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<font size="+1">[http://researchmap.jp/taroshiro 矢野 真人]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/taroshiro 矢野 真人]</font><br> | ||
''新潟大学''<br> | ''新潟大学''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年1月23日 原稿完成日:2016年5月25日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0080380 上口 裕之](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0080380 上口 裕之](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | ||
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同義語:非コードRNA | 同義語:非コードRNA | ||
{{box|text= ノンコーディングRNAは、タンパク質へと[[翻訳]]される伝令RNA(messenger RNA, | {{box|text= ノンコーディングRNAは、タンパク質へと[[翻訳]]される伝令RNA(messenger RNA, mRNA)を除く全てのRNAの総称である。ノンコーディングRNAは、転移RNA(transfer RNA、[[tRNA]])、リボソームRNA(ribosomal RNA、[[rRNA]])、small nuclear RNA(snRNA、核内低分子RNA)、small nucleolar RNA(snoRNA、核小体低分子RNA)などの長い研究の歴史をもつ古典的ncRNA群と、1990年代以降に発見された[[miRNA]]などの機能性小分子RNA群、長鎖型ノンコーディングRNA(lncRNA)群に分類して論じられる。特に後者2つは、組織特異的な発現パターンを有することや発生、疾患との関わりが明らかになりつつあり、この分野の発展に大きく寄与している<ref><pubmed>24679528</pubmed></ref> <ref>ノンコーディングRNAテキストブック 最新の医学・創薬研究、方法論とマイルストーン論文200報<br>塩見美喜子、中川真一、浅原弘嗣/編<br>''実験医学増刊'' Vol.33 No.20</ref>。}} | ||
== 分類 == | == 分類 == | ||
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[[transfer RNA]]、[[tRNA]] | [[transfer RNA]]、[[tRNA]] | ||
76~90塩基の長さの小さなRNA。[[mRNA]]からタンパク質合成反応中に、mRNA上の塩基配列を認識し、ポリペプチド鎖にアミノ酸を転移させるためのアダプター分子。 | |||
====リボソームRNA==== | ====リボソームRNA==== | ||
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[[snRNA]]、[[small nuclear RNA]] | [[snRNA]]、[[small nuclear RNA]] | ||
snRNP(small nuclear | snRNP(small nuclear ribonucleoprotein)と呼ばれる[[リボ核酸]]タンパク質複合体を形成し、RNA[[スプライシング]]反応などに関わる核内に存在する低分子RNA。 | ||
====核小体低分子RNA==== | ====核小体低分子RNA==== | ||
[[snoRNA]]、[[small nucleolar RNA]] | [[snoRNA]]、[[small nucleolar RNA]] | ||
[[核小体低分子リボ核酸タンパク質複合体]]([[snoRNPs]]:[[スノープス]] | [[核小体低分子リボ核酸タンパク質複合体]]([[snoRNPs]]:[[スノープス]])を形成し、rRNAなどの化学的修飾に関与する一群の低分子RNA。主に核内の[[核小体]]に局在する。 | ||
=== 小分子RNA === | === 小分子RNA === | ||
==== | ====siRNA==== | ||
small interfering RNA | [[siRNA|small interfering RNA]] | ||
21-23塩基対からなる[[低分子二本鎖RNA]]であり、[[RNA-induced silencing complex]]([[RISC]])に取り込まれ[[RNA干渉]]([[RNA interference]]:[[RNAi]])と呼ばれる転写後遺伝子発現抑制機構に関わる。この現象は、ウイルス感染など外来性因子に対する生体防御機構として進化を遂げたと考えられ、[[植物]]において最初に発見された。 | 21-23塩基対からなる[[低分子二本鎖RNA]]であり、[[RNA-induced silencing complex]]([[RISC]])に取り込まれ[[RNA干渉]]([[RNA interference]]:[[RNAi]])と呼ばれる転写後遺伝子発現抑制機構に関わる。この現象は、ウイルス感染など外来性因子に対する生体防御機構として進化を遂げたと考えられ、[[植物]]において最初に発見された。 | ||
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single-guide RNA | single-guide RNA | ||
[[CRISPR]]([[Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats]]:クリスパー)座位より転写される小分子RNAである[[crRNA]]([[CRISPR RNA]])と[[TracrRNA]]([[Trans-acting crRNA]])を組み合わせたもの。[[細菌]]や[[古細菌]]にみられる、[[バクテリオファージ]]などの外来性核酸遺伝因子を排除するための[[獲得免疫]]系として機能する座位として見つかった。(その後の応用テクノロジーは、[[ゲノム編集]]の稿を参照) | |||
=== 長鎖型ncRNA === | === 長鎖型ncRNA === | ||
====転写制御関連長鎖ncRNA==== | ====転写制御関連長鎖ncRNA==== | ||
[[ | [[wj:X染色体|X染色体]]の不活化に関わるncRNAである[[Xist]]は、長鎖型ノンコーディングRNA(long non-coding RNA: lncRNA)と略称が得られる以前より生物学的重要性が高く、ncRNA研究分野を牽引してきた分子である。このような[[wj:X染色体不活化|X染色体不活化]]は種を超えてncRNAが働き、[[クロマチン修飾因子]]との相互作用を介することで、遺伝子発現に対し抑制的に働いている。一方で、遺伝子発現の[[エンハンサー]]領域から転写される[[lncRNA]]([[eRNA]]とも呼ばれる;[[enhancer RNA]])は、[[RNAポリメラーゼII]]により転写され近傍の遺伝子の発現をメディエーター複合体と強調することで転写を活性化するモデルが提唱されている。いずれにせよ、配列特異性や局在性、相互作用する分子群に応じて[[転写制御]]を正にも負にも制御していると考えられる。 | ||
====核内構造体関連長鎖ncRNA==== | ====核内構造体関連長鎖ncRNA==== | ||
lncRNAの中で、ある特定の核内構造体の形成および局在性を示す発現量の非常に高い分子群である。核内構造体には、古典的なリボソームの合成の場である核小体に加え[[核スペックル]]、[[パラスペックル]]などがある。例えば発現量が非常に高いlncRNAである[[Malat1]]や[[Neat1]] | lncRNAの中で、ある特定の核内構造体の形成および局在性を示す発現量の非常に高い分子群である。核内構造体には、古典的なリボソームの合成の場である核小体に加え[[核スペックル]]、[[パラスペックル]]などがある。例えば発現量が非常に高いlncRNAである[[Malat1]]や[[Neat1]]などが広く知られており、それぞれ[[核スペックル]]、[[パラスペックル]]の構成成分として、RNA結合タンパク質との結合を介した、転写制御やスプライシング制御への関与が指摘されている。lncRNAによる転写制御と同様に相互作用するRNA結合タンパク質に対するスポンジ効果(抑制)あるいは、機能の場の提供(協調活性化)の両方が想定されている。 | ||
====細胞質長鎖ncRNA==== | ====細胞質長鎖ncRNA==== | ||
細胞質長鎖lncRNAには、実際は予期せぬ小分子ペプチドの産生も否定できないこと、および細胞質型lncRNA自体が機能的に解析されている代表例は少ない。一方で、最近存在が認められたスプライシング過程で産生される[[環状RNA]]([[CircRNA]])は、発現量も高く環状のためRNA発現の安定性も担保されることから、細胞質において[[miRNAスポンジ]]として働くことで、特定のmiRNAの機能抑制に働くとの報告がある。また同じような考え方で、[[ceRNA]]([[competing endogenous RNA]])とは、概念的であるが、miRNAと標的mRNAの相互作用およびその制御において、標的mRNA以外の別のmRNAが競合因子([[ceRNA]])としてmiRNA-mRNA相互作用に干渉するという機構として提唱されている。 | |||
== 脳神経系における機能 == | == 脳神経系における機能 == | ||
87行目: | 87行目: | ||
=== トランスポゾンの神経系における機能 === | === トランスポゾンの神経系における機能 === | ||
ヒト胎児由来の神経前駆細胞を用いたin vitroの解析において、LINE1の転移が起こることが見出されている。おそらく、piRNAがこの転移を制御し、個々の神経細胞における遺伝子発現制御に対し、挿入部位依存性のモザイク性の獲得を可能とさせ、脳の多様性形成に関与することが示唆された<ref name=ref3 /> <ref name=ref17><pubmed>19657334</pubmed></ref>。特に[[統合失調症]]をはじめとした精神疾患患者群において優位なLINE1のコピー数の増大が認められるなど、精神疾患の病態におけるLINE-1の関与が注目されている。実際、統合失調症の大きな遺伝性リスクとされる[[22番染色体(22q11)欠失]]を持つ患者由来[[iPS細胞]]から分化させた神経細胞を用いた解析においてLINE-1のコピー数の増大が確認されている<ref name=ref18><pubmed>24389010</pubmed></ref>。 | ヒト胎児由来の神経前駆細胞を用いたin vitroの解析において、LINE1の転移が起こることが見出されている。おそらく、piRNAがこの転移を制御し、個々の神経細胞における遺伝子発現制御に対し、挿入部位依存性のモザイク性の獲得を可能とさせ、脳の多様性形成に関与することが示唆された<ref name=ref3 /> <ref name=ref17><pubmed>19657334</pubmed></ref>。特に[[統合失調症]]をはじめとした精神疾患患者群において優位なLINE1のコピー数の増大が認められるなど、精神疾患の病態におけるLINE-1の関与が注目されている。実際、統合失調症の大きな遺伝性リスクとされる[[22q11.2欠失症候群および22q11.2重複症候群|22番染色体(22q11)欠失]]を持つ患者由来[[iPS細胞]]から分化させた神経細胞を用いた解析においてLINE-1のコピー数の増大が確認されている<ref name=ref18><pubmed>24389010</pubmed></ref>。 | ||
=== その他のncRNAの神経系における機能 === | === その他のncRNAの神経系における機能 === | ||
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== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references > | <references /> |