「ヒストンメチル基転移酵素」の版間の差分

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英語名:Histone methyl transferase (HMT)
英語名:Histone methyl transferase (HMT)


{{box|text= ヒストンのメチル化は、ヒストンメチル基転移酵素(HMT)によって触媒されるが、ヒストンの特定の残基にメチル基が付加されることで、遺伝子発現、細胞周期、ゲノムの安定性、核構造の調節など、細胞の重要な機能が制御される。HMTはヒストンリジンメチル基転移酵素(KMT)とタンパク質アルギニンメチル基転移酵素(PRMT)の2つに分類され、ヒストンリジンメチル基転移酵素はさらにSETドメイン型と非SETドメイン型に分類される。神経系では、HMTはニューロンの発生、成熟、機能、維持に関与していることがわかっており、その異常な活性化または不活性化は、神経疾患に繋がる。}}
{{box|text= ヒストンのメチル化は、ヒストンメチル基転移酵素(HMT)によって触媒されるが、ヒストンの特定の残基にメチル基が付加されることで、遺伝子発現、細胞周期、ゲノムの安定性、核構造の調節など、細胞の重要な機能が制御される。ヒストンメチル基転移酵素はヒストンリジンメチル基転移酵素(KMT)とタンパク質アルギニンメチル基転移酵素(PRMT)の2つに分類され、ヒストンリジンメチル基転移酵素はさらにSETドメイン型と非SETドメイン型に分類される。神経系では、ヒストンメチル基転移酵素はニューロンの発生、成熟、機能、維持に関与していることがわかっており、その異常な活性化または不活性化は、神経疾患に繋がる。}}


== 歴史・背景 ==
== 歴史・背景 ==
 1964年にmRNAへの転写はヒストンタンパク質のリジンのε-アミノ基のメチル化によって調節されることが見出された<ref name=Allfrey1964><pubmed>17836360</pubmed></ref>。しかし、Thomas Jenuwein らにより、最初のヒストン ヒストンリジンメチル基転移酵素 であるヒトおよびマウス SUV39H1 (suppressor of variegation 3-9 homolog1、KMT1Aとしても知られる) が同定、報告されたのは 2000 年になってからのことであった。この酵素は、酵母からヒトまで進化的に保存されている<ref name=Rea2000><pubmed>10949293</pubmed></ref>。SUV39H1の発見後、ショウジョウバエの3つのタンパク質、Su(var)3-9、Enhancer of Zeste、Trithoraxが共通して持つSETドメインとのホモロジー検索により、多くのヒストンリジンメチル基転移酵素が同定された<ref name=Dillon2005><pubmed>16086857</pubmed></ref><ref name=Jenuwein2006><pubmed>16857008</pubmed></ref>。ヒストンリジンメチル基転移酵素は2つのクラスから構成されているが、その1つであるSET ドメインを含むクラスが、ヒストンリジンメチル基転移酵素の大部分を占めている。ヒストンリジンメチル基転移酵素 のもう1つのクラスは、SET ドメインを持たないDOT1L(Dot1 like protein、KMT4としても知られる)の1種類だけである<ref name=Okada2005><pubmed>15851025</pubmed></ref><ref name=vanLeeuwen2002><pubmed>12086673</pubmed></ref>。タンパク質アルギニンメチル基転移酵素に関しては、ヒストンタンパク質のアルギニン残基のメチル化が発見された1967年以降から現在までに哺乳類で 9 つが同定されている。これらHMTは各クラスの触媒ドメインは異なるものの、いずれもメチル基供与体として S-アデノシル-L-メチオニン (SAM/Adomet) を使用する<ref name=Dillon2005><pubmed>16086857</pubmed></ref><ref name=Nguyen2011><pubmed>21724828</pubmed></ref>。
 1964年にmRNAへの転写はヒストンタンパク質のリジンのε-アミノ基のメチル化によって調節されることが見出された<ref name=Allfrey1964><pubmed>17836360</pubmed></ref>。しかし、Thomas Jenuwein らにより、最初のヒストンリジンメチル基転移酵素 であるヒトおよびマウス SUV39H1 (suppressor of variegation 3-9 homolog1、KMT1Aとしても知られる) が同定、報告されたのは 2000 年になってからのことであった。この酵素は、酵母からヒトまで進化的に保存されている<ref name=Rea2000><pubmed>10949293</pubmed></ref>。SUV39H1の発見後、ショウジョウバエの3つのタンパク質、Su(var)3-9、Enhancer of Zeste、Trithoraxが共通して持つSETドメインとのホモロジー検索により、多くのヒストンリジンメチル基転移酵素が同定された<ref name=Dillon2005><pubmed>16086857</pubmed></ref><ref name=Jenuwein2006><pubmed>16857008</pubmed></ref>。ヒストンリジンメチル基転移酵素は2つのクラスから構成されているが、その1つであるSET ドメインを含むクラスが、ヒストンリジンメチル基転移酵素の大部分を占めている。ヒストンリジンメチル基転移酵素 のもう1つのクラスは、SET ドメインを持たないDOT1L(Dot1 like protein、KMT4としても知られる)の1種類だけである<ref name=Okada2005><pubmed>15851025</pubmed></ref><ref name=vanLeeuwen2002><pubmed>12086673</pubmed></ref>。タンパク質アルギニンメチル基転移酵素に関しては、ヒストンタンパク質のアルギニン残基のメチル化が発見された1967年以降から現在までに哺乳類で 9 つが同定されている。これらヒストンメチル基転移酵素は各クラスの触媒ドメインは異なるものの、いずれもメチル基供与体として S-アデノシル-L-メチオニン (SAM/Adomet) を使用する<ref name=Dillon2005><pubmed>16086857</pubmed></ref><ref name=Nguyen2011><pubmed>21724828</pubmed></ref>。


== 構造 ==
== 構造 ==
ヒストンリジンメチル基転移酵素の大部分が持つSETドメインは、一次配列のN末端とC末端によって形成される2つの領域からなり、それぞれSET-NとSET-Cという。それぞれの領域には、3〜4本の短いβ-ストランド、短いヘリックス、およびこれらの二次構造をつなぐいくつかのループが含まれている<ref name=Marmorstein2003><pubmed>12575990</pubmed></ref>。またSETに隣接する領域は、SETドメイン構造の安定化とともにメチル化酵素の活性に必要である<ref name=Marmorstein2003><pubmed>12575990</pubmed></ref>。
 ヒストンリジンメチル基転移酵素の大部分が持つSETドメインは、一次配列のN末端とC末端によって形成される2つの領域からなり、それぞれSET-NとSET-Cという。それぞれの領域には、3〜4本の短いβ-ストランド、短いヘリックス、およびこれらの二次構造をつなぐいくつかのループが含まれている<ref name=Marmorstein2003><pubmed>12575990</pubmed></ref>。またSETに隣接する領域は、SETドメイン構造の安定化とともにメチル化酵素の活性に必要である<ref name=Marmorstein2003><pubmed>12575990</pubmed></ref>。


 非SETドメイン型ヒストンリジンメチル基転移酵素であるDOT1Lは、SETドメインの代わりに7βS(seven-beta-strand)ドメインを持ち、このドメインがヌクレオソーム表面に露出しているヒストン H3 の79番目のリジン残基(H3K79)に対するメチル基供与活性を持つ<ref name=Husmann2019><pubmed>31582846</pubmed></ref><ref name=Kim2014><pubmed>24526115</pubmed></ref><ref name=Park2022><pubmed>35794091</pubmed></ref>。
 非SETドメイン型ヒストンリジンメチル基転移酵素であるDOT1Lは、SETドメインの代わりに7βS(seven-beta-strand)ドメインを持ち、このドメインがヌクレオソーム表面に露出しているヒストン H3 の79番目のリジン残基(H3K79)に対するメチル基供与活性を持つ<ref name=Husmann2019><pubmed>31582846</pubmed></ref><ref name=Kim2014><pubmed>24526115</pubmed></ref><ref name=Park2022><pubmed>35794091</pubmed></ref>。
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== 分類 ==
== 分類 ==
 ドメイン構造、標的分子となるヒストン残基とメチル化の数で分類される('''表1''')。ヒストンH3のリジン残基ではK4(4番目のリジン残基)、K9、K27、K36、K79が、アルギニン残基ではR2(2番目のアルギニン残基)、R8、R17、R26がメチル化され、ヒストンH4ではK20、R3がメチル化される。
 ドメイン構造、標的分子となるヒストン残基とメチル化の数で分類される('''表1''')
 
 ヒストンH3のリジン残基ではK4(4番目のリジン残基)、K9、K27、K36、K79が、アルギニン残基ではR2(2番目のアルギニン残基)、R8、R17、R26がメチル化され、ヒストンH4ではK20、R3がメチル化される。


 リジン残基にはヒストンリジンメチル基転移酵素により1~3個のメチル基が、アルギニン残基ではタンパク質アルギニンメチル基転移酵素により1あるいは2個のメチル基が付加される。それぞれメチル化される残基の位置によって転写の活性化に関与するものと抑制に関与するものが存在しており、一般的にはH3K4、K36、K79、R17は転写活性化、H3K9、K27、H4K20は転写抑制に関与すると考えられている<ref name=DiNisio2021><pubmed>33859667</pubmed></ref><ref name=Park2022><pubmed>35794091</pubmed></ref><ref name=Bauer2002><pubmed>11751582</pubmed></ref>。
 リジン残基にはヒストンリジンメチル基転移酵素により1~3個のメチル基が、アルギニン残基ではタンパク質アルギニンメチル基転移酵素により1あるいは2個のメチル基が付加される。それぞれメチル化される残基の位置によって転写の活性化に関与するものと抑制に関与するものが存在しており、一般的にはH3K4、K36、K79、R17は転写活性化、H3K9、K27、H4K20は転写抑制に関与すると考えられている<ref name=DiNisio2021><pubmed>33859667</pubmed></ref><ref name=Park2022><pubmed>35794091</pubmed></ref><ref name=Bauer2002><pubmed>11751582</pubmed></ref>。


 また、タンパク質アルギニンメチル基転移酵素はメチル化機構の様式によりタイプⅠ、タイプⅡ、タイプⅢに分類される。(詳細は分子機能の項目に後述)
 また、タンパク質アルギニンメチル基転移酵素はメチル化機構の様式によりタイプI、タイプII、タイプIIIに分類される。(詳細は分子機能の項目に後述)


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==組織・細胞分布 ==
==組織・細胞分布 ==
 多くのHMTは様々な組織で発現しているが、いくつかのKMTは組織特異的な発現、細胞特異的な発現を示す。組織特異的な発現のある主なHMTを表2、組織特異的な発現は示さないが、細胞特異的な発現を示すHMTを表3に示した。他は多くの組織、細胞で発現する。詳細はThe Human Protein Atlasを参考。
 多くのヒストンメチル基転移酵素は様々な組織で発現しているが、いくつかのヒストンリジンメチル基転移酵素は組織特異的な発現、細胞特異的な発現を示す。組織特異的な発現のある主なヒストンメチル基転移酵素を表2、組織特異的な発現は示さないが、細胞特異的な発現を示すヒストンメチル基転移酵素を表3に示した。他は多くの組織、細胞で発現する。詳細はThe Human Protein Atlasを参考。
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|+表2. 組織特異的な発現を示すヒストンメチル基転移酵素
|+表2. 組織特異的な発現を示すヒストンメチル基転移酵素
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 ヒストンリジンメチル基転移酵素はリジンのメチル化を触媒するが、モノ・ジ・トリメチル化のどの状態まで触媒するかは表1に示したようにそれぞれの特異性によって分かれている。ヒストンリジンメチル基転移酵素のメチル化機構については図1上段に示した。
 ヒストンリジンメチル基転移酵素はリジンのメチル化を触媒するが、モノ・ジ・トリメチル化のどの状態まで触媒するかは表1に示したようにそれぞれの特異性によって分かれている。ヒストンリジンメチル基転移酵素のメチル化機構については図1上段に示した。


 タンパク質アルギニンメチル基転移酵素はメチル化の様式によってタイプⅠ(PRMT1~4, 6, 8; PRMT4はCARM1とも呼ばれる)、タイプⅡ(PRMT5, 9)、タイプⅢ(PRMT7)に分類される。タイプIとIIの タンパク質アルギニンメチル基転移酵素のみが、モノメチル化されたアルギニンをさらに二次メチル化する触媒作用を持ち、タイプIII タンパク質アルギニンメチル基転移酵素はモノメチル化活性のみが知られている<ref name=Hashimoto2021><pubmed>33127433</pubmed></ref>。タイプIとIIの違いは、タイプIのタンパク質アルギニンメチル基転移酵素は非対称型ジメチルアルギニン(ADMA)を形成し、タイプIIのタンパク質アルギニンメチル基転移酵素は対称型ジメチルアルギニン(SDMA)を形成する点である。タイプI タンパク質アルギニンメチル基転移酵素のうち,PRMT1は哺乳類において85%のADMAの生合成を担っている<ref name=Tang2000><pubmed>10713084</pubmed></ref>。タンパク質アルギニンメチル基転移酵素のメチル化機構は図1下段に示した。
 タンパク質アルギニンメチル基転移酵素はメチル化の様式によってタイプI(PRMT1~4, 6, 8; PRMT4はCARM1とも呼ばれる)、タイプII(PRMT5, 9)、タイプIII(PRMT7)に分類される。タイプIとIIの タンパク質アルギニンメチル基転移酵素のみが、モノメチル化されたアルギニンをさらに二次メチル化する触媒作用を持ち、タイプIII タンパク質アルギニンメチル基転移酵素はモノメチル化活性のみが知られている<ref name=Hashimoto2021><pubmed>33127433</pubmed></ref>。タイプIとIIの違いは、タイプIのタンパク質アルギニンメチル基転移酵素は非対称型ジメチルアルギニン(ADMA)を形成し、タイプIIのタンパク質アルギニンメチル基転移酵素は対称型ジメチルアルギニン(SDMA)を形成する点である。タイプI タンパク質アルギニンメチル基転移酵素のうち,PRMT1は哺乳類において85%のADMAの生合成を担っている<ref name=Tang2000><pubmed>10713084</pubmed></ref>。タンパク質アルギニンメチル基転移酵素のメチル化機構は図1下段に示した。


図1. ヒストンメチル基転移酵素のメチル化機構
図1. ヒストンメチル基転移酵素のメチル化機構
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== 神経細胞での機能 ==
== 神経細胞での機能 ==
===ヒストンリジンメチル基転移酵素 ===
===ヒストンリジンメチル基転移酵素 ===
 神経幹細胞(NSC)は自己複製能とニューロン、アストロサイト及びオリゴデンドロサイトへの多分化能を持っており、脳の発達と恒常性にとって重要な役割を果たしているが、NSCの増殖・複製と分化には多くのヒストンリジンメチル基転移酵素が関与している。NSCの増殖にはSetd8の関与が示唆されており、Setd8に変異を加えることで機能が失われると、脳内のH4K20モノメチル化が失われるとともに止状態にあるNSCの再活性化が遅れることが報告されている<ref name=Wickramasekara2019><pubmed>30832413</pubmed></ref>。また、Setd8はサイクリン依存性キナーゼ1(Cdk1)やWntシグナル経路の転写コアクチベーターであるearthbound1/jerky(Ebd1)のプロモーター領域に結合し、脳内でのCdk1およびEbd1の発現に必要であることも報告されている <ref name=Huang2021><pubmed>33565211</pubmed></ref>。Setd8と同様に、Cdk1とEbd1はNSCの再活性化を促進することがわかっており、Cdk1とEbd1の過剰発現によってSetd8変異脳で観察されたNSC再活性化の障害を改善できることが示されている。これらの結果からSetd8は、Wntシグナル伝達と細胞周期の進行を調節することにより、NSCの再活性化を促進すると考えられる<ref name=Huang2021><pubmed>33565211</pubmed></ref>。
 神経幹細胞は自己複製能とニューロン、アストロサイト及びオリゴデンドロサイトへの多分化能を持っており、脳の発達と恒常性にとって重要な役割を果たしているが、神経幹細胞の増殖・複製と分化には多くのヒストンリジンメチル基転移酵素が関与している。神経幹細胞の増殖にはSetd8の関与が示唆されており、Setd8に変異を加えることで機能が失われると、脳内のH4K20モノメチル化が失われるとともに止状態にある神経幹細胞の再活性化が遅れることが報告されている<ref name=Wickramasekara2019><pubmed>30832413</pubmed></ref>。また、Setd8はサイクリン依存性キナーゼ1(Cdk1)やWntシグナル経路の転写コアクチベーターであるearthbound1/jerky(Ebd1)のプロモーター領域に結合し、脳内でのCdk1およびEbd1の発現に必要であることも報告されている <ref name=Huang2021><pubmed>33565211</pubmed></ref>。Setd8と同様に、Cdk1とEbd1は神経幹細胞の再活性化を促進することがわかっており、Cdk1とEbd1の過剰発現によってSetd8変異脳で観察された神経幹細胞再活性化の障害を改善できることが示されている。これらの結果からSetd8は、Wntシグナル伝達と細胞周期の進行を調節することにより、神経幹細胞の再活性化を促進すると考えられる<ref name=Huang2021><pubmed>33565211</pubmed></ref>。


 神経前駆細胞(NPC)からニューロンへの分化においてはSetdb1が重要な役割を果たしている。Setdb1は脳の発生初期のNPCにおいて高発現しており、ニューロン分化に必要な遺伝子の発現を抑制しているが、発生進行に伴いSetdb1の発現は低下するため、ニューロンへの分化が可能になる。しかし、発生初期からSetdb1が欠失すると、メカニズムは不明であるが、ニューロンへの分化と成熟に必要な遺伝子の発現が阻害され、ニューロン生成は妨げられる<ref name=Tan2012><pubmed>22991445</pubmed></ref>。一方で、分化後のニューロンにおいてSetdb1を過剰発現させると、空間認知障害やうつ様行動が誘発されるなど、Setdb1はニューロンのそれぞれの分化過程において異なる作用を持っている<ref name=Bharadwaj2014><pubmed>25467983</pubmed></ref><ref name=Jiang2010><pubmed>20505083</pubmed></ref>。
 神経前駆細胞からニューロンへの分化においてはSetdb1が重要な役割を果たしている。Setdb1は脳の発生初期の神経前駆細胞において高発現しており、ニューロン分化に必要な遺伝子の発現を抑制しているが、発生進行に伴いSetdb1の発現は低下するため、ニューロンへの分化が可能になる。しかし、発生初期からSetdb1が欠失すると、メカニズムは不明であるが、ニューロンへの分化と成熟に必要な遺伝子の発現が阻害され、ニューロン生成は妨げられる<ref name=Tan2012><pubmed>22991445</pubmed></ref>。一方で、分化後のニューロンにおいてSetdb1を過剰発現させると、空間認知障害やうつ様行動が誘発されるなど、Setdb1はニューロンのそれぞれの分化過程において異なる作用を持っている<ref name=Bharadwaj2014><pubmed>25467983</pubmed></ref><ref name=Jiang2010><pubmed>20505083</pubmed></ref>。


 G9aやG9a-like protein (GLP)も神経系において重要な役割を果たしている。前脳ニューロン特異的なG9aまたはGlpの欠損(KO)マウスにおいて、生後間もない状態では、明らかなニューロンの早期発達や構造上の欠陥は見られないが、生後6~8週齢のマウスでは、成熟ニューロン特異的な遺伝子発現パターンの変化や学習・記憶や意欲・報酬系の障害が見られる<ref name=Schaefer2009><pubmed>20005824</pubmed></ref>。さらにコカインの反復曝露によって、G9aの発現レベルが側坐核 (NAc) ニューロンで特異的に低下し、H3K9me2のレベルが有意に低下する<ref name=Maze2010><pubmed>20056891</pubmed></ref>。G9aの発現レベル低下を補完すると、コカインによるニューロンの形態変化、薬物依存行動としての常同行動の増加やストレスへの強い反応などに代表される行動変化は抑制される。また、NAcニューロンにおいてG9aを特異的に不活性化すると、コカインに曝露せずともニューロン形態変化が変化し、コカインに対する嗜好性も増強される。以上よりG9aの発現抑制の解除はコカインへの渇望を抑制するための効果的治療法となりうると考えられる<ref name=Shinkai2011><pubmed>21498567</pubmed></ref>。
 G9aやG9a-like protein (GLP)も神経系において重要な役割を果たしている。前脳ニューロン特異的なG9aまたはGlpの欠損(ノックアウト)マウスにおいて、生後間もない状態では、明らかなニューロンの早期発達や構造上の欠陥は見られないが、生後6~8週齢のマウスでは、成熟ニューロン特異的な遺伝子発現パターンの変化や学習・記憶や意欲・報酬系の障害が見られる<ref name=Schaefer2009><pubmed>20005824</pubmed></ref>。さらにコカインの反復曝露によって、G9aの発現レベルが側坐核 (NAc) ニューロンで特異的に低下し、H3K9me2のレベルが有意に低下する<ref name=Maze2010><pubmed>20056891</pubmed></ref>。G9aの発現レベル低下を補完すると、コカインによるニューロンの形態変化、薬物依存行動としての常同行動の増加やストレスへの強い反応などに代表される行動変化は抑制される。また、NAcニューロンにおいてG9aを特異的に不活性化すると、コカインに曝露せずともニューロン形態変化が変化し、コカインに対する嗜好性も増強される。以上よりG9aの発現抑制の解除はコカインへの渇望を抑制するための効果的治療法となりうると考えられる<ref name=Shinkai2011><pubmed>21498567</pubmed></ref>。


 Ezh2とSuv4-20hは、GFAP陽性の放射状グリア様細胞においてニューロンへの分化を共同で調節しており、両遺伝子の欠失は海馬の発達に劇的な欠陥を引き起こす(単一KOでは観察されない)<ref name=Chang2022><pubmed>34890048</pubmed></ref>。また成体海馬においては、Ezh2とSuv4-20hがNPCで異なる役割を果たすことが報告されており<ref name=Rhodes2023><pubmed>36018148</pubmed></ref> 、Ezh2は早期分化を抑制することによりNPC集団の維持に大きな役割を果たし、一方でSuv4-20hはNPCの細胞周期のS期進行を仲介することでNPCの増殖に影響を与えると考えられている<ref name=Rhodes2018><pubmed>29433384</pubmed></ref><ref name=Rhodes2017>'''Rhodes, C. (2017).'''<br>Epigenetic Repression in the Context of Adult Neurogenesis. 2017, The University of Texas at San Antonio.</ref>。
 Ezh2とSuv4-20hは、GFAP陽性の放射状グリア様細胞においてニューロンへの分化を共同で調節しており、両遺伝子の欠失は海馬の発達に劇的な欠陥を引き起こす(単一ノックアウトでは観察されない)<ref name=Chang2022><pubmed>34890048</pubmed></ref>。また成体海馬においては、Ezh2とSuv4-20hが神経前駆細胞で異なる役割を果たすことが報告されており<ref name=Rhodes2023><pubmed>36018148</pubmed></ref> 、Ezh2は早期分化を抑制することにより神経前駆細胞集団の維持に大きな役割を果たし、一方でSuv4-20hは神経前駆細胞の細胞周期のS期進行を仲介することで神経前駆細胞の増殖に影響を与えると考えられている<ref name=Rhodes2018><pubmed>29433384</pubmed></ref><ref name=Rhodes2017>'''Rhodes, C. (2017).'''<br>Epigenetic Repression in the Context of Adult Neurogenesis. 2017, The University of Texas at San Antonio.</ref>。


 Suv39h1/2によるH3K9メチル化は、成体海馬のNPCからニューロンへの分化を制御していることがわかっている。成体海馬のNPCにおけるSuv39h1/2の薬理学的阻害は、ニューロン分化を阻害する一方で増殖を亢進させた<ref name=Guerra2021><pubmed>35096813</pubmed></ref>。さらに、歯状回でSuv39h1/2をノックダウンするとニューロン新生が阻害されたことから、Suv39h1/2を介したH3K9me3が成体海馬のニューロン新生に重要な役割を果たしていると考えられる<ref name=Guerra2021><pubmed>35096813</pubmed></ref>。
 Suv39h1/2によるH3K9メチル化は、成体海馬の神経前駆細胞からニューロンへの分化を制御していることがわかっている。成体海馬の神経前駆細胞におけるSuv39h1/2の薬理学的阻害は、ニューロン分化を阻害する一方で増殖を亢進させた<ref name=Guerra2021><pubmed>35096813</pubmed></ref>。さらに、歯状回でSuv39h1/2をノックダウンするとニューロン新生が阻害されたことから、Suv39h1/2を介したH3K9me3が成体海馬のニューロン新生に重要な役割を果たしていると考えられる<ref name=Guerra2021><pubmed>35096813</pubmed></ref>。


 成体での脳室下帯(SVZ)のニューロン新生においてはMll1が必須であり、Mll1欠損のNSCではニューロンへの分化がほとんど起こらず、グリア系列に分化したという報告がある<ref name=Potts2014><pubmed>24887289</pubmed></ref><ref name=Lim2009><pubmed>19212323</pubmed></ref>。SVZに存在するNPCでは、通常Dlx2遺伝子の転写開始点が高レベルのH3K4me3を有することで転写が活性化されている。一方Mll1欠損NPCでは、Dlx2遺伝子のクロマチンでこのH3K4me3が維持され、また転写抑制に関与するH3K27me3により二重にマークされることで、Dlx2の発現が抑制されている<ref name=Lim2009><pubmed>19212323</pubmed></ref>。
 成体での脳室下帯のニューロン新生においてはMll1が必須であり、Mll1欠損の神経幹細胞ではニューロンへの分化がほとんど起こらず、グリア系列に分化したという報告がある<ref name=Potts2014><pubmed>24887289</pubmed></ref><ref name=Lim2009><pubmed>19212323</pubmed></ref>。脳室下帯に存在する神経前駆細胞では、通常Dlx2遺伝子の転写開始点が高レベルのH3K4me3を有することで転写が活性化されている。一方Mll1欠損神経前駆細胞では、Dlx2遺伝子のクロマチンでこのH3K4me3が維持され、また転写抑制に関与するH3K27me3により二重にマークされることで、Dlx2の発現が抑制されている<ref name=Lim2009><pubmed>19212323</pubmed></ref>。


===タンパク質アルギニンメチル基転移酵素===
===タンパク質アルギニンメチル基転移酵素===
 近年の研究により、ヒストンリジンメチル基転移酵素に加え、タンパク質アルギニンメチル基転移酵素も中枢神経系の発生や維持に関与していることが報告されており、Prmt6は、発達中のマウス大脳皮質におけるNPCの分化・増殖に必須であることが明らかになった<ref name=Bouchard2018><pubmed>30232013</pubmed></ref>。
 近年の研究により、ヒストンリジンメチル基転移酵素に加え、タンパク質アルギニンメチル基転移酵素も中枢神経系の発生や維持に関与していることが報告されており、Prmt6は、発達中のマウス大脳皮質における神経前駆細胞の分化・増殖に必須であることが明らかになった<ref name=Bouchard2018><pubmed>30232013</pubmed></ref>。


 Prmt1はマウス胚の神経幹/前駆細胞(NS/PC)で高発現しており、NS/PCでのPrmt1のノックダウンはアストロサイトへの分化を抑制するという報告がある<ref name=Honda2017><pubmed>28695568</pubmed></ref>。NS/PCのアストロサイト分化には転写因子であるsignal transducer and activator of transcription 3 (STAT3)が重要であることが知られているが<ref name=Nakashima1999><pubmed>10205054</pubmed></ref> 、Prmt1はSTAT3のアルギニン残基をメチル化してSTAT3の転写活性化能を増強することにより、NS/PCのアストロサイト分化を促進する<ref name=Honda2017><pubmed>28695568</pubmed></ref>。またPrmt1の中枢神経系特異的欠損マウスでは、野生型マウスと同様に出生するものの生後2週間ほどで死亡し、脳では成熟オリゴデンドロサイトやその前駆細胞(OPC)の減少が認められた<ref name=Hashimoto2016><pubmed>26637354</pubmed></ref>。
 Prmt1はマウス胚の神経幹/前駆細胞(NS/PC)で高発現しており、NS/PCでのPrmt1のノックダウンはアストロサイトへの分化を抑制するという報告がある<ref name=Honda2017><pubmed>28695568</pubmed></ref>。NS/PCのアストロサイト分化には転写因子であるsignal transducer and activator of transcription 3 (STAT3)が重要であることが知られているが<ref name=Nakashima1999><pubmed>10205054</pubmed></ref> 、Prmt1はSTAT3のアルギニン残基をメチル化してSTAT3の転写活性化能を増強することにより、NS/PCのアストロサイト分化を促進する<ref name=Honda2017><pubmed>28695568</pubmed></ref>。またPrmt1の中枢神経系特異的欠損マウスでは、野生型マウスと同様に出生するものの生後2週間ほどで死亡し、脳では成熟オリゴデンドロサイトやその前駆細胞(OPC)の減少が認められた<ref name=Hashimoto2016><pubmed>26637354</pubmed></ref>。


 Prmt5は大脳皮質のNSC発生時にSchwann cell factor 1(SC1)によって標的遺伝子にリクルートされることで、NSCの増殖能と多分化能を維持することが報告されている<ref name=Chittka2012><pubmed>23048031</pubmed></ref>。
 Prmt5は大脳皮質の神経幹細胞発生時にSchwann cell factor 1(SC1)によって標的遺伝子にリクルートされることで、神経幹細胞の増殖能と多分化能を維持することが報告されている<ref name=Chittka2012><pubmed>23048031</pubmed></ref>。


== 疾患との関わり ==
== 疾患との関わり ==
===脳神経系疾患===
===脳神経系疾患===
====ヒストンリジンメチル基転移酵素====
====ヒストンリジンメチル基転移酵素====
 Setdb1は、脳腫瘍において一般的に過剰発現され、主にヒストンH3K9me3を誘導し、腫瘍抑制遺伝子の発現を抑制する<ref name=Sepsa2015><pubmed>25602259</pubmed></ref>。また、統合失調症やうつ病などの気分関連障害、認知障害では、Setdb1の発現が上昇し、Grin2Bの発現を抑制する<ref name=Bharadwaj2014><pubmed>25467983</pubmed></ref><ref name=Avramopoulos2007><pubmed>18007143</pubmed></ref>。これらの疾患では、陰性症状優位の表現型や疾患予後の悪化と関連している。さらに、HD(ハンチントン病) ではSetdb1の発現が上昇し、HDの病因に関与する重要な遺伝子の発現低下と関連するとの報告がある<ref name=Ryu2006><pubmed>17142323</pubmed></ref>。
 Setdb1は、脳腫瘍において一般的に過剰発現され、主にヒストンH3K9me3を誘導し、腫瘍抑制遺伝子の発現を抑制する<ref name=Sepsa2015><pubmed>25602259</pubmed></ref>。また、統合失調症やうつ病などの気分関連障害、認知障害では、Setdb1の発現が上昇し、Grin2Bの発現を抑制する<ref name=Bharadwaj2014><pubmed>25467983</pubmed></ref><ref name=Avramopoulos2007><pubmed>18007143</pubmed></ref>。これらの疾患では、陰性症状優位の表現型や疾患予後の悪化と関連している。さらに、ハンチントン病ではSetdb1の発現が上昇し、ハンチントン病の病因に関与する重要な遺伝子の発現低下と関連するとの報告がある<ref name=Ryu2006><pubmed>17142323</pubmed></ref>。


 一方、Setdb1遺伝子が欠損すると、シナプス形成に重要なIL1RAPL1 (Interleukin-1 receptor accessory protein-like 1)遺伝子のエンハンサーが活性化され、その発現が亢進する<ref name=Sun2018><pubmed>30103804</pubmed></ref><ref name=Markouli2021><pubmed>33279625</pubmed></ref>。この遺伝子の発現亢進がASDを含む精神・神経疾患の原因である可能性が示されている。  
 一方、Setdb1遺伝子が欠損すると、シナプス形成に重要なIL1RAPL1 (Interleukin-1 receptor accessory protein-like 1)遺伝子のエンハンサーが活性化され、その発現が亢進する<ref name=Sun2018><pubmed>30103804</pubmed></ref><ref name=Markouli2021><pubmed>33279625</pubmed></ref>。この遺伝子の発現亢進がASDを含む精神・神経疾患の原因である可能性が示されている。  


 また、レット症候群(RTT)の原因遺伝子Mecp2との関与も報告されており、RTTのモデル動物であるMecp2 KOマウスの、ニューロンにおけるSetdb1を介したH3K9の過度なメチル化は、MeCP2の欠損のみによる表現型を、さらに悪化させることがわかっている<ref name=Jiang2011><pubmed>20869373</pubmed></ref>。
 また、レット症候群の原因遺伝子Mecp2との関与も報告されており、レット症候群のモデル動物であるMecp2 ノックアウトマウスの、ニューロンにおけるSetdb1を介したH3K9の過度なメチル化は、MeCP2の欠損のみによる表現型を、さらに悪化させることがわかっている<ref name=Jiang2011><pubmed>20869373</pubmed></ref>。


====タンパク質アルギニンメチル基転移酵素ファミリー====
====タンパク質アルギニンメチル基転移酵素ファミリー====
 Prmt1が神経系疾患に関与していることが報告されている。FUS(fused in sarcoma)遺伝子の変異はALS(筋委縮性側索硬化症)の原因の1つであり、FTD(前頭側頭型認知症)にも関与するが、Prmt1をKOするとこれらの疾患に関連するFUS変異体による細胞毒性が増強される<ref name=Vance2009><pubmed>19251628</pubmed></ref><ref name=Tradewell2012><pubmed>21965298</pubmed></ref><ref name=Yamaguchi2012><pubmed>23152885</pubmed></ref>。この結果から、Prmt1がFUSのメチル化を介して、細胞内での凝集体形成や細胞毒性の抑制に寄与することが示唆されている。
 Prmt1が神経系疾患に関与していることが報告されている。fused in sarcoma (FUS)遺伝子の変異は[[筋萎縮性側索硬化症]] (amyotrophic lateral screlosis, ALS)の原因の1つであり、前頭側頭型認知症 (frontotemporal dementia, FTD)にも関与するが、Prmt1をノックアウトするとこれらの疾患に関連するFUS変異体による細胞毒性が増強される<ref name=Vance2009><pubmed>19251628</pubmed></ref><ref name=Tradewell2012><pubmed>21965298</pubmed></ref><ref name=Yamaguchi2012><pubmed>23152885</pubmed></ref>。この結果から、Prmt1がFUSのメチル化を介して、細胞内での凝集体形成や細胞毒性の抑制に寄与することが示唆されている。


 さらにPrmt1 は、アポトーシス促進性のBCL-2 antagonist of cell death(BAD)タンパク質をメチル化することによりAktからのリン酸化を阻害し、その結果アポトーシスを亢進させることが示されている<ref name=Sakamaki2011><pubmed>21444773</pubmed></ref>。最近の報告によると、Btg1KO髄芽腫モデルマウスでは、Prmt1の発現が増加し、このPrmt1-BAD軸を介して腫瘍のアポトーシスを亢進することで、腫瘍の発生を抑制している。<ref name=Ceccarelli2020><pubmed>32231994</pubmed></ref>。一方で神経膠腫細胞株においてPrmt1をノックダウンすると、細胞周期が停止し、アポトーシスに至った<ref name=Wang2012><pubmed>22917032</pubmed></ref>。これらの結果は、Prmt1が様々な種類の腫瘍細胞において異なる機能を果たす可能性を示唆している。
 さらにPrmt1 は、アポトーシス促進性のBCL-2 antagonist of cell death(BAD)タンパク質をメチル化することによりAktからのリン酸化を阻害し、その結果アポトーシスを亢進させることが示されている<ref name=Sakamaki2011><pubmed>21444773</pubmed></ref>。最近の報告によると、Btg1ノックアウト髄芽腫モデルマウスでは、Prmt1の発現が増加し、このPrmt1-BAD軸を介して腫瘍のアポトーシスを亢進することで、腫瘍の発生を抑制している。<ref name=Ceccarelli2020><pubmed>32231994</pubmed></ref>。一方で神経膠腫細胞株においてPrmt1をノックダウンすると、細胞周期が停止し、アポトーシスに至った<ref name=Wang2012><pubmed>22917032</pubmed></ref>。これらの結果は、Prmt1が様々な種類の腫瘍細胞において異なる機能を果たす可能性を示唆している。
===腫瘍===
===腫瘍===
====ヒストンリジンメチル基転移酵素====
====ヒストンリジンメチル基転移酵素====
 ポリコーム抑制複合体(PRC)は、発生過程において体の前後軸や体節を決定するホメオボックス遺伝子の発現制御にかかわるものとして知られるが、その制御には特にPRC2複合体に含まれるEzh2の作用が重要である。Ezh2は、そのHMT活性を使用してH3K27me3を触媒し、E-cadherin、p16INK4α、p57、PSP94などの腫瘍抑制遺伝子を抑制しており<ref name=Cao2002><pubmed>12351676</pubmed></ref> 、Ezh2の過剰発現は子宮内膜がん、肺がん、黒色腫、乳がん、膀胱がんおよび結腸直腸がんにおけるがん細胞の増殖、移動、および浸潤を促進する<ref name=Eskander2013><pubmed>23792601</pubmed></ref><ref name=Serresi2018><pubmed>30487290</pubmed></ref><ref name=Yomtoubian2020><pubmed>31968251</pubmed></ref>。
 ポリコーム抑制複合体(PRC)は、発生過程において体の前後軸や体節を決定するホメオボックス遺伝子の発現制御にかかわるものとして知られるが、その制御には特にPRC2複合体に含まれるEzh2の作用が重要である。Ezh2は、そのヒストンメチル基転移酵素活性を使用してH3K27me3を触媒し、E-cadherin、p16INK4α、p57、PSP94などの腫瘍抑制遺伝子を抑制しており<ref name=Cao2002><pubmed>12351676</pubmed></ref> 、Ezh2の過剰発現は子宮内膜がん、肺がん、黒色腫、乳がん、膀胱がんおよび結腸直腸がんにおけるがん細胞の増殖、移動、および浸潤を促進する<ref name=Eskander2013><pubmed>23792601</pubmed></ref><ref name=Serresi2018><pubmed>30487290</pubmed></ref><ref name=Yomtoubian2020><pubmed>31968251</pubmed></ref>。


====タンパク質アルギニンメチル基転移酵素====
====タンパク質アルギニンメチル基転移酵素====