「目的指向行動」の版間の差分

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 この手法では、[[回帰分析]]に任意の説明変数を追加することが可能であり、model-based/model-free型学習の寄与度に影響を及ぼす要因の検証を行うことが可能である。各精神疾患関連症状とmodel-based/model-free型学習の寄与を比較解析した研究も行われており、強迫性障害や[[摂食障害]]、[[アルコール依存症]]のような強迫行為・[[侵入性思考]]の精神症状が強く表れる疾患において、model-based型学習の寄与度が低下することが報告されている<ref name=Gillan2016><pubmed>26928075</pubmed></ref>。
 この手法では、[[回帰分析]]に任意の説明変数を追加することが可能であり、model-based/model-free型学習の寄与度に影響を及ぼす要因の検証を行うことが可能である。各精神疾患関連症状とmodel-based/model-free型学習の寄与を比較解析した研究も行われており、強迫性障害や[[摂食障害]]、[[アルコール依存症]]のような強迫行為・[[侵入性思考]]の精神症状が強く表れる疾患において、model-based型学習の寄与度が低下することが報告されている<ref name=Gillan2016><pubmed>26928075</pubmed></ref>。


== 目的指向性の発現に関与する脳領域 ==
==発現に関与する脳領域 ==
 定義で述べた通り、目的指向行動はR-O連合学習の結果形成される。連合学習における[[背内側線条体]]、およびこれを中心とした[[連合回路]](associative circuit)とも呼ばれる[[皮質-線条体-視床-皮質回路]](cortico-striato-thalamo-cortical [CSTC] circuit)の重要性は、[[実験動物]]およびヒトの研究の両面から検証されてきた<ref name=Balleine2010><pubmed>19776734</pubmed></ref>。
 定義で述べた通り、目的指向行動はR-O連合学習の結果形成される。連合学習における[[背内側線条体]]、およびこれを中心とした[[連合回路]](associative circuit)とも呼ばれる[[皮質-線条体-視床-皮質回路]](cortico-striato-thalamo-cortical [CSTC] circuit)の重要性は、[[実験動物]]およびヒトの研究の両面から検証されてきた<ref name=Balleine2010><pubmed>19776734</pubmed></ref>。


 上述の通り、眼窩前頭皮質や前頭前皮質、背内側線条体の活動性と目的指向的な行動様式の発現の関連性については数多くの報告がなされている<ref name=Yin2005><pubmed>16045504</pubmed></ref><ref name=Gremel2013 />。一方で、各脳領域が関与する段階(R-O学習時に必要か、目的指向性の維持に必要か)や関与様式(神経活動の増加、減少のどちらが目的指向性に寄与するのか)については矛盾した結果も報告されている。例えば、眼窩前頭皮質に関しては、活動抑制によりdevaluation試験おける目的指向性が障害されるという報告と、活性化により[[contingency degradation試験]]における目的指向性が障害されるという報告の両方が存在する<ref name=Gremel2013><pubmed>23921250</pubmed></ref><ref name=Duan2021><pubmed>34171290</pubmed></ref>。こうした矛盾する結果の要因としては。試験デザインや動物種などが考えられる。先述の通り、目的指向行動の評価試験系はバリエーションが大きいため、注意して考察を行う必要がある。
 上述の通り、眼窩前頭皮質や前頭前皮質、背内側線条体の活動性と目的指向的な行動様式の発現の関連性については数多くの報告がなされている<ref name=Tran-Tu-Yen2009><pubmed>19614748</pubmed></ref><ref name=Smith2012><pubmed>23112197</pubmed></ref><ref name=Hart2016><pubmed>27881782</pubmed></ref><ref name=Gillan2011><pubmed>21572165</pubmed></ref><ref name=Delorme2016><pubmed>26490329</pubmed></ref><ref name=Gremel2013 /><ref name=Valentin2007><pubmed>17428979</pubmed></ref><ref name=Yin2005><pubmed>16045504</pubmed></ref><ref name=Barker2017><pubmed>29302616</pubmed></ref>。一方で、各脳領域が関与する段階(R-O学習時に必要か、目的指向性の維持に必要か)や関与様式(神経活動の増加、減少のどちらが目的指向性に寄与するのか)については矛盾した結果も報告されている。例えば、眼窩前頭皮質に関しては、活動抑制によりdevaluation試験おける目的指向性が障害されるという報告と、活性化により[[contingency degradation試験]]における目的指向性が障害されるという報告の両方が存在する<ref name=Gremel2013><pubmed>23921250</pubmed></ref><ref name=Duan2021><pubmed>34171290</pubmed></ref>。こうした矛盾する結果の要因としては。試験デザインや動物種などが考えられる。先述の通り、目的指向行動の評価試験系はバリエーションが大きいため、注意して考察を行う必要がある。


== 神経精神疾患による目的指向行動の障害 ==
== 神経精神疾患による目的指向行動の障害 ==
=== 目的指向行動の実行面での障害 ===
=== 目的指向行動の実行面での障害 ===
 [[アルツハイマー病]]や[[パーキンソン病]]のような[[神経変性疾患]]、[[脳梗塞]]や[[頭部外傷]]などの脳損傷によって[[前頭皮質]]機能に異常がおこると、多くの場合で目的指向行動の実行に障害が発生する。例えば、[[アパシー]](apathy)と呼ばれる症状では、行動への動機づけがうまく行われず、目的指向行動の実行自体が減少する<ref name=Levy2006><pubmed>16207933</pubmed></ref>。前頭皮質は目的指向行動の遂行機能(executive function)にも関与しており、この機能が障害されると、目的指向行動を実行しようとする意図はあるが、計画的、効率的に実行することが困難となる<ref name=Friedman2022><pubmed>34408280</pubmed></ref>。
 [[アルツハイマー病]]や[[パーキンソン病]]のような[[神経変性疾患]]、[[脳梗塞]]や[[頭部外傷]]などの脳損傷によって[[前頭皮質]]機能に異常がおこると、多くの場合で目的指向行動の実行に障害が発生する。例えば、[[アパシー]]([[apathy]])と呼ばれる症状では、行動への動機づけがうまく行われず、目的指向行動の実行自体が減少する<ref name=Levy2006><pubmed>16207933</pubmed></ref>。前頭皮質は目的指向行動の遂行機能(executive function)にも関与しており、この機能が障害されると、目的指向行動を実行しようとする意図はあるが、計画的、効率的に実行することが困難となる<ref name=Friedman2022><pubmed>34408280</pubmed></ref>。


 また、アパシーや遂行機能障害は、[[うつ病]]や[[不安障害]]、[[強迫性障害]]、[[注意欠陥多動性障害]]の患者でも発現することがある<ref name=Girotti2018><pubmed>28690203</pubmed></ref>。
 また、アパシーや遂行機能障害は、[[うつ病]]や[[不安障害]]、[[強迫性障害]]、[[注意欠陥多動性障害]]の患者でも発現することがある<ref name=Girotti2018><pubmed>28690203</pubmed></ref>。
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==参考文献==
==参考文献==
<references />