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''東京医科大学組織・神経解剖学分野''<br>
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DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年2月8日 原稿完成日:2016年月日<br>
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担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br>
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同義語:Feminizing locus on X 3, FOX3, Rbfox3
同義語:Feminizing locus on X 3, FOX3, Rbfox3


{{box|text= NeuNは、マウス脳の細胞核を抗原として作製されたモノクローナル抗体の抗原分子の名称で、その抗体は細胞分裂終了後のニューロンと反応するが、グリアとは反応しない。現在、ニューロンのマーカー抗体として発生学、神経科学などの分野で広く用いられている。2009年になって、NeuN抗体の抗原分子は、組織特異的スプライシング調節因子のRbfox3であることが判明した。}}
{{box|text= NeuNは、マウス脳の細胞核を抗原として作製されたモノクローナル抗体の抗原分子の名称ある。NeuN抗体は細胞分裂終了後のニューロンと反応するが、グリアとは反応しない。現在、ニューロンのマーカー抗体として発生学、神経科学などの分野で広く用いられている。2009年になって、NeuN抗体の抗原分子は、組織特異的スプライシング調節因子のRbfox3であることが判明した。}}


== NeuNとは ==
== NeuNとは ==
 1992年Mullenらは、ニューロン[[分化]]の調節に重要な分子を同定する目的で、[[wj:オキナワハツカネズミ|オキナワハツカネズミ]](''Mus caroli'')脳の細胞核を[[マウス]](ハツカネズミ、''Mus musculus'' [[BALB/c]]系統)に[[免疫]]して[[wj:モノクローナル抗体|モノクローナル抗体]]を作製した。その結果、[[細胞分裂]]終了後のニューロンの核に特異的に反応する抗体(mAb A60)を得て、その抗原をNeuN(neuronal nuclei)と命名した<ref><pubmed>1483388</pubmed></ref>。NeuN抗体はニューロンのマーカーとして長年用いられてきたが、その抗原分子の性質は17年間不明なままであった。NeuNの正体は、2009年にKimら(Kawamotoのグループ)によって組織特異的[[スプライシング調節因子]]の[[RNA-binding Fox3]] ([[Rbfox3]])であることが明らかになった<ref name=kim><pubmed>19713214</pubmed></ref>
 1992年Mullenらは、ニューロン[[分化]]の調節に重要な分子を同定する目的で、[[wj:オキナワハツカネズミ|オキナワハツカネズミ]](''Mus caroli'')脳の細胞核を[[マウス]](ハツカネズミ、''Mus musculus'' [[BALB/c]]系統)に[[免疫]]して[[wj:モノクローナル抗体|モノクローナル抗体]]を作製した。その結果、[[細胞分裂]]終了後のニューロンの核に特異的に反応する抗体(mAb A60)を得て、その抗原をNeuN(neuronal nuclei)と命名した<ref><pubmed>1483388</pubmed></ref>。NeuN抗体はニューロンのマーカーとして長年用いられてきたが、その抗原分子の性質は17年間不明なままであった。NeuNの正体は、2009年にKimら(Kawamotoのグループ)によって組織特異的[[スプライシング調節因子]]の[[RNA-binding Fox3]] ([[Rbfox3]])であることが明らかになった<ref name=kim><pubmed>19713214</pubmed></ref>。この項ではNeuN/Rbfox3と記述する。


== 構造 ==
== 構造 ==
[[ファイル:NeuN1.png|サムネイル|350px|右|'''図1. NeuN/Rbfox3の遺伝子構造'''<br>エクソンは数字付きの四角で示されている。赤い線はNeuNのエピトープを、青い線はRNA結合部位(RRM)を示している。a, ヒト(''Homo sapiens'')のNeuN/Rbfox3、b, マウス(''Mus musculus'')のNeuN/Rbfox3。マウスでは、選択的スプライシングにより6個のスプライシングバリアントを生じることが報告されている。c, ラット(''Rattus norvegicus'')のNeuN/RTbfox3。文献<ref name=duan><pubmed>25680637</pubmed></ref>より改変]]
[[ファイル:NeuN1.jpg|サムネイル|300px|右|'''図1. マウスのNeuN/Rbfox3の遺伝子構造'''<ref name=Maxeiner><pubmed>24150744</pubmed></ref>より改変。<br>エクソンは数字付きの四角で示されている。太線EはNeuNのエピトープ、太線RRMはRNA結合部位、太線NLSは核移行シグナル部位を示している。ATGはexon5の翻訳開始部位、STOPはexon15の2つの停止部位を表している。マウスでは5種類以上のスプライスバリアントが生成されることが報告されている<ref name=kim><pubmed>19713214</pubmed></ref> <ref name=Maxeiner><pubmed>24150744</pubmed></ref> <ref name=duan><pubmed>25680637</pubmed></ref>]]


 NeuN抗体の抗原分子として知られていたNeuNは、Rbfox3と同じ分子である(この項ではNeuN/Rbfox3と記述する)。
 [[ウェスタンブロッティング]]では46kDaと48kDaの分子量を示す。NeuN/Rbfox3は[[feminizing locus on Xファミリー|Fox(feminizing locus on X)ファミリー]]に属する分子で、[[RNA]]認識モチーフであるRRM型RNA結合ドメインが分子の中心に1つある<ref name=duan><pubmed>25680637</pubmed></ref>。


 [[ウェスタンブロッティング]]では46kDaと48kDaの分子量を示す。NeuN/Rbfox3は[[feminizing locus on Xファミリー|Fox(feminizing locus on X)ファミリー]]に属する分子で、[[RNA]]認識モチーフであるRRM型RNA結合ドメインが分子の中心に1つある<ref name=duan><pubmed>25680637</pubmed></ref>
 ''NeuN/Rbfox3'' [[mRNA]]は、[[選択的スプライシング]]によって、[[スプライスバリアント]]を生じることが報告されている(図1)。プライスバリアントの正確な数は不明だが、マウスでは5種類以上あることが報告されている<ref name=kim><pubmed>19713214</pubmed></ref> <ref name=Maxeiner><pubmed>24150744</pubmed></ref> <ref name=duan><pubmed>25680637</pubmed></ref>。選択的スプライシングによってNeuN/Rbfox3の働きを自己調節するような[[ドミナントネガティブ]]のバリアントを作ることが知られている<ref><pubmed>20042473</pubmed></ref>。
 
 マウスではNeuN/Rbfox3の[[選択的スプライシング]]によって、6種類の[[スプライスバリアント]]を生じることが報告されている('''図1''')。また、選択的スプライシングによってNeuN/Rbfox3の働きを自己調節するような[[ドミナントネガティブ]]のバリアントを作ることが知られている<ref><pubmed>20042473</pubmed></ref>。


== サブファミリー ==
== サブファミリー ==
 NeuN/Rbfox3の属するRbfoxファミリーには、[[Rbfox1]](別名:[[Fox1]], [[A2BP1]])、[[Rbfox2]](別名:[[Fox2]], [[Rbm9]], [[Fxh]]),Rbfox3(別名:NeuN, Fox3, D11Bwg0517e)の3つのサブタイプがある。それぞれの分子の組織発現は異なっている。
 NeuN/Rbfox3の属するRbfoxファミリーには、[[Rbfox1]](別名:[[Fox1]], [[A2BP1]])、[[Rbfox2]](別名:[[Fox2]], [[Rbm9]], [[Fxh]]),Rbfox3(別名:NeuN, Fox3, D11Bwg0517e)の3つのサブタイプがある。それぞれの分子の組織発現は異なっている。NeuN/Rbfox3は、マウスでは選択的スプライシングによって、5種類以上のスプライスバリアントが産生される<ref name=kim><pubmed>19713214</pubmed></ref> <ref name=Maxeiner><pubmed>24150744</pubmed></ref> <ref name=duan><pubmed>25680637</pubmed></ref>。


[[ファイル:Rat hippocampus stained with antibody to NeuN (green), myelin basic protein (red) and DNA (blue).jpg|サムネイル|350px|右|'''図2. NeuN染色の例'''<br>[[海馬]][[歯状回]]のNeuN(緑)免疫染色像。[[ミエリン塩基性タンパク質]](赤)ならびに[[DAPI]](青)で共染色してある。[https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Rat_hippocampus_stained_with_antibody_to_NeuN_(green),_myelin_basic_protein_(red)_and_DNA_(blue).jpg Wikipedia]による。]]
== 発現 ==
== 発現 ==
 Rbfoxファミリーの3つのサブタイプの発現パターンは異なっている。Rbfox1は、ニューロン、[[骨格筋]]、[[心臓]]に、Rbfox2はニューロン、[[筋]]、[[卵巣]]、胚全体、[[ヒト]]胚由来細胞(<u>編集部コメント:これは何でしょうか?ヒトではない種ではどうでしょうか?</u>)に、Rbfox3は細胞分裂終了後のニューロンに発現している<ref name=duan></ref><ref name=Guselnikova><pubmed> 26085943</pubmed></ref>。
[[ファイル:Seki Fig 2.jpg|サムネイル|300px|右|'''図2. 成体マウス海馬におけるNeuN(赤色)の発現'''<br>灰色はDAPIによる核染色。スケールバーは200 μm。]]


 NeuN/Rbfox3は核では[[正染色質]](euchoromatin)に強く発現していおり、[[異染色質]](heterochromatin)にはほとんど発現していない。また、発現は弱いが核だけでなく[[細胞質]]にも発現している。
 Rbfoxファミリーの3つのサブタイプの発現パターンは異なっている。Rbfox1は、ニューロン、[[骨格筋]]、[[心臓]]に、Rbfox2はニューロン、[[筋]]、[[卵巣]]、胚全体、[[ヒト]]胚の大腸や卵巣由来の細胞に、Rbfox3は細胞分裂終了後のニューロンに発現している<ref name=duan></ref> <ref name=Guselnikova><pubmed> 26085943</pubmed></ref>。また、マウス胚性腫瘍細胞のP19細胞では、NeuNは検出されないが、レチノイン酸を作用させて神経誘導するとNeuNを発現するようになる<ref name=kim><pubmed>19713214</pubmed></ref>。
 
 NeuN/Rbfox3は核では[[正染色質]](euchoromatin)に強く発現しており(図2)、[[異染色質]](heterochromatin)にはほとんど発現していない。また、発現は弱いが核だけでなく[[細胞質]]にも発現している。


 核には46kDaと48kDa分子が同量発現しているが、細胞質では48kDa分子が多く発現している<ref><pubmed>15605376</pubmed></ref>。NeuN/Rbfox3は、[[アストロサイト]]、[[オリゴデンドロサイト]]、[[ミクログリア]]、[[シュワン細胞]]、増殖中の[[神経前駆細胞]]などには発現していない。その発現が細胞分裂終了後のニューロンに限られているので、発生期のニューロン分化マーカーや病理学的なマーカーとして有用である<ref name=duan></ref><ref name=wolf><pubmed> 8813082</pubmed></ref>。ほとんどのニューロンに発現しているが、つぎに挙げるニューロンでは例外的にが発現していない:[[小脳]]の[[プルキンエ細胞]]、[[下オリーブ核]]のニューロン、[[網膜]]の[[内顆粒層|内]]/[[外顆粒層]]のニューロン、[[脊髄]]の[[γ運動ニューロン]]、[[交感神経節]]のニューロン、発生期[[大脳皮質]]の[[Cajal-Retzius細胞]]<ref name=Guselnikova></ref>。''In vitro''の[[培養細胞]]では、[[GFAP]]陽性細胞がNeuNを発現することがあるので注意を要する<ref><pubmed>17995928</pubmed></ref>。
 核には46kDaと48kDa分子が同量発現しているが、細胞質では48kDa分子が多く発現している<ref><pubmed>15605376</pubmed></ref>。NeuN/Rbfox3は、[[アストロサイト]]、[[オリゴデンドロサイト]]、[[ミクログリア]]、[[シュワン細胞]]、増殖中の[[神経前駆細胞]]などには発現していない。その発現が細胞分裂終了後のニューロンに限られているので、発生期のニューロン分化マーカーや病理学的なマーカーとして有用である<ref name=duan></ref><ref name=wolf><pubmed> 8813082</pubmed></ref>。ほとんどのニューロンに発現しているが、つぎに挙げるニューロンでは例外的にが発現していない:[[小脳]]の[[プルキンエ細胞]]、[[下オリーブ核]]のニューロン、[[網膜]]の[[内顆粒層|内]]/[[外顆粒層]]のニューロン、[[脊髄]]の[[γ運動ニューロン]]、[[交感神経節]]のニューロン、発生期[[大脳皮質]]の[[Cajal-Retzius細胞]]<ref name=Guselnikova></ref>。''In vitro''の[[培養細胞]]では、[[GFAP]]陽性細胞がNeuNを発現することがあるので注意を要する<ref><pubmed>17995928</pubmed></ref>。


== 機能 ==
== 機能 ==
 NeuN/Rbfox3の属するRbfoxファミリー分子は、組織特異的[[選択的スプライシング]]調節因子である。[[RNA認識モチーフ]]である[[RRM型RNA結合ドメイン]]が分子の中心に1つあり、RNA penta(hexa)nucleotide (U)GCAUGと結合する<ref name=kim></ref><ref name=duan></ref><ref name=Guselnikova></ref>。例えば[[Numb]]の選択的スプライシングを調節することにより、ニューロンの分化を促進する<ref><pubmed>23420872</pubmed></ref>。また、直接[[pri-miRNA]]に結合しpri-miRNAのプロセシングを調節している<ref><pubmed>25240799</pubmed></ref>。NeuN/Rbfox3欠損マウスでは、[[けいれん]]発作に対する感受性が上昇し、不安行動が減少することが報告されている<ref><pubmed>26619789</pubmed></ref>。
 NeuN/Rbfox3の属するRbfoxファミリー分子は、組織特異的[[選択的スプライシング]]調節因子である。[[RNA認識モチーフ]]である[[RRM型RNA結合ドメイン]]が分子の中心に1つあり、RNA penta(hexa)nucleotide (U)GCAUGと結合する<ref name=kim></ref> <ref name=duan></ref> <ref name=Guselnikova></ref>。例えば[[Numb]]の選択的スプライシングを調節することにより、ニューロンの分化を促進する<ref><pubmed>23420872</pubmed></ref>。また、直接[[pri-miRNA]]に結合しpri-miRNAのプロセシングを調節している<ref><pubmed>25240799</pubmed></ref>。NeuN/Rbfox3欠損マウスでは、[[けいれん]]発作に対する感受性が上昇し、不安行動が減少することが報告されている<ref><pubmed>26619789</pubmed></ref>。


== 疾患との関わり ==
== 疾患との関わり ==
 NeuNは[[神経細胞腫]]、[[神経節細胞腫]]、 [[髄芽腫]]に発現している<ref name=wolf /><ref><pubmed>14521262</pubmed></ref>。脳卒中(<u>編集部コメント:脳卒中は脳梗塞と出血の異なった病態が含有されますので、詳しく御記述ください。</u>)、[[パーキンソン病]]などにおけるNeuN/Rbfox3発現の低下が報告されているが、機能低下によるものか[[細胞死]]によるものかが不明確な場合が多い<ref name=duan></ref>。Rbfox3の遺伝子欠損が[[ローランドてんかん]]患者で見つかっている<ref><pubmed>24039908</pubmed></ref>。
 NeuNは[[神経細胞腫]]、[[神経節細胞腫]]、 [[髄芽腫]]に発現している<ref name=wolf /><ref><pubmed>14521262</pubmed></ref>。マウスやラットの脳虚血モデルではNeuN/Rbfox3発現の低下が報告されているが、機能低下によるものか細胞死によるものかが不明確な場合が多い<ref><pubmed>12401327</pubmed></ref> <ref><pubmed>15223381</pubmed></ref> <ref name=duan></ref>。Rbfox3の遺伝子欠損が[[ローランドてんかん]]患者で見つかっている<ref><pubmed>24039908</pubmed></ref>。


==関連項目==
==関連項目==
* [[RNA結合タンパク質]]
* [[RNA結合タンパク質]]
==参考文献==
==参考文献==
<references />
<references />

2021年12月15日 (水) 20:47時点における最新版

石 龍徳
東京医科大学組織・神経解剖学分野
DOI:10.14931/bsd.6876 原稿受付日:2016年2月8日 原稿完成日:2016年9月13日
担当編集委員:大隅 典子(東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)

英語名:neuronal nuclei

同義語:Feminizing locus on X 3, FOX3, Rbfox3

 NeuNは、マウス脳の細胞核を抗原として作製されたモノクローナル抗体の抗原分子の名称ある。NeuN抗体は細胞分裂終了後のニューロンと反応するが、グリアとは反応しない。現在、ニューロンのマーカー抗体として発生学、神経科学などの分野で広く用いられている。2009年になって、NeuN抗体の抗原分子は、組織特異的スプライシング調節因子のRbfox3であることが判明した。

NeuNとは

 1992年Mullenらは、ニューロン分化の調節に重要な分子を同定する目的で、オキナワハツカネズミMus caroli)脳の細胞核をマウス(ハツカネズミ、Mus musculus BALB/c系統)に免疫してモノクローナル抗体を作製した。その結果、細胞分裂終了後のニューロンの核に特異的に反応する抗体(mAb A60)を得て、その抗原をNeuN(neuronal nuclei)と命名した[1]。NeuN抗体はニューロンのマーカーとして長年用いられてきたが、その抗原分子の性質は17年間不明なままであった。NeuNの正体は、2009年にKimら(Kawamotoのグループ)によって組織特異的スプライシング調節因子RNA-binding Fox3 (Rbfox3)であることが明らかになった[2]。この項ではNeuN/Rbfox3と記述する。

構造

図1. マウスのNeuN/Rbfox3の遺伝子構造[3]より改変。
エクソンは数字付きの四角で示されている。太線EはNeuNのエピトープ、太線RRMはRNA結合部位、太線NLSは核移行シグナル部位を示している。ATGはexon5の翻訳開始部位、STOPはexon15の2つの停止部位を表している。マウスでは5種類以上のスプライスバリアントが生成されることが報告されている[2] [3] [4]

 ウェスタンブロッティングでは46kDaと48kDaの分子量を示す。NeuN/Rbfox3はFox(feminizing locus on X)ファミリーに属する分子で、RNA認識モチーフであるRRM型RNA結合ドメインが分子の中心に1つある[4]

 NeuN/Rbfox3 mRNAは、選択的スプライシングによって、スプライスバリアントを生じることが報告されている(図1)。プライスバリアントの正確な数は不明だが、マウスでは5種類以上あることが報告されている[2] [3] [4]。選択的スプライシングによってNeuN/Rbfox3の働きを自己調節するようなドミナントネガティブのバリアントを作ることが知られている[5]

サブファミリー

 NeuN/Rbfox3の属するRbfoxファミリーには、Rbfox1(別名:Fox1, A2BP1)、Rbfox2(別名:Fox2, Rbm9, Fxh),Rbfox3(別名:NeuN, Fox3, D11Bwg0517e)の3つのサブタイプがある。それぞれの分子の組織発現は異なっている。NeuN/Rbfox3は、マウスでは選択的スプライシングによって、5種類以上のスプライスバリアントが産生される[2] [3] [4]

発現

図2. 成体マウス海馬におけるNeuN(赤色)の発現
灰色はDAPIによる核染色。スケールバーは200 μm。

 Rbfoxファミリーの3つのサブタイプの発現パターンは異なっている。Rbfox1は、ニューロン、骨格筋心臓に、Rbfox2はニューロン、卵巣、胚全体、ヒト胚の大腸や卵巣由来の細胞に、Rbfox3は細胞分裂終了後のニューロンに発現している[4] [6]。また、マウス胚性腫瘍細胞のP19細胞では、NeuNは検出されないが、レチノイン酸を作用させて神経誘導するとNeuNを発現するようになる[2]

 NeuN/Rbfox3は核では正染色質(euchoromatin)に強く発現しており(図2)、異染色質(heterochromatin)にはほとんど発現していない。また、発現は弱いが核だけでなく細胞質にも発現している。

 核には46kDaと48kDa分子が同量発現しているが、細胞質では48kDa分子が多く発現している[7]。NeuN/Rbfox3は、アストロサイトオリゴデンドロサイトミクログリアシュワン細胞、増殖中の神経前駆細胞などには発現していない。その発現が細胞分裂終了後のニューロンに限られているので、発生期のニューロン分化マーカーや病理学的なマーカーとして有用である[4][8]。ほとんどのニューロンに発現しているが、つぎに挙げるニューロンでは例外的にが発現していない:小脳プルキンエ細胞下オリーブ核のニューロン、網膜/外顆粒層のニューロン、脊髄γ運動ニューロン交感神経節のニューロン、発生期大脳皮質Cajal-Retzius細胞[6]In vitro培養細胞では、GFAP陽性細胞がNeuNを発現することがあるので注意を要する[9]

機能

 NeuN/Rbfox3の属するRbfoxファミリー分子は、組織特異的選択的スプライシング調節因子である。RNA認識モチーフであるRRM型RNA結合ドメインが分子の中心に1つあり、RNA penta(hexa)nucleotide (U)GCAUGと結合する[2] [4] [6]。例えばNumbの選択的スプライシングを調節することにより、ニューロンの分化を促進する[10]。また、直接pri-miRNAに結合しpri-miRNAのプロセシングを調節している[11]。NeuN/Rbfox3欠損マウスでは、けいれん発作に対する感受性が上昇し、不安行動が減少することが報告されている[12]

疾患との関わり

 NeuNは神経細胞腫神経節細胞腫髄芽腫に発現している[8][13]。マウスやラットの脳虚血モデルではNeuN/Rbfox3発現の低下が報告されているが、機能低下によるものか細胞死によるものかが不明確な場合が多い[14] [15] [4]。Rbfox3の遺伝子欠損がローランドてんかん患者で見つかっている[16]

関連項目

参考文献

  1. Mullen, R.J., Buck, C.R., & Smith, A.M. (1992).
    NeuN, a neuronal specific nuclear protein in vertebrates. Development (Cambridge, England), 116(1), 201-11. [PubMed:1483388] [WorldCat]
  2. 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 Kim, K.K., Adelstein, R.S., & Kawamoto, S. (2009).
    Identification of neuronal nuclei (NeuN) as Fox-3, a new member of the Fox-1 gene family of splicing factors. The Journal of biological chemistry, 284(45), 31052-61. [PubMed:19713214] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 Maxeiner, S., Glassmann, A., Kao, H.T., & Schilling, K. (2014).
    The molecular basis of the specificity and cross-reactivity of the NeuN epitope of the neuron-specific splicing regulator, Rbfox3. Histochemistry and cell biology, 141(1), 43-55. [PubMed:24150744] [WorldCat] [DOI]
  4. 4.0 4.1 4.2 4.3 4.4 4.5 4.6 4.7 Duan, W., Zhang, Y.P., Hou, Z., Huang, C., Zhu, H., Zhang, C.Q., & Yin, Q. (2016).
    Novel Insights into NeuN: from Neuronal Marker to Splicing Regulator. Molecular neurobiology, 53(3), 1637-1647. [PubMed:25680637] [WorldCat] [DOI]
  5. Damianov, A., & Black, D.L. (2010).
    Autoregulation of Fox protein expression to produce dominant negative splicing factors. RNA (New York, N.Y.), 16(2), 405-16. [PubMed:20042473] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  6. 6.0 6.1 6.2 Gusel'nikova, V.V., & Korzhevskiy, D.E. (2015).
    NeuN As a Neuronal Nuclear Antigen and Neuron Differentiation Marker. Acta naturae, 7(2), 42-7. [PubMed:26085943] [PMC] [WorldCat]
  7. Lind, D., Franken, S., Kappler, J., Jankowski, J., & Schilling, K. (2005).
    Characterization of the neuronal marker NeuN as a multiply phosphorylated antigen with discrete subcellular localization. Journal of neuroscience research, 79(3), 295-302. [PubMed:15605376] [WorldCat] [DOI]
  8. 8.0 8.1 Wolf, H.K., Buslei, R., Schmidt-Kastner, R., Schmidt-Kastner, P.K., Pietsch, T., Wiestler, O.D., & Blümcke, I. (1996).
    NeuN: a useful neuronal marker for diagnostic histopathology. The journal of histochemistry and cytochemistry : official journal of the Histochemistry Society, 44(10), 1167-71. [PubMed:8813082] [WorldCat] [DOI]
  9. Darlington, P.J., Goldman, J.S., Cui, Q.L., Antel, J.P., & Kennedy, T.E. (2008).
    Widespread immunoreactivity for neuronal nuclei in cultured human and rodent astrocytes. Journal of neurochemistry, 104(5), 1201-9. [PubMed:17995928] [WorldCat] [DOI]
  10. Kim, K.K., Nam, J., Mukouyama, Y.S., & Kawamoto, S. (2013).
    Rbfox3-regulated alternative splicing of Numb promotes neuronal differentiation during development. The Journal of cell biology, 200(4), 443-58. [PubMed:23420872] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  11. Kim, K.K., Yang, Y., Zhu, J., Adelstein, R.S., & Kawamoto, S. (2014).
    Rbfox3 controls the biogenesis of a subset of microRNAs. Nature structural & molecular biology, 21(10), 901-10. [PubMed:25240799] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  12. Wang, H.Y., Hsieh, P.F., Huang, D.F., Chin, P.S., Chou, C.H., Tung, C.C., ..., & Huang, H.S. (2015).
    RBFOX3/NeuN is Required for Hippocampal Circuit Balance and Function. Scientific reports, 5, 17383. [PubMed:26619789] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  13. Soylemezoglu, F., Onder, S., Tezel, G.G., & Berker, M. (2003).
    Neuronal nuclear antigen (NeuN): a new tool in the diagnosis of central neurocytoma. Pathology, research and practice, 199(7), 463-8. [PubMed:14521262] [WorldCat] [DOI]
  14. Davoli, M.A., Fourtounis, J., Tam, J., Xanthoudakis, S., Nicholson, D., Robertson, G.S., ..., & Xu, D. (2002).
    Immunohistochemical and biochemical assessment of caspase-3 activation and DNA fragmentation following transient focal ischemia in the rat. Neuroscience, 115(1), 125-36. [PubMed:12401327] [WorldCat] [DOI]
  15. Unal-Cevik, I., Kilinç, M., Gürsoy-Ozdemir, Y., Gurer, G., & Dalkara, T. (2004).
    Loss of NeuN immunoreactivity after cerebral ischemia does not indicate neuronal cell loss: a cautionary note. Brain research, 1015(1-2), 169-74. [PubMed:15223381] [WorldCat] [DOI]
  16. Lal, D., Reinthaler, E.M., Altmüller, J., Toliat, M.R., Thiele, H., Nürnberg, P., ..., & Neubauer, B.A. (2013).
    RBFOX1 and RBFOX3 mutations in rolandic epilepsy. PloS one, 8(9), e73323. [PubMed:24039908] [PMC] [WorldCat] [DOI]