「ヒストンメチル基転移酵素」の版間の差分

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 G9aやG9a-like protein (GLP)も神経系において重要な役割を果たしている。前脳ニューロン特異的なG9aまたはGlpの欠損(KO)マウスにおいて、生後間もない状態では、明らかなニューロンの早期発達や構造上の欠陥は見られないが、生後6~8週齢のマウスでは、成熟ニューロン特異的な遺伝子発現パターンの変化や学習・記憶や意欲・報酬系の障害が見られる<ref name=Schaefer2009><pubmed>20005824</pubmed></ref>。さらにコカインの反復曝露によって、G9aの発現レベルが側坐核 (NAc) ニューロンで特異的に低下し、H3K9me2のレベルが有意に低下する<ref name=Maze2010><pubmed>20056891</pubmed></ref>。G9aの発現レベル低下を補完すると、コカインによるニューロンの形態変化、薬物依存行動としての常同行動の増加やストレスへの強い反応などに代表される行動変化は抑制される。また、NAcニューロンにおいてG9aを特異的に不活性化すると、コカインに曝露せずともニューロン形態変化が変化し、コカインに対する嗜好性も増強される。以上よりG9aの発現抑制の解除はコカインへの渇望を抑制するための効果的治療法となりうると考えられる<ref name=Shinkai2011><pubmed>21498567</pubmed></ref>。
 G9aやG9a-like protein (GLP)も神経系において重要な役割を果たしている。前脳ニューロン特異的なG9aまたはGlpの欠損(KO)マウスにおいて、生後間もない状態では、明らかなニューロンの早期発達や構造上の欠陥は見られないが、生後6~8週齢のマウスでは、成熟ニューロン特異的な遺伝子発現パターンの変化や学習・記憶や意欲・報酬系の障害が見られる<ref name=Schaefer2009><pubmed>20005824</pubmed></ref>。さらにコカインの反復曝露によって、G9aの発現レベルが側坐核 (NAc) ニューロンで特異的に低下し、H3K9me2のレベルが有意に低下する<ref name=Maze2010><pubmed>20056891</pubmed></ref>。G9aの発現レベル低下を補完すると、コカインによるニューロンの形態変化、薬物依存行動としての常同行動の増加やストレスへの強い反応などに代表される行動変化は抑制される。また、NAcニューロンにおいてG9aを特異的に不活性化すると、コカインに曝露せずともニューロン形態変化が変化し、コカインに対する嗜好性も増強される。以上よりG9aの発現抑制の解除はコカインへの渇望を抑制するための効果的治療法となりうると考えられる<ref name=Shinkai2011><pubmed>21498567</pubmed></ref>。


 Ezh2とSuv4-20hは、GFAP陽性の放射状グリア様細胞においてニューロンへの分化を共同で調節しており、両遺伝子の欠失は海馬の発達に劇的な欠陥を引き起こす(単一KOでは観察されない)<ref name=Chang2022><pubmed>34890048</pubmed></ref>。また成体海馬においては、Ezh2とSuv4-20hがNPCで異なる役割を果たすことが報告されており<ref name=Rhodes2023><pubmed>36018148</pubmed></ref> 、Ezh2は早期分化を抑制することによりNPC集団の維持に大きな役割を果たし、一方でSuv4-20hはNPCの細胞周期のS期進行を仲介することでNPCの増殖に影響を与えると考えられている<ref name=Rhodes2018><pubmed>29433384</pubmed></ref><ref name=Rhodes2017><pubmed></pubmed></ref>。
 Ezh2とSuv4-20hは、GFAP陽性の放射状グリア様細胞においてニューロンへの分化を共同で調節しており、両遺伝子の欠失は海馬の発達に劇的な欠陥を引き起こす(単一KOでは観察されない)<ref name=Chang2022><pubmed>34890048</pubmed></ref>。また成体海馬においては、Ezh2とSuv4-20hがNPCで異なる役割を果たすことが報告されており<ref name=Rhodes2023><pubmed>36018148</pubmed></ref> 、Ezh2は早期分化を抑制することによりNPC集団の維持に大きな役割を果たし、一方でSuv4-20hはNPCの細胞周期のS期進行を仲介することでNPCの増殖に影響を与えると考えられている<ref name=Rhodes2018><pubmed>29433384</pubmed></ref><ref name=Rhodes2017>'''Rhodes, C. (2017).'''<br>Epigenetic Repression in the Context of Adult Neurogenesis. 2017, The University of Texas at San Antonio.</ref>。


 Suv39h1/2によるH3K9メチル化は、成体海馬のNPCからニューロンへの分化を制御していることがわかっている。成体海馬のNPCにおけるSuv39h1/2の薬理学的阻害は、ニューロン分化を阻害する一方で増殖を亢進させた<ref name=Guerra2021><pubmed>35096813</pubmed></ref>。さらに、歯状回でSuv39h1/2をノックダウンするとニューロン新生が阻害されたことから、Suv39h1/2を介したH3K9me3が成体海馬のニューロン新生に重要な役割を果たしていると考えられる<ref name=Guerra2021><pubmed>35096813</pubmed></ref>。
 Suv39h1/2によるH3K9メチル化は、成体海馬のNPCからニューロンへの分化を制御していることがわかっている。成体海馬のNPCにおけるSuv39h1/2の薬理学的阻害は、ニューロン分化を阻害する一方で増殖を亢進させた<ref name=Guerra2021><pubmed>35096813</pubmed></ref>。さらに、歯状回でSuv39h1/2をノックダウンするとニューロン新生が阻害されたことから、Suv39h1/2を介したH3K9me3が成体海馬のニューロン新生に重要な役割を果たしていると考えられる<ref name=Guerra2021><pubmed>35096813</pubmed></ref>。


 成体での脳室下帯(SVZ)のニューロン新生においてはMll1が必須であり、Mll1欠損のNSCではニューロンへの分化がほとんど起こらず、グリア系列に分化したという報告がある<ref name=Potts2014><pubmed>24887289</pubmed></ref><ref name=Lim2009><pubmed>19212323</pubmed></ref>。SVZに存在するNPCでは、通常Dlx2遺伝子の転写開始点が高レベルのH3K4me3を有することで転写が活性化されている。一方Mll1欠損NPCでは、Dlx2遺伝子のクロマチンでこのH3K4me3が維持され、また転写抑制に関与するH3K27me3により二重にマークされることで、Dlx2の発現が抑制されている<ref name=Lim2009><pubmed>19212323</pubmed></ref>。  
 成体での脳室下帯(SVZ)のニューロン新生においてはMll1が必須であり、Mll1欠損のNSCではニューロンへの分化がほとんど起こらず、グリア系列に分化したという報告がある<ref name=Potts2014><pubmed>24887289</pubmed></ref><ref name=Lim2009><pubmed>19212323</pubmed></ref>。SVZに存在するNPCでは、通常Dlx2遺伝子の転写開始点が高レベルのH3K4me3を有することで転写が活性化されている。一方Mll1欠損NPCでは、Dlx2遺伝子のクロマチンでこのH3K4me3が維持され、また転写抑制に関与するH3K27me3により二重にマークされることで、Dlx2の発現が抑制されている<ref name=Lim2009><pubmed>19212323</pubmed></ref>。
 
===タンパク質アルギニンメチル基転移酵素===
===タンパク質アルギニンメチル基転移酵素===
 近年の研究により、ヒストンリジンメチル基転移酵素に加え、タンパク質アルギニンメチル基転移酵素も中枢神経系の発生や維持に関与していることが報告されており、Prmt6は、発達中のマウス大脳皮質におけるNPCの分化・増殖に必須であることが明らかになった<ref name=Bouchard2018><pubmed>30232013</pubmed></ref>。
 近年の研究により、ヒストンリジンメチル基転移酵素に加え、タンパク質アルギニンメチル基転移酵素も中枢神経系の発生や維持に関与していることが報告されており、Prmt6は、発達中のマウス大脳皮質におけるNPCの分化・増殖に必須であることが明らかになった<ref name=Bouchard2018><pubmed>30232013</pubmed></ref>。