「嗅覚受容体」の版間の差分

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 さらに2016年、嗅上皮のくぼみに存在する嗅神経細胞に発現する嗅覚受容体として、[[membrane-spanning 4A receptor]] ([[MS4A]])が発見されている<ref name=Greer2016><pubmed>27238024</pubmed></ref>。
 さらに2016年、嗅上皮のくぼみに存在する嗅神経細胞に発現する嗅覚受容体として、[[membrane-spanning 4A receptor]] ([[MS4A]])が発見されている<ref name=Greer2016><pubmed>27238024</pubmed></ref>。
[[ファイル:Touhara Olfactory Receptor Fig1.png|サムネイル|350px|'''図1. 脊椎動物の嗅覚受容体''']]
[[ファイル:Touhara Olfactory Receptor Fig1.png|サムネイル|350px|'''図1. 脊椎動物の嗅覚受容体'''<br>OR: 嗅覚受容体、TAAR: 微量アミン関連受容体、GC-D: グアニル酸シクラーゼD、MS4A: Membrane-spanning 4A receptor]]
=== 構造 ===
=== 構造 ===
 嗅覚受容体は[[Gタンパク質共役型受容体]]ファミリーのうち、[[ロドプシン]]ファミリーとよばれるサブファミリーに属し、ヘリックス構造から成る7回膜貫通構造を有する('''図1''')。全てのGタンパク質共役型受容体に共通な配列の他、3番目の膜貫通領域細胞質側のMAYDRYVAICモチーフをはじめ、嗅覚受容体を特徴づける複数の配列をもつ。
 嗅覚受容体は[[Gタンパク質共役型受容体]]ファミリーのうち、[[ロドプシン]]ファミリーとよばれるサブファミリーに属し、ヘリックス構造から成る7回膜貫通構造を有する('''図1''')。全てのGタンパク質共役型受容体に共通な配列の他、3番目の膜貫通領域細胞質側のMAYDRYVAICモチーフをはじめ、嗅覚受容体を特徴づける複数の配列をもつ。
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 嗅覚受容体は、匂い物質がもつ化学情報を電気信号に変換し、神経細胞の興奮をもたらし、脳に伝達する役目をもつ。
 嗅覚受容体は、匂い物質がもつ化学情報を電気信号に変換し、神経細胞の興奮をもたらし、脳に伝達する役目をもつ。


 リガンドである匂い分子が結合すると、受容体と共役している[[3量体Gタンパク質]]の[[αサブユニット]]、[[Gαolf|Gα<sub>olf</sub>]]が[[Gβ|β]]、[[Gγ|γ]]サブユットと解離し、[[GDP]]型から[[GTP]]型への変換を受け、活性化される。活性化Gα<sub>olf</sub>が[[アデニル酸シクラーゼ]]の活性化を引き起こし、細胞内cAMP濃度の上昇をもたらすと[[環状ヌクレオチド作動性チャネル]]([[cyclic nucleotide-gated channel]], [[CNG]])が開口し、Na<sup>+</sup>イオン、[[カルシウム|Ca<sup>2+</sup>イオン]]の流入による[[細胞膜]]の[[脱分極]]がおきる。細胞内Ca<sup>2+</sup>イオン濃度の上昇は、Ca<sup>2+</sup>作動性Cl<sup>-</sup>チャネル, transmembrane protein16B (TMEM16B, 別名 anoctamin 2, calcium-activated chloride channel, ANO2)の活性化をもたらし、[[塩化物イオン|Cl<sup>-</sup>イオン]]が細胞外へ流出することでより大きな脱分極が起きる。これにより、神経細胞の[[活動電位]]が生じる。シグナルを終結させる機構として、CNGのcAMPによるチャネルの開口がCa<sup>2+</sup>濃度依存的な[[フィードバック制御]]をうけること、細胞内濃度が上昇したCa<sup>2+</sup>は、Na+/Ca<sup>2+</sup>交換体である[[Na+/Ca2+-exchanger isoform 4|Na<sup>+</sup>/Ca<sup>2+</sup>-exchanger isoform 4]] (NCKX4)によって細胞外へ排出されることが明らかになっている。
 リガンドである匂い分子が結合すると、受容体と共役している[[3量体Gタンパク質]]の[[αサブユニット]]、[[Gαolf|Gα<sub>olf</sub>]]が[[Gβ|β]]、[[Gγ|γ]]サブユットと解離し、[[GDP]]型から[[GTP]]型への変換を受け、活性化される。活性化Gα<sub>olf</sub>が[[アデニル酸シクラーゼ]]の活性化を引き起こし、細胞内cAMP濃度の上昇をもたらすと[[環状ヌクレオチド作動性チャネル]]([[cyclic nucleotide-gated channel]], [[CNG]])が開口し、Na<sup>+</sup>イオン、[[カルシウム|Ca<sup>2+</sup>イオン]]の流入による[[細胞膜]]の[[脱分極]]がおきる。細胞内Ca<sup>2+</sup>イオン濃度の上昇は、[[カルシウム依存性塩素チャネル|Ca<sup>2+</sup>作動性Cl<sup>-</sup>チャネル]]である[[transmembrane protein16B]] ([[TMEM16B]], 別名 [[anoctamin 2]], [[calcium-activated chloride channel]], [[ANO2]])の活性化をもたらし、[[塩化物イオン|Cl<sup>-</sup>イオン]]が細胞外へ流出することでより大きな脱分極が起きる。これにより、神経細胞の[[活動電位]]が生じる。シグナルを終結させる機構として、環状ヌクレオチド作動性チャネルのcAMPによるチャネルの開口がCa<sup>2+</sup>濃度依存的な[[フィードバック制御]]をうけること、細胞内濃度が上昇したCa<sup>2+</sup>は、[[Na+/Ca2+交換体|Na<sup>+</sup>/Ca<sup>2+</sup>交換体]]である[[Na+/Ca2+-exchanger isoform 4|Na<sup>+</sup>/Ca<sup>2+</sup>-exchanger isoform 4]] ([[NCKX4]])によって細胞外へ排出されることが明らかになっている。


 嗅覚受容体とリガンドである匂い分子との対応関係は、一部の例外を除いては、「多対多」の関係にある。すなわち、一つの受容体は、複数の匂い分子に応答し、一つの匂い分子は複数の受容体応答を生み出すため、異なる匂いは、応答受容体の組み合わせパターンの違いによって識別される。この仕組みは“[[combinatorial coding]]”と呼ばれ<ref name=Malnic1999><pubmed>10089886</pubmed></ref>、受容体数をはるかに超える膨大な種類の匂いの嗅ぎ分けを可能にする。
 嗅覚受容体とリガンドである匂い分子との対応関係は、一部の例外を除いては、「多対多」の関係にある。すなわち、一つの受容体は、複数の匂い分子に応答し、一つの匂い分子は複数の受容体応答を生み出すため、異なる匂いは、応答受容体の組み合わせパターンの違いによって識別される。この仕組みは“[[combinatorial coding]]”と呼ばれ<ref name=Malnic1999><pubmed>10089886</pubmed></ref>、受容体数をはるかに超える膨大な種類の匂いの嗅ぎ分けを可能にする。
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 嗅覚受容体が多様な構造の匂い物質を広く認識するのに対し、微量アミン関連受容体は、揮発性アミン化合物をリガンドとして認識する。揮発性アミン化合物は、尿中や腐った食物に存在しており、げっ歯類では、微量アミン関連受容体は異性、天敵、食物の質の区別の検知に関わるとされている<ref name=Dewan2021><pubmed>33237477</pubmed></ref>。微量アミン関連受容体も嗅覚受容体と同様、Gα<sub>olf</sub>と共役し、cAMP産生を通じて嗅神経細胞の活動を起こすとされている<ref name=Liberles2015></ref>。
 嗅覚受容体が多様な構造の匂い物質を広く認識するのに対し、微量アミン関連受容体は、揮発性アミン化合物をリガンドとして認識する。揮発性アミン化合物は、尿中や腐った食物に存在しており、げっ歯類では、微量アミン関連受容体は異性、天敵、食物の質の区別の検知に関わるとされている<ref name=Dewan2021><pubmed>33237477</pubmed></ref>。微量アミン関連受容体も嗅覚受容体と同様、Gα<sub>olf</sub>と共役し、cAMP産生を通じて嗅神経細胞の活動を起こすとされている<ref name=Liberles2015></ref>。


 グアニル酸シクラーゼDは、糞尿中に存在するペプチドの他、呼気中に存在するCO<sub>2</sub>, CS<sub>2</sub>をリガンドとして認識する<ref name=Hu2007><pubmed>17702944</pubmed></ref><ref name=Munger2010><pubmed>20637621</pubmed></ref>。匂いリガンドとしてはたらくCO<sub>2</sub>, CS<sub>2</sub>は嗅神経細胞膜を通過し、細胞内で炭酸水素イオンに変換されるが、この炭酸水素イオンがGCDの細胞内触媒ドメインに作用し、cGMP 産生がおきる。cGMPはcGMP依存性イオンチャネルを開口させることにより、神経細胞の脱分極を引き起こす。
 グアニル酸シクラーゼDは、糞尿中に存在するペプチドの他、呼気中に存在するCO<sub>2</sub>, CS<sub>2</sub>をリガンドとして認識する<ref name=Hu2007><pubmed>17702944</pubmed></ref><ref name=Munger2010><pubmed>20637621</pubmed></ref>。匂いリガンドとしてはたらくCO<sub>2</sub>, CS<sub>2</sub>は嗅神経細胞膜を通過し、細胞内で[[wj:炭酸水素イオン|炭酸水素イオン]]に変換されるが、この炭酸水素イオンがグアニル酸シクラーゼDの細胞内触媒ドメインに作用し、[[cGMP]]産生がおきる。cGMPは[[cGMP依存性イオンチャネル]]を開口させることにより、神経細胞の脱分極を引き起こす。


 Membrane-spanning 4A receptorはリガンドとして、動物行動に関連のある[[脂肪酸]]や[[フェロモン]]様物質、[[2,5-dimethylpyrazine]] ([[2,5-DMP]])を認識するが、シグナル伝達は明らかになっていない<ref name=Greer2016><pubmed>27238024</pubmed></ref>。
 Membrane-spanning 4A receptorはリガンドとして、動物行動に関連のある[[脂肪酸]]や[[フェロモン]]様物質、[[2,5-ジメチルピラジン]] ([[2,5-dimethylpyrazine]], [[2,5-DMP]])を認識するが、シグナル伝達は明らかになっていない<ref name=Greer2016><pubmed>27238024</pubmed></ref>。


=== 疾患との関わり ===
=== 疾患との関わり ===