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[[ファイル:Kobayashi LTP Fig3.jpg|サムネイル|'''図3. シナプス前性LTPの例(海馬苔状線維-CA3シナプスにおけるLTP)'''<br>
[[ファイル:Kobayashi LTP Fig3.jpg|サムネイル|'''図3. シナプス前性LTPの例(海馬苔状線維-CA3シナプスにおけるLTP)'''<br>
マウス海馬スライス標本の歯状回の細胞層にタングステン双極電極を刺入して顆粒細胞を電気刺激することにより苔状線維を発火させ、細胞外電位記録法によりCA3領域の透明層に刺入したガラス管記録電極で興奮性シナプス後電位(excitatory postsynaptic potential: EPSP)を記録している。0.1Hzでベースラインの反応を記録したあと、図中の上向き矢印の時点で100Hzの高頻度刺激を1秒間与え、その後、0.1Hzに戻してさらに1時間以上EPSPを記録しているが、シナプス応答が約2倍に増大し、持続している。高頻度刺激を与える際にNMDA受容体のアンタゴニストである<small>D</small>-APVを灌流投与した(グラフ中の黒いバー)条件下でLTPが誘導されていることから、苔状線維シナプスでのLTP誘導にはシナプス後細胞の活動が不要であることを示している。]]
マウス海馬スライス標本の歯状回の細胞層にタングステン双極電極を刺入して顆粒細胞を電気刺激することにより苔状線維を発火させ、細胞外電位記録法によりCA3領域の透明層に刺入したガラス管記録電極で興奮性シナプス後電位(excitatory postsynaptic potential: EPSP)を記録している。0.1Hzでベースラインの反応を記録したあと、図中の上向き矢印の時点で100Hzの高頻度刺激を1秒間与え、その後、0.1Hzに戻してさらに1時間以上EPSPを記録しているが、シナプス応答が約2倍に増大し、持続している。高頻度刺激を与える際にNMDA受容体のアンタゴニストである<small>D</small>-APVを灌流投与した(グラフ中の黒いバー)条件下でLTPが誘導されていることから、苔状線維シナプスでのLTP誘導にはシナプス後細胞の活動が不要であることを示している。]]
==== 維持 ====
 シナプス伝達効率の持続的な増強の背景にある、何らかの継続的な生化学的変化のことを維持(maintenance)と呼ぶ。誘導や発現と比較すると、維持の分子機構は現在も不明な点が多い。 
 CaMKIIはカルシウム・カルモデュリンによる活性化を受けると、286番目のトレオニン残基(T286)が自己リン酸化され、持続活性型になるという性質をもつ。このことから、刺激による一過性のカルシウムイオン上昇を継続的な生化学的変化へと変換するキー分子としてLTPの維持においても重要な役割を果たしていると考えられてきた。しかし最近のFörster共鳴エネルギー移動(FRET)センサーを用いた、単一樹状突起スパインにおけるCaMKIIの活性化時間の評価によれば、CaMKIIの活性化は刺激後1分間程度と、従来想定されていたよりもはるかに短いことが報告されており(ref)、維持の分子機構に関しては今後さらなる研究が必要である。


=== シナプス前性LTP ===
=== シナプス前性LTP ===