案にもつながっている(Walther & Koch, 2006) <ref name=Walther2006><pubmed>17098563</pubmed></ref>。


 一方、集中的注意を向けたオブジェクト以外は、詳細な高次認知処理が行われていなくても、システム3における、ジストやレイアウトといった概略情報によって、目の前の情景のほとんどが脳内表象として存在していると錯覚していることになる。このような状況を顕在させるような実験環境を作れば、にわかには信じがたい現象を体験できる。その代表が、情景の中に変化部分があっても見落としてしまう、変化の見落とし現象である(Rensink, O’Regan, & Clark, 1997) <ref name=Rensink1997>Rensink, R. A., O'Regan, J. K., & Clark, J. J. (1997). To see or not to see: The need for attention to perceive changes in scenes. Psychological Science, 8, 368-373. [https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.1997.tb00427.x PDF]</ref>。例えば、2つの動画内容に連続性があるとき、1つの情景スキーマに基づいて表象が作られているために、変化の見落とし現象が生じると考えられる。一方、情景全体に対しては、瞬時に表象が作成され、情景すべての脳内表象が存在すると錯覚してしまうので、簡単に変化を検出できるのではないかと予想してしまうのである。
 一方、集中的注意を向けたオブジェクト以外は、詳細な高次認知処理が行われていなくても、システム3における、ジストやレイアウトといった概略情報によって、目の前の情景のほとんどが脳内表象として存在していると錯覚していることになる。このような状況を顕在させるような実験環境を作れば、にわかには信じがたい現象を体験できる。その代表が、情景の中に変化部分があっても見落としてしまう、変化の見落とし現象である(Rensink, O’Regan, & Clark, 1997) <ref name=Rensink1997>'''Rensink, R. A., O'Regan, J. K., & Clark, J. J. (1997).'''<br>To see or not to see: The need for attention to perceive changes in scenes. Psychological Science, 8, 368-373. [https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.1997.tb00427.x PDF]</ref>。例えば、2つの動画内容に連続性があるとき、1つの情景スキーマに基づいて表象が作られているために、変化の見落とし現象が生じると考えられる。一方、情景全体に対しては、瞬時に表象が作成され、情景すべての脳内表象が存在すると錯覚してしまうので、簡単に変化を検出できるのではないかと予想してしまうのである。


 我々には外界の情報を、ネクサスという限られた容量で逐次的にしか脳に伝えることができない視覚情報処理の限界、注意容量の限界があるので、変化の見落としは起こりうるものである。我々は目に映った情景におけるすべてのオブジェクトが同時に認識されていると誤解しがちであるが、実は情景の大まかな情報をもとに、情景の詳細を見ているような錯覚しているのに過ぎないと一貫性理論では説明する。
 我々には外界の情報を、ネクサスという限られた容量で逐次的にしか脳に伝えることができない視覚情報処理の限界、注意容量の限界があるので、変化の見落としは起こりうるものである。我々は目に映った情景におけるすべてのオブジェクトが同時に認識されていると誤解しがちであるが、実は情景の大まかな情報をもとに、情景の詳細を見ているような錯覚しているのに過ぎないと一貫性理論では説明する。


==参考文献==
==参考文献==