「Ras関連核タンパク質」の版間の差分
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担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0192882 古屋敷 智之](神戸大学大学院医学研究科・医学部 薬理学分野)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0192882 古屋敷 智之](神戸大学大学院医学研究科・医学部 薬理学分野)<br> | ||
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{{box|text= | 英:Ras-related nuclear protein 英略語:Ran | ||
{{box|text= Ras関連核タンパク質は低分子量Gタンパク質ファミリーのひとつで、細胞質と核の間の物質輸送で重要な役割を果たしている。がんをはじめ、多くの疾患への関与が報告されていて、細胞内の重要なシグナル制御タンパク質として古くから知られている。}} | |||
[[ファイル:Yoshimura RAN Fig1.png|サムネイル|'''図1. Ranのヌクレオチドサイクル''']] | [[ファイル:Yoshimura RAN Fig1.png|サムネイル|'''図1. Ranのヌクレオチドサイクル''']] | ||
== Ras関連核タンパク質とは == | == Ras関連核タンパク質とは == | ||
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== 発現 == | == 発現 == | ||
細胞機能に重要なタンパク質であるため、ほぼすべての組織で発現が認められる。[[脳]]においても、[[脳下垂体]]や[[脳梁]]以外のすべての領域で発現が確認される。間期細胞内では主に核内に存在するが、細胞質にも存在している。GTP結合型は核内に、GDP結合型は細胞質に多いと考えられている。 | 細胞機能に重要なタンパク質であるため、ほぼすべての組織で発現が認められる。[[脳]]においても、[[脳下垂体]]や[[脳梁]]以外のすべての領域で発現が確認される。間期細胞内では主に核内に存在するが、細胞質にも存在している。GTP結合型は核内に、GDP結合型は細胞質に多いと考えられている。 | ||
[[ファイル:Yoshimura RAN Fig3.png|350px|サムネイル|'''図3. カリオフェリン依存的核輸送におけるRanの役割'''<br>'''A.''' | [[ファイル:Yoshimura RAN Fig3.png|350px|サムネイル|'''図3. カリオフェリン依存的核輸送におけるRanの役割'''<br>'''A.''' インポーチンによる核内輸送。<br>'''B.''' エクスポーチンによる核外輸送。[[Crm1]]はエクスポーチンの一つである。]] | ||
== 機能 == | == 機能 == | ||
最も重要な機能としては、細胞質-核質間のタンパク質輸送の制御があげられるが、他にも分裂期における紡錘体集合、微小管構築、核膜形成の制御などにも関与していることが知られている<ref name=Joseph2006 />。[[核膜孔複合体]]を介した核-細胞質間輸送では、[[カリオフェリン]]ファミリーのタンパク質(インポーチンやエクスポーチン)をはじめとする[[輸送担体]]が、輸送されるタンパク質(カーゴ)と結合して核膜孔の通過を助けている。Ranは、輸送単体とカーゴの結合と解離を制御している<ref name=Gorlich1999><pubmed>10611974</pubmed></ref><ref name=Weis2003><pubmed>12600309</pubmed></ref>。RanのGTP型とGDP型では細胞内局在に大きな違いが見られる。Ran-GEFである[[RCC1]]は[[クロマチン]]に結合しているため、間期核では核内のGTP型Ran濃度が細胞質に比べて高い。一方、細胞質ではRanGAPが局在しているため、GDP型が主要となる。このように、核膜を隔てたGTP型Ran-GDPの濃度勾配が、カリオフェリンを介した能動輸送の間接的なエネルギー源となっていると考えられる('''図3''')。 | 最も重要な機能としては、細胞質-核質間のタンパク質輸送の制御があげられるが、他にも分裂期における紡錘体集合、微小管構築、核膜形成の制御などにも関与していることが知られている<ref name=Joseph2006 />。[[核膜孔複合体]]を介した核-細胞質間輸送では、[[カリオフェリン]]ファミリーのタンパク質(インポーチンやエクスポーチン)をはじめとする[[輸送担体]]が、輸送されるタンパク質(カーゴ)と結合して核膜孔の通過を助けている。Ranは、輸送単体とカーゴの結合と解離を制御している<ref name=Gorlich1999><pubmed>10611974</pubmed></ref><ref name=Weis2003><pubmed>12600309</pubmed></ref>。RanのGTP型とGDP型では細胞内局在に大きな違いが見られる。Ran-GEFである[[RCC1]]は[[クロマチン]]に結合しているため、間期核では核内のGTP型Ran濃度が細胞質に比べて高い。一方、細胞質ではRanGAPが局在しているため、GDP型が主要となる。このように、核膜を隔てたGTP型Ran-GDPの濃度勾配が、カリオフェリンを介した能動輸送の間接的なエネルギー源となっていると考えられる('''図3''')。 | ||
[[インポーチンβ]]はGTP型Ranに対して高い親和性を示し、GDP型には結合しない。インポーチン βとGTP型Ranとの相互作用は、インポーチンβと荷物(カーゴ)との結合と競合する。これによりインポーチンβ | [[インポーチンβ]]はGTP型Ranに対して高い親和性を示し、GDP型には結合しない。インポーチン βとGTP型Ranとの相互作用は、インポーチンβと荷物(カーゴ)との結合と競合する。これによりインポーチンβは、GTP型Ranの少ない細胞質で荷物と結合しやすく、GTP型Ranの多い核内で荷物を離しやすい('''図3A''')。一方、エクスポーチンは荷物との相互作用に関して、インポーチンと正反対の性質を持っており、GTP型Ranとの結合でカーゴへの親和性を獲得し、GDPへの加水分解とともに荷物を離す('''図3B''')。これにより、タンパク質を核内から細胞質へと輸送する。このように、カリオフェリンが核膜孔を通過するプロセス自体には方向性はなく、核膜を挟んだGTP型Ranの濃度差により、核膜のどちら側で荷物を離しやすいかが決まり、見かけ上の能動輸送が成立する<ref name=Gorlich1999><pubmed>10611974</pubmed></ref><ref name=Nachury1999><pubmed>10449743</pubmed></ref>。 | ||
分裂期では、染色体に結合しているRCC1により染色体上にGTP型Ranの蓄積が見られ、染色体から遠ざかるにしたがって濃度が減少する。これにより、染色体周辺では、上記と同じ原理により、インポーチンなどの輸送担体がGTP型Ranに結合し、カーゴから解離しやすい環境となっている。特に[[キネトコア]]周辺では、[[紡錘体]]形成に必要な因子群がインポーチンから解離することで機能的複合体を形成し、紡錘体の正常な伸長、結合、維持を触媒している<ref name=Ciciarello2007><pubmed>17483873</pubmed></ref><ref name=Clarke2008><pubmed>18478030</pubmed></ref>。 | 分裂期では、染色体に結合しているRCC1により染色体上にGTP型Ranの蓄積が見られ、染色体から遠ざかるにしたがって濃度が減少する。これにより、染色体周辺では、上記と同じ原理により、インポーチンなどの輸送担体がGTP型Ranに結合し、カーゴから解離しやすい環境となっている。特に[[キネトコア]]周辺では、[[紡錘体]]形成に必要な因子群がインポーチンから解離することで機能的複合体を形成し、紡錘体の正常な伸長、結合、維持を触媒している<ref name=Ciciarello2007><pubmed>17483873</pubmed></ref><ref name=Clarke2008><pubmed>18478030</pubmed></ref>。 | ||
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* [[核-細胞質間輸]] | * [[核-細胞質間輸]] | ||
* [[カリオフェリン]] | * [[カリオフェリン]] | ||
* [[ | * [[インポーチン]] | ||
* [[ | * [[エクスポーチン]] | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||