「内側視索前野」の版間の差分

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 雌ラット内側視索前野のGABA作動性ニューロンにエストロゲン受容体が発現している<ref name=Herbison1991><pubmed>19215454</pubmed></ref>。パルブアルブミン陽性のGABA作動性ニューロンが内側中隔から内側視索前野吻側・対角帯野に分布<ref name=Smith2005><pubmed>15802181</pubmed></ref>し、上述のGnRHニューロンの分布<ref name=Schwanzel-Fukuda1989><pubmed>2645530</pubmed></ref>と重なる。また内側視索前野のGABAA受容体はエストロゲンにより発現が増す<ref name=Herbison1997><pubmed>9370195</pubmed></ref>。GnRHニューロンはクロライドトランスポーターの発現パターン(NKCC1>KCC2)から、細胞内クロライドイオン濃度が高く、GABA<sub>A</sub>受容体活性化で興奮し、GnRH分泌を起す<ref name=Watanabe2009><pubmed>19357366</pubmed></ref>ことと相まって、GABAの生殖内分泌調節への関与を示唆している。
 雌ラット内側視索前野のGABA作動性ニューロンにエストロゲン受容体が発現している<ref name=Herbison1991><pubmed>19215454</pubmed></ref>。パルブアルブミン陽性のGABA作動性ニューロンが内側中隔から内側視索前野吻側・対角帯野に分布<ref name=Smith2005><pubmed>15802181</pubmed></ref>し、上述のGnRHニューロンの分布<ref name=Schwanzel-Fukuda1989><pubmed>2645530</pubmed></ref>と重なる。また内側視索前野のGABAA受容体はエストロゲンにより発現が増す<ref name=Herbison1997><pubmed>9370195</pubmed></ref>。GnRHニューロンはクロライドトランスポーターの発現パターン(NKCC1>KCC2)から、細胞内クロライドイオン濃度が高く、GABA<sub>A</sub>受容体活性化で興奮し、GnRH分泌を起す<ref name=Watanabe2009><pubmed>19357366</pubmed></ref>ことと相まって、GABAの生殖内分泌調節への関与を示唆している。
   
   
 一方、エストロゲン作用をGnRHニューロンに伝え、排卵時の黄体形成ホルモンの一過性大量分泌に関わることが臨床例<ref name=deRoux2003><pubmed>12944565</pubmed></ref><ref name=Seminara2003><pubmed>14573733</pubmed></ref>を通じて詳細が判明している分子にGPR54リガンドであるキスペプチンがある<ref name=Oakley2009><pubmed>19770291</pubmed></ref>。キスペプチンニューロンは前腹側傍室核に分布するエストロゲン受容体陽性ニューロン<ref name=Orikasa2002><pubmed>11854469</pubmed></ref> (Orikasa et al., 2002) と重なると考えられる。GnRHニューロン膜上にキスペプチン受容体GPR54が存在する<ref name=Parhar2004><pubmed>15155576</pubmed></ref>。なお、視床下部弓状核のエストロゲン受容体陽性キスペプチンニューロンはGnRHの律動的分泌により、下垂体前葉ゴナドトローフ細胞のGnRH受容体を維持するとされる<ref name=Wakabayashi2010><pubmed>20181609</pubmed></ref>。  
 一方、エストロゲン作用をGnRHニューロンに伝え、排卵時の黄体形成ホルモンの一過性大量分泌に関わることが臨床例<ref name=deRoux2003><pubmed>12944565</pubmed></ref><ref name=Seminara2003><pubmed>14573733</pubmed></ref>を通じて詳細が判明している分子にGPR54リガンドであるキスペプチンがある<ref name=Oakley2009><pubmed>19770291</pubmed></ref>。キスペプチンニューロンは前腹側傍室核に分布するエストロゲン受容体陽性ニューロン<ref name=Orikasa2002><pubmed>11854469</pubmed></ref>と重なると考えられる。GnRHニューロン膜上にキスペプチン受容体GPR54が存在する<ref name=Parhar2004><pubmed>15155576</pubmed></ref>。なお、視床下部弓状核のエストロゲン受容体陽性キスペプチンニューロンはGnRHの律動的分泌により、下垂体前葉ゴナドトローフ細胞のGnRH受容体を維持するとされる<ref name=Wakabayashi2010><pubmed>20181609</pubmed></ref>。  


===生殖行動===
===生殖行動===
 内側視索前野から中脳腹側被蓋野への投射は雌<ref name=Erskine1989><pubmed>2691387</pubmed></ref>、雄<ref name=Agmo1997><pubmed>9385085</pubmed></ref>の性行動の調節に関わる。雄ラットでは内側視索前野の電気凝固<ref name=Larsson1964><pubmed>14152848</pubmed></ref>、あるいは興奮性神経毒による内側視索前野の神経細胞の脱落により、性行動の動機付け要素motivational componentと実行要素excutive componentの双方が消失する。一方、雌ラットでは内側視索前野の破壊により雌が雄を避けられる条件では性行動が消失するが、避けられない条件では性行動、特にロードーシス行動が存続することが報じられてきた<ref name=Whitney1986><pubmed>3964425</pubmed></ref>。興奮性神経毒による神経細胞の脱落<ref name=Hoshina1994><pubmed>8037867</pubmed></ref>と微少ナイフによる下行性通過線維の選択的切断<ref name=Takeo1993><pubmed>8511198</pubmed></ref>により、内側視索前野から雌型性行動の動機付け要素を促進する回路と実行要素を抑制する回路が起始していることが示されている。実行要素であるロードーシス行動は、特に分界条由来の通過線維を除去した状態でのこの部位の電気刺激により強く抑制される<ref name=Takeo1993><pubmed>8511198</pubmed></ref> 。この抑制は腹側被蓋野の電気刺激により得られる効果と同一の大きさと時間経過で得られる<ref name=Hasegawa1991><pubmed>1805265</pubmed></ref>ことから、内側視索前野に起こり腹側被蓋野に終わるエストロゲン感受性下行性ニューロン<ref name=Hasegawa1993><pubmed>8518936</pubmed></ref>が関わる。逆行性興奮閾値から、このニューロンの軸索の興奮性がエストロゲンにより低下することが示されている。この現象はエストロゲンによるBKチャネルの発現増加による<ref name=Nishimura2008><pubmed>17962348</pubmed></ref> (Nishimura et al., 2008)。雄、あるいは生直後の性ホルモン投与により雄型の脳を持ちロードーシス行動を示さない雌では、エストロゲンの効果は見られない。ロードーシス行動の促進回路である視床下部腹内側核から中脳中心灰白質への投射軸索においては、エストロゲンにより興奮性が高まり、逆行性興奮閾値が低下する。内側視索前野から腹側被蓋野への投射と同じく、エストロゲンが効くのはロードーシス行動を起す雌あるいは生直後去勢雄に限られる<ref name=Sakuma1984><pubmed>6737296</pubmed></ref> (Sakuma, 1984)。つまり行動の抑制回路の脱抑制と促進回路の興奮が同時に起こることが、ロードーシス行動の発現に必要である。
 内側視索前野から中脳腹側被蓋野への投射は雌<ref name=Erskine1989><pubmed>2691387</pubmed></ref>、雄<ref name=Agmo1997><pubmed>9385085</pubmed></ref>の性行動の調節に関わる。雄ラットでは内側視索前野の電気凝固<ref name=Larsson1964><pubmed>14152848</pubmed></ref>、あるいは興奮性神経毒による内側視索前野の神経細胞の脱落により、性行動の動機付け要素motivational componentと実行要素excutive componentの双方が消失する。一方、雌ラットでは内側視索前野の破壊により雌が雄を避けられる条件では性行動が消失するが、避けられない条件では性行動、特にロードーシス行動が存続することが報じられてきた<ref name=Whitney1986><pubmed>3964425</pubmed></ref>。興奮性神経毒による神経細胞の脱落<ref name=Hoshina1994><pubmed>8037867</pubmed></ref>と微少ナイフによる下行性通過線維の選択的切断<ref name=Takeo1993><pubmed>8511198</pubmed></ref>により、内側視索前野から雌型性行動の動機付け要素を促進する回路と実行要素を抑制する回路が起始していることが示されている。実行要素であるロードーシス行動は、特に分界条由来の通過線維を除去した状態でのこの部位の電気刺激により強く抑制される<ref name=Takeo1993><pubmed>8511198</pubmed></ref> 。この抑制は腹側被蓋野の電気刺激により得られる効果と同一の大きさと時間経過で得られる<ref name=Hasegawa1991><pubmed>1805265</pubmed></ref>ことから、内側視索前野に起こり腹側被蓋野に終わるエストロゲン感受性下行性ニューロン<ref name=Hasegawa1993><pubmed>8518936</pubmed></ref>が関わる。逆行性興奮閾値から、このニューロンの軸索の興奮性がエストロゲンにより低下することが示されている。この現象はエストロゲンによるBKチャネルの発現増加による<ref name=Nishimura2008><pubmed>17962348</pubmed></ref>。雄、あるいは生直後の性ホルモン投与により雄型の脳を持ちロードーシス行動を示さない雌では、エストロゲンの効果は見られない。ロードーシス行動の促進回路である視床下部腹内側核から中脳中心灰白質への投射軸索においては、エストロゲンにより興奮性が高まり、逆行性興奮閾値が低下する。内側視索前野から腹側被蓋野への投射と同じく、エストロゲンが効くのはロードーシス行動を起す雌あるいは生直後去勢雄に限られる<ref name=Sakuma1984><pubmed>6737296</pubmed></ref>。つまり行動の抑制回路の脱抑制と促進回路の興奮が同時に起こることが、ロードーシス行動の発現に必要である。


===母性行動・育仔行動===
===母性行動・育仔行動===
 ラットでは妊娠末期に血中プロゲステロン濃度が低下し、エストロゲンとプロラクチン濃度が上昇すると、分娩後母性行動が現れる。適切な母性行動の発揮には、まず新生仔を忌避し、敵対する行動が抑制される必要がある。未経産の雌ラットのケージに新生仔を入れると、雌はその場所を忌避する<ref name=Numan1997><pubmed>9071346</pubmed></ref> (Numan & Sheehan, 1997)。雌マウス内側視索前野中心部の選択的破壊は、この部位に存在するgalaninの脱落により母性行動を消失させる<ref name=Wu2014><pubmed>24828191</pubmed></ref>(Wu et al., 2014)。哺育中の母マウスは内側視索前野・扁桃核のエストロゲン受容体陽性ニューロンを介して、接近してきた新奇雄を激しく攻撃する母性攻撃行動を示す<ref name=Ogawa2004><pubmed>15817742</pubmed></ref>(Ogawa et al., 2004)、この行動の一側面として、哺育中の母マウスはリスクを顧みずに仔を守る行動を取る。最近黒田らは脳幹へ投射する内側視索前野のカルシトニン受容体陽性ニューロンとリガンドであるアミリンがこのリスクテーキング行動に関わっていることを示した<ref name=Yoshihara2021><pubmed>34077719</pubmed></ref> (Yoshihara et al., 2021)。雌雄双方で内側視索前野のガラニン作動性ニューロンが育仔に関与する<ref name=Wu2014>(Wu et al., 2014) <pubmed>24828191</pubmed></ref>。他方、内側視索前野脳弓周辺部に分布するウロコルチンニューロンが雌雄マウスで新生仔の無視や新生仔に対する攻撃を誘発する<ref name=Autry2021>(Autry et al., 2021) <pubmed>34423776</pubmed></ref>。
 ラットでは妊娠末期に血中プロゲステロン濃度が低下し、エストロゲンとプロラクチン濃度が上昇すると、分娩後母性行動が現れる。適切な母性行動の発揮には、まず新生仔を忌避し、敵対する行動が抑制される必要がある。未経産の雌ラットのケージに新生仔を入れると、雌はその場所を忌避する<ref name=Numan1997><pubmed>9071346</pubmed></ref>。雌マウス内側視索前野中心部の選択的破壊は、この部位に存在するgalaninの脱落により母性行動を消失させる<ref name=Wu2014><pubmed>24828191</pubmed></ref>。哺育中の母マウスは内側視索前野・扁桃核のエストロゲン受容体陽性ニューロンを介して、接近してきた新奇雄を激しく攻撃する母性攻撃行動を示す<ref name=Ogawa2004><pubmed>15817742</pubmed></ref>、この行動の一側面として、哺育中の母マウスはリスクを顧みずに仔を守る行動を取る。最近黒田らは脳幹へ投射する内側視索前野のカルシトニン受容体陽性ニューロンとリガンドであるアミリンがこのリスクテーキング行動に関わっていることを示した<ref name=Yoshihara2021><pubmed>34077719</pubmed></ref>。雌雄双方で内側視索前野のガラニン作動性ニューロンが育仔に関与する<ref name=Wu2014><pubmed>24828191</pubmed></ref>。他方、内側視索前野脳弓周辺部に分布するウロコルチンニューロンが雌雄マウスで新生仔の無視や攻撃といった育仔阻害を誘発する<ref name=Autry2021><pubmed>34423776</pubmed></ref>。




===睡眠===
===睡眠===
 ヒトや哺乳類で視索前野の損傷が睡眠の障害を起こす。視索前野腹外側部に分布するGABAやガラニン作動ニューロンがnon-REM睡眠を起こす<ref name=Sherin1996><pubmed>8539624</pubmed></ref><ref name=Gong2004><pubmed>14966298</pubmed></ref><ref name=Takahashi2009><pubmed>19285545</pubmed></ref> (Sherin et al., 1996; Gong et al., 2004; Takahashi et al., 2009)。一方、これらの細胞群の背側と内側に散在するニューロンの破壊はREM睡眠の減少をきたした。Jouvetらは興奮性神経毒によるネコ視索前野ニューロンの破壊が持続的な不眠を起こし、この効果は視床下部後部へのGABA注入で拮抗された<ref name=Sallanon1989><pubmed>2601839</pubmed></ref> (Sallanon et al., 1989)。最近の光遺伝学的研究によれば、マウス内側視索前野腹側部のGABA作動性ニューロンの光刺激により、視床下部後部の隆起乳頭体核のヒスタミン作動ニューロンの抑制によりnon-REM睡眠、REM睡眠を起すとの報告があり<ref name=Chung2017><pubmed>28514446</pubmed></ref> (Chung et al., 2017)、Jouvetら<ref name=Sallanon1989></ref>の先行研究と合致する。  
 ヒトや哺乳類で視索前野の損傷が睡眠の障害を起こす。視索前野腹外側部に分布するGABAやガラニン作動ニューロンがnon-REM睡眠を起こす<ref name=Sherin1996><pubmed>8539624</pubmed></ref><ref name=Gong2004><pubmed>14966298</pubmed></ref><ref name=Takahashi2009><pubmed>19285545</pubmed></ref>。一方、これらの細胞群の背側と内側に散在するニューロンの破壊はREM睡眠の減少をきたした。Jouvetらは興奮性神経毒によるネコ視索前野ニューロンの破壊が持続的な不眠を起こし、この効果は視床下部後部へのGABA注入で拮抗された<ref name=Sallanon1989><pubmed>2601839</pubmed></ref>。最近の光遺伝学的研究によれば、マウス内側視索前野腹側部のGABA作動性ニューロンの光刺激により、視床下部後部の隆起乳頭体核のヒスタミン作動ニューロンの抑制によりnon-REM睡眠、REM睡眠を起すとの報告があり<ref name=Chung2017><pubmed>28514446</pubmed></ref>、Jouvetら<ref name=Sallanon1989></ref>の先行研究と合致する。  


===体温調節===
===体温調節===
 ウレタン麻酔下のネコの前交連の前腹側に局所の加温により放電頻度を増す温感受性ニューロンが存在する。反応の特異性は周辺のニューロンが反応しないので特異的であるという中山らの先駆的報告が行われている<ref name=Hardy1962><pubmed>17745919</pubmed></ref> (Hardy et al., 1962)。 ラットでは視索前野の片側破壊により散熱の抑制(尾血管の収縮、酸素消費の亢進、体温保持姿勢)による致死的な高体温が急速に生じる。術後強制的な冷却により生存した個体は体温の恒常性を維持できず変温動物となったという<ref name=Szymusiak1982><pubmed>7079312</pubmed></ref> (Szymusiak & Satinoff, 1982)。ヒト女性では排卵から黄体期にかけて0.5°C程度の体温上昇が見られる<ref name=Galbraith1992><pubmed>1331684</pubmed></ref> (Galbraith et al., 1992)。ウレタン麻酔科のウサギでプロゲステロンの全身投与は視索前野の温感受性ニューロンを抑制し、ひいては個体の体温上昇を起す<ref name=Nakayama1975><pubmed>1186885</pubmed></ref> (Nakayama et al., 1975)。  
 ウレタン麻酔下のネコの前交連の前腹側に局所の加温により放電頻度を増す温感受性ニューロンが存在する。反応の特異性は周辺のニューロンが反応しないので特異的であるという中山らの先駆的報告が行われている<ref name=Hardy1962><pubmed>17745919</pubmed></ref> (Hardy et al., 1962)。 ラットでは視索前野の片側破壊により散熱の抑制(尾血管の収縮、酸素消費の亢進、体温保持姿勢)による致死的な高体温が急速に生じる。術後強制的な冷却により生存した個体は体温の恒常性を維持できず変温動物となったという<ref name=Szymusiak1982><pubmed>7079312</pubmed></ref>。ヒト女性では排卵から黄体期にかけて0.5°C程度の体温上昇が見られる<ref name=Galbraith1992><pubmed>1331684</pubmed></ref>。ウレタン麻酔下のウサギでプロゲステロンの全身投与は視索前野の温感受性ニューロンを抑制し、ひいては個体の体温上昇を起す<ref name=Nakayama1975><pubmed>1186885</pubmed></ref>。ヒト女性の排卵と黄体期における約0.5°Cの基礎体温の上昇は<ref name=Buxton1948><pubmed>18939188</pubmed></ref>この機序による。
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===歩行===
===歩行===
 発情期の雌ラットは運動量が増す。エストロゲン結晶の局所投与により輪回し行動の増加が見られることから、この効果は内側視索前野を介している<ref name=Takeo1995><pubmed>7792083</pubmed></ref><ref name=Fahrbach1985><pubmed>4095192</pubmed></ref>(Takeo & Sakuma, 1995; Fahrbach et al., 1985) 。歩行の開始とステッピング(リズム取り)は中脳楔状核と脚橋被蓋核吻側に同定されている中脳歩行領域により制御されており <ref name=SHIK1966>SHIK, M. L., SEVERIN, F. V. & ORLOVSKII, G. N. 1966. Control of walking and running by means of electrical stimulation of the midbrain. Biofizyka (English translation), 11, 756-65.</ref>(Shik et al., 1966)、森ら<ref name=MORI1982>MORI, S., MATSUYAMA, K., KOHYAMA, J., KOBAYASHI, Y. & TAKAKUSAKI, K. 1992. Neuronal constituents of postural and locomotor control systems and their interactions in cats. Brain Dev., 14 Suppl., S109-S120.</ref>(Mori et al., 1992)は視索前野から中脳歩行領域に至る下行性の歩行調節軸の存在を示した。視索前野へのグルタミン酸やピクロトキシンの注入により麻酔下のラットに歩行運動を起こすことができる<ref name=Sinnamon1987><pubmed>2880639</pubmed></ref> (Sinnamon, 1987)。Sinnamonの名付けた「視索前野の歩行領域<ref name=Sinnamon1992><pubmed>1407556</pubmed></ref> (Sinnamon, 1992)」の電気刺激により、麻酔下のラットが微弱な電流で歩行を開始し、電流強度の増加に伴うステッピング頻度の上昇が起こる。一方、内側視索前野最内側の室傍領域へのカルバコール注入など、アセチルコリン受容体の刺激は歩行運動抑制する<ref name=Brudzynski1986><pubmed>3719372</pubmed></ref> (Brudzynski & Mogenson, 1986)。武尾らはラット外側視索前野内側部と内側視索前野のそれぞれから中脳歩行領域への投射を示し、前者がエストロゲンにより興奮性を増すのに対し、後者は抑制されることを見ている<ref name=Takeo1993><pubmed>8511198</pubmed></ref> (Takeo & Sakuma, 1995)。  
 発情期の雌ラットは運動量が増す。エストロゲン結晶の局所投与により輪回し行動の増加が見られることから、この効果は内側視索前野を介している<ref name=Takeo1995><pubmed>7792083</pubmed></ref><ref name=Fahrbach1985><pubmed>4095192</pubmed></ref>。歩行の開始とステッピング(リズム取り)は中脳楔状核と脚橋被蓋核吻側に同定されている中脳歩行領域により制御されており <ref name=SHIK1966>SHIK, M. L., SEVERIN, F. V. & ORLOVSKII, G. N. 1966. Control of walking and running by means of electrical stimulation of the midbrain. Biofizyka (English translation), 11, 756-65.</ref>(Shik et al., 1966)、森ら<ref name=MORI1982>MORI, S., MATSUYAMA, K., KOHYAMA, J., KOBAYASHI, Y. & TAKAKUSAKI, K. 1992. Neuronal constituents of postural and locomotor control systems and their interactions in cats. Brain Dev., 14 Suppl., S109-S120.</ref>は視索前野から中脳歩行領域に至る下行性の歩行調節軸の存在を示した。視索前野へのグルタミン酸やピクロトキシンの注入により麻酔下のラットに歩行運動を起こすことができる<ref name=Sinnamon1987><pubmed>2880639</pubmed></ref>。Sinnamonの名付けた「視索前野の歩行領域<ref name=Sinnamon1992><pubmed>1407556</pubmed></ref>」の電気刺激により、麻酔下のラットが微弱な電流で歩行を開始し、電流強度の増加に伴うステッピング頻度の上昇が起こる。一方、内側視索前野最内側の室傍領域へのカルバコール注入など、アセチルコリン受容体の刺激は歩行運動抑制する<ref name=Brudzynski1986><pubmed>3719372</pubmed></ref>。武尾らはラット外側視索前野内側部と内側視索前野のそれぞれから中脳歩行領域への投射を示し、前者がエストロゲンにより興奮性を増すのに対し、後者は抑制されることを見ている<ref name=Takeo1993><pubmed>8511198</pubmed></ref>。  


==病態==
==病態==
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 何れも低ゴナドトロピン性性腺機能不全症 (Hypogonadotropic hypogonadism または hypothalamic hypogonadism)を示す:
 何れも低ゴナドトロピン性性腺機能不全症 (Hypogonadotropic hypogonadism または hypothalamic hypogonadism)を示す:


===フレーリヒ症候群===
===フレーリヒ(Fröhlich)症候群===
 Fröhlich, 1901<ref name=FRÖLICH1901>'''Frölich, A. (1901).'''<br>Ein fall von Tumor der Hypophysis cerebri ohne Akromegalie, Win klin Rundschau, 15:883-906. </ref>; Bruch, 1939<ref name=Bruch1939><pubmed>16350582</pubmed></ref>の英訳あり。発症に間脳下垂体系の障害が関わることが示された最初の疾患である。腫瘍や結核性髄膜炎、外傷などによる間脳底部の破壊により飽食感覚が低下して肥胖が起こり,視索前野から視床下部の機能障害によるGnRH分泌の低下により性腺機能が低下する。
 Fröhlich, 1901<ref name=FRÖLICH1901>'''Frölich, A. (1901).'''<br>Ein fall von Tumor der Hypophysis cerebri ohne Akromegalie, Win klin Rundschau, 15:883-906. </ref>; Bruch, 1939<ref name=Bruch1939><pubmed>16350582</pubmed></ref>の英訳あり。発症に間脳下垂体系の障害が関わることが示された最初の疾患である。腫瘍や結核性髄膜炎、外傷などによる間脳底部の破壊により飽食感覚が低下して肥胖が起こり,視索前野から視床下部の機能障害によるGnRH分泌の低下により性腺機能が低下する。


===Kallman 症候===
===カルマン(Kallman)症候===
 X染色体上のKAL1遺伝子の変異により嗅上皮に発生したGnRHニューロンの脳内への移動不全により、嗅覚脱失を伴う性腺機能低下症が生じる。X連鎖性の伴性遺伝のため、女性ではまれである(出生男子の1万人に1人,出生女子の5万人に1人;1型Kallman 症候)。常染色体8p21-22上のFGFR1遺伝子の異常は口唇口蓋裂を伴う2型のカルマン症候を生じる。
 X染色体上のKAL1遺伝子の変異により嗅上皮に発生したGnRHニューロンの脳内への移動不全により、嗅覚脱失を伴う性腺機能低下症が生じる。X連鎖性の伴性遺伝のため、女性ではまれである(出生男子の1万人に1人,出生女子の5万人に1人;1型Kallman 症候)。常染色体8p21-22上のFGFR1遺伝子の異常は口唇口蓋裂を伴う2型のカルマン症候を生じる。


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