「ヒストンアセチル基転移酵素」の版間の差分

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== ヒストンアセチル基転移酵素とは ==
== ヒストンアセチル基転移酵素とは ==
[[Image:Nm-Kinichinakashima fig 2.png|thumb|350px|'''図2.ヒストンのアセチル化、脱アセチル化による転写活性状態の変化'''<br>
[[Image:Nm-Kinichinakashima fig 2.png|thumb|350px|'''図1. ヒストンのアセチル化、脱アセチル化による転写活性状態の変化'''<br>
ヒストンがHATによりアセチル化された状態ではヒストン-DNA間の結合が緩むことで、TFやPolⅡの結合が可能となり、転写は活性化される。逆にHDACにより、ヒストンが脱アセチル化されるとTF、PolⅡが結合出来ないため転写は抑制される。<br>GTF:general transcription factor:[[基本転写因子]]群、Ac:acetylation:アセチル化。<br>村尾 直哉作成。アセチル化の項目より。]]
ヒストンがヒストンアセチル基転移酵素 (HAT)によりアセチル化された状態では[[ヒストン]]-[[DNA]]間の結合が緩むことで、TFやPolⅡの結合が可能となり、転写は活性化される。逆に[[ヒストン脱アセチル化酵素]] (HDAC)により、ヒストンが脱アセチル化されるとTF、PolⅡが結合出来ないため転写は抑制される。<br>GTF:general transcription factor:[[基本転写因子]]群、Ac:acetylation:[[アセチル化]]。<br>村尾 直哉作成。[[アセチル化]]の項目より。]]
 [[ヒストン]]タンパク質は[[リジン]]や[[アルギニン]]残基を豊富に含む塩基性の高いタンパク質で、[[ゲノム]][[DNA]]が巻きつくことで[[ヌクレオソーム]]と呼ばれる構造単位を作り出している。ヒストンには、[[H1]]/[[H5]](リンカーヒストン)、[[H2]]、[[H3]]、および[[H4]](コアヒストン)の5つのファミリーがある。ヌクレオソームは、2つの[[H2A]]-[[H2B]]二量体と1つの[[H3]]-[[H4]]四量体から形成されている。ヒストンタンパク質に対する化学修飾の1つにリジン残基のアセチル化がある。ヒストンタンパク質のリジン残基の[[アセチル化]]は、リジンの正電荷を中性化し、ヒストンとDNAの間の静電引力を弱めることでDNAを部分的に解くことができ、これにより[[転写活性化因子]]がリクルートされるため、[[遺伝子]]発現の活性化と関連している。ヒストンタンパク質のリジン残基のアセチル化を担う酵素を総称してヒストンアセチル基転移酵素と呼んでいる。ヒストンアセチル基転移酵素の主な標的はヒストンH3とH4であるが、ヒストンH2AとH2Bもアセチル化されることが知られている<ref name=Sun2013><pubmed>22692567</pubmed></ref> 。
 [[ヒストン]]タンパク質は[[リジン]]や[[アルギニン]]残基を豊富に含む塩基性の高いタンパク質で、[[ゲノム]][[DNA]]が巻きつくことで[[ヌクレオソーム]]と呼ばれる構造単位を作り出している。ヒストンには、[[H1]]/[[H5]](リンカーヒストン)、[[H2]]、[[H3]]、および[[H4]](コアヒストン)の5つのファミリーがある。ヌクレオソームは、2つの[[H2A]]-[[H2B]]二量体と1つの[[H3]]-[[H4]]四量体から形成されている。ヒストンタンパク質に対する化学修飾の1つにリジン残基のアセチル化がある。ヒストンタンパク質のリジン残基の[[アセチル化]]は、リジンの正電荷を中性化し、ヒストンとDNAの間の静電引力を弱めることでDNAを部分的に解くことができ、これにより[[転写活性化因子]]がリクルートされるため、[[遺伝子]]発現の活性化と関連している('''図1''')。ヒストンタンパク質のリジン残基のアセチル化を担う酵素を総称してヒストンアセチル基転移酵素と呼んでいる。ヒストンアセチル基転移酵素の主な標的はヒストンH3とH4であるが、ヒストンH2AとH2Bもアセチル化されることが知られている<ref name=Sun2013><pubmed>22692567</pubmed></ref> 。


== 分類 ==
== 分類 ==
 ヒストンアセチル基転移酵素はその細胞内局在に基づいて核局在型のタイプAと細胞質局在型のタイプBの2つのクラスに大別されている<ref name=Sheikh2019><pubmed>30390049</pubmed></ref>。しかし、核・細胞質の両方で機能するなど、特定のクラスに分類できないヒストンアセチル基転移酵素もある。
 ヒストンアセチル基転移酵素はその細胞内局在に基づいて核局在型のタイプAと細胞質局在型のタイプBの2つのクラスに大別されている('''表1''')<ref name=Sheikh2019><pubmed>30390049</pubmed></ref>。しかし、核・細胞質の両方で機能するなど、特定のクラスに分類できないヒストンアセチル基転移酵素もある。


=== タイプA ===
=== タイプA ===
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==== CBP/p300 ====
==== CBP/p300 ====
 CBPとp300はCBP/p300ファミリーのパラログである。CBPとp300の主要なタンパク質相互作用ドメインは、核受容体相互作用ドメイン、[[CREBおよびMYB相互作用ドメイン]]、[[KIXドメイン]](Ser133-リン酸化型CREB)、システイン/ヒスチジン領域(CH1およびCH3)、[[インターフェロン応答結合ドメイン]]である<ref name=Livengood2002><pubmed>11782467</pubmed></ref> 。CBP/p300は、アセチルトランスフェラーゼドメイン、ブロモドメイン、プラントホメオドメインタイプのジンクフィンガーモチーフを持っている。CBP/p300はヒストン以外にも多くの基質を有している。
 CBPとp300はCBP/p300ファミリーのパラログである。CBPとp300の主要なタンパク質相互作用ドメインは、核受容体相互作用ドメイン、リン酸化型CREB結合ドメイン、システイン/ヒスチジン領域(CH1およびCH3)、[[インターフェロン応答結合ドメイン]]である<ref name=Livengood2002><pubmed>11782467</pubmed></ref> 。CBP/p300は、アセチルトランスフェラーゼドメイン、ブロモドメイン、プラントホメオドメインタイプのジンクフィンガーモチーフを持っている。CBP/p300はヒストン以外にも多くの基質を有している。


=== タイプB ===
=== タイプB ===
 細胞質に存在し、新しく合成されたヒストンをヌクレオソームに組み込む前にアセチル化する。タイプBのヒストンアセチル基転移酵素によってヒストンに付加されたアセチル基は、核に移行してヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)によって脱アセチル化される。[[Hat1]]は、タイプBのヒストンアセチル基転移酵素の数少ない例の1つである。
 細胞質に存在し、新しく合成されたヒストンをヌクレオソームに組み込む前にアセチル化する。タイプBのヒストンアセチル基転移酵素によってヒストンに付加されたアセチル基は、核に移行してヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)によって脱アセチル化される。[[Hat1]]は、タイプBのヒストンアセチル基転移酵素の数少ない例の1つであるが、構造的・機能的にはGNATファミリーに属するとも考えられている。


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|+表1. ヒストンアセチル基転移酵素の分類
|+表1. ヒトのヒストンアセチル基転移酵素の分類
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