「プレパルス・インヒビション」の版間の差分

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英語名:prepulse inhibition 英語略名:PPI
英語名:prepulse inhibition 英語略名:PPI 独:Präpulsinhibition 仏:
 
 驚愕刺激(パルス)の直前に微弱な刺激(プレパルス)が先行することにより驚愕反応が大幅に抑制される現象をプレパルス・インヒビションという。(全体の内容のサマリーを御願い致します)。


[[ファイル: 脳科学事典PPI.jpg|thumb|300px|'''図.聴覚性驚愕刺激による瞬目反射のプレパルス・インヒビション'''<br />驚愕刺激(パルス)の直前に微弱な刺激(プレパルス)が先行することにより驚愕反応が大幅に抑制される現象をプレパルス・インヒビションという。]]
[[ファイル: 脳科学事典PPI.jpg|thumb|300px|'''図.聴覚性驚愕刺激による瞬目反射のプレパルス・インヒビション'''<br />驚愕刺激(パルス)の直前に微弱な刺激(プレパルス)が先行することにより驚愕反応が大幅に抑制される現象をプレパルス・インヒビションという。]]


 プレパルス・インヒビション(prepulse inhibition: PPI)とは、突然に強い[[感覚刺激]]を動物に与えることで生じる[[瞬目反射]]などの[[驚愕反応]]が、その強い刺激の直前(30-300msec程度、通常60-120msec)に比較的弱い刺激を先行させることで、抑制される現象をいう<ref name=ref1> ''' Takahashi H, Hashimoto R, Iwase M, Ishii R, Kamio Y, Takeda M '''<br> Prepulse Inhibition of Startle Response: Recent Advances in Human Studies of Psychiatric Disease. <br>'' Clinical Psychopharmacology and Neuroscience '': 2011, 9(3); 102-110</ref><ref name=ref2><pubmed> 18568339 </pubmed></ref>。PPIは、先行する小さな刺激の情報を直後の強大な刺激から保護するための自動的、不随意的な抑制システムであるsensorimotor gatingの指標と考えられている。PPIは、単純な非言語性の刺激を用いるため年齢・人種に関係なく施行でき、[[エンドフェノタイプ]]と遺伝子との関連解析に必要な多数のサンプルを集めやすいという利点がある。さらに、[[wikipedia:JA:ヒト|ヒト]]以外の動物にも認められ、類似のパラダイムを用いて評価が可能であり、1960年代にPPIが発見されて以後[[wikipedia:JA:マウス|マウス]]<ref name=ref3><pubmed> 19397931 </pubmed></ref>などのモデル動物やヒト<ref name=ref4><pubmed> 17197371</pubmed></ref>を対象に世界的に遺伝子や薬理学的研究など、神経生物学的研究が活発に行われている。PPIは[[視覚]]刺激、[[聴覚]]刺激、[[触覚]]刺激などあらゆる感覚刺激で認められるが、通常、実験などでは聴覚刺激が用いられることが多く、ヒトにおいては聴覚性の瞬目反射における[[wikipedia:JA:眼輪筋|眼輪筋]]の[[wikipedia:JA:筋電図|筋電図]]を用いて評価されることが多い<ref name=ref5><pubmed> 15720576 </pubmed></ref>。
==プレパルス・インヒビションとは==
 突然に強い[[感覚]]刺激を動物に与えることで生じる[[瞬目反射]]などの[[驚愕反応]]が、その強い刺激の直前(30-300msec程度、通常60-120msec)に比較的弱い刺激を先行させることで、抑制される現象をいう<ref name=ref1> ''' Takahashi H, Hashimoto R, Iwase M, Ishii R, Kamio Y, Takeda M '''<br> Prepulse Inhibition of Startle Response: Recent Advances in Human Studies of Psychiatric Disease. <br>'' Clinical Psychopharmacology and Neuroscience '': 2011, 9(3); 102-110</ref><ref name=ref2><pubmed> 18568339 </pubmed></ref>。PPIは、先行する小さな刺激の情報を直後の強大な刺激から保護するための自動的、[[不随意]]的な抑制システムであるsensorimotor gatingの指標と考えられている。PPIは、単純な非言語性の刺激を用いるため年齢・人種に関係なく施行でき、[[エンドフェノタイプ]]と[[wikipedia:JA:遺伝子|遺伝子]]との関連解析に必要な多数のサンプルを集めやすいという利点がある。さらに、[[wikipedia:JA:ヒト|ヒト]]以外の動物にも認められ、類似のパラダイムを用いて評価が可能であり、1960年代にPPIが発見されて以後[[wikipedia:JA:マウス|マウス]]<ref name=ref3><pubmed> 19397931 </pubmed></ref>などのモデル動物やヒト<ref name=ref4><pubmed> 17197371</pubmed></ref>を対象に世界的に遺伝子や薬理学的研究など、神経生物学的研究が活発に行われている。PPIは[[視覚]]刺激、[[聴覚]]刺激、[[触覚]]刺激などあらゆる感覚刺激で認められるが、通常、実験などでは聴覚刺激が用いられることが多く、ヒトにおいては聴覚性の瞬目反射における[[wikipedia:JA:眼輪筋|眼輪筋]]の[[wikipedia:JA:筋電図|筋電図]]を用いて評価されることが多い<ref name=ref5><pubmed> 15720576 </pubmed></ref>。


==影響する因子==
==影響する因子==
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==統合失調症とPPI==
==統合失調症とPPI==


 統合失調症のPPIに関する研究は1978年に初めて報告されて以後さかんに行われており、PPIは、統合失調症のエンドフェノタイプとして、最もよく用いられる精神生理学的指標の一つである<ref name=ref2 />。統合失調症患者におけるPPIの低下は、一貫して報告されている。服薬歴のない初発の患者群や患者の第一親等で症状のない家族、統合失調症型人格障害患者でもPPIの減弱を認めている。PPIのheritabilityは32-50%と報告されている。ヨーロッパ系人種とアジア系人種、アフリカ系人種との間に、PPIを含む聴覚性驚愕反射の制御機構のプロフィールが異なるという報告があるが、最近、アジア系人種を対象にした研究が行われており、いずれも統合失調症患者のPPIは健常群より減弱していた。また、欧米の研究同様、日本人においても健常者のPPIはschizotypal personalityと負の相関を認めた。統合失調症のPPIの障害は、人種を超えて存在すると考えられる。
 [[統合失調症]]のPPIに関する研究は1978年に初めて報告されて以後さかんに行われており、PPIは、統合失調症のエンドフェノタイプとして、最もよく用いられる精神生理学的指標の一つである<ref name=ref2 />。統合失調症患者におけるPPIの低下は、一貫して報告されている。服薬歴のない初発の患者群や患者の第一親等で症状のない家族、統合失調症型人格障害患者でもPPIの減弱を認めている。PPIのheritabilityは32-50%と報告されている。ヨーロッパ系[[wikipedia:JA:人種|人種]]とアジア系人種、アフリカ系人種との間に、PPIを含む聴覚性驚愕反射の制御機構のプロフィールが異なるという報告があるが、最近、アジア系人種を対象にした研究が行われており、いずれも統合失調症患者のPPIは健常群より減弱していた。また、欧米の研究同様、日本人においても健常者のPPIはschizotypal personalityと負の相関を認めた。統合失調症のPPIの障害は、人種を超えて存在すると考えられる。


 最近は、精神病状態の前駆期あるいはultra-high risk (UHR) を対象にした研究も増えており、PPIは、精神病状態の前駆期あるいはUHRに関連し、早期発見などに有用な指標の一つとなる可能性が示唆される<ref name=ref1 />。
 最近は、精神病状態の前駆期あるいはultra-high risk (UHR) を対象にした研究も増えており、PPIは、精神病状態の前駆期あるいはUHRに関連し、早期発見などに有用な指標の一つとなる可能性が示唆される<ref name=ref1 />。