「くも膜下出血」の版間の差分

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 家族歴が危険因子とする報告もわが国から報告されている<ref name=Okamoto2003><pubmed>12574554</pubmed></ref>。脳動脈瘤の保有に関しては一親等以内に脳動脈瘤を有する者の4%に脳動脈瘤が認められる<ref name=Magnetic1999><pubmed>10536126</pubmed></ref>。
 家族歴が危険因子とする報告もわが国から報告されている<ref name=Okamoto2003><pubmed>12574554</pubmed></ref>。脳動脈瘤の保有に関しては一親等以内に脳動脈瘤を有する者の4%に脳動脈瘤が認められる<ref name=Magnetic1999><pubmed>10536126</pubmed></ref>。


 夏より冬に多いという季節性はあるが、気候との関連は示されていない<ref name=de Steenhuijsen Piters2013><pubmed>23070464</pubmed></ref>。
 夏より冬に多いという季節性はあるが、気候との関連は示されていない<ref name=deSteenhuijsenPiters2013><pubmed>23070464</pubmed></ref>。


==病態==
==病態==
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[[ファイル:Tsuji SAH Fig1.png|サムネイル|'''図1. くも膜下出血の単純CT画像とCT血管造影像'''<br>黄色矢印にてくも膜下出血を示すCT値の上昇(高吸収)と、右内頚動脈の動脈瘤の存在を示す(自験例)]]
[[ファイル:Tsuji SAH Fig1.png|サムネイル|'''図1. くも膜下出血の単純CT画像とCT血管造影像'''<br>黄色矢印にてくも膜下出血を示すCT値の上昇(高吸収)と、右内頚動脈の動脈瘤の存在を示す(自験例)]]
===検査===
===検査===
 くも膜下出血を疑う場合に最初に行うべき画像診断は[[頭部単純CT]]である('''図1''')。動脈瘤破裂後48時間以内に、単純CTで患者の95 %でくも膜下出血の所見が認められる。CT上の出血の局在により破裂動脈瘤の位置推定が、また出血の量は脳血管攣縮による遅発性脳虚血症状が生ずる蓋然性を予測することができる。CTにて出血が指摘できない場合でも臨床症状からくも膜下出血を疑う場合には、占拠性病変や[[閉塞性水頭症]]がないことを確認したうえで[[腰椎穿刺]]を行い血性[[脳脊髄液]]の有無を確認する<ref name=van der Wee1995><pubmed>7897421</pubmed></ref>。微量の出血の検出には[[MR]]Iの[[FLAIR]] ([[fluid attenuated inversion recovery]])撮像が有用である。
 くも膜下出血を疑う場合に最初に行うべき画像診断は頭部[[単純CT]]である('''図1''')。動脈瘤破裂後48時間以内に、単純CTで患者の95 %でくも膜下出血の所見が認められる。CT上の出血の局在により破裂動脈瘤の位置推定が、また出血の量は脳血管攣縮による遅発性脳虚血症状が生ずる蓋然性を予測することができる。CTにて出血が指摘できない場合でも臨床症状からくも膜下出血を疑う場合には、占拠性病変や[[閉塞性水頭症]]がないことを確認したうえで[[腰椎穿刺]]を行い血性[[脳脊髄液]]の有無を確認する<ref name=vanderWee1995><pubmed>7897421</pubmed></ref>。微量の出血の検出には[[MRI]][[FLAIR]] ([[fluid attenuated inversion recovery]])撮像が有用である。


 前項で記したCTおよびMRIによるくも膜下出血の存在診断に引き続き、出血源確認目的で行うべき検査は脳血管撮影である。これは破裂動脈瘤の部位と形態、血管内治療を想定した場合には関連する血管解剖を明らかにするため再出血予防目的の治療介入前に必須の検査である。迅速な検査と低侵襲性から、[[CT血管撮影]]([[CT Angiography]]:CTA)が頻用され、脳血管撮影に近い情報が得られるとする報告が多い<ref name=Wintermark2003><pubmed>12691409</pubmed></ref>。アレルギーなどのためにCTAには必須である[[ヨード造影剤]]の使用できない患者では、[[MR血管撮影]]([[MR Angigraphy]]:MRA)による評価も行われる。
 前項で記したCTおよびMRIによるくも膜下出血の存在診断に引き続き、出血源確認目的で行うべき検査は脳血管撮影である。これは破裂動脈瘤の部位と形態、血管内治療を想定した場合には関連する血管解剖を明らかにするため再出血予防目的の治療介入前に必須の検査である。迅速な検査と低侵襲性から、[[CT血管撮影]]([[CT Angiography]]:CTA)が頻用され、脳血管撮影に近い情報が得られるとする報告が多い<ref name=Wintermark2003><pubmed>12691409</pubmed></ref>。アレルギーなどのためにCTAには必須である[[ヨード造影剤]]の使用できない患者では、[[MR血管撮影]]([[MR Angigraphy]]:MRA)による評価も行われる。
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 脳動脈瘤をクリッピングすることにより血流を遮断する方法である。開頭手術が必要となるため、患者への侵襲が大きい('''図2''')。
 脳動脈瘤をクリッピングすることにより血流を遮断する方法である。開頭手術が必要となるため、患者への侵襲が大きい('''図2''')。


 血管内治療が導人される以前のクリッピング術後の転帰については、1990年にバージニアのKassellらにより発表された国際共同研究がある。6カ月後の転帰をGlasgow Outcome Scaleでみるとgood recovery (GR) 67.9 %、moderately disabled (MD)10.4 %、severely disabled (SD) 5.7%、vegetative survival (VS) 1.7% 、dead (D) 14.3%であった<ref name=Kassell1990><pubmed>2191090</pubmed></ref>26)。時代背景も考慮する必要があり、この研究が行われた当時の日本では86%が早期手術であったのに対し、国際共同研究では早期手術の割合が42 %であった。一方で、Day 7~10でのクリッビング例ではGRは56% 、死亡率は28%と早期、晩期に比べて有意に劣った<ref name=Kassell1990><pubmed>2191090</pubmed></ref>26)。これらを受けて早期手術は1980年代後半よりわが国が先行して一般化しており、破裂脳動脈瘤に対するクリッピング術は出血後 72時間以内の早期に行うことがグレードB(行うよう勧められる)で勧められている<ref name=日本脳卒中学会2019></ref>。
 血管内治療が導入される以前のクリッピング術後の転帰については、1990年にバージニアのKassellらにより発表された国際共同研究がある。6カ月後の転帰をGlasgow Outcome Scaleでみるとgood recovery (GR) 67.9 %、moderately disabled (MD)10.4 %、severely disabled (SD) 5.7%、vegetative survival (VS) 1.7% 、dead (D) 14.3%であった<ref name=Kassell1990><pubmed>2191090</pubmed></ref>。時代背景も考慮する必要があり、この研究が行われた当時の日本では86%が早期手術であったのに対し、国際共同研究では早期手術の割合が42 %であった。一方で、Day 7~10でのクリッビング例ではGRは56% 、死亡率は28%と早期、晩期に比べて有意に劣った<ref name=Kassell1990><pubmed>2191090</pubmed></ref>。これらを受けて早期手術は1980年代後半よりわが国が先行して一般化しており、破裂脳動脈瘤に対するクリッピング術は出血後 72時間以内の早期に行うことがグレードB(行うよう勧められる)で勧められている<ref name=日本脳卒中学会2019></ref>。
[[ファイル:Tsuji SAH Fig3.png|サムネイル|'''図3. コイル塞栓術'''<br>'''上.'''脳動脈瘤の3D-回転血管造影像<br>'''下. '''(左)動脈瘤内にコイルで外枠となるフレームを作成し、(中)その中を密に充填することで、(右)動脈瘤内への血流を遮断した。(自験例)]]
[[ファイル:Tsuji SAH Fig3.png|サムネイル|'''図3. コイル塞栓術'''<br>'''上.'''脳動脈瘤の3D-回転血管造影像<br>'''下. '''(左)動脈瘤内にコイルで外枠となるフレームを作成し、(中)その中を密に充填することで、(右)動脈瘤内への血流を遮断した。(自験例)]]


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 破裂脳動脈瘤に対する開頭クリッピング術とコイル塞栓術との[[ランダム化比較試験]]としてInternational Subarachnoid Aneurysm Trial (ISAT) とThe Barrow Ruptured Aneurysm Trial (BRAT)がある。
 破裂脳動脈瘤に対する開頭クリッピング術とコイル塞栓術との[[ランダム化比較試験]]としてInternational Subarachnoid Aneurysm Trial (ISAT) とThe Barrow Ruptured Aneurysm Trial (BRAT)がある。


 ISATは、英国を中心とした多施設[[前向きランダム化試験]]で、2002年に初期治療成績<ref name=Molyneux2002><pubmed>12414200</pubmed></ref>27) 、2005年に中間報告とサプ解析<ref name=Molyneux2005><pubmed>16139655</pubmed></ref>、2009年と2015年に長期追跡結果<ref name=Molyneux2009><pubmed>19329361</pubmed></ref><ref name=Molyneux2015><pubmed>25465111</pubmed></ref>が発表された。10年後の生存・介助不要の可能性はコイル群のほうが高かった。1年後以降のくも膜下出血再発は33例、うち治療した動脈瘤からの再出血は17例でコイル群のほうが多かった。従って、長期の治療成績もコイル群のほうが良好であり。再出血はコイル群のほうが多かったものの、リスクは非常に低いという結果であった。
 ISATは、英国を中心とした多施設[[前向きランダム化試験]]で、2002年に初期治療成績<ref name=Molyneux2002><pubmed>12414200</pubmed></ref>、2005年に中間報告とサプ解析<ref name=Molyneux2005><pubmed>16139655</pubmed></ref>、2009年と2015年に長期追跡結果<ref name=Molyneux2009><pubmed>19329361</pubmed></ref><ref name=Molyneux2015><pubmed>25465111</pubmed></ref>が発表された。10年後の生存・介助不要の可能性はコイル群のほうが高かった。1年後以降のくも膜下出血再発は33例、うち治療した動脈瘤からの再出血は17例でコイル群のほうが多かった。従って、長期の治療成績もコイル群のほうが良好であり。再出血はコイル群のほうが多かったものの、リスクは非常に低いという結果であった。


 BRATは単一施設(Barrow Neurological Institute)における前向きランダム化試験で、2003年からの5年間の連続症例を一例ごとにそれぞれの治療に割り付け、471例に対して同じく[[治療企図解析]] ([[intention to treat analysis]], [[ITT解析]])で10年後まで経過観察したものである<ref name=Spetzler2013><pubmed>23621600</pubmed></ref><ref name=Spetzler2019><pubmed>30849758</pubmed></ref>。その結果、再治療はクリッピング術で少ないものの、1年後、10年後の時点で、両治療群の予後不良率に差がなかったこと、後頭蓋窩動脈瘤ではコイル塞栓術の治療成績が良好であることが示された。
 BRATは単一施設(Barrow Neurological Institute)における前向きランダム化試験で、2003年からの5年間の連続症例を一例ごとにそれぞれの治療に割り付け、471例に対して同じく[[治療企図解析]] ([[intention to treat analysis]], [[ITT解析]])で10年後まで経過観察したものである<ref name=Spetzler2013><pubmed>23621600</pubmed></ref><ref name=Spetzler2019><pubmed>30849758</pubmed></ref>。その結果、再治療はクリッピング術で少ないものの、1年後、10年後の時点で、両治療群の予後不良率に差がなかったこと、後頭蓋窩動脈瘤ではコイル塞栓術の治療成績が良好であることが示された。
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 脳血管攣縮による遅発性虚血性神経障害を呈すると、重症例では[[脳梗塞]]に移行する。Dolschらによると遅発性神経学的脱落症状は32.5 %に認められ、そのうちの30%が死亡、34%に永続的な神経脱落症状が生じた<ref name=Dorsch1994><pubmed>18638721</pubmed></ref>。脳血管攣縮の頻度は、脳血管撮影上は50%以上、症候性のものは25.9 % 、CT上は全体で26% 、そのうち[[脳底槽]]で[[血腫量]]の多いくも膜下出血 (Fisher grade 3に相当)では38.5 %に認められた<ref name=Adams1987><pubmed>3658161</pubmed></ref>。治療方法による脳血管攣縮の頻度は、クリッピング術、コイル塞栓術で脳梗塞の発生頻度や予後に有意な差はみられないとする報告もあれば血管内治療で優れるとするものもある<ref name=Goddard2004><pubmed>15146002</pubmed></ref><ref name=Rabinstein2003><pubmed>12593618</pubmed></ref>。
 脳血管攣縮による遅発性虚血性神経障害を呈すると、重症例では[[脳梗塞]]に移行する。Dolschらによると遅発性神経学的脱落症状は32.5 %に認められ、そのうちの30%が死亡、34%に永続的な神経脱落症状が生じた<ref name=Dorsch1994><pubmed>18638721</pubmed></ref>。脳血管攣縮の頻度は、脳血管撮影上は50%以上、症候性のものは25.9 % 、CT上は全体で26% 、そのうち[[脳底槽]]で[[血腫量]]の多いくも膜下出血 (Fisher grade 3に相当)では38.5 %に認められた<ref name=Adams1987><pubmed>3658161</pubmed></ref>。治療方法による脳血管攣縮の頻度は、クリッピング術、コイル塞栓術で脳梗塞の発生頻度や予後に有意な差はみられないとする報告もあれば血管内治療で優れるとするものもある<ref name=Goddard2004><pubmed>15146002</pubmed></ref><ref name=Rabinstein2003><pubmed>12593618</pubmed></ref>。


 脳血管攣縮の重症度とくも膜下腔の血管周囲の血腫量との間には相関があるため<ref name=Dehdashti2004><pubmed>14530638</pubmed></ref>早期手術の目的の一つとして脳槽内への]]組織プラスミノゲンアクチベーター]] ([[t-PA]]) の術中投与<ref name=Findlay1995><pubmed>8587685</pubmed></ref> 39)(保険適応外)や、手術時に設置した[[脳槽ドレナージ]]を用いた[[術後ウロキナーゼ灌流療法]](保険適応外)の脳血管攣縮予防における有用性も報告されている<ref name=Kodama2000><pubmed>10713187</pubmed></ref>。
 脳血管攣縮の重症度とくも膜下腔の血管周囲の血腫量との間には相関があるため<ref name=Dehdashti2004><pubmed>14530638</pubmed></ref>早期手術の目的の一つとして脳槽内への[[組織プラスミノゲンアクチベーター]] ([[t-PA]]) の術中投与<ref name=Findlay1995><pubmed>8587685</pubmed></ref>(保険適応外)や、手術時に設置した[[脳槽ドレナージ]]を用いた[[術後ウロキナーゼ灌流療法]](保険適応外)の脳血管攣縮予防における有用性も報告されている<ref name=Kodama2000><pubmed>10713187</pubmed></ref>。
脳血管攣縮に対する治療では、薬物療法としてわが国では[[ニゾフェノン]]<ref name=Saito1983><pubmed>6149485</pubmed></ref>、[[ファスジル]]<ref name=Shibuya1992><pubmed>1545249</pubmed></ref>、[[オザグレルナトリウム]]<ref name=Suzuki1989><pubmed>2569686</pubmed></ref>が承認・使用されている。海外ではカルシウムチャンネル拮抗薬[[ニモジピン]]が有効と報告されている<ref name=Allen1983><pubmed>6338383</pubmed></ref>が、ニモジピンはわが国では未承認であり、他の[[カルシウムチャンネル拮抗薬]]の有効性は示されていない。また[[スタチン]]系製剤の投与で、脳血管攣縮の頻度および遅発性脳虚血症状の頻度がともに減少することが報告されている<ref name=Tseng2005><pubmed>16049199</pubmed></ref>。
脳血管攣縮に対する治療では、薬物療法としてわが国では[[ニゾフェノン]]<ref name=Saito1983><pubmed>6149485</pubmed></ref>、[[ファスジル]]<ref name=Shibuya1992><pubmed>1545249</pubmed></ref>、[[オザグレルナトリウム]]<ref name=Suzuki1989><pubmed>2569686</pubmed></ref>が承認・使用されている。海外ではカルシウムチャンネル拮抗薬[[ニモジピン]]が有効と報告されている<ref name=Allen1983><pubmed>6338383</pubmed></ref>が、ニモジピンはわが国では未承認であり、他の[[カルシウムチャンネル拮抗薬]]の有効性は示されていない。また[[スタチン]]系製剤の投与で、脳血管攣縮の頻度および遅発性脳虚血症状の頻度がともに減少することが報告されている<ref name=Tseng2005><pubmed>16049199</pubmed></ref>。